『窓越しに見えるのは』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『窓越しに見えるのは』
君がいなくなってから
何もかもが色褪せて見えた。
でも君と一緒に行ったお店の
窓越しに見えるのは
いつだって
色鮮やかな景色だった。
それが余計
私を辛くさせた。
お題『窓越しに見えるのは』
気味が悪い。席替えで窓際の席になった時からずっと気になっている。窓の外にうっすら顔が浮かび上がってて、常にそいつからの視線を感じるのだ。
学校の中では、いっさい噂になっていない。一度、友達に「窓の外になにかいない?」と聞いたら、「なにも見えないよ」と言われたから誰にも話ができなくなってしまった。
ある時、私が忘れ物を取りに教室へ戻ると窓の外にある顔と目があった。
私は忘れ物の折りたたみ傘を取りに行ったあと、外に浮かび上がってる顔と目が合う。
「貴方、誰なの?」
声をかけると、外の顔が一瞬目を丸くさせた。そのあと、向こう側から窓に息を吹きかけてきて
『私はここのクラスの生徒だった。なかにいれて』
とどうやって書いたのか分からないが文字が浮かび上がってきた。
「なんで?」
私が聞くと、また向こう側の顔が息を吹きかけて
『やりたいことがある』
と文字を浮かび上がらせた。とくに断る理由はない。窓を開けた瞬間、強い風が吹いて制服のスカートやカーテンを揺らした。
しばらくして、風がやんだので窓を閉めるともう顔がなくなっていた。
(なにがしたかったんだろう。ま、いいか。外に誰もいなくなったみたいだし)
最近のちいさな悩みが解消されて、私は意外と感慨深くもなく教室を出た。
ぼくの美しい女だから。
また、その日の午後から志保さんにスペイン語を教わっていた。
フードコートは混んでいなかった。
「志保さん、ケーキが何か食べないですか?」
「うーん、そうね」志保さんは少し考えるふうで笑顔だった。
「吐夢くんは、何にするの?」
「僕は志保さんと同じでいいです、ニッ」
「ふーん、どれにしようかしら」志保さんはメニューを見ながらチョコレートにマロンの乗ったケーキにした。
「吐夢くんは別のを選んで、半分コしましょう」
「はい、それええですね」
「吐夢くん、私はこれが好きですってスペイン語で言えるかな?」
「Te amor mucho?」
この場合はme gusta を使うのよ」
ぼくが言ったのは、あなたを愛しています。と言う意味になるので、とっても恥ずかしかった。結局、僕は定番のイチゴケーキを注文した。
志保さんは元CAで、旦那さんのマイクさんはパイロットで、ご夫婦で僕を弟のようにあれこれ可愛がってくれた。
僕がカリブ海のこの小さな島にきたのは、零細貿易商社の仕事で赴任したからだった。
マイクさんと志保さんはヨットでシンガーポールからヨーロッパ航路を滑るように通って、このカリブの小さな島国に帰ってきたのだ。
マイクさんの故郷のこの島に。
2人には子供さんはいなかった。でも子供は大好きだったみたいで、ホームパーティーで小さな子達が来ると、抱っこしたりしてるのを見るとそう感じた。
日本の巨大商社の駐在員の旦那さんや奥さんらとも知り合いが出来た。
とにかく志保さんの雰囲気でたくさんの人達が集まるのだった。僕もその一人だった。
「マイクさん、空を飛んでるときに
UFOに遭遇したことはあります〜?」
マイクさんは「僕の目を見てごらん」と言って僕がそうすると、「どう思う?」と僕の目を見返すのだった。
「なんとも言えないね」と嘯くのだった、マイクさんは。
「はい、か、いいえ、で教えてよー」
マイクさんはニコニコ笑ってるだけだった。
僕はそんなマイクさんも大好きだった。
クレームの入った取引先から直帰する旨を会社に連絡し、俺はバスに乗った。空席に腰を下ろすとぼんやり車窓を眺めていた。
「あ!」
彼女が歩道を歩いているのに気づき、俺は思わず降車ボタンを子供のように3連打してしまった。
次の停留所でバスの運転手に「スンマセンでした」と頭を下げてバス飛び降りると、俺は走った。
「せ、先輩!じゃなくてキョウコさん!」
彼女は振り返り、俺だとわかると驚いた様子で
「どうしたのこんな所で?!」と言った。
「いや、バスから見えたから。」俺が汗だくで息もたえだえ言うと、彼女は「明日も会社で会えるのに、そんな息が切れるほど走らなくても。」といって笑顔とハンカチをさし出した。
何故か下の方からの視線を感じてそちらを見ると、彼女の上着をツンツン引っ張る男の子がいる。
「ママ、このおじちゃん誰?」
「!!」
そうだった。彼女はシングルマザーだ。
俺が好きになって、よくよく考えたあと、交際を申しこむところまではいった。少し前から彼女を下の名で呼ばせてもらえるくらいの間にはなっていた。でもつきあうところまではいっていない。返事は急がないと言ってある。
まして子供に会う会わないは付き合ってからと思っていた。
それが、たった今ここで会うことになろうとは。
あまりの動揺に、走った時よりも汗の止まらぬ俺だった。
お題「窓越しに見えるのは」
窓越しに見えるのは雨雨粒傘雨雨
題目「窓越しに見えるのは」
「ごめんなさい…」
花をモチーフにしたデザインのバッグを手にして、彼女は振り返ることなく店を出て行った。
残されたのは口のつけられていない珈琲に、1枚の1000円札、そして婚約指輪。
1年前、彼女と一緒に選んだ指輪は、店の照明を浴び変わらずにキラキラと輝いていた。
どうしてこんな事になったのか、俺にはわからない。
けれど、彼女の選択を批難するほど愚かでもない。
自分の珈琲を飲み干して静かに席を立つ、彼女が残していった1000円札と指輪を持って。
出逢いは、駅構内の階段だった。
大きなキャリーケースを持って彼女は階段を上ろうとしていた。
生憎この駅はエスカレーターが無い。
そして唯一のエレベーターには点検中の看板が掲げられていた。
キャリーケースはずいぶんと重いようで、1段分を持ち上げるのにも苦労している様子。
電車から降りた人の群れは既になく、階段には彼女独り。
そして上司への連絡のため群れから逸れた男が1人、その階段を上ろうとしていた。
「手伝いますよ」
そう言って、彼女の手からキャリーケースを奪った。
彼女は一瞬ぽかんとして、直ぐ様我に返った。
「あ、あの、けっ…」
「一日一善」
「はい?」
「亡くなった祖母の遺言なんです。いやぁ、東京はなかなか人との距離が遠くて、いつもごみ拾いになってしまうんですが、今日は運が良かった。あなたのお役にたてます」
祖母の遺言なんてまるっきり嘘で、父方の祖母はピンピンして畑仕事をしているし、母方の祖母は俺が産まれる前に亡くなっている。
因みに母親は、俺を産んで亡くなっている。
もともと体の弱い人だったらしいけど、享年28歳で、今の俺と同じ年齢だった。
そんな俺を父親は男手ひとつで育ててくれた。
祖父母に預けることも出来たはずだが、そうしなかったのは母親との約束とか何とか。
「え、でも…」
彼女の逡巡が手に取るようにわかった。
なぜなら手がキャリーケースをつかもうと伸びたり、引っ込んだりしていたから。
その間に俺はキャリーケースを持って階段を上った。
正直に言おう、無茶苦茶重かった。次の日腕が筋肉痛になったほどだった。
だがそこは男の矜持、平気なフリをしてキャリーケースを運んだ。
後で聞いたら中身は仕事のサンプル品で、30キロ近い重さだったらしい。
その後何度か同じ駅で見かけて挨拶をするようになり、お茶をするようになり、食事をするようになった。
彼女と話すのは楽しかった。お互い全く関係の無い職種だったこともあって色々と新鮮だった。趣味も違ったが、互いの趣味を尊敬し干渉しすぎることのない関係は快適だった。
付き合いだして1年と少し、お互いいい年齢でもあったから自然と結婚の話になった。
互いの親に挨拶をして、婚約指輪を買った。何がいいのかなんて全然分からなかったけど、ネットで好きなデザインがある店を探し、休日に二人で訪れて実物を確認し検討することひと月半。やっとふたりが気に入る指輪が見つかった。
その半年後、一緒に暮らすことを提案した。
返事はもちろんOKで、お互いの職場に通うのに便利であることと、彼女の実家にも行きやすい駅周辺で探し始めた。
指輪の時と同様に、ネットで探して休日に物件を見に行く。
別段期限があった訳では無いので、妥協せず、ふたりが気に入った物件にしようと話していた。
その日も物件を見に行く予定を立てていて、彼女は前日から部屋に泊まっていた。
朝起きて少し遅い朝食をとっていると、彼女の電話が鳴った。
相手は彼女の年の離れた妹で、父親が倒れたとの連絡だった。
急いで彼女と病院に向かう。道すがら不動産屋に内見のキャンセル連絡を入れた。
タクシーの後部座席、隣で青い顔をして無言で座る彼女の手をそっと握った。
震える彼女の手と、握った手のひらに当たった婚約指輪の硬く冷たい感触を今でも覚えている。
病院の無機質な廊下に置かれた椅子に座って、泣きじゃくる彼女の妹と、放心状態の母親。
その2人に駆け寄った彼女もまた、涙を流し始めた。
彼女はずいぶんと後悔していた。
あの日俺の家に泊まっていなければ、父親を助けることができたんじゃないか。
例えそれが無理だったとしても、最後の言葉くらいは交わせたのではないか、と。
様々な手続きや、各方面への連絡や挨拶など、必要なことは多く時間が許す限り協力した。
それも、ひと月もすると落ち着き始める。
すると今度は徐々に実感が増してくる。
一人の人間を失った、という実感が。
それをきちんと受け止め、日常に戻るのは妹さんがいちばん早かった。
中学2年ということもあり、学校の勉強、部活、来年の受験と将来に向け立ち止まることはできない時期なのもあるのだろう。
反対になかなか日常に戻れないのは母親だった。
パートナーを突然失った悲しみに、心が壊れかけていた。
彼女はそんな母親と妹の世話、そして仕事と忙しくして悲しみから逃げているようでもあった。
彼女の状況はわかっていた。だから、暫くは会うことはせず、LINEで連絡を取るだけにしていた。
勿論、力になれることがあればいつでも声をかけて欲しい、とは言ったが、彼女が連絡をくれることはなかったし、自分自身も仕事が忙しく休日も出勤という日が続いていた。
そんなある日、上司に呼び出された。
海外拠点での現場の立ち上げをやらないか、と。
最低でも5年、下手をすれば10年は向こうでの仕事となる。
自分の力を試すのと、勉強のために、と。
断る理由はなかった。
もともと海外に興味があったし、働きたいとも思っていた。
父親も5年前からアメリカに赴任しているし、何も問題ない。
あとは……。
「どうでした?」
「うーん、まぁ、こんなもんかなって。とりあえず決めてきたよ。」
目の前に置かれたグラスには冷たい珈琲が注がれている。
「とりあえずって、暫くはこっちで暮らすんですよね?」
「一応そうは言われてるけど、またいつ飛ばされるか。それにしても、相変わらず日本の部屋は狭いね」
「1人なら十分な広さですって。俺なんてあの半分の所に3人暮らしですよ。今度4人になりますが」
「そろそろ予定日か。元気に産まれてくることを祈ってるよ」
「ありがとうございます」
ストローをさして、意味もなくカラリとひと回し。
何だかんだで結局8年の赴任期間を忙しく1人で過ごし、東京に戻ってきたのがつい昨日のこと。
かつての部下に頼んでおいた物件を内見して、契約したのが1時間前。
休日なのにこんなおじさんに付き合ってくれる、貴重な人間だ。
「あ、荷物は頼まれた通りトランクルームに預けてあります。これが鍵と契約書です」
「悪いな、助かる」
「荷物ってあれだけですか?」
「あぁ。家具家電はあっちの社員にあげてきたし、服は向こうのやつは東京では着られないからな」
「それにしても少なすぎる気がしますけど」
「そうか?」
コクリと一口、喉を潤す。
まだ夏本番前だと言うのに、今日の東京は嫌になるくらい暑い。
そんな中、通りを歩く親子。左右を両親が、真ん中に子供がいて両手を繋いでいる。五、六歳くらいだろうか。随分と楽しそうだ。
あぁ、本当に楽しそうで、幸せそうだ。
「あの親子がどうかしましたか?」
「いや。幸せみたいで良かったなって思っただけだ」
カフェの通りに面した席。
ガラスの向こうを通り過ぎた彼女の姿は、あの頃より少し丸みを帯びていたけれど、どこの誰よりも幸せそうに微笑んでいた。
それを引き出したのが自分ではないことに若干の寂しさを感じるが、自分たちの選択は間違いではなかったのだとあの笑顔が教えてくれた。
「知り合いですか?」
「ん、そんなところだ。さて、これを飲んだら服を買いにいかないとな。案内してくれるんだろう?」
「勿論です!」
妻と色々と調べたのだと、スマホの画面をスクロールしながら説明し始めた元部下を他所に、俺は姿が見えなくなった彼女の影を追う。
赴任先でも出会った女性と彼女を比べてしまい、どうしても付き合う気にはなれなかった。
どうやらこの気持ちに蹴りをつけるには、もう少し時間が必要なようだ。
「あなたは何処まで乗られるのですかな」
相向かいに座る老紳士に声をかけられた。
「行ける所まで乗っていようかと」
「いいですな。この鉄道は眺めも良い」
「全てが還る場所ですし」
夜空に広がる星雲を静かに列車は進んでいく。
#窓越しに見えるのは
『窓越しに見えるのは』
スマートフォンから顔を上げて窓の外を見るとさっきまで晴れていた空には灰色の雲が立ち込めており、降り出した雨と干しっぱなしの洗濯物が視界に映った。慌ててサンダルをつっかけ、ハンガーをまとめて抱えて家の中へと戻る頃にはごうごうと音が鳴るほどの豪雨が窓を叩いていた。やっちまった感に駆られていたけれどちょっぴり湿り気を帯びる程度で済んだのはまだ良かったほうだと内心胸を撫で下ろす。
天気予報アプリの雨雲レーダーが赤みがかっているのを見ながら雲を覗き込むのと、稲光が走ったのはほとんど同時だった。遅れることわずか数秒の轟音は地響きすら巻き起こす。洗濯物の次は家じゅうのコンセントからプラグを抜きに走ることとなった。
窓越しにみえるのは
日はてっぺんまで登り、足を動かすのも億劫なほどの熱気が地面から立ち込める。
こんな日に限って外回りの仕事を任される。本当にひどい話だ。
すぐ隣を走っていく車の風すら生暖かくて嫌になる。
右手に手提げかばんを持って、左手の服の裾で顔の汗を拭う。
大通りをひたすらあるいていく。ふと横を見ると知らないビルの窓越しにPC作業をしている人が見えた。
きっと冷房がきいているのだろう。
自分の会社は冷房のききがわるいせいで、あまり涼しさを感じない。羨ましい限りだ。
外回りついでにどこかの店で休憩してやろうか、、そんな考えが頭をよぎる。けれど、結局どこにも寄らずにまっすぐに帰社するのだろう。真面目というような性格ではないが、だからといって仕事中にサボるようなことはできない。
青々とした空を睨んで、ため息を付きながら歩みをすすめる。
仕事が終わったらコンビニでアイスを買おう。そう心の中で決めた。
鏡越しに見えるのは、自分の姿
だけども本当の私とは違う、反対の姿
私はいつもこれを見て、身なりを整えてるけど
本当の私とは違うんだよな、と思う
#窓越しに見えるのは(2024/07/01/Mon)
まっている時間は長いのか短いのか
どちらでもあるし どちらでもない
ごまかしてなんかない
しっているから
にじがもうじき見える事
みんなには見えないけれど 僕には見える
えみを満面に あの子がかけてくる
るり色のワンピースでおめかしして
のぞきこんできた硝子の向こう
はいっておいでよ 早く話したい
「まず1回、その日のお題のハナシ投稿するじゃん」
パリパリパリ。某所在住物書きは己の自室で、ポテチをかじり窓の外を見た。
「バチクソ悩んで投稿すんの。もっと良いネタ書けるんじゃねーのとか、もっと別の切り口とか角度とかあるんじゃねーのとか考えてさ。
長いこと修正して削除して追加して、新規で書き直して。それから投稿すんのに、終わった後で『こっちの方がイイんじゃね?』ってネタがポンと浮かぶの」
俺だけかな。皆一度は経験してんのかな。物書きは首を傾け、ため息を吐く。
窓越しに見えた景色は心なしか、気だるげであった。
「ドチャクソ時間かけて頑張ったハナシより、その後パッと出てスラスラ書いたハナシの方が良く見える現象、なんなんだろな……」
あるいは今年の投稿より去年の同じお題で書いた文章の方がよく見えるとか、何とか、かんとか。
――――――
「先輩どうしたの。指なんか組んで」
「『狐の窓』だ」
「どゆこと」
「私のような捻くれ者に、懲りもせず引っ付いてくる。そんなお前の本性が、これで見えやしないかと」
今日で、1年が折り返しらしい。
昨日に引き続き、雪国の田舎出身っていう職場の先輩のとこに、ちょっと時間を潰しに行った。
先輩は「東京の寒さ」には眉ひとつ動かさないくらい寒さに強いけど、代わりに「東京の暑さ」にはともかく、バチクソ、雪だるまか雪女みたいに弱い。
体温超えの最高気温の日とか、そこそこ過ごしやすい気温だった前日から一気に暑さがトンと跳ねる日なんかは、在宅でリモートワーク籠城してる。
何度も言うけど、先輩は、暑さに弱いのだ。
先輩の部屋は去年まで家具が完全最低限だたけど、「諸事情」のトラブルが解決してから、少しずつ、最低限以外が揃ってきた。
触り心地の良いクッションがある。寝っ転がってスマホいじるのに丁度良いソファーもある。
去年より更に増えた堅っ苦しい本と本棚と、長い間先輩を見守り続けてきたひとつだけの底面給水鉢と、
相変わらず、低糖質低塩分スイーツとお茶がある。
仕事の手伝いをすれば、あるいは材料費とか手間賃とか食材とか渡せば、先輩はスイーツとお茶を、たまにお昼ごはんや晩ごはんも、分けてくれる。
なにより防音防振の部屋だから、とっても静かだ。
「窓なら、私に向けないと見えなくない?」
「そうだな」
「見ないの?」
「見なくたってお前がアイスティーに琥珀糖4個入れたのは分かる」
「低糖質万歳」
「適量にしておけ」
今回、先輩の資料作成サポートのお礼に貰ったのは、小麦ブランのチョコクッキーと、オーツブランのアーモンドクッキー。それから台湾茶の茶葉で作ったアイスのモロッカン風ミントティー。
砂糖を入れて飲むって聞いたから、朝焼け色と茜色のステビア入り琥珀糖を氷入りの台湾茶に落として、カラカラ、ストローでかき混ぜた。
「……やはり分からない」
その間に、ぽつり、先輩が呟いた。
「私より優しいやつも、面白いやつも、楽しいやつも。いくらだって居るだろうに」
言ってる言葉のわりに、別に苦しそうでも悲しそうでもないし、ただ表情は平坦で、穏やかで、普通。
独り言以上の意味は無さそうだった。
「それは先輩の解釈でしょ?」
先輩は相変わらず、指と指を組んで、人さし指と中指の隙間から、私でも自分でもなく、どこかを見てる。
「私は先輩のこと、一番お人好しで真面目で、誠実だと思ってるし。引っ付いてて落ち着くけど」
ちょっとイタズラして、先輩の手首をとって指の隙間を――狐の窓とかいうのを私に向けると、つられて、先輩の顔がこっちに向いた。
「どう?見えた?先輩の言ってる『本性』とやら?」
狐の窓越しに見えた先輩は、キョトンとしてて、もしくは大型犬が驚いて思考停止してるみたいで、
ちょっと、かわいかった。
・窓越しに見えるのは
窓越しに見えるのは
綺麗な夕日
よく遊んだ公園
私の通ってる学校
お気に入りのカフェ
あそこを歩いているのは
私の好きな人
疲れが出てしまったのかな
なんか熱ぽっくだるい……。
でも今日も片付けして買い物
そして今日こそはご飯作らないと
少しでもゆっくりして欲しい君のために
私がもっと頑張れたらな……。
ごめんね。
窓越しに見えるのは
夏になると花火大会が開催されるが
ここ数年は密集するイベントは催されず
昨年ようやくいろいろ動き出せて
夏には以前のときのように花火もあがった
久しぶりに窓越しに見えてウルっときた
待ちに待った花火が見れてとても感動した
窓越しに見えるのは窓。その窓越しに見えるのも窓。無限にも思えるほど乱立する窓が増殖し続ける。
ウイルス対策のソフトウェアの警告をガン無視したせいだ。アダルトサイトの古典的な地雷を見事にクリック一発で踏み抜いた結果、目の前で永遠の窓が製造されていく。
令和の世にこんなものに引っかかるやつがまさか自分だとは。充電の切れたスマホ代わりにと久々に引っ張り出したノートパソコンが熱と音を発し続けている。
幸い、事件の現場は一階のリビングで起きており家族たちは二階の各々の部屋でもうかなり前から寝ている。かなりの音はなっているが二階までには届かないほどの音量だ。猶予は明日の朝まで。それまでに何とかしてこの暴走を抑え込まなければならない。
しかし今日は日曜の部活があった日でそれに夜更かしが重なり疲れ切っている。辛うじて性欲によって意識を保っていたがそれが叶わないとなると急激に疲労感が増してきた。非常に眠い。このままリビングで寝てしまいそうだ。
それでもこれだけは何とかしなければ…熱と音を何とか…パソコンを持ちながら意識がどんどん遠くなっていく…
次に気が付くと家族が活動し始めて今がもう朝だと悟った。当然、リビングで寝るなんてと母親に叱られる。しかしそれだけでパソコンについての言及はされなかった。力尽きたせいで昨日の記憶は断片的にしかないがあの後の自分が何とかしてくれていたらしい。
完全犯罪で大勝利。母親に謝りながら内心ほっとしていた。パソコンをどこにやったか知らないが昨日の自分を英雄と呼ぼう。記憶が飛ぶほどのヘトヘトの中あんなに荒ぶる熱と音を片付けてしまうなんて。もしかしたら自分は潜在的には天才なのかもしれない。
母親が朝食を作る為に冷蔵庫を開けるその時まではそう思っていた。今はどんな言い訳にするか考えているところだ。
窓越しに見えるのは
電車を辿って旅に出る。
ふと、窓ガラスを通って見える未来があった。
妄想、空想、夢の続きと人は言うだろう。
でも、ああ、そうか。
君の隣に並ぶことが怖い時だって、君はずっと隣にいてくれた。
私はその未来を信じたかったんだ。
窓越しに見えるのは、
変わらない町並みと、移り変わる空。
僕はこの町のように変わらずにいられるのかな。
それとも、あの空のように変わらずにはいられないのかな。
どちらにせよ、時は待ってはくれないのだから、
この窓から見える景色のように、
変わるもの、変わらないもののすべてを、
愛していきたいと、そう思った。
「窓越しに見えるのは」
深夜0時。頑張れば終電で向かえる時間。
でも君は、いつも迎えに来てくれたね。
俺が早く会いたかったんだって。
夜道を一人で歩かせたくないって思ってくれて、
ありがとう。
その心配が、大事にされてるって実感だったよ。
今日からは、おかえりって言えるね。
創作「窓越しに見えるのは」
「良くないものは大抵、窓から入ってくる。だけど決して塞いではならない。出て行かなくなるから」
昔、おじいちゃんが話してくれた。窓はお化けが通る道だから、塞いでしまうと家の中がお化けだらけになること。お化けだらけになった家は家具が腐れ、柱が腐れ、心身が弱り、不幸になること。
幼い時は純粋に信じていたが、思春期を迎えた頃の僕には、バカらしく聞こえていた。何がお化けだ。子どもだましも甚だしい。そう、思っていた。
ただ、用事があり、しばらく家を空けることがあった。久しぶりに家へ帰ると、埃っぽく生ぬるい空気が僕を出迎えた。空気を入れ替えるために、家中の窓を開ける。風呂場に入った時、気づいた。
カビが生えている。規模は小さいが確かに根を張っている。僕は問答無用でカビ取り剤を吹きかけた。
家具が腐れ、柱が腐れ、心身が弱る。僕はそういうことかと思った。
ありし日の おじいちゃんが言っていた「お化け」は、「湿気」のことだった。開け放った窓から乾いた心地良い風が吹き込んでくる。埃っぽい空気が一気に外へ出て行く。さようなら、「お化け」。
窓越しに見えるのは真っ白な雲。その向こうには透き通った青空が広がっている。換気の重要さを教えてくれたおじいちゃん、ありがとう。
(終)