『理想郷』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
絹のぬくもり
しずかに香るナイトムスク
ステンドグラス燈のゆらめき
森と星と風のささやき
月明かりがつつみこむ
夢みる魔女のちいさな塒(ねぐら)
深い傷を残すような
全てを壊してしまうような
争いごとのない世界
「生」あるものが
互いを認め共存し合える場所
そんな穏やかな世界に
身をおきたい
#理想郷
#16
何だここは、暗くてよく見えない。
誰かいませんかー!返事がない。
あ、あっちの方に強い光が見える。
歩いていくと次第に明るくなり、派手な看板を見つけた。
「みんなの理想郷 カムヒヤー」
おお、ここが理想郷か。いつのまにか高い塀に囲まれた
理想郷の目の前に立っていた。
大きい扉を見つけておもいっきりノックする。
開けておくれー!
ゴツ!!…痛いなんてもんじゃない。
返事とばかりに塀の上から投げられた石が頭に当たった。
こちらからは見えないが数人の声が降ってくる。
帰ってくるな!ここにお前はいてはいけない!
せっかく理想郷になったんだ。
どっか行け!ここ以外のどこかへ行け!
仕方なく、もといた場所に戻る。
…追放されたのかな?そうか、私があそこからいなくなったから
みんなの理想郷が完成したのか。
気がつくと誰もいないと思ってた暗がりに結構人がいた。
皆一様に頭から血が流れてる。
自分の頭から流れる血を見せると皆が笑った。私も笑った。
安心した。なんだ、ここが理想郷だった。
理想郷
「これは桃ではない! 」
見慣れない白服を着た人は、木にぶら下がっているモモの実を指して言った。
モモの実は握りこぶし大で、表面には産毛が生えている。果実の頂点はきゅっと窪んでいて、その中心から垂れ下がるように割れ目がある。
「いいや。これはモモだね! 」
私は腕をぎゅっと組んで言った。
「根拠はなんだね根拠は! 」
「先月この樹に白い花が咲いたんだ。そしていま、ピンクな実をつけている! 貴方には分からないだろうがね! 」
私はモモを栽培している。モモの特性や植生はお手の物であり、絶対の自信がある。
「白い花が咲いてピンクの実をつければ桃だっていうのか!」
「なにを、それだけじゃないぞ! 産毛が生えているし、割れ目もある! 見ればわかると思ってあえて言わなかったんだ」
「それじゃ白い花が咲いてピンクの実をつけて、産毛が生えていて割れ目があったら桃だって言うんだな! 」
「あぁ。そう言ってるんだ」
「横暴な桃農家め! 」
「なんだとこのわからず屋! 」
これがモモでないならなんだって言うんだ。
まさか「食べるには少し小さいからモモとは呼べない」なんてくだらないことを言うんじゃないだろうな。
「……そんなに気になるなら、もいで齧って見るといい。モモの味がするはずだから」
「それじゃダメなんだ! 」
「どうして」
「仮に桃の味がしたとして証明する手段がない! 」
証明?
なぜそんなことをする必要が……。
……!!
私は先日届いた電報を思い出した。
「……もしや、生物学者の百木(ももき)先生でしたか!」
「そうだとも」
電文には、生物学者の百木という人がモモの樹を調査するとの事が記されていた。
百木は遠い島国からニ日以上かけて、飛行機なるもので飛んできたらしい。
「大変失礼致しました。百木先生だとは知らず……」
「それはいい。それよりもこの実は、この地域では桃なんだな」
「はい」
「君の常識を疑うような真似をしてすまなかった。私は本当に、このような果物を見たことがなかったのだ」
「と、いいますと?」
「私の知っている桃はもっと白っぽいピンクをしている。品種によっては濃いピンクのものもあるが、こんな蛍光色めいたものは見たことがなかった。それに、この樹の樹皮にはトゲが生えている。私の知る限り、桃の木に棘は生えていない」
なるほど。そういうことだったのか。
島国と私たちの国が国交を持ったのは、つい最近である。正確に言えば、島国だけじゃなくて、世界と、なのだが。
つまり、常識が違うのだ。
聞いた話では、大海原を超えた先に住む彼らの地には、砂漠なる死の土地があり、雪なる白い綿のようなものが降ったりするらしい。
年中暖かく、沢山の植物に恵まれているこの地とは、やはり常識が全く違うのだろう。
「その、君たちはその実を食べているのか? 」
百木先生はおっしゃった。
「はい。まだ少し小さいですが、これくらいの実を食べることもあります」
「さっきは証明なんて言ったがね、私は君たちの食性にも興味があるんだ」
「はぁ」
「これを食べてもいいかな? 」
百木はモモを指して言った。
「ええ。是非をお食べになってください! とても美味しいですから」
私はそう言うと、モモの実を二つもいだ。
片方にかぶりつく。
ジュワッと優しい味が広がって、美味しい。
「私たちはこう食べてます。どうぞ」
百木にモモの実を渡した。
「頂こう。……うん、……うん。美味いな」
「本当ですか! よかった」
「美味いが、これは桃では――」
直後、百木は倒れた。
口から泡を吹いている。
「先生、先生! どうしたんですか! 大丈夫ですか! 」
背をトントン叩いてみる。が、呼吸はどんどん浅くなって、やがて止まった。
「先生!!! 」
体はもうピクリとも動かない。死んだらしい。
私は背中の羽をパタパタ動かして空を飛んだ。
死体は土に帰ってやがて養分となり、モモの樹の栄養となって実になるだろう。その時、私は先生のことを思い出しますね。
しばらく空を飛んでいると、電文の一部を思い出した。
「モモは人には猛毒である。案内する翼人は、人がモモを食べないよう十分注意すべし」
災害もなく動物と人が共存し自然に愛される。
花が咲き乱れ同じ刻を過ごし人々が手を取り合う。
皆平等に衣食住が与えられ戦も嘘も生まれない。
果たしてそんな世界は存在するのだろうか。
今息を吸って吐いたこの一瞬でさえ、きっと僕の知らないところで、誰かが泣いたり命を落としてるんだろうな。
理想郷は綺麗事の塊だ。
考えるだけで気持ちが沈む。
そもそも“理想”ってなんだろうか。それは僕の?皆の?
僕だけのだったら、ただ好き勝手喋るだけで済む。聞きたい奴だけが耳を貸せば良い。
けれど基準が皆のための理想だったのなら。それはこの上なく難しいと思う。この世の人達全員が右向け右をするのは不可能だと思う。同じ理想を掲げるのは無理な話だと思う。だから、“皆が必要とする理想”の正解は無いと思う。
それを踏まえたらやっぱり、理想をあれこれ考えて述べる行為って意味ないのかな。
よく聞く言葉だけど、理想と現実は違うから。
だから僕は理想を追求しない。
今日の月を眺め、明日の朝日を浴びるだけ。
さて、そろそろ寝るか。
おやすみなさい。
理想郷
「我々は、この現代に
真の理想郷実現のために、
日々精進しております!
そんな我々のために、どうかどうか
あなた様の浄財をご寄付ください!」
駅前で声を枯らしてこう主張する彼。
我々、という割にいつも1人だ。
人々はそんな彼の脇を見向きもしないで
すり抜けていく。
彼の考える理想郷。人々は美しくたおやかで、争い事や醜い嫉妬も知らず、動物や植物とも助け合って暮らしている。
彼はこう呼ばれている。
理想狂、と。
【仕事中】
理想郷
ないかなぁ
理想郷なんて。
とりあえずWi-Fiが早く
動いてくれるようになってほしい
理想郷
ここはどこだろう?
暗い中を私は一人で歩いていた。あたりは静かで何も見えなくて、ただ足元だけがぼんやり見えている。不安が胸に押し寄せてくる。誰かいないの? 早くどこかへ。
その時、先に小さく光が見えた。良かった! 私は救われた気分でその光を目指して進む。光が段々と近くなり、目の前に浮かび上がるように若い男が現れた。黒っぽいスーツを着て、すらりと背が高い。彼はにこやかに笑いかけてきた。
「こんばんは。この先へ進むには道を選んでください」
そう言って、彼は自分の後ろを手のひらで示した。
そこには二つに分かれた道が見える。彼は左側の道を指し示した。
「こちらはあなたが理想とする場所へ向かう道」
「理想?」
「そう理想郷、ユートピア、シャングリラなどとも言いますね。そこでは何の悩みも苦しみもなくあなたが理想とする人生を生きられる。誰もが幸せに生きている。素敵な所ですよ。
そしてこちらは、今まであなたが生きてきた場所へ続く道」
彼は右側の道を指差した。
「さあ、どうします?」
理想郷。何の悩みも苦しみもない? だったらこっちに決まっている。私は左側に一歩踏み出した。
その時、彼が言った。
「ああ、一つだけ。左側の道へ行けば、あなたが今大事にしているものや記憶が残っているとは限りません」
意味がわからなかったが、嫌な感じがして私は立ち止まる。
「それってどういうこと?」
「例えば家族とか、友達とか、楽しかった記憶とか、そういうものが消えている可能性があると言うことです」
「それは……」
「でも幸せですよ。そこでのあなたは。別に迷うことはないと思うんですがね」
彼はさらに笑みを深めながら先を促した。
「さあ、お進みください」
動けない。柔らかな彼の声が恐かった。
今までの人生が消えるかもしれない? それでも選ぶの? どっちを選べばいいの?
私は右側の道を見た。そして左側をまた見る。
どちらへ?
あなたならどうしますか?
#74
理想郷。そんな名前の小説投稿サイトがあったな。今もあるのかな。
昔そのサイトでなにか読んでいた記憶があるけどほとんど覚えていない。
小説投稿サイトといったらやっぱりなろうが一番有名だろう。年を取ってからはめっきり小説を読まなくなってなろうも覗かなくなった。
なんか最近はなろうが女性向けの作品ばっかりになってるみたいだな。それを聞いてちょっとランキングを見に行ったことがあるけど確かに女性向けっぽいのが多かった。
小説投稿サイトとして今最も熱いのはどこなんだろう。最近なんかカクヨムの名前を聞くことも多くなったけど。
でもやっぱりなろうなのかな。もはやジャンルにもなった一大サイトって感じだもんんな。
なろうの名前が欲しくてなろうに投稿する人も多いだろう。漫画で言うならジャンプみたいなものだ。
ネームバリューを求めて客が来るから自ずと作者も集まる。好循環ってやつだな。
みんなが笑っているような。
みんなが悲しむことのない世界を。
誰も傷付くことのない、命が失われることもない。
雨ではなく飴が降ったり、きらきらした虹がかかったり、気持ちがさっぱり晴れるような空が見える。
誰もが過ごしやすい気候で、いつもゆったり好きなことができる。
綺麗なものだけ見ていられる。
そんな世界に生きたかった。
『理想郷』
完全で完璧
そんな世界があるのなら
わたしは解放されるのだろうか
『理想郷』2023,11,01
手の届かない夢は欠けたりしない。背中合わせに辿り着いた仮想はかつての姿を失って、もう一つの現実としてまた眼前を覆うようだった。夢の欠片で手を切って、その傷が中々治らないことを、現実を知ったと呼ぶのはあんまり好きじゃない。たぶん夢を見るのが下手になっただけだ。痛いのは嫌いだったような気がするけれど、今ではなんだかそうでもなかった。星に手を伸ばしては落としてしまう人間たちに、決して手の届かない一等星がありますように。全ては遠き理想郷。そういうやさしさがあるって思う。永遠に。
理想郷
森の中
自然と共存
静かにおだやかに暮らす
生き物達のあいだに争いはない
心に波のない世界
あなたの理想はなに?
君だけの理想郷を作ってさ
僕もそこに連れてって
僕の君の理想に寄り添いたい
理想郷
新しい家族のカタチ
新しい人間関係のカタチ
言葉なんてなくても
通じ合える
美しいカタチ
生きモノ全てと人形たちと
心かよえる場所
それがワタシの理想郷
ぬいぐるみじゃありません
家族なんです
彼らはワタシの中で確かに生きている
認め会える世界
それがらワタシの求めている理想郷
風のいろ
君さえ居ればいいと、そう決めた。
君が幸せでいられるのなら、他の全ては些末なこと。
君の何気ない明日のため、僕の全てを捧げると。
それが私の、一番の幸せだと。
そう決めた、筈なのに。
目まぐるしく動く視界の中、知らない筈の君の笑顔が浮かんで消えない。
ねぇ、その顔は誰に向けたものだったっけ。
本来なら、隣に、僕が。
そこには確かに、有限かつ微かな光があった筈で。
一粒の雫が、重力に逆らって離れてゆく。
本当に、本当にこれで良かった?
私は、僕は、幸せか?
あぁ、出来ることならもう一度、君と。
理想郷の完成まで、あと10cm。
【理想郷】
「理想郷」
何もせずに自由に暮らせる場所が理想郷だ。
気ままに、悩みがない場所で、悠々自適に暮らしている。
[理想郷]
いつもそばにいて
一番に考えてくれる
そんなあなたを見たくて夢につく
目が覚めて、ふと見回しても
そばにいなくて
実際に留学生を受け入れる前は、期待70、不安30くらいだった。うちは狭い、小さい、家族は多いで、どうなることかと思ったが、あと1ヶ月となった今、なんとかなるさと思うように務めることにした。
炬燵、もたれ掛かるためのビーズクッション。スマホの充電器も延長コードでめいっぱい近づけている。大容量の魔法瓶に熱いコーヒーをたっぷり注いで、お菓子も甘いものとしょっぱいものを用意してある。積んであった本を数冊と、読み返したかった漫画、どこでも遊べる家庭用ゲーム機で抜かりはない。
これが私の理想郷。完璧な楽園。
そこを踏みにじる、突然の尿意。