『胸の鼓動』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「いいか。屋根の上とか、縁側とか。あとこういった草原が昼寝には最適だ」
真面目な顔をして、猫はごろりと寝転がる。
「ほら。壱《いち》もちゃんとやってみろ」
促されて、戸惑いながらも少女は猫と同じように寝転んだ。
草の香りが鼻腔をくすぐり、思わず深く息をする。
「これが、好き?」
「猫は好きだ。暖かくて、気持ちがいいからな」
「暖かくて、気持ちがいい」
猫の言葉を繰り返して、目を閉じる。
もう一度深く息をして。日の暖かさと草の柔らかな匂いに、ともすればすぐにでも眠ってしまえそうな心地よさに小さく微笑んだ。
「うん。私もたぶん好き」
「そうか。いいぞ。それは壱の好きだ。他にもたくさん探さないとな」
体を起こし少女を見つめ、猫は満足そうに頷く。
「あとは、おいしいとか、楽しいとかも好きだな。目が覚めてきている今の壱なら、分かるはずだ」
「目が覚めた?」
音を開け猫を見て不思議そうな顔をする少女に、気づいていないのか、と猫は笑う。
「壱の匂いが人間に近づいている。変な名のせいで否定されていた壱が表に出てきているんだ」
猫の言葉に少女は瞬きを一つして、腕を伸ばし両手を見つめる。手を握り、開いてから腕を下ろし、自身を包む草に触れて、確かに、と小さく呟いた。
「今まで壁越しに感じていたものと違って近く感じる」
「壁があったのか?」
「壁、というか仕切りのような。見て聞いているものを、映像として見ているような感じかな。こうして何かに触れていても、柔らかいとか暖かいとかの情報として伝わるから好きとかはきっと分からなかった」
「そうだな。変な名だった時の壱なら、猫が好きだから好きとか答えていただろうな」
ふん、と鼻をならし、酷い名をつけるなんて酷いやつもいたものだ、と猫は憤慨する。
それを違うよ、と笑って少女は否定して。記憶を辿るように空を見上げた。
「きっとね、それしか方法がなかったんだよ。ずっと謝る声が聞こえていたから」
呟いて、目を細める。記憶を懐かしむように、愛おしむようにあのね、と猫に囁いた。
「思い出せた事があるんだ。お母さんの作るご飯がおいしいとか。お兄ちゃん達が教えてくれる遊びの楽しさとか。お父さんが帰ってきて、ただいまって抱き上げてくれる事が一番うれしいとか」
「壱は家族が好きなんだな」
ぽつりと呟いた猫に、少女は体を起こして首を傾げる。
好き、と繰り返す少女はまだその意味を理解しきれていないのだろう。猫はそうだと頷いて、猫の大切な子らを思いながら口を開いた。
「猫は銅藍《どうらん》も瑪瑙《めのう》も好きだ。ずっと側にいたいし、大切にしたい。二人が楽しいと猫も楽しいし、二人が悲しいと猫も悲しくなる。そういったきらきらした気持ちが好き、というやつだ」
「そっか。私は皆が好きなんだ。何か、すごく暖かい」
「好きは暖かいものだからな」
段々に人の匂いの強くなっていく少女に、猫は上機嫌で喉を鳴らす。
少女を構成するほとんどが零れ落ち、空っぽだった中身が暖かいもの、優しいもので埋まっていく。それは水の中で光を反射して光る石のように、きらきらと煌めいて猫の目を楽しませた。
新しいものを知っていく少女のその表情は、初めて見た時とは大きく違い、穏やかでありながらも鮮やかで。子の成長はいいものだ、と蜘蛛の二人が聞けば呆れ苦笑する言葉を呟いて、少女へと腕を伸ばす。
いい子いい子と頭を撫でてやれば、けれど少女はどこか苦しげに眉根を寄せた。
「撫でられるのは嫌いか?」
思っていたのとは異なる表情。猫は目を瞬き尋ねれば、少女は首を振って否定しながらも、眉を寄せたまま己の胸元に手を当てた。
「分からない。暖かくて気持ちがいいのに、それと同じくらい胸が苦しくて痛くなる」
痛みを訴える少女を覗き込み。少女の言葉と微かに聞こえる鼓動に、そういうことかと猫はにんまり笑う。
「当たり前だ。壱は生きているのだから。生きるのは痛いんだ」
ゆらりと揺らめいて、人から猫の姿へと戻り。
背筋を伸ばして少女の目の前に座り、尾を揺らす。
「ほら、猫を抱いてみろ。猫は妖だが、猫だからな。暖かくて気持ちがいいぞ」
「え。でも」
戸惑う少女の膝に前足を乗せ、その手に擦り寄った。
早くしろ、と催促されて猫へと伸びる手は、恐る恐る猫の頭を一撫でしゆっくりと体を抱き上げる。
「暖かい」
「そうだろう。猫とはそういうものだ。短い生を全力で生きている。猫は長く生きすぎて妖に成ってしまったが、猫である限りそれは変わらない。壱も生きているから、ちゃんと暖かいぞ。痛くて暖かいのが命だからな」
抱き上げられて強く聞こえるようになった鼓動に、耳を澄ます。猫よりは遅く、それでも人の常よりは速い音は、生きていると叫びながらも、寂しい苦しいと泣き喚いているようにも聞こえた。
「私、まだ生きているんだ」
「生きているな。疲れたのか?」
「そうだね。少し疲れたかもしれない。でも最後まで見届けないと。それに神様と約束もしたし」
疲れた、と言いながらも、まだ動き続けようとする少女を見上げ、猫は体を伸ばしてその頬を舐める。
ざらりとした猫の舌の感覚に驚いたように体を震わせ。猫を見る少女の目に虚ろがない事を確認して、猫はもう一度頬を舐めた。
「な、に?なんか、ざりざりする」
「猫の舌はそういうものだ。それよりもそれはちゃんと壱の望みなんだな。それならば猫は壱の手助けとなろう。猫は壱のオヤだからな」
最後に少女の頬に擦り寄ってから、腕を抜け出し人の姿へと変わる。
「ほら、戻るぞ」
「親って…まあ、いいか」
差し出された手に、少女は諦めたように息を吐いてからその手を重ね、立ち上がる。
体中についた草を気にするよりも早く、駆け出す猫に手を引かれながら。
いつの間にか痛みの治まった胸に、繋いでいない手をそっと当てた。
20240909 『胸の鼓動』
#48 胸の鼓動
[胸に響く言葉]
心臓バクバク。
どうしよう。
人前で発表するのは本当に緊張する。
観客はジャガイモだと思うといいよ、
って無理無理無理。
あわわわわ。
緊張し過ぎて言葉に感情がこもらないよ〜。
上手くいかないなー。
上手い人の発表を聞いた。
観衆の胸に響く言葉の数々。
私にあんな風になる日は来るのかな。
胸の鼓動
誰かを好きだと 速くなる
怖くても 速くなる
死ぬと 止まる
安らぐと ゆっくりになる
できれば いつでもゆっくり
ときめいた時だけ 速く
誰の鼓動もいつかは止まるのだから
せめて少しでも 幸せでありますように
前回の終わりがけに名前を呼ばれて、せっかくなので、私の青春の1枚を振り返ってみました。中学生でビートルズ、アメリカンポップス。フォークを経由して、イーグルス、ドゥービー・ブラザーズにいって、NHKのクロスオーバー・イレブンを聞いてて、なんだこれは?と思ったのがこの、フィンガー・ペインティングスでした。20歳位。JAZZでもない、ロックでもない。心地よいノリと、新鮮なメロディーライン。大学生協でアルバムを買って、音楽好きサークルの仲間でも回して、まさに擦り切れるくらい聴きました。その貸し出したひとりが、後にカミさんになり、その後JAZZにいっても一緒に聞いてくれています。そういういろんなっきっかけとなった1枚です。
《巡り逢うその先に》
番外編
〈黒鉄銀次という男〉 ③
主な登場人物
金城小夜子
(きんじょうさよこ)
玲央 (れお)
真央 (まお)
綾乃 (母 あやの)
椎名友子 (しいなともこ)
若宮園子 (わかみやそのこ)
大吉 (だいきち)
東山純 (ひがしやまじゅん)
向井加寿磨 (むかいかずま)
ユカリ (母)
秀一 (義父)
桜井華 (さくらいはな)
大樹 (父 たいじゅ)
高峰桔梗(たかみねききょう)
樹 (いつき)
葛城晴美 (かつらぎはるみ)
犬塚刑事 (いぬづか)
足立刑事 (あだち)
柳田剛志 (やなぎだたかし)
桜井大樹(さくらいたいじゅ)
横山雅 (よこやまみやび)
京町琴美(きょうまちことみ)
倉敷響 (くらしきひびき)
黒鉄銀次 (くろがねぎんじ)
詩乃 (母 しの)
巌 (父 いわお)
所持金も少ないので、あれこれと仕事を探している余裕はない。
詩乃は仕方なくまた水商売をすることにした。
ダメ元で高級クラブに行ってみた。
マネージャーと面接をしている時にママが出勤してきた。
ママは私をじっと見つめた後にマネージャーに言った。
「この子は私が話しをするわ」
「わかりました」
マネージャーは席を立ち自分の仕事に戻っていった。
「あなた歳はいくつなの?」
「二十歳です」
「もう一度聞くわよ、いくつ?」
ダメだ、ごまかせない、正直に言うしかない。
「16才です」
「ここがどういう店だかわかっているの、お酒を扱っている店なのよ。悪い事は言わないからお家に帰りなさい」
「帰る所がないんです」
父がアル中で犯されそうになったこと。
信じていた人に騙されて行くところがなくなったことを正直に話した。
「事情はわかったわ。でも、未成年者はここで働かせられないわ」
「そうですよね。失礼しました」
詩乃はお辞儀をして帰ろうとした。
「待ちなさい、私の知り合いが旅館を経営してて、スタッフを募集してるから聞いてみるわ」
「本当ですか」
ママはすぐに連絡してくれた。
「雇ってくれるそうよ。ただ住み込みは無理だから、うちのスタッフの寮に入れてあげるわ」
「いいんですか。ありがとうございます」
「咲ちゃん、ちょっと」
「なんですかママ?」
「あなたのところ一部屋空いてたわよね。今日からこの子を住まわすから、悪いけど案内してあげてちょうだい」
「わかりました。じゃあ行ってきます」
私はもう一度ママにお礼を言い寮へ向かった。
そこは3LDKの賃貸マンションだった。
「ここには、もうひとりマリエって子がいるわ。あなたの部屋は右の部屋ね、自由に使っていいわ。お風呂やリビングはみんなで仲良く使いましょうね。冷蔵庫もみんなで使っているから自分のものには必ず名前を書いといてね」
「はい、わかりました。よろしくお願いします」
次の日、旅館の女将さんに会い正式に雇ってくれることになった。
ルームメイトの咲さんやマリエさんもとってもいい人で妹のように可愛がってくれた。
クラブ暁月(あかつき)のママも様子を見に何度も足を運んでくれた。
旅館の女将さんも優しい人で手取り足取り丁寧に仕事を教えてくれた。
毎日が充実したなかで私は二十歳を迎えた。
私はどうしてもママに恩返しがしたいので旅館を辞めクラブ暁月で働かせてほしいと、女将さんとママに話した。
あんなに親切にしてくれた女将さんには怒られると思った。
「あなたのことは暁月のママから預かってただけだから気にしなくていいのよ。あなたの好きにしなさい」
「いいんですか、ありがとうございます」
「詩乃、お水の世界は甘いもんじゃないわよ。やるからには覚悟なさい」
「はい、私ママのために頑張ります」
「詩乃、あなたの源氏名はカスミでいいわね。それと、私がいいと言うまで同伴とアフターは禁止します。いいわね」
「それってどう言うことですか」
「つまり、お店以外でお客さんの相手はしないこと」
「はい、わかりました」
こうして詩乃はクラブ暁月で働きだした。
ひと月もすると馴染みの客もでき、指名も入りだした。
今日はママがお休みなのでNo.1の静香さんがお店を仕切っている。
「カスミちゃん、7番テーブルに入ってちょうだい」
詩乃は静香に言われたとおり7番テーブルについた。
「初めましてカスミです。よろしくお願いします。お名前教えてもらっていいですか?」
「黒鉄だ」
つづく
「二人だけで飲みたいとか珍しいね」
拓也(たくや)は着ていたコートを脱ぎ、畳んで横に置く。
「まぁ...ちょっとね」
「ふーん?」
俺は拓也の探る目から逃れるために、メニュー表で顔を隠す。長い付き合いの友にはこうでもしないと心の内を知られてしまうだから。
「んじゃ、どれ頼む?」
俺はメニュー表を見たまま頼むものを彼に伝える。タッチパネルで注文し、しばらくすると頼んだものがやってきた。
その後は各々料理や飲み物をちまちま飲んで、他愛もない話をしていた。
「...で、話したいことあるんじゃないの?」
「んぐ......げほっげほっ...!...は、なに」
「玲人(れいと)が二人で話したいとか相談しかないでしょ」
「.........」
「で、何?」
頬杖をついて、こちらを見る。
「......最近さ、変なんだよね」
「変?」
「なんか、達を見てると、キラキラしてたり、心臓が...」
「え、心臓?」
「心臓が......ばく、って...!」
「......あー」
「え、何!?」
拓也はにやにやと俺の方を見る。
「んー、これは自分で気づかないとな~」
「え、は!?ちょ!」
「じゃあ~ヒントね、ヒント」
「ヒント?」
拓也は目を細めて少し考える。
「えーと、その人に対してだけ!だよね?」
「う、うん」
「その人が他の人と楽しそうにしてたら?」
「え?えー...別にいいんじゃない?」
「そっかぁ...!じゃあその人のことどう思ってる?」
「え、どう?どう...って......」
俺はぼんやり考える。
答えがでない。
でないわけじゃない、でもでない。
「...えっと......」
「...本当はさ」
俺がぐるぐる考えていると、拓也は突然話す。
「本当は答え教えたいけど、まだちょっと早そうだから内緒」
なんだそれ、と軽く笑って俺はぬるくなったウーロン茶を飲んだ。
お題 「胸の鼓動」
出演 玲人 拓也
『胸の鼓動』
片付けをしていたら
昔の診断書が出てきた
いまも変わらずある
好きな人が近くにいる高鳴りとか
みんなの前で喋らないといけない緊張とか
そういうものは全く違う
ドクドクッと
数回乱れ
何もなかったように治まる
ときには繰り返されるそれに
もう慣れたつもりではいるけれど
自律できないことがもどかしくて
それでも
そんな不器用な身体が愛おしい
胸の鼓動
文化祭で、2年1組の出し物はお化け屋敷と決まった。
他のクラスは、グルメショプ的な出し物や部活関連の出し物、クイズ。研究展示。
映えを狙い写メを撮りまくる女子生徒。そんな女子高生に振り回される彼氏。文化祭で忙しそうな先生たち。息子娘に来るなと言われたけどこっそりくる親。
校内はもう賑わっている。
「河野さん、午後担当の人のメンバーに声かけてきて!」
「うん」
「手が空いてる人、ここ片付けてー!」
「手、空いてます」
「やばっ!もうそろそろ部活の出し物!ここ代わりに誰か、テープでとめといてっ!」
「はい」
帰宅部の私はやることが多い。
頼って貰えることがあるのだから嫌ではない。
決して好きなわけじゃないけど。
ストレートで漆黒の髪は染めてると疑われる。
高くて目立つ背はみんなの憧れの目をひく。
真っ白で透き通った肌は手入れについて聞かれる。
全部、私のコンプレックスだ。
クラスの中で孤立してる。あの人は完璧だ、次元が違う。と周りの人の距離は遠い。
「あ、河野さん1人?」
午後に私が廊下を歩いていると、たぶん1番距離の近い、クラスメイトが声をかけてくれた。
「うん」
「一緒に回ろ!」
この人の周りには人がいる。多くの、人。
「何人連れてくるんですか?」
「敬語とタメ口…どう分けてるの…??まぁ、いいや!なんだったっけ、何人?え?そりゃ2人だよ!」
「そう。じゃあ4人」
多い。4人はちょっと…。
「え、あっ、違う違う!僕と2人で回ろっていってるの!」
「…?私と?」
「そうそう!」
クラスメイトは嬉しそうに笑う。
「まぁ…1人よりかはいいかも」
「本当?!ありがと!!」
「あの…ちなみに名前を教えて貰っても…?」
「覚えてなかったの?!いずは!」
「あぁ…あの可愛い名前の」
「…そっ、そうそう!!」
なんだろう。いずはさんの横顔が少し赤い気がする。
「(女っぽい、ってからかってこなかったの河野さんが初めてなんだよなぁ笑)」
疲れたので終わり(((
気分で続き書く予定です
胸の鼓動
私の心臓を作ったのは
私ではない
私の血
私の肉体は
数十万人の先祖たちの
想いによって作られた
私の心臓は先祖の心臓
刻む鼓動は先祖たちの声
というわけで
私が作ったものは何もない
今はまだ
胸の鼓動がうるさくなる時は
先生に指された時と
君と話している時
胸の鼓動
*ブロマンス×ファンタジーです。
とくん……とくん……。
隣から、ゆったりとしたリズムで胸の鼓動が聞こえてくる。決してそんな気がするのではなくて、物理的にだ。
彼がリラックスしている時、困っている時、嬉しい時。どんなに表情を取り繕っていても、素直な鼓動はいつも真実を告げている。
僕は、ヴァンパイアだ。生まれた時はもちろん普通の人間だった。けれど狂った男にこんな体に変えられて、それからもう随分と経つ。
「今日ね、この後大雨が降るらしいんですよ。お客さん、大丈夫ですかね」
テーブルを回ってひとつずつキャンドルを灯しながら、乙都(おと)くんは心配そうに眉を下げる。
「どうかな。誰も来ないかもね」
僕がそう告げると、乙都くんは目を丸くする。
「雨の日はほんと少ないよ、まあ、雨の日は早く家に帰りたいよね」
他人事のように言う僕に、乙都くんはもっと目を丸くする。その顔が愛しくて、思わず顔が緩んでしまう。
ヴァンパイアになってから気が遠くなるほどの月日を経て、いろんな時代を過ごして来た。今僕は夜だけオープンするカフェを営んでいる。
年を経るごとに日光に対する耐性はついたけれど、体調に多少なりとも影響するのは確かだ。夜に出来る仕事をいろいろと試した結果、今は心地の良い穏やかな暮らしを手に入れた。似た境遇の仲間が穏やかに過ごせる場所が欲しかった。
住み込みのアルバイトの乙都くんは、人間だ。過去に縁があったけれど、彼は何も知らない。もちろん僕のことも。僕は紫外線アレルギーの虚弱体質の男だと思われている。乙都くんは素直だから、僕が告げたそのままを、受け入れる。
ふらりと客としてやって来て、失業して住むところもなくなると聞いた瞬間、二階の余った部屋の内装を考え始めた。
ただ、僕は彼を見守りたくて、そばに置きたい。もちろんそれは彼の血が欲しいとかそういうことではない。時代とともに社会は変化して、人工血液もその入手ルートも確立された。だから人間を食糧みたいに考えるヴァンパイアなんて、ごく一部のカルトな連中だけだ。
だからこそ、タチが悪いのかもしれないと思った。出会った日からの彼の成長、人生。その何もかもを、見守っていたかった。
その欲を手放したくて長く離れていたはずだったのに、乙都くんはひょっこりと突然店に姿を現した。再会したその瞬間、成長して当時と何もかもが変わっていても、すぐに彼だとわかった。目が合った瞬間、全身の毛が逆立つような感覚がした。
運命っていうのは、神様っていうのは、どうしてこんなにも意地悪なのかと。親切心だとしたら、お節介が過ぎる。
「店は、開けるんですよね?」
「そうだね、もしかしたら誰か来るかもしれないし」
「じゃあ、俺今日下にいてもいいですか?」
「いいよ、どうして?」
「……なんとなく、迷惑じゃなか、」
「ちょうど良かった。新作のドリンク試して欲しかったんだ」
言葉を濁す乙都くんの話を遮った。いくら言い聞かせても、彼は遠慮をやめてくれない。そういう性格なのだろう。
乙都くんが自分のシフトを終えた後に店で過ごしたいと時々申し出てくれる。その時、この店が彼にとっても居心地の良い場所なのかもしれないと、幸せを感じる。
「はい、いただきます、なんでもっ」
そう言って、パッと顔が明るくなる。そして、少しだけ速くなる鼓動。
ああ、駄目だ。
やっぱり手放したくない。
胸の鼓動
転職活動でビックリするほど頑張った。
大学受験以来だわw
お陰様で行きたい会社に入社します。
ここからが勝負。
胸の鼓動が高鳴る。
友の背を
追いかけ続け
見たを空
儚き四に
紅のあか
胸の鼓動 が聞こえるまで
アニメの制作が決定したときの僕の喜びようは、布団に目掛けてパンチを埋め込んでしまうほどだ。
さらに、毛布の中に顔を埋めると満面の笑み浮かべながら、発狂します。
そのことを思うとやはり、笑みを作ってしまい、親から「何かいいことがあったの?」と質問されてしまいます。
やっぱり、このドキドキは抑えられるものではないみたいですね。
学校の敷地内にある大きな弓道場で「カン」と鳴り響いている土曜日の午前
部活に来ている生徒も多く、グラウンドでは掛け声とともに走り込みをしている
そんな中、私はまだ誰も来ていない一人の弓道場で、ゆっくりと集中して練習を始めた
何回か練習したあと、誰かが近づいてくる気配がした
先輩だ
憧れの先輩が袴姿で弓道場に入ってくる
「おはようございます!」と静かに挨拶を交わし
私は先輩と並んでひたすら練習をした
一息つこうと水を求めて下がろうとした
けれど、私はその場から動かなかった、いや動けなかった
先輩がチラッとこちらを見たのだ
私は憧れの先輩のふいのアイコンタクトに少しドキッとしてしまう
私が動かないでいると、先輩は練習の再開として
弓をひきはじめた
私の瞳は先輩の弓を引くモーションに釘付けになる
その時、一段と大きな
「カン!」という弦音が響いた
その瞬間、胸の鼓動も大きく鳴った気がした
胸の鼓動
君と目が合うと胸の鼓動は早くなると思ってたけど君の姿見るだけでも君と似た匂いがするだけでも早くなる。これはきっと恋なんだろうな
『胸の鼓動』
朝目覚めた時、愛おしい時、辛い時、
感情が高ぶっているこの瞬間に
鼓動を強く感じる。
浸る度に今日もここに存在してて、
「生きている」ことを自覚するんだ。
【胸の鼓動】
あるところに、不死の男がいた。
心臓を突かれても、毒を盛られても、海に沈められても、男は必ず生還した。
彼の長い人生で培われた頭脳や経験は何物にも代えがたく、歴史研究家や哲学者をはじめ、多くの業界人が彼と親交を深めている。
彼と関わった人は皆、口を揃えこう語る。
彼はなんでも知っている。
彼に怖いものはない。
話は変わるが、彼は“不死”であって“不老”ではない。
彼にとって唯一不明であるのは《老死の可能性》であり、彼は老いを恐れていた。
彼が老化に危機感を抱き始めたのは、最近のことではない。
彼は生まれたときから周りと同じように成長し、周りと同じように老いを経験してきた。
百年前の彼は、どうやら老死だけは避けられないのだと、そう思っていた。
しかし、現実は異なる。
どれだけ歳をとっても、彼は亡くならなかった。
“不死”は“不死”だったのである。
繰り返すが、彼にとって唯一不明なのが《老死の可能性》であり、彼は老化を恐れている。
身体だけが歳を重ね、年々自由が効かなくなっている中で、老死出来るのかだけが分からない。
死ねないまま身体だけが死んでいくのが、彼には堪らなく恐ろしい。
今も続く胸の鼓動を、止めたくて仕方がない。
楽しいとき。
驚いたとき。
怒りに身を震わせたとき。
恐怖に身がすくんだとき。
わたしは精いっぱい今を生きているよって、心が、叫ぶんだ。
今日も私の心臓はつよく、あつく、脈打っている。
あらゆるモノを薪にして、足掻きながら、生きているから。
テーマ「胸の鼓動」
彼と出会ったのは不甲斐なくも夜中の渋谷でだった。
仕事は残業ばかりで、会社の飲み会にも参加されされた時の帰り道。
終電を逃した私は渋谷で行く宛もなく歩いていた。
金曜日だからと言って呑んでも良いと言う馬鹿げた発想は本当に嫌いだ。
明日が休日ならば、逆に五日間疲労し続けた体を癒したいし、二日酔いも想像するだけで嫌になる。
上司なんて死んじゃえばいいのに。毎日のようにそう思っていた。
「そこのお姉さーん!呑んでるよね?もう一杯どう?」
そういうとチャラそうなキャッチは看板を持っていない方の手でグラスを飲む仕草をした。
そしてニィーっと笑って間を空けず看板を指差して説明しはじめる。
「金曜のこの時間帯は深夜割ってのをやってて、簡単にいうと、室料と何かつまみを一つ頼むだけで飲み放題なんだよね!」
私は呆然とその男の説明を聞いていた。飲むつもりなんて一切ないのにも関わらず断る事もこの場を去る事もできない。
本当に何も考えていなかった。キャッチ男は反応がないからか次のターゲットに移ろうとしている。
次の瞬間、私の視界は歪んだ。また次の瞬間には右半身の痛み、頭痛。
私は眉間にシワを寄せた。自分が倒れたのだと知ったのだ。
立ちあがろうにも体が動かない。これじゃあ歩けないじゃないかと思った。よく考えれば歩けなくても宛がないのでいいのだが、なぜか苛立った。
そう考えているとヒョイと私の体が浮いた。なんだなんだと思っているとさっきのキャッチ男が私を簡単に持ち上げている。私は身長も高い方だし人に持ち上げられた事なんて赤ちゃんぶりだ。
私はまた呆然と男を見ていた。なぜか申し訳なさや、さっきの怒りは一切感じなかった。恐らく頭が冷静になってどうするべきか考えようとしていたのだと思う。
男も困惑していて、
「えっ!お姉さんどうしよう!?救急車呼ぶ?貧血!?」
と何か言って私を米俵を運ぶように持ち上げていた。
私は急に恥ずかしくなって、自主的に降りた。
「本当大丈夫ですから。酔ってたので。でも今はもう酔いは覚めましたから。ご心配おかけしました。」
そういってもキャッチ男は全く落ち着かない。
「いやいや、おねえさん左側!それ折れてるんじゃない?!血ぃめっちゃでてるよ!!?」
えっ。左半身を見る。なんともなってない。次に右半身を見る。右腕の指が擦りむけて凄いことになっている。絆創膏やガーゼでは拭いきれない量出血している。
「とりあえず店ちょーに見てもらおう!」
私は店内に通された。あとで何か請求されるのではと思っていたがその旨を伝えられるほど私は冷静じゃなかった。
記憶がしっかりしているのは店に通されて出血が治った頃からだった。
何故か男は店長らしき人に怒られている。
「お客様を怪我させてどうするんだよ」
「すみません、次からは気をつけます」
「気を付けるつったって責任はこっちがとらないといけないんだぞ。わかってんのか?」
「重々承知のつもりです。」
「テメェ喧嘩売ってのか」
私はいたたまれない気持ちになった。なぜなら彼に非は一切ないからだ。ただ私は男の話を聞いている時に倒れただけなのだ。ここまでしてくれて感謝しなければならないというのに。
「あの、その人は全く悪くないです。私か貧血で倒れた拍子に手を階段に強く打って擦りむいただけですもの。逆に態々ここまでしていただいて、ありがとうございます。」
店長はこちらを向いて、男に向かって何故それを最初に言わないんだと理不尽に文句を言った。
男は私をみて、明るく笑った。
「お姉さんが無事でよかった」
「今日はもう帰ります。また後日お礼をさせていただきたいのでご連絡をお聞きてしも宜しいですか?」
こういう小さな気遣いと、優しさ。人は見かけに寄らずと言う、言葉に当てはめて照らし合わせる。
外見は作ることができても中身は良くも悪くも変わらないんだと思った。私の根の心は自分では見れない。
当てはめても、自分の心の色を透かして見る人が居ないとわからないのだ。私を見てくれて、それを嘘偽りなく教えてくれる人が私にも現れたらどれだけ幸せなのだろう。そんな人が現れてくれたら私はどんな困難でも乗り越えられると思った。
こう思うのは一瞬だが、一瞬でもこんなこと考えられるならそれだけの価値があった。右手の指がまだ、痛む。これが不幸中の幸いというやつなのだろうか。
お題「胸の鼓動」
ーーーーーーーーーーーー
続くかも!!
ここまで読んでくれた人大好きです。七時半まで2時間もないですが、いいね付くかな?
追記
今までで一番いいね付きましたー!もうるんるんです。このアプリの良いところは、いいねの数を他の人と比べないで良いところなので詳しくは書きませんが、いつもより10個くらい多い。態々書くのも何かなと思いましたが嬉しくて。記録しておきます!