「……え? 外白い……」
外に白くて軽いものが、まるで羽根のように舞っている。
少女は驚いた様子でそれを見ている。
「あれ。雪、見たことない?」
「あまり……」もう一人の少女の言葉に、彼女は雪を眺めたまま答えた。「私の故郷は、雪なんてほとんど降らなかったから……」
故郷を思い浮かべる。
そこは、暗く陰湿な雰囲気がして、好きじゃなかった。
でも、そこに置いてきた、妹のことを思い出した。妹のことは大切だったから。
雪のように無垢な笑顔が脳裏に浮かぶ。
そうだ。近いうちに帰ろう。
驚く妹の姿を想像して、少女の口元が緩んだ。
『雪』
外では嫌な顔一つせず、いつも笑っている。
「能天気だ」と、「何も考えていないんじゃないか」と、「ストレスなんてなさそうで羨ましい」と。
そう言われていることを知っているけれど。でも。
そんはものは――みんなが見ているものは、噓だって。自分がよく知っている。
「死にたい」
聞き慣れた言葉。
目は既に死んでいるようで。
自分にとってはこれがいつもの君で、みんなのあの評価の方がよくわからない。
「いいから。寝てなさい」
ベッドでぐったりしている君の手を握った。
相変わらずの死んだ目で自分を見てくる。
「私が死んだら泣いてくれる?」
「そりゃ泣くよ。だから、死なないで。とにかく、疲れてるなら寝なさい」
「一緒に寝てくれるなら」
――溜まってる仕事、したいんだけど……。
などと言えるはずもなく。布団をめくり、君の隣に横になる。
――甘い。甘いなぁ。つい、甘やかしてしまう。
でも、期待に添えないと、更に面倒なことになるのも目に見えてわかっている。
君がぎゅっとしがみついてくる。
「死にたい」
まだ言っている。
これが日頃溜まったストレスの発散方法なんだろうが、だんだんとこちらも疲れてくる。
それでも君が好きだから、それも全て受け入れる。
「もしも死ぬときは、一緒に」
そっと額にキスをする。
そうして、ようやく君は安心したように微笑んだ。
「おやすみなさい」
『君と一緒に』
土手を、空を見上げながら歩いていると、宙に凧が泳いていた。
久々に見たなぁなどと思いながら、川辺を見下ろすと、大人と子供が入り混じって、凧揚げや羽根突きをしている。
冷たく吹く風など物ともせず、楽しそうな声が上がっている。
すごいな。すごい。懐かしい正月って感じだ。
空は青く澄んで、板に当たる羽根の音と、子供たちの笑い声と、冷たい風の音がハーモニーを奏でている。
ふふっと息を吐き出すと、それは辺りを白く染めた。
『冬晴れ』
幸せとか、そんなものは知らないし、必要もないと思っていた。
ずっと独りでいた。孤独が好きだと思っていたから。
誰かと一緒なんて、鬱陶しくて、面倒臭い。そして、そんなものを敢えて好む奴とか。
俺には理解なんて出来なかった。
ある晴れた日だったと思う。
誰かが、隣に座った。楽しそうに、話し掛けてきた。
誰だよ。こんな風に話し掛けてきて。
俺は、望んでいないのに。
「怖いの?」
唐突にそいつが言う。俺を見て、微笑んで。
怖い?
何が怖い? 何で怖い?
俺が何を恐れているって言うんだ。
「本当は、独りが怖いくせに」
――違う。
俺の戸惑いなと気にせず、そいつはそのまま続ける。
「いつか訪れる別れを恐れているんでしょ? 最初から出逢わない方がいいって。そう思っているんでしょ? だから、独りがいいって思い込んでいる」
――恐れ?
一緒にいる事で、人の温もりを知ってしまって。
でも、いつか必ずやって来る別れを。
俺は――。
――いや、本当は知っていた。
本当は孤独が好きなんかじゃなくて、本当は孤独を恐れていた。
だからこそ、敢えて孤独でいたんだ。
「恐れる必要はないよ。別れの代わりに、また、新たな出逢いが待っている筈だから。今、この時のように」
そしてそれから。
孤独が好きじゃない俺の隣に、幸せを知らなかった俺の隣に。
そいつはずっと変わらず、座っている。
孤独の代わりに幸せを運んできてくれた。
幸せとは何かを教えてくれた。
『幸せとは』
星が少なくなった夜空を見上げる。
いくら今年のしぶんぎ座流星群の極大が朝方6時頃とはいえ、起きるのが遅過ぎた。そりゃ空も白み始める。
それでも今年は多かったのか、はたまた運が良かったのか。
このギリギリの空でも流れ星を観測することができた。
できればもう一つ、あと一つ、と。欲張るうちに夜は明け、太陽が顔を覗かせた。日の出だ。
そういえば、日が出る瞬間をまだ今年は拝んでいなかったな。私にとっての初日の出だ。
今年もよろしくお願いします。
『日の出』