16歳の誕生日、勇者は王様に呼び出され、魔王退治を仰せつかった。
「未成年になんてことを頼むんだ」
魔王を倒すには、まず伝説の剣を手に入れなければならない。
勇者は武器屋へ行くと、店主に告げた。
「伝説の剣ください」
「ヘイ、毎度!」
160Gを支払い、勇者は伝説の剣を手に入れた。
早速伝説の剣を振ってみる。
試し切りと称して木を切ってみたら、スパッと切断された。これはいい。
「うむ、やはり素晴らしい切れ味だ」
かぼちゃみたいな硬いお野菜も簡単に切れちゃうぞ。
武器も揃ったし、レベルを上げつつ、魔王城へと向かわねば。
勇者は町の外へ出た。
魔王が現れた。
「なんでいきなり魔王とエンカウントしてんの!? 普通スライムからだろ!?」
「そりゃ魔王だってお忍びで旅行くらいするよ」
勇者は大いに納得した。
「魔王! 覚悟!」
勇者:レベル1
魔王:レベル99
勇者は力尽きた。
さらに魔王が何か呪文を唱えている。
「いでよ! 我が下僕たち!」
ゴブリンやオークなどが大量に出現した。
「いや待って! もう力尽きてるから!」
オーバーキル。
「やはり俺にはまだ早かったみたいです」
復活した勇者は王様にそう報告した。
「そうか。仕方ない。こうなったら城の軍総出で魔王を迎え撃つぞ!」
かくして、数の暴力によって魔王は倒され、世界に平和が訪れましたとさ。めでたしめでたし。
「勇者ってなんだろう?」
勇者はその存在意義について38秒ほど考え込んだという。
それでも勇者はめげない。いい体験になったと、いい冒険に出られたと思おう…………本当か?
『冒険』
愛している人と想いが通じ合った。
届かないと思ってた。届いてほしいと願っていた。それが、届いた。
それでも、課題は山積みだ。
伯爵家のお嬢様である私は、従者のことをずっと想っていた。身分違いの恋。だから、どうしようもないとわかっていた。それでも、諦めたくなかった。
どこかの貴族の男との結婚話が出て、ようやく、私達は素直になれた。
ただ、今日はその顔も知らない男との顔合わせの日だった。
「体調不良ということにしておきましょうか。だって、その顔じゃ出られないでしょ。酷い顔してますよ」
想いが通じ合った相手に言う言葉がそれ? たしかに、嬉しくて流した涙で顔はぐちゃぐちゃだけど。
従者だろうが、恋人だろうが、彼は変わらず彼だった。
「ううん、行く」
「本気ですか?」
「うん。大丈夫。ちゃんと話してくるよ」
従者の心配をよそに、私は初めて会う婚約者の前へと出向いた。
もちろん、お断りの為に。
そして、お父様からの雷が落ちた。
わかっていた。きっと許して貰えないだろうと。
私は伯爵家の娘。家の為に、格上の貴族と結婚するのが私の役目だった。
それでも、お父様にわかってほしい。この気持ちが届いてほしい。ただのわがままだけど、どうしても譲れない気持ちがある。
どうか、わかって。届いて。
「許せるわけないだろう!」
お父様が机を力強く叩いた。
「おまえは、この家を捨てるだけでなく、これまでのおまえ自身の全てを捨てることになるのだぞ! それでも幸せになれると、本気で思っているのか!」
「いいえ、お父様! 私にとっての幸せは、この家にあるのではありません! 彼といることこそが私の全てで、私の幸せなのです!」
「わからぬか!? おまえが選ぶ道は、決して平穏な道ではないのだ。親として、そんな道を行かせられるはずがない!」
「そんなことはわかっています! 覚悟しています! それでも二人で生きていきたいの!」
「申し訳ありません、ご主人様。しかし……」
「従者が口を出すな!」
お父様が私達二人を呼び出したのに、理不尽極まりない。
「ええい、もうよい! 一度部屋に戻り頭を冷やせ! 従者もだ。今日からは娘に仕えなくてよい! しばらく謹慎だ!」
「お父様!」
「ご主人様! ……承知いたしました」
こうして、私達は話し合いの場を追い出され、そのまま自分の部屋へと連れて行かれてしまった。
お互いに部屋を出ることを禁じられ、彼と話をすることもできない。でも、そんな言い付け、聞くはずがない。
みんなが寝静まった深夜、部屋をこっそり抜け出して彼の部屋を訪れる。小さい頃から何度も屋敷を抜け出した実績があるのに、舐めないでほしい。
「お嬢様っ……!? なんて時間に……! 駄目ですよ。夜中に男の部屋を訪ねちゃ」
「でも、こうしなきゃあなたに会えないじゃない」
彼の静止を無視して部屋の中へと入る。
屋敷に仕える者の為の、こじんまりとした部屋。それでも、一人部屋だったのが幸いだった。
「もう。私達、駆け落ちするしかない」
「お嬢様! ……でも、ご主人様の言うことも最もです。私のような者があなたを愛すること自体が間違いなのですから」
「そんなの、私だってあなたを愛しているんだから、お互い様でしょ」
「それでも! 私に失うものは何もないのに、あなたは失うものが多過ぎる……。貴族であるお嬢様を平民にしてしまうことになるのですよ。それでも……本当によろしいのですか? 私と共に、そんな道を……」
「しつこい! 何を今更言ってるの! お父様にも言ったでしょ。あなたといることが私の幸せで、あなたが私の全てなんだって!」
力いっぱい胸を叩く。これは私の本心だ。後悔なんてするはずがない。
彼は、そんな私を優しく抱き締めた。
「……お嬢様は、ドMなんですか? 私にこんな風な扱いをされても、平民に落ちても、それでも私と一緒にいたいだなんて……」
「あなたね……。……言い合える相手がいないと、つまんないじゃない」
私も彼の背中に手を回し、優しく抱き締め返した。
娘が屋敷を出ていった。誰にも気付かれないよう、夜中に、静かに。娘の愛する者と共に。
もしかしたら誰か手伝った使用人がいるのかもしれない。だとしても、わかりようがない。わかったところで、きっと娘は帰ってきてはくれないだろう。
娘は気の強い子だ。やるといったら必ずやり遂げる。自分を曲げない子。
だからきっと、どれだけ辛いことがあっても、幸せになるのだろう。
――それでも、私の気持ちもわかってほしかった。
娘に苦労させたいなんて思う親がいるはずもない。今まで積み上げてきた全てを失って、何もないところから始めることを、歓迎できるわけがない。ただ、貴族として、幸せになってほしかったのだ。
その気持ちは届かなかった。
私が今できることは、遠くへ行ってしまった娘の幸せを祈ること。どうか、その思いが届いてほしい。
『届いて……』
その日、空は曇っていた。せっかくの海なのに、あまり良い景色ではないなと思った。
でも、少し泣き出しそうな、これくらいの天気の方が丁度良かった。
だって、もうわかっていたから。
「さよなら」
別れを告げられたあの日。
最後に見た海を、私はずっと忘れないと思った。
思い出の浜辺で、私は一人佇んでいた。
あの日とは違って、今日は夕陽が沈んでいくのがよく見える。
何度も来た海だった。
昔はそこに二人でいたはずだった。二人はそっと手を重ねていた。
夕陽が沈み、夜の闇が訪れる。
それでも、そのまま、動けずにいた。
日が沈み切った海は、まるで全てを飲み込んでしまいそうな暗闇で。
私自身も飲み込まれてしまうんじゃないかと思った。いっそ、本当に全て飲み込まれてしまったら、楽なのに。
静かな海の上を、風が撫でるように流れていく。
今一瞬、波が大きな音を立てて静寂を壊した。
そしてまた、何事もなかったかのように、静かに暗闇に溶けていった。
『あの日の景色』
願い事を短冊に認める。
切実な願いを。
空の上で、織姫と彦星がその願い事を見ていた。
「切実ね……」
「こんな願いでいいのかな」
「でも、この願いを叶えるには、やっぱり本人の努力が必要ね」
頑張って。と、織姫は願い事の主に願った。
[みんなが♡を押してくれますように]
『願い事』
スイーツ(笑)
という、昔のスラングをつい思い出してしまった……。
簡単に泣けるような大恋愛の甘い物語は書けないけど、この包みこんでくれるような青く広い空に、恋にも似た憧れを抱く物語なら書けるかもしれない。
澄んだ青空を見上げ、想いを飛ばした。
『空恋』