谷折ジュゴン

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創作「渡り鳥」

とある日の朝、校舎の軒先で素早く飛ぶ小鳥が、ひっきりなしに出入りしていた。

青みがかった黒い背と白い羽毛に覆われた腹、そして、赤いスカーフのような首の模様が特徴的なあの鳥は、ツバメである。

もうそんな時期かと、私は軒を見上げた。思った通り、すでに巣ができあがっていた。そして、なんと雛までいるではないか。

五羽の雛たちは親鳥が巣へ近づく度に、黄色いくちばしを目一杯開けて、必死に餌をねだって鳴いていた。

あの雛たちも大人になれば、南の国や暖かい地域へ渡っていくのだろう。そして、再びこの巣へと帰って来るはずだ。

何度も繰り返されてきた、小さくて壮大な命の営みが、この軒先でも起こっている。その事実に私の心がわずかに震えた。

そして、どうか健やかに生きてくれと胸の内で呟いて、私は校舎へと入った。

おわり

5/29/2025, 11:38:06 AM