星乃 砂

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《巡り逢うその先に》
        番外編
〈黒鉄銀次という男〉  ③

        
主な登場人物
 金城小夜子
     (きんじょうさよこ)
   玲央      (れお)
   真央      (まお)
   綾乃   (母 あやの)
 椎名友子  (しいなともこ)
 若宮園子 (わかみやそのこ)
   大吉    (だいきち)
 東山純 (ひがしやまじゅん)

 向井加寿磨 (むかいかずま)
   ユカリ      (母)
   秀一      (義父)

 桜井華   (さくらいはな)
   大樹  (父 たいじゅ)
 高峰桔梗(たかみねききょう) 
   樹      (いつき)
 葛城晴美 (かつらぎはるみ)
 犬塚刑事    (いぬづか)
 足立刑事     (あだち)

 柳田剛志 (やなぎだたかし)
 桜井大樹(さくらいたいじゅ)
 横山雅  (よこやまみやび)

 京町琴美(きょうまちことみ)
 倉敷響  (くらしきひびき)

 黒鉄銀次 (くろがねぎんじ)
   詩乃    (母 しの)
   巌    (父 いわお)
所持金も少ないので、あれこれと仕事を探している余裕はない。
詩乃は仕方なくまた水商売をすることにした。
ダメ元で高級クラブに行ってみた。
マネージャーと面接をしている時にママが出勤してきた。
ママは私をじっと見つめた後にマネージャーに言った。
「この子は私が話しをするわ」
「わかりました」
マネージャーは席を立ち自分の仕事に戻っていった。
「あなた歳はいくつなの?」
「二十歳です」
「もう一度聞くわよ、いくつ?」
ダメだ、ごまかせない、正直に言うしかない。
「16才です」
「ここがどういう店だかわかっているの、お酒を扱っている店なのよ。悪い事は言わないからお家に帰りなさい」
「帰る所がないんです」
父がアル中で犯されそうになったこと。
信じていた人に騙されて行くところがなくなったことを正直に話した。
「事情はわかったわ。でも、未成年者はここで働かせられないわ」
「そうですよね。失礼しました」
詩乃はお辞儀をして帰ろうとした。
「待ちなさい、私の知り合いが旅館を経営してて、スタッフを募集してるから聞いてみるわ」
「本当ですか」
ママはすぐに連絡してくれた。
「雇ってくれるそうよ。ただ住み込みは無理だから、うちのスタッフの寮に入れてあげるわ」
「いいんですか。ありがとうございます」
「咲ちゃん、ちょっと」
「なんですかママ?」
「あなたのところ一部屋空いてたわよね。今日からこの子を住まわすから、悪いけど案内してあげてちょうだい」
「わかりました。じゃあ行ってきます」
私はもう一度ママにお礼を言い寮へ向かった。
そこは3LDKの賃貸マンションだった。
「ここには、もうひとりマリエって子がいるわ。あなたの部屋は右の部屋ね、自由に使っていいわ。お風呂やリビングはみんなで仲良く使いましょうね。冷蔵庫もみんなで使っているから自分のものには必ず名前を書いといてね」
「はい、わかりました。よろしくお願いします」
次の日、旅館の女将さんに会い正式に雇ってくれることになった。
ルームメイトの咲さんやマリエさんもとってもいい人で妹のように可愛がってくれた。
クラブ暁月(あかつき)のママも様子を見に何度も足を運んでくれた。
旅館の女将さんも優しい人で手取り足取り丁寧に仕事を教えてくれた。
毎日が充実したなかで私は二十歳を迎えた。
私はどうしてもママに恩返しがしたいので旅館を辞めクラブ暁月で働かせてほしいと、女将さんとママに話した。
あんなに親切にしてくれた女将さんには怒られると思った。
「あなたのことは暁月のママから預かってただけだから気にしなくていいのよ。あなたの好きにしなさい」
「いいんですか、ありがとうございます」
「詩乃、お水の世界は甘いもんじゃないわよ。やるからには覚悟なさい」
「はい、私ママのために頑張ります」
「詩乃、あなたの源氏名はカスミでいいわね。それと、私がいいと言うまで同伴とアフターは禁止します。いいわね」
「それってどう言うことですか」
「つまり、お店以外でお客さんの相手はしないこと」
「はい、わかりました」
こうして詩乃はクラブ暁月で働きだした。
ひと月もすると馴染みの客もでき、指名も入りだした。
今日はママがお休みなのでNo.1の静香さんがお店を仕切っている。
「カスミちゃん、7番テーブルに入ってちょうだい」
詩乃は静香に言われたとおり7番テーブルについた。
「初めましてカスミです。よろしくお願いします。お名前教えてもらっていいですか?」
「黒鉄だ」

           つづく

9/9/2024, 10:48:15 AM