学校からの帰り道。
親友と二人、他愛ない話をしながら歩く。
夕暮れの空はオレンジから徐々に紫、藍と色を変えていく。
なんとなく空を見上げていた。転ばないようにゆっくりと歩く。
二人の会話が途切れた。その瞬間だった。
空の端から端を渡るように、流れ星が一筋の長い長い軌跡を残して消えていった。
流れ星が、端から端まで。体感10秒くらいか。
よくある、あの一瞬で消える流れ星とは違い、願い事を余裕で3回唱えられるくらいには長かった。あまりの出来事に、願い事なんて考えてはいられなかったが。
次の瞬間には二人で「わー!」と盛り上がっていた。
「すごい!」「長かったね!」「あんなに長い流れ星初めて見た!」「願い事忘れた!」
この出来事は今もよく覚えている。
親友と、夕暮れの空と、長い長い軌跡と――。
今ではあの日常全てが特別で。
あれからもう長い年月が経って、親友とも数年に一度会うくらいだ。
もし今何か願えるとしたら、1日でいいから、あの日常をまた過ごしてみたい。あの日の私達に会ってみたい。あの日、流れ星に出会えたあの奇跡を、あの高揚した気持ちを、もう一度体験したい。
そんなことは無理だって、本当は知っているけれど。これは夢物語に過ぎないと。
それでもここに辿り着いた軌跡は、親友達と過ごしてきた日々は、しっかりと私の中に刻まれている。
『軌跡』
あー! あのニンゲン、本当に嫌い!
誰が触っていいって言ったのよ! それに、寝てる時に触ってくんじゃないわよ!
オカーサン? オカーサンはいいの! いつもご飯くれるし!
たまにしか来ないくせに、我が物顔で家の中を歩いてんじゃないわよ!
おもちゃ出されたって知らないわよ、ヘタクソ!
だ・か・ら、触ってくんじゃないわよ! やめてってば!
……お腹空いたわね。
丁度いいところにいるじゃない。
ご飯ちょうだい♡
あら、おいしいカツオブシまで乗ってるじゃない。気が利くわね。
しょうがないわね。さっきの嫌いっていうのは撤回してあげるわ。
ご飯食べ終わったところを触ってくんじゃないわよ!
やっぱり好きになれないわ、このニンゲン!
……まぁ、大っ嫌いってほどでもないわよ。ご飯おいしいし。
でも、好きにはなれないわ!
だから、触らないでちょうだい! やめなさいよ、もう!
『好きになれない、嫌いになれない』
夜が明けた。
あんなに暗く静かだった夜は終わって、晴れやかな朝がやって来た。ギラギラ光る太陽が世界を照らす。
どんなに暗く長くても、終わらない夜なんてなかった。いつか朝が来るって、知っていたんだ。
あまりの眩しさに太陽を睨んだ。と同時に、思わず笑みがこぼれた。
そう。夜が明けてしまった。
でもテスト範囲の勉強がまだ終わってない! 今日はテストだっていうのに! 授業をサボりすぎた! 授業出ても寝てたし! さっぱりわからん!
終わるなよ夜! もうちょっと続けよ! 来るなよ朝! もうちょっと待ってくれ!
はぁ……もう開き直るしかない。って、思わず笑ってしまったんだ。
『夜が明けた。』
ふとした瞬間に目が合った。
いつもなら、こんな風にずっと見てしまったりしない。
でも、見てしまう。
気になるの。
なんで額にでかめのテントウムシついてるの。
見ちゃうよ。そりゃ見ちゃう。
気になるよ。そりゃそうでしょ。
あなたはみんなの視線を釘付けにして去っていった。
テントウムシとお幸せにね(?)
『ふとした瞬間』
知らない番号からスマホに電話が掛かってきた。
普段なら出ないところだが、操作を誤って電話に出てしまった。
「……もしもし?」
スマホの向こうから叫び声が聞こえた。
「え? ど、どうしたんですか!?」
何か事件でも起きたのか? 慌てて尋ねると、
『そ、そなた様は、その板の中に閉じ込められておられるのですか?』
予想外の返答が返ってきた。
話してみると、どうやら、電話の先は遠い遠い過去の時代のようだ。なぜか板――スマホが落ちていて、触れたら俺の声がしたという。
――そんな馬鹿なことあるか? 俺が騙されている可能性の方が遥かに高い。
でも、相手の話を聞くのがなんだか楽しくて、思わずしばらく話し込んでしまった。
そして、気付けばスマホの充電が残り少なくなっていた。充電しないと――。
そう考えて気付いた。相手のスマホの充電はどうなっている?
「画面の右上の数字はいくつになってる?」
『――……?』
わからないか。まぁ仕方ない。
でも、結構長時間話し込んでしまっているから、もう充電があまり残っていない可能性の方が高い。
電話の先は遠い過去の時代。たぶん、充電できる環境でもないだろう。
話を終わらせたくない……。でも、その時は近付いている。
「あの……俺、いつか会いに行くよ。きっと、会いに行く方法を見つけてみせる」
スマホが過去にタイムスリップしているんだ。タイムマシーンだって、きっと作ることができるはずだ。
「だから、それまで待っていてくれないか?」
『……はい。ここにて、ずっとお待ちしております』
その返事と同時に、電話は切れた。スマホの充電が落ちたのだ。
充電して折り返してみたが、もう二度と繫がることはなかった。
でも、俺は諦めない。
スマホの電源が点くように、俺の心に光が灯り、電話が鳴るように、心臓が高鳴った。
どんなに離れていても、いつか君のもとへ辿り着いてみせるから。
『どんなに離れていても』