中学生

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彼と出会ったのは不甲斐なくも夜中の渋谷でだった。

仕事は残業ばかりで、会社の飲み会にも参加されされた時の帰り道。
終電を逃した私は渋谷で行く宛もなく歩いていた。
金曜日だからと言って呑んでも良いと言う馬鹿げた発想は本当に嫌いだ。
明日が休日ならば、逆に五日間疲労し続けた体を癒したいし、二日酔いも想像するだけで嫌になる。

上司なんて死んじゃえばいいのに。毎日のようにそう思っていた。

「そこのお姉さーん!呑んでるよね?もう一杯どう?」

そういうとチャラそうなキャッチは看板を持っていない方の手でグラスを飲む仕草をした。
そしてニィーっと笑って間を空けず看板を指差して説明しはじめる。

「金曜のこの時間帯は深夜割ってのをやってて、簡単にいうと、室料と何かつまみを一つ頼むだけで飲み放題なんだよね!」

私は呆然とその男の説明を聞いていた。飲むつもりなんて一切ないのにも関わらず断る事もこの場を去る事もできない。

本当に何も考えていなかった。キャッチ男は反応がないからか次のターゲットに移ろうとしている。

次の瞬間、私の視界は歪んだ。また次の瞬間には右半身の痛み、頭痛。

私は眉間にシワを寄せた。自分が倒れたのだと知ったのだ。
立ちあがろうにも体が動かない。これじゃあ歩けないじゃないかと思った。よく考えれば歩けなくても宛がないのでいいのだが、なぜか苛立った。

そう考えているとヒョイと私の体が浮いた。なんだなんだと思っているとさっきのキャッチ男が私を簡単に持ち上げている。私は身長も高い方だし人に持ち上げられた事なんて赤ちゃんぶりだ。

私はまた呆然と男を見ていた。なぜか申し訳なさや、さっきの怒りは一切感じなかった。恐らく頭が冷静になってどうするべきか考えようとしていたのだと思う。

男も困惑していて、

「えっ!お姉さんどうしよう!?救急車呼ぶ?貧血!?」

と何か言って私を米俵を運ぶように持ち上げていた。

私は急に恥ずかしくなって、自主的に降りた。

「本当大丈夫ですから。酔ってたので。でも今はもう酔いは覚めましたから。ご心配おかけしました。」

そういってもキャッチ男は全く落ち着かない。

「いやいや、おねえさん左側!それ折れてるんじゃない?!血ぃめっちゃでてるよ!!?」

えっ。左半身を見る。なんともなってない。次に右半身を見る。右腕の指が擦りむけて凄いことになっている。絆創膏やガーゼでは拭いきれない量出血している。

「とりあえず店ちょーに見てもらおう!」

私は店内に通された。あとで何か請求されるのではと思っていたがその旨を伝えられるほど私は冷静じゃなかった。

記憶がしっかりしているのは店に通されて出血が治った頃からだった。
何故か男は店長らしき人に怒られている。

「お客様を怪我させてどうするんだよ」
「すみません、次からは気をつけます」
「気を付けるつったって責任はこっちがとらないといけないんだぞ。わかってんのか?」
「重々承知のつもりです。」
「テメェ喧嘩売ってのか」

私はいたたまれない気持ちになった。なぜなら彼に非は一切ないからだ。ただ私は男の話を聞いている時に倒れただけなのだ。ここまでしてくれて感謝しなければならないというのに。

「あの、その人は全く悪くないです。私か貧血で倒れた拍子に手を階段に強く打って擦りむいただけですもの。逆に態々ここまでしていただいて、ありがとうございます。」

店長はこちらを向いて、男に向かって何故それを最初に言わないんだと理不尽に文句を言った。
男は私をみて、明るく笑った。

「お姉さんが無事でよかった」

「今日はもう帰ります。また後日お礼をさせていただきたいのでご連絡をお聞きてしも宜しいですか?」

こういう小さな気遣いと、優しさ。人は見かけに寄らずと言う、言葉に当てはめて照らし合わせる。
外見は作ることができても中身は良くも悪くも変わらないんだと思った。私の根の心は自分では見れない。
当てはめても、自分の心の色を透かして見る人が居ないとわからないのだ。私を見てくれて、それを嘘偽りなく教えてくれる人が私にも現れたらどれだけ幸せなのだろう。そんな人が現れてくれたら私はどんな困難でも乗り越えられると思った。
こう思うのは一瞬だが、一瞬でもこんなこと考えられるならそれだけの価値があった。右手の指がまだ、痛む。これが不幸中の幸いというやつなのだろうか。

お題「胸の鼓動」

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続くかも!!
ここまで読んでくれた人大好きです。七時半まで2時間もないですが、いいね付くかな?



追記

今までで一番いいね付きましたー!もうるんるんです。このアプリの良いところは、いいねの数を他の人と比べないで良いところなので詳しくは書きませんが、いつもより10個くらい多い。態々書くのも何かなと思いましたが嬉しくて。記録しておきます!



9/9/2024, 8:49:40 AM