川柳えむ

Open App
5/1/2025, 4:24:09 AM

 学校からの帰り道。
 親友と二人、他愛ない話をしながら歩く。
 夕暮れの空はオレンジから徐々に紫、藍と色を変えていく。
 なんとなく空を見上げていた。転ばないようにゆっくりと歩く。

 二人の会話が途切れた。その瞬間だった。
 空の端から端を渡るように、流れ星が一筋の長い長い軌跡を残して消えていった。
 流れ星が、端から端まで。体感10秒くらいか。
 よくある、あの一瞬で消える流れ星とは違い、願い事を余裕で3回唱えられるくらいには長かった。あまりの出来事に、願い事なんて考えてはいられなかったが。
 次の瞬間には二人で「わー!」と盛り上がっていた。
「すごい!」「長かったね!」「あんなに長い流れ星初めて見た!」「願い事忘れた!」

 この出来事は今もよく覚えている。
 親友と、夕暮れの空と、長い長い軌跡と――。
 今ではあの日常全てが特別で。
 あれからもう長い年月が経って、親友とも数年に一度会うくらいだ。
 もし今何か願えるとしたら、1日でいいから、あの日常をまた過ごしてみたい。あの日の私達に会ってみたい。あの日、流れ星に出会えたあの奇跡を、あの高揚した気持ちを、もう一度体験したい。
 そんなことは無理だって、本当は知っているけれど。これは夢物語に過ぎないと。

 それでもここに辿り着いた軌跡は、親友達と過ごしてきた日々は、しっかりと私の中に刻まれている。


『軌跡』

4/30/2025, 3:55:12 AM

 あー! あのニンゲン、本当に嫌い!
 誰が触っていいって言ったのよ! それに、寝てる時に触ってくんじゃないわよ!
 オカーサン? オカーサンはいいの! いつもご飯くれるし!
 たまにしか来ないくせに、我が物顔で家の中を歩いてんじゃないわよ!
 おもちゃ出されたって知らないわよ、ヘタクソ!
 だ・か・ら、触ってくんじゃないわよ! やめてってば!

 ……お腹空いたわね。
 丁度いいところにいるじゃない。
 ご飯ちょうだい♡
 あら、おいしいカツオブシまで乗ってるじゃない。気が利くわね。
 しょうがないわね。さっきの嫌いっていうのは撤回してあげるわ。

 ご飯食べ終わったところを触ってくんじゃないわよ!
 やっぱり好きになれないわ、このニンゲン!
 ……まぁ、大っ嫌いってほどでもないわよ。ご飯おいしいし。
 でも、好きにはなれないわ!
 だから、触らないでちょうだい! やめなさいよ、もう!


『好きになれない、嫌いになれない』

4/28/2025, 10:50:42 PM

 夜が明けた。
 あんなに暗く静かだった夜は終わって、晴れやかな朝がやって来た。ギラギラ光る太陽が世界を照らす。
 どんなに暗く長くても、終わらない夜なんてなかった。いつか朝が来るって、知っていたんだ。
 あまりの眩しさに太陽を睨んだ。と同時に、思わず笑みがこぼれた。

 そう。夜が明けてしまった。
 でもテスト範囲の勉強がまだ終わってない! 今日はテストだっていうのに! 授業をサボりすぎた! 授業出ても寝てたし! さっぱりわからん!
 終わるなよ夜! もうちょっと続けよ! 来るなよ朝! もうちょっと待ってくれ!
 はぁ……もう開き直るしかない。って、思わず笑ってしまったんだ。


『夜が明けた。』

4/27/2025, 10:46:39 PM

 ふとした瞬間に目が合った。
 いつもなら、こんな風にずっと見てしまったりしない。
 でも、見てしまう。
 気になるの。

 なんで額にでかめのテントウムシついてるの。

 見ちゃうよ。そりゃ見ちゃう。
 気になるよ。そりゃそうでしょ。

 あなたはみんなの視線を釘付けにして去っていった。
 テントウムシとお幸せにね(?)


『ふとした瞬間』

4/27/2025, 6:49:19 AM

 知らない番号からスマホに電話が掛かってきた。
 普段なら出ないところだが、操作を誤って電話に出てしまった。
「……もしもし?」
 スマホの向こうから叫び声が聞こえた。
「え? ど、どうしたんですか!?」
 何か事件でも起きたのか? 慌てて尋ねると、
『そ、そなた様は、その板の中に閉じ込められておられるのですか?』
 予想外の返答が返ってきた。

 話してみると、どうやら、電話の先は遠い遠い過去の時代のようだ。なぜか板――スマホが落ちていて、触れたら俺の声がしたという。
 ――そんな馬鹿なことあるか? 俺が騙されている可能性の方が遥かに高い。
 でも、相手の話を聞くのがなんだか楽しくて、思わずしばらく話し込んでしまった。
 そして、気付けばスマホの充電が残り少なくなっていた。充電しないと――。
 そう考えて気付いた。相手のスマホの充電はどうなっている?
「画面の右上の数字はいくつになってる?」
『――……?』
 わからないか。まぁ仕方ない。
 でも、結構長時間話し込んでしまっているから、もう充電があまり残っていない可能性の方が高い。
 電話の先は遠い過去の時代。たぶん、充電できる環境でもないだろう。
 話を終わらせたくない……。でも、その時は近付いている。
「あの……俺、いつか会いに行くよ。きっと、会いに行く方法を見つけてみせる」
 スマホが過去にタイムスリップしているんだ。タイムマシーンだって、きっと作ることができるはずだ。
「だから、それまで待っていてくれないか?」
『……はい。ここにて、ずっとお待ちしております』
 その返事と同時に、電話は切れた。スマホの充電が落ちたのだ。
 充電して折り返してみたが、もう二度と繫がることはなかった。

 でも、俺は諦めない。
 スマホの電源が点くように、俺の心に光が灯り、電話が鳴るように、心臓が高鳴った。
 どんなに離れていても、いつか君のもとへ辿り着いてみせるから。


『どんなに離れていても』

Next