創作「窓越しに見えるのは」
「良くないものは大抵、窓から入ってくる。だけど決して塞いではならない。出て行かなくなるから」
昔、おじいちゃんが話してくれた。窓はお化けが通る道だから、塞いでしまうと家の中がお化けだらけになること。お化けだらけになった家は家具が腐れ、柱が腐れ、心身が弱り、不幸になること。
幼い時は純粋に信じていたが、思春期を迎えた頃の僕には、バカらしく聞こえていた。何がお化けだ。子どもだましも甚だしい。そう、思っていた。
ただ、用事があり、しばらく家を空けることがあった。久しぶりに家へ帰ると、埃っぽく生ぬるい空気が僕を出迎えた。空気を入れ替えるために、家中の窓を開ける。風呂場に入った時、気づいた。
カビが生えている。規模は小さいが確かに根を張っている。僕は問答無用でカビ取り剤を吹きかけた。
家具が腐れ、柱が腐れ、心身が弱る。僕はそういうことかと思った。
ありし日の おじいちゃんが言っていた「お化け」は、「湿気」のことだった。開け放った窓から乾いた心地良い風が吹き込んでくる。埃っぽい空気が一気に外へ出て行く。さようなら、「お化け」。
窓越しに見えるのは真っ白な雲。その向こうには透き通った青空が広がっている。換気の重要さを教えてくれたおじいちゃん、ありがとう。
(終)
7/2/2024, 1:41:50 AM