川柳えむ

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4/10/2025, 10:49:13 PM

 小さい頃に目指していたものがあった。
 いつからかそんなものはすっかり忘れて、見事な社会の歯車になり、この世界に溶け込んでいる。
 夢は所詮夢だった。
 書きかけの物語は、机の奥で眠り続けている。

 ふと、気が向いただけだった。
 なんとなく思い浮かんだ言葉を物語にして、インターネットの海に流した。
 それを読んでくれる人がいた。好きだと示してくれる人がいた。「面白い」と言ってくれる人がいた。
 夢は所詮夢だった。
 でも、今も夢は結局夢でしかないけれど、叶わなくても、形が変わってしまっても、もう一度、あの頃やりたかったことをまた始めたい。
 そうして私は書き続ける。


『夢へ!』

4/9/2025, 11:32:40 PM

 同窓会の名簿に連なる名前を見て、懐かしさに目を細める。
 名簿はクラウド上に用意されていて、そこに自分の名前を入力し、参加・不参加の印として○か✕をつけるシステムだった。その名簿には、懐かしい名前と、大半は覚えていないような名前がたくさん並んでいた。
 同窓会の案内ハガキに載せられていたQRコードからアクセスしてみたはいいものの、仲良しだった友人達は、こういったものに参加も、そもそも入力すらしないようなタイプばかりだった。
 まぁ、いいんだ。
 自分も眺めるだけ眺め、特に入力もせずスマホを閉じた。
 あの頃の友人達は、会おうと思えば会えるんだ。だって、個人的に連絡先を知っているんだから。そう思っているくせに、最後にいつ会ったのかなんて思い出せないけれど。
 …………。
 みんな、元気かな?
 スマホを再び開く。
 そして、あの頃の友人達に一言メッセージを送った。
「元気? 久しぶりに集まろうよ」


『元気かな』

4/8/2025, 9:02:52 PM

 僕はずっとずっと待っていた。
 いつの日か君とした、遠い約束。
 だから僕はその約束を果たそうと、ずっと努力していた。僕が頑張れるのなんて、君の為くらいだ。
 そんな昔の遠い約束なんて、今更言わせない。

 なのに。
 君はあっさり行くんだね。
 知らない男とあっさり結婚してしまった。

「お互い30まで独身だったら結婚しよう」

 僕は待つつもりだったのに。その為に、誰かと付き合おうともしなかったのに。
 君は裏切るんだね。
 そんな昔の遠い約束なんて、今更言わせない。
 そうだ。だって、30の時に独身だったら僕と結婚してくれるんだもんね。

 僕はそっと手にナイフを忍ばせた。


『遠い約束』

4/7/2025, 10:37:34 PM

 彼女の家には、決まって毎週金曜日、ポストに花束が届けられる。
 チューリップ、ガーベラ、マーガレット――いつも違う花。それでも一つ共通しているのは、花に添えられた小さなカードの存在だ。

「今週もお疲れ様」

「今日も君が笑っていますように」

「今週は大変だったね」

「来週の空はきっと晴れるよ」

 差出人の名前はない。けれど、知らない誰かに見守られているような。
 花の香りと共に、不思議な感覚に包まれる。

 ある日、花束が届かなかった。
 翌日も、ポストは静かなままだった。

 そして日曜日。
 ようやくチャイムが鳴った。
 扉を開けると、見知らぬ男がバラの花束を持って立っていた。添えられた小さなカードには、見知った筆跡でこう書かれていた。

「やっと会えたね」

 とうとう彼女は悲鳴を上げた。


『フラワー』

4/6/2025, 11:28:59 PM

 激しい破裂音と共に、銀色に輝くテープが舞った。
 歓声が上がり、色とりどりに光るライトが激しく揺れる。
 全力で走り抜けたこの時間が、もう少しで終わる。そして、それは同時に僕らの時間の終わりでもあった。
 顔を上げて、ありがとうと叫ぶ。
 ありがとう。ここまでずっとついてきてくれて。
 ありがとう。ここまで一緒に歩いてくれて。

 僕らの後ろにはこれまでの歴史がたくさんある。全て忘れない。
 これからはまた、前を向いて、新しい地図を広げて、その先を目指して進んでいく。新しい未来へ!


『新しい地図』

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