『理想郷』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
理想郷はいつもの帰り道から少し外れた小道の先
いつのまにか通り過ぎていて状態ばかり残る空洞
理想郷
晴れ渡った空.白い雲
賑やかな喧噪.舗装されたタイルをなぞる様に其処此処にいろんな商品を売る市場が
広がっていた。
「お兄ちゃん、早く早く!!」
瞳をキラキラさせて今にも駆け出さんと
足を一歩前に出して後ろを振り返り呼ぶ
三つ編みの少女と
「そんなに急がなくても、別に無くなったりしないよ!」
そんな少女を嗜める様に、ため息を吐きながら、冷静に返す少年
市場の露台には、装飾品.化粧品.食品など
多種多様な物が並んでいる。
妹は、拳をギュッと握りどんな掘り出し物に出逢えるかワクワクしていた。
兄は、そんな妹を見つめ苦笑し、
手を差し出した。
「行こう!」
兄と妹は、手を繋ぎ一気に駆け出した
少年の名前は、ユート
少女の名前はピア
今からこの兄妹の宝探しが始まる。
家を出ると木犀花の芳香がそよぐ
見上げた深い縹の空にはうっすらと碇星
いつのまにかまちはすっかり色を変えているようだ
少し肌寒い夜の空気から身を守るためお気に入りの臙脂の羽織
足元は背筋が伸びるような艶やかな濡羽色のヒールは7センチである
さて気合を入れて
仕上げに長年磨きてきた笑顔を纏う。
人前用の完璧な「私」のコスプレ
歩く姿は百合の花が背景に浮かびそうな私の裏側
誰ひとりとして気づきはしない
努力と苦悩の末得たのは「普通」のふりをする技術だった。
うつ病と歩み始めていつのまにか7年もの月日が経つ
【コスプレ】
理想郷
人生100年時代というが、80歳も超えると身体のあちこちが痛くなる。腰は曲がり、歩くと膝が悲鳴を上げる。常にどこかが悪く、食事も喉に詰まらせるといけないから、柔らかいものばかり。トイレが近くなり、気がつくと失禁している。楽しみはひ孫と会うことぐらい。
そんな私が考える理想郷。鳥が囀り、明るい光に包まれる。歩くとふわふわして、まるで宙に浮いているように身体が軽い。一年中、ポカポカと暖かく、蝶々が舞っている。人々は笑顔で、争いごともない。平和な毎日。
ん?これってもしかして天国?
いやいや、わたしゃまだ爺さんのとこには行きたくないよ。
身体痛いけど、もう少し頑張るか!
ごめんな!爺さん!
100年は無理かもしれないけど、長生きするよ!
理想郷
人は理想郷を求めて冒険に旅立つ
数々の困難を乗り越え、世界を変えていった
やがて手にしたものに疑問が芽生え始めた
求めていたものはこれでよかったの?
大切なものを失ったのでは?
慈愛に満ちた世界、そこには争いも諍いもない
悠然と時は流れ、悩むことも病むこともない
いつかきっと辿り着けますよう
むかし、私の国はひどい差別が行なわれていた。それは、どの国の人も口を揃えてひどいというほどだった。
その国を作り上げたのは私の父だったのだが今は亡くなり私が代わりに国を新しく作り替えたのだ。
いまは、国民の言う通り差別のない平等な国となり国民はみな楽しそうに私に仕えていた。
当然だ、私は朝昼晩と毎日食べきれないほどの食べ物を提供し全ての国民に住家を与えている。父とはちがい、差別されたものが逆上し反乱をおこそうとして戦争がおき命を落とすなどと間抜けなことにはならない。
みなが、私にひれ伏し崇拝しているのだ。
もちろん、私に逆らおうとするものもいたのだが罰則を与えるとそんなことはしなくなった。逆らおうとした愚か者だけに罰則を与えたのではない、みな平等に国民全員に罰則を与えたのだ。平等とはそういう事だ。
今日も、国民が私を慕う声が聞こえる。
これぞ国民の理想の国だ
#理想郷
人間は自分に無いものを欲す
愛されている者は1人を欲し
孤独なものは愛情を欲す
天才は平凡に憧れ
凡人は天才に憧れる
自分にあるものなど
きっと誰も欲しちゃいない
無いものを欲し
争い、憎み合い、殺し合うのが
人間の本能だ
幸福になんて誰もなれない
理想郷なんてどこにも存在しない
無題
男はゆっくりと女の子の両腕から崩れ落ちていく。
「心配しないで」
彼は精一杯の笑顔をつくって、泣きじゃくる女の子の頬を拭った。
「君が…ちゃんと天国に行けるように…先に神様にお願いしてくるから…」
女の子は肩を震わせて泣いた。両目から止めどなく涙は流れ続け、血にまみれた彼の軍服に雨粒のように降りかかる。
「だから…泣かないで。死ぬのは怖くないって、たった今から見せてあげるから…」
彼は息絶えた。
女の子は避難サイレンの鳴り響く瓦礫の街の隅で、彼の亡骸を埋葬した。
女の子は「愛してる」と呟くとオーバーコートのポケットからタバコを取り出して咥え、土砂降りの雨の中、傘も差さないで戦車のキャタピラの後を踏みつけながら避難所へと歩いて行った。
「おはよ。」
低音の心地良い声が聞こえてくる。
目を覚ますと不思議な色の天井。
シーツと枕は白い。
布団の中はとってもあたたかい。
寝返りを打つと、整った顔の男。
男はニコリと微笑みながら私を見つめる。
「よく眠れた?」
男は優しく頭を撫でる。
コクリと頷くと「良かった、」と言いながら目を細めた。
「俺もよく眠れたよ……ありがとうね。」
そう言いながら抱きしめられる。
なんだか不思議な感覚だ。
別に私は相手と恋人関係という訳では無い。
ただ、寂しくなった時に慰め合う。そんな繋がり。
でも私にとってはそんな繋がりが、有難かった。
ふと時計を見ると、時計の針は十時を指していた。
男も私につられて時計を見ると、焦った顔をする。
「やっべ、もう出なきゃ。」
バタバタとお互い準備をしてその部屋を出た。
外に出ると、空は快晴。
空気はほんのり冷たくて、私はその空気は嫌いじゃなかった。
「じゃあ、俺はこれで!!」
男が手を挙げながら走り去る。
それに返すようにゆっくり手を振った。
男が見えなくなった辺りでクルリと振り返り、男は違う方へ足を進める。
平日だからか、スーツの人が多い気がする。
それでも休みなのか、カップルも数人いる。
ふと、とある人が頭に浮かんだ。
「君って八方美人だよね。」
その人はいつも頭の中に現れては、そう切捨てて、去っていく。
かつて、私が愛した人。
こんな私を作った人。
きっと過去にも、これからもここまで愛する人はいないと思う。
そう、きっと私は 彼 に囚われたまま___。
吐き気がすると同時に、ポッケに入ってたスマホを取り出す。
連絡先をスクロールしていくと、そこには今日一緒にいた以外の男の連絡先がたくさん入ってる。
ここの人達は、私と同じように寂しい人達。
誰をどう愛そうと関係ない人達。
私が何をしても咎められない。
理想の世界の住人なのだ。
とある連絡先の通話ボタンを押す。
コール音が何回か鳴ると、「もしもし」という声が聞こえてくる。
『今日、この後会えない?』
こうして私はまた、誰かと夜を共にするのだ。
#理想郷
理想郷
美味しいものをお腹いっぱい食べて
夢中になれる仕事で人に感謝されて
たまにはお昼まで寝てゴロゴロして
貴方が隣で笑ってくれる
そんな場所
[リハビリ]
【 理想郷 】
夢見るだけなら、どんなことも自由だ。
獄中から見上げるしか無い立場では、
それが唯一の支えでもある。
なぜこんなことになったのだったか。
声高に平和を叫び、大義名分をかざして行動した結果、
周りには無数の事切れたヒトを転がすことになった。
全ての人の幸せを願い、望みのものは手に入ったのに。
捕らえられて、己の命の限りを知らされて。
この後作り上げるはずだった世の中を見ることなく、
無駄に散る。
俺の夢見た世界はどこへ行った?
誰が作り上げるつもりだ?
今ようやく気付いた。
神の世界を、俺なんぞが変えられるはずもないのだ。
完全な形に帰結したのが、この世の中だったのだ。
私たちの根底にはそれぞれの理想郷があるんだと思う。
その理想郷が私たちの生の原動力になる。
連日報道される若者の自死。理想郷と現実世界があまりにもかけ離れている、自分の生だけじゃどうにもならないと絶望した時人は死を選ぶ。
「みんなが幸せな世界」
「戦争のない世界」
教師という道を選ぼうとしている1人の大学生にすぎない私だけれど、こんな理想郷を持つ子どもたちが絶望しない世界を作らないといけないと思う。
理想郷
「ちょっといいかな?」
「うん。どうしたの〜」
「ここは、理想郷だと思うかい?」
「なにそれ〜」
「なんていうのかな、楽園みたいな?」
「えー思う思う。なんでもほぼタダで手に入り放題だもん」
「そうかい」
「孔雀ちゃんはそう思わないの?」
「わたしは心猫くんみたいに、現在過ぎている時間をありのままのものだと認識できないんだ」
「えー言ってる意味分からん」
「幸せなことがあると、何か裏があるんじゃないか、とか、そんな最悪な背景を考えながら生きているような感じなんだ。おかしい奴だと思われるかもしれないけれど…」
「なるほどねぇ。わたしは孔雀ちゃんと一緒にボーっとする時間が大好きだよ〜」
「心猫くん……」
「わたしが孔雀ちゃんを幸せにしてあげるよ〜……ぐぅ……」
「寝ながら言われてもね……ふふ」
「ありがとう。心猫くん」
自分の理想郷はとりあえず子供達が笑顔で幸せだと感じてくれる世界かな、それともっと子供達のことを第一に考えてくれる大人達かな。ウ~ン難しい
理想郷。何があったら、誰がいたら理想郷なのだろうか。
死んだ友達、無限の食料、娯楽、飽きると新しい何かが出てくるような物。
これが揃ってて幸せだとしても、いつかは飽きる。幸せを感じれなくなってしまう。不幸があるから、気に食わないことがあるから、幸せに感じれる。
そう、理想郷は、この正解かもしれない。
2023-11-01「理想郷」
「理想郷」
この世界は実につまらない
そう思って生きてきた30年、夢も何も無い。
ただただ社会の歯車として生きる日々
そんな日々の中で、私はついに見つけてしまった。
何処に続くのかわからない扉、ここを開けたら何があるのか
仕事帰りにたまたま目に入ったお店、こんなところにあったかなと勇気を振り絞って扉を開けてみた。
中にはたくさんの雑貨で埋め尽くされていた
懐かしいものから見たことないものまで、それは私が久しく感じてることのなかったワクワクする気持ちが溢れ、不思議と童心に帰ったようなそんなひと時を過ごすことができた。
何点か手に取りレジに行くと、ようこそ理想郷へ、お目当ての品はありましたかな?と老父がニヤリと笑った。
そして、商品を受け取りクスッと笑ってしまった。
あぁ、またこの理想郷に遊びにこよう。
そう思い、足取り軽く家路に着いたのだった。
[とある科学者のデータ1]
西暦✕✕20年…私達は義勇軍を設立した。悪に屈しないと決めた勇気ある者が集った軍だ。一人一人の力が本当に僅かなものだとしても私達は…義勇軍は力を合わせ奴らが作った“悪”を全て破壊し、いつか来る未来の為に足掻こうと思う。
[とある科学者のデータ2]
義勇軍を設立して数ヶ月経った。奴らの情報網に引っかかったようだ。高層で諜報班が襲撃に合い1人は行方不明、8人死亡、1人は生きてるのも不思議なくらいの重体だ。今は少しでも奴らの情報を手に入れる為に医療班が生き残った1人を治療している。
[とある科学者のデータ2.5]
初めての襲撃から数日…やっと生き残った1人が目覚めた。だが自分の下半身と右腕が無くなった事による精神的ショックにまともな会話も出来なくなった。それでも僅かな情報は得られた。奴らは一般的に知られている銃や刃物の威力を優に超えるほどの兵器を作成していた。彼から切り取った損傷の激しい腕と下半身がそれを物語っている。奴らの科学技術は危険だ。
[とある科学者のデータ3]
西暦✕✕21年。遠目に眺めてるだけでは奴らには敵わないと言う事実しか見えてこない。私達は奴らと同等…いや、それ以上の科学技術を必要とされている。奴らを殲滅する為には犠牲さえも厭わない程の攻撃が必要だ。
[とある科学者のデータ4]
必要なものが明確となったあの日から何度も議論を重ねた。私達は自ら申し出た者でチームとなり科学技術の奪取を目的とする兵器プラントの鎮圧作戦を立案。この作戦が上手く行くかは分からない…科学技術どころか仲間が何人も死ぬかもしれない…だが私達はやらなければいけない。
[とある科学者のデータ5]
ついに奴らの兵器プラントへの大規模攻撃作戦が決行される。昨晩は共に作戦を行う戦友達と新鮮な肉をたらふく食べた。それこそ腹がはち切れそうになるほど。流石に食い尽くしたら無事帰れた時の祝杯をあげられなくなるからと少しは残しておいた。作戦も入念に話し合った。戦う事に誰1人後悔などしてない。私達は奴らの思い通りにはならない。
[とある科学者のデータ5.5]
~このデータは削除されています~
[とある科学者のデータ6]
兵器プラントへの大規模攻撃は大成功に終わった。下層や最下層で過ごす私達は疲弊していて無理な反抗はしないとでも思っていたようだ。少しの損害は受けたものの私達は奴らから科学技術を奪取できたのだ。奪えた技術は人体改造や兵器作成のデータだった。もしかしたらこのデータを奪い返されるかもしれない。これを書き終わり次第すぐにでも技術開発に取り組まなければいけない。奪えたデータは奴らを倒す為の希望だ。無駄にする訳にはいかない。
[とある科学者のデータ6.5]
数日前に奴らから奪った化学兵器データを元に兵器ほどでは無いにしろ強力な武器を作成出来た。ここ数日は科学班の仲間と共に徹夜でサイボーグ化と兵器について研究し実用化まで繋げたのだ。何より膨大なデータに救われた。大規模攻撃作戦に参加して良かった。もしデータがなんの価値もないものだったら私達が衰弱死するのが先だっただろう…いや、奴らに殺される方が先だったかもしれない。どうかこの“十字架”が“悪”を裁く為の力として役立って欲しい。
[とある科学者のデータ7]
奪取したデータに中に“クローン”の基礎データを見つけた。義勇軍…いや、今は…ともかく私達は人員が不足している。サイボーグ化や兵器の技術を仲間達全員に施したとしても奴らに適うかは分からない。つまりクローン兵器の実現を目指す事は奴らとの戦いにも使える、悪い案では無いはずだ。もし人工知能と合わせれば繊細な技術を要する医療班や科学班の力にもなれるだろう。クローン作成、実用化について仲間と議論し早めに作成に取り掛かりたい。
[とある科学者のデータ7.5]
義勇団から名が変わり仲間達の雰囲気が変わった。完璧な実力社会のように階級を付けては下の者は上に逆らえないシステムを導入したのだ。反対はしたものの八割は階級システムに賛同した。だが悪い事は雰囲気が変わっただけだ。円滑に連携をとり敵を殲滅し帰ってくる仲間達を見るとメリットの方が大きく感じる。どうやら私は自分が戦力では無く科学班専属に宛てがわれた事に少し不満があっただけかもしれない。私は仲間達を信頼していると胸を張って言える自信があったが自分が思う以上に心が狭かったのだ。
[とある科学者のデータ8]
我々の成長は目覚しいものだ。数ヶ月前の不安など見る影もなく統率も戦闘方法も確立している。奴らから科学技術を奪う事も容易になった。サイボーグ化の実用化も可能となり今は時間を決めて科学班を数チームに分け生活基盤を整える為の開発にも手をつけられている。相変わらず人手は足りないがクローン開発にも着手出来る時間が出来た。自分の成す事が仲間達の今後に繋がる…そう思うと科学班専属も悪くない。
[とある科学者のデータ8.5]
クローン開発を進めているものの手元にあるデータの大半が基礎データや失敗データで占められている。戦闘班が日々新規の科学技術データを手に入れてくれるがクローンに対するデータは100分の1にも満たないだろう。いや、弱気になってはいけない。勢力拡大に成功していても人員が多いに越したことはない。医療班や科学班には私より眠れない仲間が居るのだ。彼らの負担を取り除く為にも…完成させるべきだ。
[とある科学者のデータ9]
人工生命体がやっとの事で形になった。とはいえ完成には程遠く実用できるまでが果てしなく遠い…。だが起動は出来ないものの人工生命体としての形が出来たのは大きな前進だ。自立し、精密な動きが出来るだけでも救われる仲間が居る…現段階では自立が出来る事を簡易的な目標としよう。
[とある科学者のデータ10]
西暦✕✕24年。仲間達は変わった。もう手遅れだ。いくら科学技術が手に入り“十字架”の改良が重ねられてるからと言っても奪われた科学技術のデータからやる事の大半を奴らは予測できるはず…。それなのにも関わらず奴らの本拠地への大規模攻撃作戦の立案…ふざけるな。明らかに危険だ。サイボーグ化による強化も安定しているが仲間達が皆サイボーグ化を施されている訳では無い。こんな所で階級制度が仇になるとは思わなかった。残り3日…仲間達が行くまでの残り3日で少しでも戦力となれる何かをしなければ…。
[とある科学者のデータ10.5]
だれもしなせたくない
[とある科学者のデータ11]
記録を残そうと思い立つまで思ったより時間がかかった。結論から言うと我々はほぼ壊滅状態だ。唯一生き残った数人はこのアジトへのアクセスキー…いつの日か私達の希望と称した“十字架”を奪われた挙句ボロボロの身体で帰ってきた。希望も何も無かったのだ。せめてもの足掻きに拠点の科学班が作り上げた科学技術を守ろうとアクセスキーを根本から変更、その為のセキュリティシステムの開発、戯れるかのようにアジト付近を襲撃する奴らの下っ端の処理、生活基盤として開発に成功した完全栄養家畜の惨殺や窃盗による食糧難…様々な問題が一気に降り注いだのだ。更に上記の影響で“十字架”の改良は大幅に遅れ奴らの対処はおろか下層、最下層から来る理性を無くした薬物中毒者の対処も難しくなった。
[とある科学者のデータ11.5]
実力だけを見た階級制度が今となり牙を向き始めた。下をまとめる者が居なくなりかつての仲間達は互いを怒鳴り合い貶し合っている。また朝になれば見知った顔が1人2人居なくなっているだろう。当たり前だ…武器も何も無い私達がここまでやれたのは信じ合える仲間や強い信念があったからだ。上が居なくなった事で何一つ統率の取れていない今の惨状を…今は亡き仲間はどんな顔で眺めてるのだろうか…。
[とある科学者のデータ12]
私達は各々が各々の道を歩む事を決めた。誰かを救いたいなら救う、奴らの仲間になるならなる、上手くいっていた頃の義勇軍の再構築を目指すものも居た。私は何をすれば良いのだろうか…何をしたかったのだろうか…どうして私はあの頃の仲間達と共に奴らの元に行かなかったのだろうか…もし行けてたのなら…きっと…こんな苦しみを味わう事無く全て終わらせられていたのに…。
[とある科学者のデータ13]
自分の作りたいものを作ろう。作りたいものは沢山ある。クローンも途中だ、せめて自分の助手にでもなってもらおう。非活動区域に踏み込める特殊な防護服も作りたい。いや、ソレを作るよりも非活動区域の原因である黒煙を取り除く術を考えた方が良いのではないか?取り除く為の機械を作ろう。自分を守れる為に自らのサイボーグ化も検討しよう、拒絶反応の確立なんて知ったこっちゃない、どうせ誰も居ない、どんなに自分の為に時間を使っても誰にも迷惑をかけない、なんて楽なんだ。
[とある科学者のデータ13.5]
懐かしい場所に足を踏み込んだ。初めて大きな戦果を残したあの地だ。少しばかりの研究材料が残っていればと期待していたが建物は劣化し倒壊している。だが時間はいくらでもある。何か一つでも材料として使えるものが得られればそれでいいのだ。
[とある科学者のデータ14]
日々下層を探索する事で集めた材料を使い防護服と黒煙を清浄する装置を作った。防護服は少しマシになる程度だがガスマスクのおかげで内蔵が爛れる事は無い。まさか奴らがばらまいた薬物硬貨の欠片が役立つとは思わなかった。どんなものでも集めてみるものだ。明日は黒煙を清浄する装置がどれほどの効果を発揮できるか検証する為に非活動区域に踏み込む。少しづつでも改良すれば人間1人が生活するのに何の不便も無いだろう。
[とある科学者のデータ15]
人工生命体の素体は完成した。髪も生えてないし生殖器も無い、挙句には眼球全体が緑で白目や黒目の境界線もない…その姿はエイリアンの見た目に近いかもしれない。もう少し見た目を変えてみよう。出来る限り人間に近づければ親近感が湧きやすいはずだ。
[とある科学者のデータ16]
黒煙の清浄装置を作成して何日経ったかは分からない。だがやっとの事で完成した。改良に改良を重ねて非活動区域の中でも比較的黒煙が薄い所なら高層と同等の空気にまで清浄可能になった。とはいえ範囲が限られている為、理想の地形を見つけては幾つもの装置を運び入れなければいけない。もしそこで人が暮らせるようになったら“人工活動区域”と呼ぼう。クローンの核が完成したら共に“人工活動区域”で作りたいものを作るのだ。
[とある科学者のデータ17]
クローンの核が完成した。人工生命体の見た目も比較的人間に近づけた。とはいえサンプルとなるモデルが自分しか居なかったからモデルは男性になったが…まぁサンプルが居たとしても恋愛のひとつも知らない自分は何も出来ない…ならコレで良いという事にしよう。何はともあれ近日中には核を人工生命体に埋め込み黒煙清浄装置の移送をしたい。その為にも“人工活動区域”の理想地形を探さなければ。
[とある科学者のデータ18]
ついにクローンが完成した。作成しようとしたのが何年前…いや、正確な時間は分からないが十数年前かもしれない。歩くどころか形にもならなかったあの頃の自分に自慢してやりたいくらいの出来だ。草原をイメージした髪色が動く度にキラキラと光る様は昔の物語に登場する緑の妖精を彷彿とさせる。しかも喜ぶ私の声に反応しオウム返ししたのだ。まだ言葉の意味を理解していないにしろ言葉を話せる…対話の可能性を見せてくれた。表情を真似する事も出来る。人間の幼子と同じ事をしているんだよ。こんな自慢話を出来る相手なんて居ないが私は彼をこの世に生まれさせて良かったと心から言える。
[とある科学者のデータ19]
“人工活動区域”も少しづつ生活基盤が整ってきた。先日は湧水の汚染物質を取り除く薬品も作った。黒煙清浄装置と根底は同じで汚染物質と薬品を混ぜ合わせた際に起こる化学反応を利用し無毒の飲料可能水に変える。最下層や下層に薬品を共有したい気持ちはあるが制作コストが高く限られた量しか作れない…今この状態で情報を流出させれば争いの種になりかねない…平等に分け与えられない科学技術はこの地で留めておく方が良い。
[とある科学者のデータ20]
“非活動区域”に何度も足を踏み、サイボーグ化の拒絶反応を騙していた影響が今になって出てきた。恐らく私はもう長く生きられないだろう。私が死んだら彼はどうなってしまうのだろうか。1人で生きていけるのだろうか。彼と過ごす事で孤独に生涯を負えずに済んだにも関わらず私は彼を孤独な世界に突き落とすしか無いのだろうか…。
[とある科学者のデータ21]
数多の失敗を書き記したクローンデータでは彼の事を“Cm-614352-K”と記載している。だが彼は私の右腕であり仲間であり家族のような存在だ。実験動物のように扱うのも気が引ける。早めに名前を考えなければいけないな。
[とある科学者のデータ22]
私が薬で苦痛を誤魔化していたのが彼にバレてしまった。少し顔を歪ませるだけで悲しむ彼を見るのが辛い。血の繋がりは無くとも我が子のように愛してる。悲しみなんて感じさせたくない。
[とある科学者のデータ23]
彼の感情の『哀と怒の関連思考を削除』した。
[とある科学者のデータ24]
彼が誰にも傷つけられないように『再生細胞を利用した修復機能を搭載』した。
[とある科学者のデータ25]
彼が私を知っている人に少しでも会えるように『“十字架”の情報データ』を入れた。
[とある科学者のデータ26]
遅くなってごめんな。君の名前は“フェル・リフ”だ。センスが無いって笑わないでくれよ。これでも精一杯考えたんだ。大事にしてくれると嬉しいよ。
[とある科学者のデータ27]
“フェル”。君は誰かを守る為に、助ける為に作られたんだ。でも無理に誰かを助けようとなんてしなくていい。君は私にとって大事な大事な子供なんだ。だからこそ、いっぱい幸せに過ごしてほしい。
[とある科学者のデータ28]
こんな世界に独りにさせてごめんよ。ずっと傍に居てあげられなくてごめんよ。泣く事も怒る事も許してあげられなくてごめんよ。連れて行ってあげられなくてごめんよ。
[とある科学者のデータ29]
“フェル”。私は君をずっと愛しているよ。
[とある科学者のデータ30]
彼の記憶データから『私のデータを削除』した。
……………………………………………………………
~自動再起動システム作動~
~プログラム接触が感知されず指定期限を迎えました~
~クローンの再起動を開始します~
~自動バックアップシステム作動~
~プログラム接触が感知されず指定期限を迎えました~
~重要データ『フェル・リフ』『フェル・リフの製造機作成方法』『クローン基礎データ』『再生細胞による修復能力』『良い親の定義』『核の改良』『DNA兵器応用』『人工知能“心”』『フェル・リフの記憶データ再ダウンロード』を小型データパックに移送します~
……………………………………………………………
「ボクはアナタを忘れたくなかった」
「でもアナタはボクが傷つかないように」
「辛い選択をしてくれたんですよね」
「…」
「“人は死んだら天国に行く”と言っていましたね」
「天国には綺麗な空気があって」
「美味しいご飯があって」
「柔らかなベッドがあって」
「色とりどりの花があって」
「とても美しい場所だと言っていましたね」
「…アナタが遺した“人工活動区域”みたいな場所だとボクは思います」
「…」
「天国からは何でも見えるとも聞きました」
「どうか天国からボクを見守っていてください」
「アナタが目指していた形を絶対に創ってみせます」
「なので…もしボクの身体に“死”が訪れた時は」
「ボクの遺したものを沢山見たと褒めてください」
「また頭を撫でてください」
「また抱き締めてください」
「また家族になってください」
「ボクもずっとアナタを愛しています」
題名:理想郷
作者:M氏
出演:とある科学者とクローン
【あとがき】
めっちゃくちゃアレですね
世界観が凝り固まってる創作ですよね
とある世界観を元に1人で妄想して書きなぐっていた創作物です
科学者が目指した理想郷はどんなものだったのでしょうか
クローンが目指す理想郷はどんなものなのでしょうか
M氏の頭じゃきっと思い付かないような
素敵なものを出してくれるのでしょうね
血も種族も関係無く彼らは家族であり仲間であり最高のパートナーだったと私は思っています
私たちの理想郷
それは皆が傷つくことがない、美しい世界。
皆が少しずつ優しさをもってしていれば、きっと叶うはずなのだ。
きっと色々な策略が絡み合ってこの世界は難しいのだろうが、私は人の、人類の可能性を信じたいと思う。
飯を作るあいつの後ろ姿
周りをうろちょろするようになったクソガキ
ぬるま湯のような手を伸ばしたような景色
理想郷
私はずっと逃げ続けていたのかもしれない。
ここに文章を綴ることで、救われたい。
私はずっと頭の中での理想郷に生きていたのかも。
現実と向き合う勇気がなかったのか、、
今からでも生き直せますか?
教養もありません。
圧倒的な美貌があるわけでもありません。
性格も良いとは言えません。
それでも、変われますでしょうか。
今の自分を受け入れた上で、アップデートできますでしょうか。
私は自分の人生を生きたい。
5年後死ねますか?-いいえ。
いつから私は、いやずっと直視できなかったのか。
正直な感情や感情や感情を。
自分の実態を。