John Doe(短編小説)

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無題


男はゆっくりと女の子の両腕から崩れ落ちていく。
「心配しないで」
彼は精一杯の笑顔をつくって、泣きじゃくる女の子の頬を拭った。
「君が…ちゃんと天国に行けるように…先に神様にお願いしてくるから…」
女の子は肩を震わせて泣いた。両目から止めどなく涙は流れ続け、血にまみれた彼の軍服に雨粒のように降りかかる。
「だから…泣かないで。死ぬのは怖くないって、たった今から見せてあげるから…」
彼は息絶えた。

女の子は避難サイレンの鳴り響く瓦礫の街の隅で、彼の亡骸を埋葬した。
女の子は「愛してる」と呟くとオーバーコートのポケットからタバコを取り出して咥え、土砂降りの雨の中、傘も差さないで戦車のキャタピラの後を踏みつけながら避難所へと歩いて行った。

11/1/2023, 7:01:22 AM