「おはよ。」
低音の心地良い声が聞こえてくる。
目を覚ますと不思議な色の天井。
シーツと枕は白い。
布団の中はとってもあたたかい。
寝返りを打つと、整った顔の男。
男はニコリと微笑みながら私を見つめる。
「よく眠れた?」
男は優しく頭を撫でる。
コクリと頷くと「良かった、」と言いながら目を細めた。
「俺もよく眠れたよ……ありがとうね。」
そう言いながら抱きしめられる。
なんだか不思議な感覚だ。
別に私は相手と恋人関係という訳では無い。
ただ、寂しくなった時に慰め合う。そんな繋がり。
でも私にとってはそんな繋がりが、有難かった。
ふと時計を見ると、時計の針は十時を指していた。
男も私につられて時計を見ると、焦った顔をする。
「やっべ、もう出なきゃ。」
バタバタとお互い準備をしてその部屋を出た。
外に出ると、空は快晴。
空気はほんのり冷たくて、私はその空気は嫌いじゃなかった。
「じゃあ、俺はこれで!!」
男が手を挙げながら走り去る。
それに返すようにゆっくり手を振った。
男が見えなくなった辺りでクルリと振り返り、男は違う方へ足を進める。
平日だからか、スーツの人が多い気がする。
それでも休みなのか、カップルも数人いる。
ふと、とある人が頭に浮かんだ。
「君って八方美人だよね。」
その人はいつも頭の中に現れては、そう切捨てて、去っていく。
かつて、私が愛した人。
こんな私を作った人。
きっと過去にも、これからもここまで愛する人はいないと思う。
そう、きっと私は 彼 に囚われたまま___。
吐き気がすると同時に、ポッケに入ってたスマホを取り出す。
連絡先をスクロールしていくと、そこには今日一緒にいた以外の男の連絡先がたくさん入ってる。
ここの人達は、私と同じように寂しい人達。
誰をどう愛そうと関係ない人達。
私が何をしても咎められない。
理想の世界の住人なのだ。
とある連絡先の通話ボタンを押す。
コール音が何回か鳴ると、「もしもし」という声が聞こえてくる。
『今日、この後会えない?』
こうして私はまた、誰かと夜を共にするのだ。
#理想郷
11/1/2023, 6:29:44 AM