草原に草が生い茂っている。
ふと、松尾芭蕉が詠んだ句を思い出す。
夏草や 兵どもが 夢の跡
ここには昔から栄華などなかったから、違うが。
昔から、変わらず田舎の風景だ。夏になると、力強く草が生い茂る。そんな場所。
ここに来ると夏を感じる。
今風に言うと「エモい」ってやつだ。
これからも変わらずに、ここにあってほしい。
『夏草』
道端の占い師に、毎日話を聞いてもらっていた。
ありがたいことに、常連だからと、格安で視てもらうことができた。
その占い師の言うことには、近い内に会う人が運命の人だと。それは、友情や愛情を超え、何よりも強い絆になる、と。
そしてとうとう、その運命の人と出会った。
「その人は運命の相手です」
「あなた達の間には、切っても切れない繋がりがあります」
「そう。それが何よりも大切な絆なのです」
「あの人の言うことを聞いていれば大丈夫」
運命の人にたくさん頼られた。頼られるのは、悪い気はしなかった。自分も頼りにしていた。
占い師の言うことも頼りにしていた。たくさん話を聞いてもらったし、聞いた。
何でも言う通り聞いていた。
占い師の言うことと、運命の人が言うこと。何でも。
あー。そうだったのか。
どうやら全て紛い物だった。
繋がっていたのは自分と運命の人じゃなく、占い師と運命の人だった。
絆なんて、人に言われてわかるものじゃない。
自分自身が感じるものだと、昔からの友達に話を聞いてもらって、ようやく気付いたのだった。
大切な絆は、元々ここにあったのだ。
『ここにある』
素足になって砂浜の上を駆ける。
熱い砂に飛び上がり、笑い、そのまま海の中へと足を伸ばす。
丁度よい水温は、火照った足の裏を、足首を、ふくらはぎを冷やしてくれる。
気持ち良い。
日射しは暑いが、このままぼーっとしていたい。
もうすぐでこの休暇も終わる。
また心を厚く装って、作り物の笑顔を浮かべる日々が始まる。
素足のままではいられない。
だから、終わりまで。もう少しだけ。
何も装わず、このままで。
『素足のままで』
あと少し、もう少しなんだ。
目の前に見えているのに届かない。
もう一歩だけ、それで、辿り着くのに。
もう、歩けない……。
水が欲しい。オアシスは目の前にあるのに、届かない。
もう一歩が、どうしても足りない。
そのまま意識は遠退いて。
オアシスが本当に存在していたのか、それとも蜃気楼だったのか。それすらもわからぬままに。
『もう一歩だけ、』
見知らぬ街に辿り着いた。
やって来ようと思って来たわけじゃない。偶然だ。
でも、見慣れない街は新鮮で、ちょっとそこのお店に入ってみようか。なんて思ったりして。
――そんな場合じゃないんですけど。
通勤電車で寝過ごしちゃって、気付けば知らない駅にいて。でも、もうこうなったら、開き直りですよね……。
『見知らぬ街』