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ぼくの美しい女だから。

また、その日の午後から志保さんにスペイン語を教わっていた。
フードコートは混んでいなかった。
「志保さん、ケーキが何か食べないですか?」
「うーん、そうね」志保さんは少し考えるふうで笑顔だった。
「吐夢くんは、何にするの?」
「僕は志保さんと同じでいいです、ニッ」
「ふーん、どれにしようかしら」志保さんはメニューを見ながらチョコレートにマロンの乗ったケーキにした。
「吐夢くんは別のを選んで、半分コしましょう」
「はい、それええですね」
「吐夢くん、私はこれが好きですってスペイン語で言えるかな?」
「Te amor mucho?」
この場合はme gusta を使うのよ」
ぼくが言ったのは、あなたを愛しています。と言う意味になるので、とっても恥ずかしかった。結局、僕は定番のイチゴケーキを注文した。
 志保さんは元CAで、旦那さんのマイクさんはパイロットで、ご夫婦で僕を弟のようにあれこれ可愛がってくれた。
 僕がカリブ海のこの小さな島にきたのは、零細貿易商社の仕事で赴任したからだった。
 マイクさんと志保さんはヨットでシンガーポールからヨーロッパ航路を滑るように通って、このカリブの小さな島国に帰ってきたのだ。
マイクさんの故郷のこの島に。
 2人には子供さんはいなかった。でも子供は大好きだったみたいで、ホームパーティーで小さな子達が来ると、抱っこしたりしてるのを見るとそう感じた。
 日本の巨大商社の駐在員の旦那さんや奥さんらとも知り合いが出来た。
 とにかく志保さんの雰囲気でたくさんの人達が集まるのだった。僕もその一人だった。
 「マイクさん、空を飛んでるときに
UFOに遭遇したことはあります〜?」
マイクさんは「僕の目を見てごらん」と言って僕がそうすると、「どう思う?」と僕の目を見返すのだった。
「なんとも言えないね」と嘯くのだった、マイクさんは。
 「はい、か、いいえ、で教えてよー」
マイクさんはニコニコ笑ってるだけだった。
 僕はそんなマイクさんも大好きだった。




7/2/2024, 4:03:49 AM