「胸が高鳴る」
ここは、この世界の一番奥深いところにある神殿。
人呼んで、「最後の神殿」。
ここに来た者の願いを叶えると言い伝えられてきた伝説の場所。
「そんなのおとぎ話だ」と馬鹿にする人もいたが、ここを求めてたくさんの冒険者たちが旅をした。
しかし、一人として最後の神殿に辿り着ける者はいなかった。
なぜなら、ここに来るまでの道のりはあまりにも厳しいものだったから。
現に、もとは4人組だったパーティも君と僕だけになってしまった。
この神殿に来るまで、僕たちはあまりにも多すぎる犠牲を払ってきた。母の形見のブレスレット。父が遺した剣。それから、幼馴染の2人の仲間。
いろんなものを背負いながら、僕らはやっとここに来た。
この荒廃した世界を救うために。
神殿を前にして、僕らは思わず立ちすくんだ。
これでやっとこの冒険は終わる。
これでやっと世界を救える。
この大切な世界を、僕らにとっての唯一の居場所を救える。
この瞬間を待っていた。僕の胸が高鳴る。
君と一緒に神殿の内部に入ろうとして気がついた。
石碑には「この先一人で進むべし」と書かれていることに。
ここは僕が行くべきだろう───と思った矢先、
「私が行ってくる!」
君はそう言った。
君と僕の願いは一つ。この世界を救うこと。
その願いを叶えるために、君は神殿に入っていった。
ようやく、ようやく世界を救える───
なんだか胸がどきどきする。緊張しているのか、息まで苦しくなってきた。
いや、違う。これは、緊張ではない。
息ができない、胸が痛くて苦しい。
なぜだ。何が起こっているんだ?
意識が遠のく。君が僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた気がする。
暗闇に体が、意識が沈む。
……。
───────────────
神殿内部にて
私は神殿に入った。大切な世界を救うために。
とても緊張したけれど、今までに失ったもの全てと、乗り越えてきたもの全てに後押しされて、神殿に向かって叫んだ。
「この世界を救い、皆が幸せに暮らせるようにしたいです!」
自分の声がこだまするだけで、何も起こらないようだった。
せっかくここまできたのに……そう思ったところ、どこかから声が響いてきた。
「その願い、叶えましょう。ただし、貴方の一番大切なものをいただきます」
その言葉を聞くや否や、辺りは眩しい光に包まれた。
その瞬間、あなたの苦しそうな声が聞こえてきた。
私は急いで神殿を出て、必死にあなたの名前を呼んだ。
でも返事はなかった。
どうして。どうして?
あなたの命が奪われてしまうなんて。
悲しい。やり直したい。
私はただ、あなたと幸せに暮らしたかっただけなのに。
3/20/2024, 2:39:28 PM