ナナシナムメイ

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〈お題:窓越しに見えるのは〉

「37.9度…夏風邪ね」
お母さんの心配そうな目を見て少し心が痛む。
「安静にしているのよ」
俺は今日、お母さんに仮病を訴えたのである。

ごほっごほっ。
鍛えに鍛えた仮病の為の咳払いは、見事お母さんを欺いた。我ながら素晴らしい出来だ。

「お母さん、もう出掛けるからね、お腹空いたらゼリーとおじやがあるから遠慮せずに食べるのよ。学校には連絡しておくから」
俺は勝利のファンファーレを聞いて、心が満たされていく。

遠くの方からお母さんが電話をしてるのが聞こえる。ここまで来ると、どんでん返しはない。散々、仮病で稼いだ風邪薬が家にあるので、病院に行くという選択肢は自然と消えていた。

「それじゃ、何かあったら連絡するのよ」
「うん…」
元気じゃないふりを徹底する。
玄関が閉まるその瞬間まで、床に伏せる。

ガシャンと、扉が閉まる。勝利の美酒に酔いしれる為にゼリーを求めてキッチンに赴いた。
「うまい!」
早々にゼリーを平らげた俺の身体が二度寝を求めている。その証拠に目蓋が重い。
俺は、この後大事なゲームのレベリングがあるのだ。寝ている暇はないと、体に鞭打って自室へ戻る。

「…でもちょっとくらいなら寝てもいいよね。二度寝は仮病の特権だし…」

俺は窓越しに見える夕焼けを見て、全てを悟った。

7/1/2024, 2:29:41 PM