「命が燃え尽きるまで」
明るく激しく燃え上がることもなく
ずっとくすぶったままでいいかもしれない。
ふとした時の赤々としたきらめき。
そのぬくもりを感じることができたら
それだけで十分だ。
「喪失感」
ある日、ある時、突然に心が凍る。
大きく分厚く濁った氷の中には
絶対零度の感情が詰まっている。
氷が全て澄んだ涙になるまで
長い長い時間がかかるだろう。
その時間は空白のような感じがする。
だけど、少しずつ氷が溶けて
まわりが見えるようになったら
涙を悲しみを昇華してしまおう。
「私の日記帳」
日記に憧れて買ったはいいが書くことがない。
○月○日 今日は日記帳を買った。うれしい。
○月△日 今日も日記を書いた。明日も書く。
○日□日
今日まで日記を書けた。
なんだか面倒になってきた。
○月○○日 もう日記をやめることにする。
私の日記帳はこんな調子である。
だから、買うだけ無駄なのだ。
「向かい合わせ」
正面から人に見られると
試されているような気がする。
体が石のようになって
言葉が喉にひっかかる。
言いたいことはいっぱいあるのに、やるせないな。
創作「海へ」
お盆の昼下がり。海へ散歩に向かうと海月が沢山、海面を漂っていた。海月は幻想的な生き物である。 だからつい、想像したくなってしまうのだ。
静かな夜の海で生を受けた海月は、穏やかな波をゆりかごに、蝶よ花よと育まれる。そして、うつろいゆく空模様に翻弄されることもなく、広く厳しい海原をのらりくらりと揺蕩う。
それから、真っ白な砂浜に打ち上げられて、 裏返しになった体を波に洗われながら、ここまで生きられた誇らしさをそっと噛みしめる。最期には、さよならを言う前に影も形もなく消えゆく。
時にはつまらないことでも真剣に考えるのも悪くない。ゆったりと漂う海月たちを眺めていると、そう思えた。それが、ありがたいと思ったのだった。
明日、もし晴れたらまた海に来よう。わずかに秋の空気を含んだ潮風をあとにして、のんびりと帰路に就いた。
(終)