『胸が高鳴る』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
鮮やかな色彩に、目が覚めた。
起きてはいる。だがその表現が、今の自分には一番相応しい。
今まで、空の青の違いを気に留めたことはなかった。四季折々に咲く花の艶やかさも、その花に集う生き物の美も何もかも、知ろうとはしなかった。
「きれい」
無意識に溢れ落ちた言葉は、風に攫われ消えていく。代わりにひとひらの花びらが手の中に降ってきた。
「きれいだ」
心からそう思う。
世界はとても美しい。息づく命が愛おしくて堪らない。
手の中の花びらを風に乗せ、微笑みを浮かべた。
何も感じず、無意味に時が過ぎていくのを見つめていた頃には戻れないのだろう。
とくり、と鼓動が跳ねた。
初めての感覚。戸惑い、そっと胸に手を当てる。
とくとくと、規則正しい音を感じる。数多の生が刻むそれと同じリズムに、目を瞬いた。
生きている。
当たり前のような奇跡。泣きたくなるほどの喜びに、胸の高鳴りを覚えた。
「――あ」
揺れる輪を見つめ、ぼんやりと首を傾げた。
目を開けたまま、夢を見ていたような気がする。おかしなこともあるものだと、輪から目を逸らし、何気なく室内を見回した。
ベッドと机、棚にクローゼット。見慣れた自室の光景が、どこか物珍しく感じるのは夢の影響だろうか。
夢の残り香を飛ばすように頭を振り、ベッドに向かう。未だに揺れている輪が煩わしいが、夜もすっかり更けてしまっている。片付けるのは明日でもいいだろう。
電気を消し、ベッドに潜り込む。胸の高鳴りを感じていたが、目を閉じれば途端に睡魔に襲われる。これなら眠れそうだと、そのまま身を委ねた。
いつものように登校し、代わり映えのない教室で一日を過ごす。
周囲の視線は相変わらずだが、いつもよりは大人しい。こちらの様子を伺うような気配を感じるものの、態々相手にするのも面倒だった。
「――おい」
反応がないことに焦れたのだろうか。放課後になり、生徒が複数人でこちらに近づいてきた。
「お前、何で……っ」
生徒の言葉を、視線だけで黙らせる。
何人でいようと、所詮は子供。自分たちよりも弱い者にしか強く出れない子らの相手をするのは時間の無駄だ。
怖気づいたように後退る生徒を一瞥し、何も言わずに席を立つ。騒めく周囲など気にも留めず、帰宅するため教室を出た。
烏の鳴き声が聞こえた。
途端に、あちらこちらから小さな悲鳴や怯える気配がする。視線を巡らせれば、廊下を歩く生徒や教師までもが皆一様に俯いている。顔を上げて目を合わせることを恐れているかのようだ。
そういえばと、向けられる視線の原因を思い出した。
帰り道で烏と目が合ったと、恐慌状態に陥っていた生徒を、家まで送り届けたことがあった。その生徒は数日学校を休んでいたが、今は問題なく復帰しているはずだ。
その生徒の休みの原因を、自分が何かをしたからだと疑われた。反論も弁解も許されず、一方的な断罪を受けていた。
くだらない。内心で吐き捨てる。
親切を仇で返すのは、いつの時代になっても変わらない。一度恐怖を覚えると、猜疑心に蝕まれ支配されてしまうのは何故なのだろう。
答えのない、人間の愚かさの理由を考えながら、学校を出る。
先程よりも、烏が鳴く声がはっきりと聞こえる。『目』を警戒し、仲間に知らせているのだろう。
生徒や教師は烏に怯えているが、本当に警戒しなければならないものは『目』の方だ。
『目』という表現も正確ではない。だがそれを正しく表すことのできる言葉を、自分は知らなかった。
ただそこにあるだけのもの。しかし僅かでも覗き込めば、殆どの人間は一瞬で壊れてしまうのだろう。人間の理解を越えた先にある存在を見て正気を保っていられるなど、ごく僅かだ。
「昨日よりも学校に近づいているな」
飛び去っていく烏の群れを見ながら独り言ちる。近くに感じる『目』の気配に眉を寄せた。
最初の犠牲者が烏に『目』を重ねた理由は不明だが、今も烏と目についてしか言葉を話さないらしい。まだ当分は烏と目を合わせると狂うという噂はなくならないなと、肩を竦めて家路を急いだ。
夜。
ふと目が覚めた。
暗がりの中、視線を巡らせる。天井、カーテンレール、カーテン。
必死に輪にしたカーテンが元に戻っていることに酷く落胆した。やはり無理があったのだろうか。ならば別の方法を考えなければいけない。
「まだ朝は来ない。もう少し眠っていろ」
声がした。それは自分の声によく似ていた。
体を起こしかけた中途半端な体勢で目を瞬く。辺りを見回しても、自分以外にこの部屋には誰もいない。
「花畑は飽いたか?ならば次は海にしようか」
声は優しく語りかける。しばらく感じることのなかった悪意のない穏やかな声音に、思わず泣きそうになった。
姿の見えない誰か。
恐怖はない。自分には外の人たちの方が恐ろしく感じられる。
どこにいるのだろう。呼びかけようとして、唇がうまく動かないことに気づいた。
どうしてだろうか。不思議に思い、そっと唇に手を触れた。
「無理に目覚める必要はない。傷が癒えるまで、ゆっくりと休息を取るべきだ」
声がする。自分の口から優しい言葉が紡がれている。
一緒にいる。自分の中にいてくれる。
理解した瞬間に、瞼が重くなってきた。ベッドに横たわり、そのまま目を閉じる。
意識が沈む。遠く、潮騒の音が聞こえてくる。
もう大丈夫。
胸が高鳴るのを感じながら、甘い夢の世界へ身を委ねた。
朝の陽射しに目を開けた。
胸に手を当てる。とくとくと刻む鼓動に口元が緩んだ。
「案ずるな。もう大丈夫だ」
囁いて、体を起こす。また代わり映えのない一日を過ごすため、身支度を整えていく。
その日常もそろそろ崩れてしまうのかもしれないが。
自分には関係のないことだ。『目』を見て壊れた人間の末路など、気にかける必要はない。
「さて、急がないとな」
笑みを浮かべ、部屋を出る。
微かに烏の鳴く声を聞きながら、波打ち際ではしゃぐ自分を感じて胸を高鳴らせた。
20260319 『胸が高鳴る』
生徒会での演説 漢検5級から準2級をとるまでの毎回の試験 足の手術…今まで結構ハードな経験をしてきたなぁと自分では思います。私はもともと楽観的ではなく、小さいことで不安になりやすい性格です。ゆえにどれも踏みきるまでにはすごく時間かかったし、たくさんたくさん考えました。今までやってきたことが働きはじめて役立ったことはあんまりないけど、大事なひとつの引き出しとして持っておきたいと思います。
「胸が高鳴る」
【胸が高鳴る】
1番になりたい。
他の誰にも邪魔されない、1番になりたい。
恋心と言うより独占欲のようなそれに、ため息をつく。
縛り付けたいわけではない。
ただ、私のそばで笑っていてほしい。
隣で眠る彼にそっとキスをした。
fin.
胸が高鳴る
手は冷え
汗で滑る
落としてはならない
強い熱と光が睫毛を照らす
始まりの合図だ
風になる前の
空気の動き
不用意な息は
寿命を縮める
雷に似た
微かな光と音を
指先で理解する
一つ二つと
火の玉が落ちる
嵐は遠ざかり
やがて凪の予感
勝利の確信に
胸が高鳴る
最後の火の魂が
息をひきとる
辰吉は老練な画家である。
鮮明で多彩な色の顔料達は目から、ざらざらとした紙質は滑る筆を伝って手に伝わってくる。どのように描こうか、どうすれば良い絵が描けるのかと考える時間は苦しみであれど、その裏には何時も楽しさが躍っている。
正しく、辰吉は絵そのもの全てに心を高鳴らせ、躍らせ、他では味わえないだろう快感を得ているのだ。
これはどんなに壮大な恋や愛にも変わらぬ、ただ一人自分だけで始っては己の命尽きると共に終わる内での活動である。
そんな辰吉は幼くしていつの間にやら絵の神様か悪魔かに心を奪われてしまったのかもしれないと考える。
然し今日までずっと高鳴るこの心臓をもってして、
「あぁ良かった。私の心臓は奪われてなどいない。」
と分かるのだ。
トクントクンと胸が早鐘を打つ。
誰かを好きになった時の気持ちのよう。
ステージはまだ幕が降りている。
(ああ、もうすぐジェインの舞台が始まる……!)
好きな俳優の初舞台。
その初日に私は運良く席が取れた。
ずっと応援していた彼の初舞台、初演を観ることが出来るなんて、胸が高鳴って仕方がない。
ブザーの音が鳴る。
幕が上がる。
私は泣きそうになった。
3/19『胸が高鳴る』
「別れよう?」
いつもの喫茶店でコーヒーを飲んでいる時、呟くように君が言った。
「え? なんて?」
思わず聞き返すと、君はカップに口をつけて一息吐いたあと、もう一度言った。
「別れようって、言ったの」
「え、え? なんで?」
「あなたを不幸にしてしまうから」
「どういうこと?」
「このまま付き合い続けても、私があなたを不幸にしてしまうから」
「浮気してるってこと?」
その問いに彼女は首を横に振った。他にいくつか質問をしたが、彼女ら首を振るばかりで「あなたが悪いんじゃないの」と続けた。
それからもとにかく「別れよう」ばかりで埒が明かなかったので、とうとう僕は頷いた。
僕が頷くとようやく、彼女は今日初めての笑顔を見せた。
「そう? ありがとう」
僕は彼女と別れることに未だ腑に落ちない気持ちを抱えながら、彼女との最後の時間の伝票を持った。
3/18『不条理』
泣かないよ
きみが振り向いてくれるまで
泣く時はきみがぼくを見てくれたときだ
3/17『泣かないよ』
君はとても怖がりだ。
約束を怖がる。
手を繋ぐことを怖がる。
「好き」と言われることを怖がる。
日々のことに怯えて
でも僕はそんな君のことが好きで、
君の怖がることだけど、
ひとつだけ「約束」させてほしい。
そんな怖がりな君をずっと「好き」でいること。
怖がらせるのはわかってるけど、これだけは譲れない。
愛してるよ。
3/16『怖がり』
どこかの、誰かにとっての雨の振る日とは、
落ち着いた気分になれる日だろうか。
空気につられて気分が落ち込む日だろうか。
ある雨の日、小さな傘を閉じたまま、長靴で大きな水溜まりを狙って歩く子を見かけた。
なんとも楽しげな様子で、
私にはその無邪気さが、心底眩しくて。
ふと、傘を放り出して歩きたいような気がした。
きっと、体の芯まで冷えて風邪をひくのだろう。
それも楽しそうだと、思った。
少しの羨ましさを抱えて、ただ横目に小さな無邪気さを見た雨の日。
その日、少し周りを見ることの楽しさを知った。
《胸が高鳴る》
《胸が高鳴る》
まち望んだその瞬間に私の胸が抑えきれず高鳴る。
ようやくあの方の屈辱をはらすことができる。
綺麗で美しい、輝くあなたに言われることは分かっている。
「こんな馬鹿なマネはやめて!!」
「そんなことは本人も望んでないよ!!」
「そんなことやったって帰ってこない!!」
そんなことは私も身に染みてわかってる。
だから、何だ?
あの方が穢され、貶められ、辱められた。
その末に命を落とされた。
その事実は変わらない。
私はあの方に侍るもの。
あの方がどのような道を進もうと、道の終わりまで付き従うが我が使命。
なら、その使命を果たすことが出来なかったら?
自分が至らぬせいで、自分が誓った忠義に反してしまったなら?
しかも、主人が貶められたのなら?
その時傍に控えなかった自分の不手際を置いておいて、
まずその要因を排除し、報いを受けさせる。
その後、主人に向けて詫びるため、切腹する。
もう一度、あなたの傍へいくのを許されるのならば、あなたの笑顔がみられるならば、私は、
『全部全部、指輪のせい』
目があった瞬間に胸が跳ねたの。
こんな体験初めて!こんなの漫画の中だけかと思ってたけど、本当に現実でも起きるのね!
「……って、思ったんだけどな〜」
口から乾いた笑いが出た。
目の前の彼の手には、私と同じ指輪がついている。私の胸の高鳴りも、この指輪が引き起こしたものなのだろう。
「ははっ……これもある意味、運命ってやつ?」
目の前の彼は戦う気満々みたいで、メガネを外してこちらを睨んでいた。
……そんな顔もかっこいいなんて、ずるいじゃん。
「いーよ、戦おっか」
そう言って、光輝く指輪を掲げた。
【胸が高鳴る】
胸が高鳴る│蛍 歩樽
胸が高鳴るというのが私にはイマイチピンと来なかった。
胸が高く鳴るなんて言われても分からない。
分かりたくもない。それはただの動悸では無いのだろうか。
隣に居る麗奈は言った。
「胸が高鳴るって経験ないでしょ?」
「ない。でもなんでわかった、」
「じゃあ私が高鳴らしてあげる。」
麗奈は私の言葉を遮るように口付けを落とした。
それでも私は胸が高鳴るなんて分からなかった。
でも嬉しかった。
私は都合のいい存在だとしか思われていないと思っていたから。
最後に母親に伝えられた記憶もこれだけしか残っていない。
「あんたはロボットなんだから、手伝いだけしてくれればいいのよ。」
ショックだったのだろうか、私はこれ以外に母親の記憶がない。
『胸が高鳴る』
胸が高鳴るモノ
ちゃんと持ってますか?
できるだけ見つけて欲しい
少しずつ育てて欲しい
ワクワクは心のエネルギー
生き続けるための大切なチカラ
見た瞬間に潤うもの
聞いた瞬間に笑顔になること
自分に水をいっぱいあげよう
高鳴りを育てていこう
自分が育って大きくなって
その喜びが周りを元気にする
溢れたものを分けてあげれば良いの
それが周りの人を自然と喜ばせる
自分を育てて元気になって
胸の高鳴りがあなたを元気に
その高鳴りがさらに周り元気にする
高鳴って
あなたの胸の鼓動―――!
高鳴って
ワタシの胸の鼓動―――!
〜シロツメ ナナシ〜
胸が高鳴る
とりま今日もスペース確保。
今日も文字が進まないけど、練習なんだからがんばろう。
続き物の小説は、今2割書けてますm(__)m
その時だ。
足音が聴こえてくる。
体育館の角から君の姿が見える。
今にも心臓が飛び出そうだ。
もう吐いてしまいそう。
君は私の目の前で止まる。
私は大きく息を吸い込み、口を開く。
「今日はありがとう。」
「好きです。付き合ってください!」
その瞬間君は微笑んだ。
その笑顔に私は胸を高鳴らせる。
君は言った。
―――「
こんな夢を見た。私は村の人たちに連れられ、ある場所へと向かっていた。着いた先には、古めかしい台座に剣が刺さっていた。
「これを引き抜け」
「何ですか、これ」
「これは聖剣だ。剣に、勇者として認められると引き抜ける。ともかく、剣の柄を引っ張ってみろ」
抜けるわけがない。私は、ただの武器屋の娘だ。不思議な力とは無縁だし、勇者の末裔でもない。抜けなければ諦めるだろう。私は剣の柄を握り力を入れる。ググッと上に持ち上げると、剣が動きそのまま引き抜けた。呆然としていると、周りから歓声が上がった。
「勇者だ!」
「この村に勇者が現れたぞ!」
呆然としている私をよそに、あっという間に旅の支度が終わり、村を出ることになった。
「大変だろうが頑張ってくれ。なあに、聖剣さえあれば死ぬことはない。聖剣は持ち主を守ってくれるからな」
調子の良い言葉に私は頷き、村を出た。村が見えなくなった頃、私は剣を鞘から引き抜き眺めた。これは、ただの鉄の剣だ。父の店の手伝いで武器の鑑定をしていたので、すぐに分かった。両親をモンスターの襲撃で亡くした私を体よく厄介払いしたかったのだろう。村の人を恨むつもりはない。最近、モンスターが増えて畑や家畜を襲われて食料が減っていた。だから、自分たちの食い扶持を守るためにしたことだろう。
「いや、そんなことはどうでもいい」
私は勇者という大義名分を手に入れたのだ。つまり、好き放題出来るということ。勇者として必要ならば、奪うことも正当化されるのだ。もう私は蹂躙される側ではない。剣を鞘に戻し、村を探すために歩く。剣だけではすぐ死んでしまうだろう。
「勇者って言うわりには、お金全然渡してくれないんだよなあ…」
ぼやいていると、近くの茂みが動いた。こっそりのぞくと、小さなオオカミ型のモンスターが毛づくろいをしている。しめた、今なら隙だらけだ。それに子どものモンスターなら、この剣でいい。私は剣を抜き忍び足で近づくと、モンスターの心臓を一突きした。動かなくなったモンスターを見、私は胸が高鳴るのを感じた。一方的に蹂躙してきたモンスターが動かなくなった。今まで剣を持ったことがない私の手によって!殺した恐怖や罪悪感よりも、高揚感に包まれていた。血まみれになった剣を振り、血を飛ばすと鞘に戻す。大丈夫、私なら出来る。興奮さめやらず私は鼻歌を歌いながら、近くの村を目指した。
『胸が高鳴る』
扉の前で立ち止まるところから。
ゆっくり歩幅を合わせて。
座って。
合図に合わせて立って。
礼をして。
手は左から。
回って。
前を向く。
ああ、今は一人しか私を見ていないこの空間が、
大人数に包まれるのか。
胸がばくばくする。
今これなら、本番はどうなってんだ笑
ゆっくり自分の椅子に座った。
卒業式、楽しみだな。
以後、作者の自我が出ます。本編より長い。
直近で卒業を迎えた皆さん、ご卒業おめでとうございます。
まあそれは私もなんですがね。
それはそうと、読んで頂けたならわかると思いますが、これは卒業式に向けて胸が高鳴っちゃうお話です。
が、なんで本番ではなく練習の方を書いたのかといいますと、単純に、作者が卒業式に出ていないためです。
卒業式当日に体調を崩し、病院で点滴を受ける始末でした。
ですので、練習の方を上げさせて頂きます。
マーフィーの法則は卒業式でも健在です。皆さんもお気を付けくださいませ。
では、自我が失礼しました。
開演前の空気が一番好き
ここにいるみんなが同じ想いで待ってる
期待に満ちた空間
着席を促すアナウンス
開演を知らせるベル
客電が落ち静まり返る瞬間
胸が高鳴るこのとき
多分みんな同じ顔をしている
『胸が高鳴る』
いつもより緩やかな朝。
リビングのソファで彼女は携帯電話を耳元に当てがい、楽しそうに声を弾ませていた。
しばらく後、通話を終えたタイミングで俺は声をかける。
「ちょっと」
「ん?」
「胸元、開きすぎです」
ポロシャツのボタンを全て開けている彼女の胸元は無防備だ。
首元はともかく、普段は滅多にお目にかかることのない鎖骨が露わになっている。
指摘すれば、彼女の視線が素直に防御力の低くなった胸元に移った。
「え、そう?」
「見えそうで見えない状況って、一番、目力が働きます」
「その状況で私の胸元をガン見するのはれーじくんだけだよ」
んなわけあるか。
「あなたはご自分のかわいさを、もう少し自覚してください」
「私のツンツルテンな体に触れたがるのはれーじくんくらいだよ?」
その理論は、彼女に元カレが存在している時点で成立していない。
ガバガバなのは胸元ではなく、彼女の言い分だったようだ。
「そうですね」
言いたいことは山のように出てくるが、ひとまず、この目に毒な胸元を隠すべく、彼女に代わってポロシャツのボタンを留めていく。
「少し痩せたでしょう?」
「え、あぁ……、3、4キロくらい? でも、すぐに戻るよ?」
「当然です」
昨夜、彼女は海外遠征から帰宅したばかりだった。
1日で体重や疲労は元には戻らないだろうが、1週間もあれば問題ない。
問題は、気の緩んだ彼女を前に、俺の理性がはち切れそうになっていることだ。
「あと、俺は見えそうで見えない状況で、最終的に見えちゃうシチュは、一番癖に刺さります」
「ん? なんの話?」
キョトンと首を傾げた彼女に、ため息をつきたくなった。
あざとさを狙っているのならまだいい。
彼女の場合、それが全て無自覚だから、タチが悪い。
「休みだからと、痩せた状態で一時的とはいえサイズの合わなくなったカップつきインナーを着て、シャツのボタン全開なんですよ? 俺との身長差考えてみてください。上から魅惑のおっぱいが丸見えです」
「!? えっち!!」
「やっとわかってくれました?」
今さら俺から距離を取り、胸元を隠す彼女に、俺はようやく満足する。
「俺、2週間もあなたに会えなくて寂しかったんですよ?」
「いつものことじゃん」
「しかも、今日は、自宅でのんびり過ごす予定です」
「え、で、出かけたかった? カフェとか買い物とかする? さすがに遠くに出る元気はない、けど、そ、それくらいならつき合うよ?」
「お気遣いはありがたいですけど、今日はあなたの疲労回復が優先です。そうではなく……」
とっくに留め切ったボタンの上から、彼女の胸元に触れた。
胸元、脇腹、太ももと、ゆっくりと指を滑らせる。
「誰にも邪魔されず、好き勝手あなたに触れられる状況が揃っていることを、自覚してください」
俺の指を意識して徐々に顔を赤らめていく彼女に、俺のほうも期待値が上がった。
耳奥で高鳴る鼓動をごまかすために、ソファに体重を乗せてスプリング音を立てる。
彼女ごと体重をソファに預ければ、特に抵抗されることなくおとなしく押し倒されてくれた。
「口うるさく言いたいわけではないし、気をつけろと言うつもりもないのですが、……俺も、我慢が効かなくなるので」
すっかりおとなしくなった彼女の耳朶に触れる。
少し先の尖った耳の輪郭が愛おしくて、何度も指を往復させた。
「無自覚な誘惑は、程々にしてください」
「わ、わかっ……た……」
上ずった声でうなずいた彼女に満足した俺は、彼女の赤くなった頬に唇を落として、そっとソファから離れる。
体を起こして背筋を正した彼女は、なぜかプチプチとシャツのボタンを外した。
「…………俺の話、聞いてました?」
「意図的な誘惑だったら、いいんでしょ?」
はあああっ!?
昨日の今日だぞ!?
まだ疲れてるクセに!?
しかも朝だぞっ!?
意味をわかって言っているのだろうか。
だが、俺だって、あそこまでして意味が伝わらないような愛し方をしてきたつもりもない。
首元まで真っ赤にしてものすごく照れているクセに、彼女は挑発的に口元を緩めた。
「でも」
形のいい薄桜色の唇を攫おうとしたところで、彼女の小さな手に阻まれた。
警戒心を研ぎ澄ませた彼女の反射神経は、相変わらず、見事なものである。
「ちゃんと夜まで我慢して」
「はああああっ!?」
とんでもないお預けを食らい、今度こそ声を出してしまう。
ドッ、ドッ、と、心臓が破裂しそうなくらい高鳴った。
「ぐぬぬ……」
俺はしがない無名の作家だ。
そんなに人気でもない雑誌の片隅で、掲載させてもらっている。
当然これだけで食っていけるはずもなく、夜にはバイトを詰め込んで、寝不足でフラフラのまま筆を執る生活を、もう何年も続けている。
さて、そんな俺だが、最近ようやく、少しずつ軌道に乗ってきたのだ。
じわじわと固定のファンが増え、僅かながらにファンレターが届くようになった。
そこで、少し長めの作品を掲載をしてみないか、と声をかけられたのだ。
だが、短編作家が中編を書くのは中々に難しい。
オチは思い付く。書き出しもなんとかなる。ただ、そこを繋ぐ間が、全く書けない。
初回は安定を狙おうと、王道の恋愛モノにしたのは間違いだったかもしれない。俺は生まれてこの方、恋人なんてできたこともない。
「……恋って何だよ……」
哲学的な問いを口にしてみても、現状は何も変わらない。相変わらず繋ぎは白紙のまま、中途半端な恋模様が画面上を漂っている。
今日はもう無理かと諦めて、キーボードから手を離した。息抜きに糖分でも摂ろうかと思い立って冷蔵庫を覗くも、何もない。
そういえば、散歩は閃きの元だと誰かが言っていた気もする。散歩がてら、コンビニにでも行こうと適当に上着を羽織った。
もう雪はすっかり溶け切っていて、梅の蕾が綻んでいた。まだふっくらしている野良猫が、同じく丸々とした雀を追い回すのを横目に、煌々と明かりの灯るコンビニに足を踏み入れた。
気の抜けた店員の声に頭を上げ、固まる。
顔面国宝、そんな言葉が頭を駆け抜ける。男でも見惚れるような、気怠さを孕んだ、いかにも夜が似合いそうな男だった。
俺は本来の目的も忘れて意味もなく店内を歩き周り、ぼんやりしたままコンビニスイーツを買って帰路についた。
恋愛モノのヒーロー役のモチーフが彼になったのは、言うまでもない。
あの時の感情を好き勝手書き殴って、俺はもはやヒロイン気取りまであった。
仕方がない。だって、不覚にも男相手に胸が高鳴ったのだ。作家として、これをネタにしない手筈はない。
その日の原稿は、いつもより少しだけ人気を博したらしい。
テーマ:胸が高鳴る
レバーを引く
カチッ
コルクを詰める
狙いを定める
ギャラリーが
見守る中
引き金を引く
…
パーン
…
当たるかな?と
見ている私まで
胸が高鳴る
パタン
と景品が倒れる
当たった~~
当たった時の
爽快感
これは並ぶねぇ
✨699✨胸が高鳴る
キーホルダー/如月 紅葉
学校からの帰り道、隣の席の田中くんと一緒に帰る事になった。田中くんとは、よく喋るだけの仲だ。だけど、私は少し彼のことが気になっている。今日は、居残りがあり、色々あって一緒に帰る事になった。
「仲田さん、そのキーホルダーってさ、」
田中くんが指を刺しながら言った。そのキーホルダーは、私の好きなアニメのキャラクター形をしたものだ。私は、キーホルダーを触りながら言った。
「ああ、これ。この前アニメイトで買ったんだ。」
「仲田さんって、アニメ好きなイメージとかなかった。」
「うん、よく言われる。」
私は、少し照れながら言った。田中くんは、少し考えてから言った。
「僕も、そのアニメ好きなんだ。」
「へぇー、そんなイメージなかった。」
田中くんは、歩くのをやめた。それと同時に私も止まった。
「よかったら、今度の休日。◯◯遊園地に行かない?そのアニメのコラボやっているし、、、」
私は、少し興奮した。色々の意味は、あるけれど、田中くんが、誘ってくれたのが嬉しかった。その後は、アニメの話で盛り上がったことを覚えている。今でも、思い出すと、恥ずかしいような、恥ずかしくないような。そんな思い出だ。
窓から日が差している。私は、見ていたアルバムを片付けて家を出た。今日は、夫の晃を駅まで迎えに行こうと思う。そして帰り道に、2人の好きなアニメの映画に行く約束をしようと思っている。私は、家の鍵を閉めて家を出た。家の表式の苗字には、田中という文字が書いてある。