『窓越しに見えるのは』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
〈お題:窓越しに見えるのは〉評価:良作
「37.9度…夏風邪ね」
お母さんの心配そうな目を見て少し心が痛む。
「安静にしているのよ」
俺は今日、お母さんに仮病を訴えたのである。
ごほっごほっ。
鍛えに鍛えた仮病の為の咳払いは、見事お母さんを欺いた。我ながら素晴らしい出来だ。
「お母さん、もう出掛けるからね、お腹空いたらゼリーとおじやがあるから遠慮せずに食べるのよ。学校には連絡しておくから」
俺は勝利のファンファーレを聞いて、心が満たされていく。
遠くの方からお母さんが電話をしてるのが聞こえる。ここまで来ると、どんでん返しはない。散々、仮病で稼いだ風邪薬が家にあるので、病院に行くという選択肢は自然と消えていた。
「それじゃ、何かあったら連絡するのよ」
「うん…」
元気じゃないふりを徹底する。
玄関が閉まるその瞬間まで、床に伏せる。
ガシャンと、扉が閉まる。勝利の美酒に酔いしれる為にゼリーを求めてキッチンに赴いた。
「うまい!」
早々にゼリーを平らげた俺の身体が二度寝を求めている。その証拠に目蓋が重い。
俺は、この後大事なゲームのレベリングがあるのだ。寝ている暇はないと、体に鞭打って自室へ戻る。
「…でもちょっとくらいなら寝てもいいよね。二度寝は仮病の特権だし…」
俺は窓越しに見える夕焼けを見て、全てを悟った。
窓越しに見えるのは父と兄の乗った船
吹きつける風が潮の滲みた木の窓枠を揺らす
祖父が死んでから1年と7ヶ月
2人とも少しだけ無理をするようになった
エプロンを着て味噌汁の支度を始める
私は2人に強く言えない だってわかるから
帰りたくなる温かさを拵えるだけ 私の精一杯
窓越しに見えるのは
届きそうで決して届かないこちらに
手を伸ばすあの子の手
…泣かないことに精一杯で何も返せなくてごめんね
窓越に見えるのは
窓の向こうの空には、どんよりとした雨雲が拡がり、木々は大きく揺れて、窓には、大粒の雨粒が叩き付けてくる…庭には、所々水溜りが出来て、波紋と風で水飛沫がたっている…
月替りの朔、まだ暫くは続きそうな梅雨…降り続く雨に、うんざりし乍ら、いつ果てるとも知れない雨模様を、ただ黙って見つめるだけ…
『理想の空』 テーマ:窓越しに見えるのは
梅雨が嫌いだった。
低気圧とか、足元がぐずつくとか、そういう理由もある。けど何より嫌いなのは、あの暗い暗いねずみ色の空だった。ほこりのような厚い雲を見ているだけで、具合が悪くなった。
今日もまた、梅雨前線の真っ盛り。私は起き上がる気力もなく、ベッドでスマホをいじっていた。
ふと、その手が止まった。偶然開いていたフリマアプリで、偶然開いたページで、私は運命の出会いを果たしたのだ。
『雨空が嫌いなあなたへ! いつでも晴れ空を見せてくれる不思議な窓はいかがでしょう。お使いの窓枠にはめ込むだけ、工事は一切要りません』
私は迷わず購入ボタンを押した。
数日後のよく晴れた日、巨大な段ボールで窓は届いた。業者の手を借りて、えっちらおっちら部屋へ運ぶ。それから、ふうふう言いながら梱包を解く。
ごく普通の、というのも変だけど、実際本当に普通の窓に見えた。キャンバスのような大きさの窓枠に嵌められたガラスは、光が当たるとオーロラのように輝いていた。
透かして見た景色は、現実と変わりがない。半信半疑で部屋の窓にはめ込み、次の雨を待つことにした。夜の空も、いつもと同じように見えたので、私はいよいよ不安になり始めていた。
二日後、窓の向こうから雨音が聞こえた。けれど、それにしては部屋が明るい。私は跳ね起き、カーテンを開けた。
窓の外は、晴れ空が広がっていた。あの愛しい薄青の空が、優しく光を放つ太陽が、窓越しに見えている。なのに、雨音は絶えず聞こえている。窓を開けると、外は薄暗い雨空だった。
すごい掘り出し物を見つけた。私は部屋着で小躍りした。
それから何日も雨が続いたが、私の心は晴れやかだった。
どんなに外が土砂降りでも、部屋からはいつでも晴れ空が見えるのだから。私は極力外出を避け、部屋にこもって過ごした。
さらに数日経ったある日、気が付くと雨音が止んでいた。
やっと梅雨が終わったのだろうか。窓を開けた私は、目の前の景色に目を奪われた。
大きな虹が、消えかけながらも空に架かっていた。虹なんて久しぶりだったので、思わず見入ってしまう。
ふと思い立って、窓を一度閉じてみた。窓越しに、穏やかな晴れ空が見える。でも、そこに虹は見えない。
もう一度窓を開けた。しかし、虹はすっかり消えていた。もともと薄れていたのだから、いつ消えてもおかしくはなかった。
もっと早く窓を開けていたら、もっと虹を見られたかもしれない。
そう考えたら、ため息がこぼれた。
2024.7.1
窓を開けようとした時、一瞬だけ小さく白い光が見えた。
窓を開けた瞬間、私の左肩は紅く染まった。
ゆっくりと血飛沫が空中に舞い、遅れて強烈な痛みが走る。
私は、衝撃で後ろに倒れる最中であった。
噫々、此処が私の最期の場所か。
悪くない、むしろ良いくらいだ。
生家で死ねるなんて、夢にも思わなかった。
まだ、実感が湧かない。
幾度も死際を潜り抜けてきたから…だろうか。
いつもなら、逃げ切れると確信する。
しかし、今回は違う確信が頭を過ぎる。
『死』の文字が、何度も頭を過ぎる。
熱かった左肩は、徐々に冷たく、左腕の感覚は無に等しい。
ガチャ…、玄関のドアが開いた音が聞こえる。
トン…、トン…、トン…。倒れている私に、足音が近づいて来る。
カチャ…。ピストルのロックを外す音が、左から聞こえた。
「さらば、哀れな者よ。」男、否、青年の冷たい声が聞こえた。
まだ若いのに、その腕前か。
なんと、世界は不平等なのだろう。
バン…。ピストルを発砲した音を最期に、私の意識は事切れた。
・4『窓越しに見えるのは』
「赤い糸ですか……私も運命の赤い糸で結ばれた人と早く出会いたいものです。それじゃあ私はこれで」
私は男にそう告げ玄関に向かった。
わざわざ見送ってくれる男が言う
「奪い、与えるのが私の仕事だからね。貴方はまだ若い。奪うことも与える事も不慣れでしょう。しかし経験を積めば少しくらいのワガママもなんとかなるものです」
「そら、外をご覧なさい」
廊下の窓から外を見ると、随分とアヤシイ雲行きになっていた。さっきまであんなに明るかったのに。
その時雷が光った
窓全体が白く光り、家の中が見えなくなるほどだった。
しかし雷鳴はしなかった。
【続く】
通勤するあの人はすぎてゆく街並み。
初めて親になったあの人は生まれてきた小さな生命。
親の帰りを待つあの子供は仕事帰りの親の姿。
授業中に眠くなったあの学生は外で運動する生徒の姿。
希望に満ちたあの人は朝焼け。
今日が嫌になってしまったあの人は星々と月明かり。
恋人と離れるあの人は恋人の乗った車。
一人取り残されたあの人はいつも隣にいた人の眠り顔。
窓越しに見えるのは、その人によって違う。
今の貴方には、何が見えているだろう。
貴方の心は、なんと言っているだろう。
『窓越しに見えるのは』
毎朝、仕事に向かう電車。
その窓越しに見えるのは、君が閉じ込められている場所。
もう何ヶ月になるだろう。
前回会いに行った時には、君もあの場所の窓越しに、僕の乗る電車を見送っていると言っていた。
君の言うことだ。すべてを信じている訳じゃない。
でも、あのいくつも並ぶ窓のどこかに、君の沈んだ顔があるんじゃないかと毎朝探してしまうのも事実だ。
ずっと仲良くやってきた。気の合う奴だった。
だからいつも一緒にいた。あの夜を除いては。
君が僕を誘わずに、一人で法を犯したあの夜。
「お前を誘わなくて良かった」と、アクリル板の向こうで君が言った。
その言葉だけは今も信じている。
僕にとって、君はそーゆー人だから。
正しいも正しくないも、誰がどんな状況で見るかで変わる。
飢え死にしそうな貧しい人達のために、裕福な家から食べ物を盗むのは善か悪か。
手を差し伸べずに見殺しにすることが正しいのか。
死にたいと本気で願う人の首に手をかけることは罪悪か。
それは、当事者である死んでいった人間の意見も含まれているのか。
紙に書かれた法律に反しているからといって、その人間を全否定出来る権利など誰も持っていない。
「倫理」という窓越しに見えるのは、いつだって歪んだ現実だ。
そんなものでは管理しきれない心を誰もが持っている。
それは、世界の終わりに姿を現すのだろうか。
それとも君のように、ある夜突然心を埋め尽くすのだろうか。
電車の窓越しに、小さくサムズアップサインを送る。
あのいくつも並ぶ窓のどこかにいる君ヘ。
世界が君を責めても、僕だけは君の味方でいよう。
月明かりのない夜空に潮騒が響いている。
真っ暗な夜の海岸で山高帽を被った男──思考の海の番人と、白い詰め襟コートを着た女──初代が談話している。
「最近本体の方に面白い動きがあったわよ」
白い詰め襟コートの女──初代は、そう言って妖艶な笑みを浮かべると、懐から白いカードを取り出した。
白いカードはトランプほどのサイズで、中心に「窓」の文字が書かれている。
山高帽の男──思考の海の番人は、カードと初代を交互に見ると、「君の能力はある程度理解しているつもりだったが、それは何をする為のものだ?」そう言いながら首を傾げた。
「これは、文字通り窓よ。色々な世界を見れちゃう優れものなの」
腰に手を当てつつ胸を張る初代は、どうだと言わんばかりに得意げな表情をしている。
一方の思考の海の番人はというと、「ふーん」と言うだけであまり響いていない様子だ。
「百聞は一見に如かず。この窓の字をよーく見ててちょうだいね」
そう言って初代が窓の文字に人差し指を当てると、窓の文字が消え、カードの中に映像が広がった。
「これは今日のお昼、本体が見た映像よ」
ミントグリーンのケースが付いたスマホとそれを操作する本体の手がカードの中に映っている。
スマホの画面には何やら文字が並んでいる。何かしらの文章でも読んでいるのかと、それとなく文字を追うと、主語、述語、修飾語、並立の関係等、遥か遠くに置き去りにしたかつての懐かしい文字たちがそこにはあった。
それらの文字が並ぶページは、随分とカラフルな色合いをしている。欄外には、注意点や発展などのコラム的文章もあり、一見実用書系の本にも見えるが、練習問題の文字を見た瞬間ハッと気がついた。
「これは…国語の、参考書?」
思わず口から漏れた言葉だったが、初代はニヤリと笑うと「当たり♪」と歌うように言った。
「何で今さらこんなものを?」
本体はそれなりにいい歳をした大人だ、今さら学生が見るようなものなど必要ないだろうに。
釈然としないものを感じながら初代に問いかけると、初代はイヒヒといたずらっ子のように笑った。
「お勉強が必要なんですって、彼らの為に」
初代がそう言ってカードを二度三度振ると、カードの映像が変わっていた。
沢山の書類が積まれた机の前で、オフィスチェアーに座る男女が談笑している。お茶を片手に和やかな雰囲気だ。
気心の知れた者同士が出せる空気がそこには広がっている。
楽しげな二人の姿に見入っていると、映像が変わった。
夕暮れの空を背景に男女の学生がフェンスに寄りかかりながら会話をしている。
学生らしからぬどこか冷めた表情がある二人だが、喧嘩をしているわけではないらしく、これが彼らの「普通」なのだろう。
声を張り上げて笑いあうでもなく、淡々と互いが互いの存在を許し合っているような空気がある。しかし、果たしてそれで合っているのだろうか。
掴めそうで掴めない不思議な感覚に混乱していると、カードの中の映像がプツリと消えた。
映像を途絶えさせた白いカードは、「窓」の一字へと姿を変えると、お役御免とばかりに初代の手の中で姿を消した。
「今映ったどの男女も互いの事を憎からず思っているのに、全然恋愛に発展しないのよね」
カードを収納し終えた初代は、不満とばかりに頬を膨らませている。
「この窓からちょっとイタズラして、関係の発展をさせちゃおうかと何度思ったことか」
「そういうことは、彼女が嫌うことだろう」
俺達の絶対君主である彼女は、物語の過干渉を嫌う。登場人物達の意向に任すべしというのが彼女のポリシーだ。
「わかっているわよ、それくらい。まぁ、でも、本体がやる気を出しているみたいだし。それによっては、彼らの物語が進むかもしれないわね」
「俺は、本体の三日坊主っぷりを知っているから、なんとも言えないな」
思考の海の番人の言葉に初代は苦笑を返した。
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窓越しに見えるのは
すれ違う車の中ではみがきをするあの人の泡の行方は
窓越しに見えるのは
『窓越しに見えるのは』
猫と鴉の攻防。
まずね、私は猫を飼ってないの。ちょっと縁あって週末だけ預かることになった猫の話なんだけどね。なかなか大人しくて手もかからない豊かな長毛のムスッとした良い子なの。で、どこ行くのかなって見てたら猫らしく窓辺に座ったの。飼い主のお迎えをそこで待つのね!って私もほっこりして。
窓の外なんて隣家の壁だから狭い空しか見えないんだけど、しばらくしたらバサバサッて音がして。上から鴉が現れて丁度いいでっぱりに足掛けて。で、カァッて一声。そしたら猫がぽーんって弧を描いてバク転した。私もびっくりして。鴉じゃなくて猫に。そのまま風みたいにベッドの下に消えちゃった。
面白いのはそれから次の日も次の日も、猫は窓辺で空を見上げるの。飼い主が迎えに来ても窓辺から離れないって全力で踏ん張るの。鴉が来るのを待ち焦がれて。だけど鴉が来たのは後にも先にもその一度だけってこと。
窓越しに見えるのは
群青色の空とお月さま
がんばったでしょ?
私は今日一日を満足する。
もうしばらく外に出ていない。
ふと外を覗くと、窓越しに君の姿が見えた。君が手を振っている。
「出ておいでよ。いい天気だよ」
突然の君の訪問だった。
君が外から声を掛けてきた。
「でも、外に出ちゃいけないって言われてるから」
そう言うと、君は残念そうに頭を垂れた。
そして再び顔を上げ、澄んだ瞳でまっすぐこちらを見て言う。
「本当にだめなの? 外ってすごく楽しいんだよ。ちょっとでいいから、出てみようよ」
ごめんねと伝えても、なかなか諦めない君。
そんな君に僕の方が根負けした。
「そうだね。出てみないとわからないことが、いっぱいあるよね」
僕はその窓を開けた。
ずっと閉じ籠もっていた、静寂に包まれた部屋から、一歩踏み出す。
出てはいけないと言われていた外の世界が、目の前に広がっている。
どれだけ時が経っていたのだろう。久しぶりに触れる手に、心が躍る。無色だった世界に色がついていく。
「あっちまで行ってみようよ!」
「うん!」
繋いだ手に引かれて、ここではないどこかへ、君と一緒に歩き出す。
少なくとも、今少年達に見えているのは、美しく輝かしい未来だった。
少し進んで、少年は振り返った。目の前には、ずっと自分が暮らしてきた部屋がある。
なんだか一言別れを告げておきたくて、少年は口を開いた。
「ばいばい。またいつかどこかで会いましょう」
『窓越しに見えるのは』
窓越しに見えるのは。
窓越しに見えるのは。
2人で
花火がいいなぁ。
窓越しに見えるのは
梅雨にも負けない
一面の星。
窓越しに見えるのは
綺麗な月。
【窓越しに見えるのは】
校舎の三階の窓辺にすわって勉強していた。
解き終わった後に顔を上げて、ちょっと外を眺める。
夕暮れの空を見て、マロニエの並木を見て、グランドを走り抜ける姿勢の良い君を見る。
あぁ、なんて綺麗なフォーム。
窓越しに見えるのは
高層ビル群と
ねるねるねるね…
この街はもはや、
人のためには作られていない。
魔女が設計した、
ねるねるねるねのための
都市なのだ。
窓越しに見えるのはかつてあなたがくれたくまのぬいぐるみ
私はそれが一番のお気に入り❦
窓越しに見えるのは
大好きなあなたの運動姿
私はあのくしゃっとした笑顔が大好きだった
あーもう好き!!!
窓越しに見えるのは、この世界だ。
遠くで子供達が笑っている。大人は疲れた顔をしながら帰宅している。おじいちゃんは犬を散歩し、おばあちゃんは花に水をあげている。
当たり前のようなこの景色だが、たまにこの景色がとてつもなく美しく、愛おしく思える。
見ず知らずの人たちなのに、なぜか愛着が湧く。
知らない人ばかりだが、全員、僕が愛するこの美しい世界に、なくてはならない人たちだからだ。