「もう最終日かあ」
「あっという間だったな」
卒業旅行最終日、俺たちはホテルのレストランでのんびり朝食を取っていた。
サークルの卒業旅行で、もっと多い人数で来る予定だったのだが、紅一点の女の子が旅行に来ないと分かった瞬間、キャンセルに次ぐキャンセル、最終的に俺と健吾の二人に。
せっかくの旅行、男二人で回って何が楽しいかと思ったが、思いのほか楽しめた。
知らない土地を回る事が、こんなにも楽しいものだったとは……
キャンセルした奴らは勿体ない事をしたもんだ。
「飛行機の時間までどうする?」
健吾にこれからの予定を聞く。
この旅行は行き当たりばったりで、その日の予定を組んでいた。
本当はスケジュールを組んでいたのだが、みんな来なかったので、ご破算にした。
大人数前提の予定など虚しいだけである。
例えば夢の国とか……
健吾は食事の手を止め、考え込んでいた。
「んー。何かあって乗り遅れても嫌だし、そこらへんの土産屋を覗こうぜ」
「そうすっか」
本日の予定、土産屋巡りに決定。
食事を終えた後、チェックアウトして辺りをぶらつく。
こうやって土産屋巡りもなかなか楽しいものだ。
この土地名産を活かしたお菓子や、工芸品などバラエティ豊かだ。
さて何を買って帰るか……
あ、このクッキーなんておいしそうだ。
家族の分と、サークルの後輩の分と、バイト先の分と……
と土産を吟味していると、健吾が近くにいないことに気づいた。
周囲を見渡すと、アクセサリー売り場で、売り物を熱心に見ている健吾を認めた。
気になる子にプレゼントか?
色気付きやがって。
友人の恋路を邪魔するため、近くに歩み寄る。
気づかれないよう背後を取り、ガシッと肩を掴む。
「おい、抜け駆けは許さ――」
健吾が見ているものを見て、俺の胸が高鳴るのを感じた。
なるほど。
これを見ていたのか。
なら仕方がないな。
俺に気づいた健吾が振り向いて、健吾と目が合う。
『買うか?』
言葉に出ていたわけじゃない。
奴の目がそう語りかけてきたのだ。
俺は黙ってうなずく。
俺たちの心は一つだ。
売り場に置いてある『龍が剣に巻きついたキーホルダー』を手に取る。
俺は人生の中でこれまでにない胸の高鳴りを感じていた。
3/20/2024, 8:40:13 AM