川柳えむ

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 もうしばらく外に出ていない。
 ふと外を覗くと、窓越しに君の姿が見えた。君が手を振っている。

「出ておいでよ。いい天気だよ」

 突然の君の訪問だった。
 君が外から声を掛けてきた。

「でも、外に出ちゃいけないって言われてるから」

 そう言うと、君は残念そうに頭を垂れた。
 そして再び顔を上げ、澄んだ瞳でまっすぐこちらを見て言う。

「本当にだめなの? 外ってすごく楽しいんだよ。ちょっとでいいから、出てみようよ」

 ごめんねと伝えても、なかなか諦めない君。
 そんな君に僕の方が根負けした。

「そうだね。出てみないとわからないことが、いっぱいあるよね」

 僕はその窓を開けた。
 ずっと閉じ籠もっていた、静寂に包まれた部屋から、一歩踏み出す。
 出てはいけないと言われていた外の世界が、目の前に広がっている。
 どれだけ時が経っていたのだろう。久しぶりに触れる手に、心が躍る。無色だった世界に色がついていく。

「あっちまで行ってみようよ!」
「うん!」

 繋いだ手に引かれて、ここではないどこかへ、君と一緒に歩き出す。
 少なくとも、今少年達に見えているのは、美しく輝かしい未来だった。


 少し進んで、少年は振り返った。目の前には、ずっと自分が暮らしてきた部屋がある。
 なんだか一言別れを告げておきたくて、少年は口を開いた。

「ばいばい。またいつかどこかで会いましょう」


『窓越しに見えるのは』

7/1/2024, 2:15:43 PM