窓越しに見えるのは窓。その窓越しに見えるのも窓。無限にも思えるほど乱立する窓が増殖し続ける。
ウイルス対策のソフトウェアの警告をガン無視したせいだ。アダルトサイトの古典的な地雷を見事にクリック一発で踏み抜いた結果、目の前で永遠の窓が製造されていく。
令和の世にこんなものに引っかかるやつがまさか自分だとは。充電の切れたスマホ代わりにと久々に引っ張り出したノートパソコンが熱と音を発し続けている。
幸い、事件の現場は一階のリビングで起きており家族たちは二階の各々の部屋でもうかなり前から寝ている。かなりの音はなっているが二階までには届かないほどの音量だ。猶予は明日の朝まで。それまでに何とかしてこの暴走を抑え込まなければならない。
しかし今日は日曜の部活があった日でそれに夜更かしが重なり疲れ切っている。辛うじて性欲によって意識を保っていたがそれが叶わないとなると急激に疲労感が増してきた。非常に眠い。このままリビングで寝てしまいそうだ。
それでもこれだけは何とかしなければ…熱と音を何とか…パソコンを持ちながら意識がどんどん遠くなっていく…
次に気が付くと家族が活動し始めて今がもう朝だと悟った。当然、リビングで寝るなんてと母親に叱られる。しかしそれだけでパソコンについての言及はされなかった。力尽きたせいで昨日の記憶は断片的にしかないがあの後の自分が何とかしてくれていたらしい。
完全犯罪で大勝利。母親に謝りながら内心ほっとしていた。パソコンをどこにやったか知らないが昨日の自分を英雄と呼ぼう。記憶が飛ぶほどのヘトヘトの中あんなに荒ぶる熱と音を片付けてしまうなんて。もしかしたら自分は潜在的には天才なのかもしれない。
母親が朝食を作る為に冷蔵庫を開けるその時まではそう思っていた。今はどんな言い訳にするか考えているところだ。
7/2/2024, 2:27:51 AM