白糸馨月

Open App

お題『窓越しに見えるのは』

 気味が悪い。席替えで窓際の席になった時からずっと気になっている。窓の外にうっすら顔が浮かび上がってて、常にそいつからの視線を感じるのだ。
 学校の中では、いっさい噂になっていない。一度、友達に「窓の外になにかいない?」と聞いたら、「なにも見えないよ」と言われたから誰にも話ができなくなってしまった。
 ある時、私が忘れ物を取りに教室へ戻ると窓の外にある顔と目があった。
 私は忘れ物の折りたたみ傘を取りに行ったあと、外に浮かび上がってる顔と目が合う。

「貴方、誰なの?」

 声をかけると、外の顔が一瞬目を丸くさせた。そのあと、向こう側から窓に息を吹きかけてきて

『私はここのクラスの生徒だった。なかにいれて』

 とどうやって書いたのか分からないが文字が浮かび上がってきた。

「なんで?」

 私が聞くと、また向こう側の顔が息を吹きかけて

『やりたいことがある』

 と文字を浮かび上がらせた。とくに断る理由はない。窓を開けた瞬間、強い風が吹いて制服のスカートやカーテンを揺らした。
 しばらくして、風がやんだので窓を閉めるともう顔がなくなっていた。

(なにがしたかったんだろう。ま、いいか。外に誰もいなくなったみたいだし)

 最近のちいさな悩みが解消されて、私は意外と感慨深くもなく教室を出た。

7/2/2024, 4:06:19 AM