『澄んだ瞳』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
瞳から涙が流れる
その涙は嬉し涙? そうだと嬉しいな
今日は特別な日 私とあなたの大切な日
人は泣く 嬉しくて 悲しくて 悔しくて 怖くて
理由は様々 どれも心が動いた時
その中で その澄んだ瞳を濡らす理由がわたしなら
なんと嬉しいだろう
その美しい瞳で何を見ているのか。
この世界のあるがままを、素直に受け止めてほしいと。
ただ、そう願うのもまた強欲だろうか。
あなたは、何にも縛られない。
『澄んだ瞳』
澄んだ瞳。
君の目は澄んでいるねって言われたことはないが、
心のなかで街ですれ違う人と目が合うときに口に出しそうになることがある。
基本的に人と至近距離で関わることが苦手な僕は自分から話しかけに行くことができない。
怖いのだ。
普通の人たちの輪に入るのも、
自分が普通になってしまうのも。
でも魅力を感じた人のそばに行きたいと思うし、
話したいと思う。
だがそれはいつだって周りの人と少し違うなと思う人だった。
髪色でも、
目の色でも。
中でも目というのは僕の大好物だった。
キラキラした目。
緑色の目。
ハイライトの入らない黒い目。
ずっと見つめていたくなる。
だから僕は僕が好きだ。
特に僕は僕の目が好きだ。
僕の目にはハイライトが入らない。
写真なんかはいつも暗く映る。
でも近くで見れば栗色のきれいな目だ。
きっとこれを知っているのは僕と、
これを読んでしまった貴方だけだ。
僕らだけの秘密ですよ?
都会の濁る空の下、
君の瞳は澄みきったまま。
宇宙まで見えてるんじゃないかって、
そんな透明感を放ってる。
繁華街、澱んだ空気、
君の瞳は透き通ったまま。
心の奥を読めるんじゃないかって、
そんな純真さを振り撒く。
君は清らかすぎるね。
その曇りのない両目には、
混沌とした世界はどう映ってるんだろうか。
澄んだ瞳
こんな瞳を持ってる人に見られたらなんでもしたくなっちゃうよね。
【澄んだ瞳】
頭の固い副会長として有名な僕は生徒に嫌われている。
不名誉な噂が流れようと訂正する気にはならない。
馬鹿は信じればいい。友人は僕自身を知っている。
僕も面倒だから、規則を破らなければ何も言わないのに。
しかし今年に入って、厄介な女が現れた。
「よく知りもせずに貶めるなんて最低です」と喚く声。
またか、とため息をつきながら近づいた。
案の定、いらぬ世話を焼く女が上級生に噛みついていた。
「余計なことをするな、と何度言えばわかる」
でも、とまだ何か言いたげに女はふてくされている。
よく見ず知らずの他人のために怒れるものだ。
そこだけは感心する。馬鹿さ加減には呆れるが。
その女は一年の三学期に転校してきたばかりらしい。
成績は優秀で、今年から生徒会の活動に参加している。
会長はいい子だと言うが、僕の邪魔をするなら許さない。
初対面で忠告したのに、彼女は手間を増やしてばかり。
仕事を覚えるのは早くても、小さなミスが目立つ。
関わらぬようにしているのに、わざわざ話しかけてくる。
彼女は多くの女子に嫌われている。僕も嫌いだ。
自分が正しいと信じ、純真な乙女を演じる偽善者。
書類の山を抱えて生徒会室へ移動中、また声がした。
「黙ってろって言うんですか。そんなのおかしいです」
それほど大きくもないのに耳に入るのはなぜだろうか。
考えれば首をつっこむ必要もないのに、放っておけない。
間に入れば、相手方は逃げるように去っていく。
「なんで否定しないんですか。あんなの嘘ですよ」
まっすぐ向けられる彼女の瞳には一点の曇りもない。
心の奥まで見透かされそうで、とても居心地が悪かった。
――綺麗……
そう思わず声を漏らしてしまうほどの美しい女性とすれ違った。
艶やかな髪、透き通るほどの白い肌、そして何より緑がかった茶色の瞳。美を体現したようなこの女性は浮世離れしており、本当に現世に存在するのか疑わしいところだ。
――画になるな。
心の中のカメラを構える。
写真部に入り、4ヶ月が経ったが、いまいちピンと来る写真が撮れずにいた。
あわよくば、心の中のメモリーに保存するだけではなく、実際のメモリーに保存したいところだが、叶わぬ夢。
その女性は信号が変わったため、スタスタと歩いて行ってしまった。
嗚呼、歩いている姿も美しい。
一瞬あった目に心を奪われて仕方がない。
今日のテーマ
《澄んだ瞳》
彼女の瞳はとても澄んでいて、その瞳で見つめられると、僕は何だか落ち着かない気分になってしまう。
胸の奥にくすぶる下心をすべて見透かされてしまいそうで、うしろめたく感じてしまうからかもしれない。
見透かされるだけならまだしも、軽蔑されたり、ましてや嫌われたりしたら――そう思うだけで身が竦む。
恋愛は惚れた方が負けだというけど、それは本当にその通りだと思う。
そうして僕は今日もまた、彼女の澄んだ瞳に見据えられ、内心で冷や汗をかきながら表情を取り繕う。
内なる欲望を看破されることがないように。
「なにか、隠し事してない?」
「してないよ」
「じゃあ、どうして最近全然目を合わせてくれないの?」
上目遣いでじぃっと見つめられ、つい反射的に目を逸らしてしまう。
心の奥底まで見通されてしまうのではないかと思うくらい、その眼差しには力がある。
拗ねたように微かに寄せられた眉が、何かを我慢するように噛み締められた唇が、そして何より、どんな些細なことも見逃すまいと言わんばかりにまっすぐこちらを見つめるその瞳が、まるで僕を責めているのかようだ。
いや、事実、責めているのだろう。
何を隠しているのだと。
明かせないような後ろ暗いことがあるのかと。
言葉こそないものの、彼女の表情が雄弁にそれを物語っている。
だけど、だからといって「君のことが好きすぎて不埒な妄想が止まらないんだ」なんて素直に白状するのも憚られる。
つきあい始めてまだ半月も経っていないのだ。
がっついてると呆れられたくないし、もっと言うならそういう欲望が目当てでつきあい始めたのかなんて絶対に思われたくない。
せめてもう少し僕達の関係を深めてから、段階を追って明らかにしていきたいのに。
どう言い訳したものかと必死で言葉を探す僕を見て、彼女の表情がだんだん曇っていく。
拗ねたり責めたりという変化ではない、まるで花が萎れていくかのように、眉は下がり、視線は足元を彷徨い、唇からは小さなため息が零れ落ちる。
「……もしかして、飽きちゃった?」
「へ?」
「わたし、見た目も地味だし、話も面白くないし、男女交際とか初めてだから男の子が何考えてるのか察してあげられないし」
「え、いや、ちょっと待って」
「怒らせるようなことしちゃってても気づけないし、他の女の子に目移りされても引き止められるような魅力もないし」
「待って、ちょっと待って!」
突然ネガティブモード全開でつらつらと上げ連ねていく彼女の目にはいつのまにか大粒の涙が盛り上がっていた。
体の脇で握りしめられた拳が小さく震えてるのに気がついて、僕は慌ててその言葉を遮ると、居ても立ってもいられずにその身をぎゅっと抱き締めた。
カッターシャツの胸元が彼女の涙を吸い取って湿り気を帯びてくるけど、そんなこと気にしてなんかいられない。
宥めるように背中を撫でながら、何度も「ごめん」と謝った。
「ごめん、ごめんね。不安にさせたかったわけじゃないんだ」
「じゃあ、どうして……」
「その……つい、えっちなこと考えちゃってて、それを気づかれたくなくて。軽蔑されるかなって、怖くて」
破れかぶれで白状する。
だって、彼女を泣かせてまで隠しておくようなことじゃない。
軽蔑されるかもしれないって不安はあるけど、たぶんいつかは通る道なんだし、いつまでも隠しておけることでもない。
できることならもっとタイミングを見て、いい雰囲気の時に明かして、あわよくばそのまま――なんて展望も抱いてたけど、そもそも時間が経ったとしてもきっと僕にそんな器用な真似ができるはずもなかっただろう。
彼女は僕の胸元に顔を埋めたまま微かに身じろぎしたけど、脱兎の如く逃げられたりすることはなかった。
見下ろす耳たぶがほんのり赤くなってるから、意味が伝わらなかったということもないだろう。
ちゃんと理解した上で、逃げもせず、僕に抱き締められたままでいてくれることから、恐れてたようにドン引かれたりはしなかったらしい。
ただ、少しばかり肩に力が入ってることから、怖がらせてしまってるかもしれないなとは思う。
「我ながらがっついててみっともないとは思うけど、ちょっとそういうこと考えちゃ売ってだけで別に今すぐ無理にどうこうしようとかいうわけじゃないから……」
そう、何も今すぐどうこうしようというわけじゃないんだ。
したくないわけじゃないけど。
でもどうせならムードのある演出はしたいじゃないか。お互い初めてなわけだし。
「……」
意識が斜めにずれたことで、僕は気づいちゃいけないことに気づいてしまう。
抱き締めた体が思ってた以上に柔らかいとか、お互い薄着だから密着するとこんなにも体のラインが分かっちゃうんだよなとか、そういうのは今は考えちゃ駄目なやつだ。
ますます彼女と目を合わせられなくなりそうだと思いながら、僕は必死に「煩悩退散」と自分に言い聞かせ、ここからどうやって軌道修正するか頭を悩ませるのだった。
僕はその人の瞳を見ただけで、その人のことが大体分かる。
人の目には景色が映る。その景色で、僕は相手が何を考えているかが分かった。
まあ、その所為で苦労したものだ。
まず、僕はお金持ちの家の生まれだ。
そんな僕に近づいて来る人は、家のお金目当てばかりだ。
それが全て分かる。幼少期からずっと。
普通に嫌になるだろう?
中には僕とただ、友達になりたい人も居たけど、最初はそれも嘘じゃないのか?なんて疑ったりした。
会う人全部が僕の敵に見えて、辛かった。
と、そんなこんなで色々あったおかげで僕は普通に病んだね。
家では荒れて、外では誰とも話さない。
人と話すことがあっても人の目を見ることなんて出来やしなかったよ。
僕は人を嫌いになり、人は僕を嫌いになった。
どうしようもなくなり、元いた友達もいなくなり、高校生にもなれば僕はひとりになった。
そんなある日、教室で僕に話しかけてくる物好きな女の子が現れた。
名前は角田目 凛と言うそうだ。
いや、僕が尋ねたんじゃないよ?彼女が急に僕の耳元で名乗ったんだよ。
理由を聞いたら、
「漫画で知ったの。相手の名前を知るにはまず自分から名乗ることが礼儀だって」
いや、だからと言って僕の耳元で名乗りをあげてもいいわけないんだけどね?
と僕は抗議したけど、彼女は笑うばかりで聞く耳を持たない。
酷いものだ。
だけど、少し楽しかった。
彼女は、僕に毎日話しかけに来てくれた。
僕も最初は面倒だったけど、無視した方が面倒になったので、話は聞く様になった。
彼女の話すものは実にくだらないもので、りんごジュースおいしいよねー?とか、スマホの充電1%ギリギリまで使うのがモットーとか、ホントにくだらなくて。
笑ってしまった。
僕が笑うと彼女も嬉しそうに笑うので、なんだか心がぽかぽかした。
いつしか彼女の見せる笑顔が好きになり、その笑顔を見たくていつも僕は笑うようになった。
僕も話したくなったから、彼女にお話しした。
すると、彼女は僕の話を真剣に聞いて、笑ったり、怒ったりした。
時には泣いたりして、僕が慌てる羽目になった。
だからと言って、僕達は話さないことは無かった。
高校卒業の頃、僕らはいつも通りお話した。
高校生活楽しかったね、と。
それは、君のおかげで楽しかったんだと言うと、彼女は
「それじゃあ、明日からも毎日話そうね!」
「そうだね。それよりもまず今までのことを一緒に帰ってお家で話そうよ。
僕はまだ話し足りないんだ」
彼女は一瞬ポカンとしたけど。
どうやら、僕の言いたいことは分かったようで。
「これからもよろしくね!」
と彼女は今まで以上の笑顔を見せてくれた。
ふと、夕飯に思い返す。
そういえば、彼女の目はいつも笑顔で見えなかったなと。
だから、目の前のいる彼女の目を見て僕は驚いた。
「綺麗だ……」
「んー?どしたのー?」
彼女の目は晴天の様に綺麗に澄み渡っていた。
「ママー?パパがないてるー」
「そうだねー。私の料理が美味しくて泣いてるんじゃない?」
彼女のその澄んだ瞳に映る景色には、僕ら家族がいた。
赤ん坊の目がきれいだと思ったことがある。
濁りのない、クリアな目。
時が経つにつれ、その目は少しずつクリアで
なくなっていく。
大人になっていくなかで、いろんなものを
見るからだろうか。
「澄んだ瞳」
彼を見ないで。その穢らわしい眼差しで。
彼が穢れてしまう。
適当な卑下を自身へ。私は視線を逸らす。
私を映さないで。その澄んだ瞳に。
あなたが穢れてしまう。
警告を一つ。警鐘の悲鳴を聞きながら。
あの子は親友。そう胸を張って言えなくなったのはいつからだろう。特にコンプレックスもなかった昔の自分はもう戻ってくることはないのかもしれない。
少しだけ悲しくなって───呆れてしまった。自分から彼女を拒絶したのに、今更悲しくなるなんて。自己中もいいところだ。
だけど、もしあの頃に戻ることができるのなら、絶対に戻りたい。戻ってやり直したい。そう思ってしまうのは、やはり自己中なのだろうか。
「初めましてっ」
彼女が私に最初にかけた言葉はこれだった…気がする。もう四年も前のことだから覚えてなんかおらず、でもそんな感じの言葉だった。
それから私たちは名乗りあい、少しだけ話をした。そうしてみると、好きなアイドルグループが同じだとか、算数は苦手だとかという共通点が見つかり、その短い時間の中だけで話したにしてはかなり仲良くなったと思う。
同じクラスの前後の席だったため、それなりに…というか、かなり関わることが多く、私たちが親密になるのも時間の問題だった。
休み時間には推しの話をしたり、先生の愚痴を言ってみたり。当時小学三年生で陰キャを極めていた私にとって、先生の愚痴というのはひどく憧れるものだった。
それを、彼女といればいとも簡単にでき、そんな自分に驚きもした。
そんな感じで、クラスが分かれてからも私たちはよく遊んでいたし、お互いに親友だと思っていたのだ。
だけど───小五になればだんだんと分かってくる。彼女と自分の差がかなり大きく、一緒にいると不釣り合いに見えるということが。
彼女はとても可愛かった。性格も悪い訳ではなく、そしてノリがよくてコミュ力が高かった。あっという間に彼女の周りには「イケてる」女子たちが群がり、仲良くなっていく。
それでも、彼女は私を選んでくれた。それはとても嬉しいことだと思う。でも、自分が大した人ではないことを知った当時の私には、それはとても迷惑なことだった。
どこかで、「なんであんなブッサイクな子と一緒にいるわけ?」と笑われている気がする。このままでは、彼女の人気も下がってしまうかもしれない。
だから、私はとても愚かなことをした。放課後彼女を呼び出し、「もう関わらないで」と言ったのだ。理由をしつこく聞かれても、「嫌だから」の一点張り。彼女がどれだけ傷ついたのかは計り知れない。
彼女は苛立つ思いをぶちまけてスッキリしたのか、澄んだ表情で私を一瞥し、「ならもういい」と言い残して去っていった。
それから、彼女と私が話したことは一度もない。
だけど、一度だけ目が合ったとき、悔しさも未練も残っていない澄み渡った顔で私を見ていたことを覚えている。それは本当に一瞬のことで、彼女はすぐに
「瞳、見て見て!」
と言われて視線を私からそらしてしまった。
彼女───瞳のあの澄んだ顔は、今も私の心に傷を残している。周りの目ばかり気にして愚かなことをした過去の私を思いっきり殴ってやりたい。
でも、どれだけ後悔しても時が戻ることも、私たちの仲が戻ることもないのだろう。悲しいけど、仕方がない。
零れそうになる涙を上を向くことで抑えながら、私は晴れ渡った青空を眺めていた。
───「澄んだ瞳」
こちらをまっすぐに見つめる君の瞳には、どんな私が映っているんだろう。醜く汚れた部分は、うまく隠れているだろうか。君のその澄んだ瞳は、私で汚してしまうにはあまりに惜しいから。
「澄んだ瞳」
〜澄んだ瞳〜
ふと、視線が重なり合う。
少し戸惑いながらも微笑んでくれたその顔が、脳裏に焼きついて離れない。
ほんの一瞬の出来事。それでも永遠に感じる程の衝撃があった。
痛む胸を押さえつけ、目を閉じる。
その濁りのない瞳に、私が映り込んだ。
その事実が頭を支配する。
まるで足跡ひとつない雪道の上を歩いているかのような気持ちを抱いて、一人小さく笑った。
今まで飼った動物は、犬、猫、うさぎ、ハムスター、モルモット、ジュウシマツ、インコ、カメ、ザリガニ、金魚、ナマズ、メダカ…
幼児期以降の人間以外の動物は皆、澄んだ瞳なのではないだろうか…?
傍らに眠る猫をジーッと見ていると、視線を感じたのか突然起きて振り返った。
何タダで見てるのよっ?
チュー◯を献上しなさいよっ!
って顔だ。
全くツンデレのツン9割なのだが、それでもやっぱり瞳は澄んでいるように見える。
嘘が無い…からだろうか…?
美しく澄んだ瞳でいつも君は私を見る。
その瞳が硝子細工のようで私は少しだけ怖く感じる。
だけど、目を逸らすことは出来ない。
だってその美しさに私は恋をしているのだから。
ああ、また君が私を見る。
ねえその瞳に私はどんな風に映っているの?
知りたい。けれど知るのが怖い。
でもそんなことは言えずに、今日もただ君の瞳を逸らすこともできず見つめ返す。
願わくば、少しでも綺麗に君の瞳に私が映っています
ように。
『澄んだ瞳』
澄んだ瞳(2023.7.30)
俺は犬だ。「名前」とかいう人間が他の犬と俺を識別するための呼び方はいくつかあったが、そのどれもしっくりこないから、自分のことは「犬」と呼んでいる。
一口に犬と言っても種類があるじゃないかと抜かす奴がいるが、基本的に目鼻口耳尻尾があってワンと鳴く奴はみんな犬だ。まぁ、俺を見た人間は大体「なんかふてぶてしい顔をした犬だな」と言うから、そういうもんなんだろう。
俺の一日は狭っ苦しいガラスケースの中で始まり、そして終わる。そのケースの目の前をいろんな人間が通って、こっちを指差したりガラスを叩いたりと好き勝手やってくれる。昔、隣のケースにいたじいさんの犬に聞いた話だと、人間はここで俺たち犬やら猫やらを、「カネ」とかいうやつと交換しているらしい。「カネ」はたまに人間が持っているのを見るが、どう見たって食えも遊べもしなさそうなあの紙っ切れやら石ころやらをもらって何が嬉しいのやら。頭のよろしい人間様の考えることは全くわからない。
さて、このなんともつまらない毎日だが、もちろんいつか終わりはある。人間様に不人気な奴は、いつしかケースから出されて、どこかに連れていかれるのだ。まぁ、十中八九殺されるのだろう。そしてその条件は、俺にもピッタリ当てはまっていた。いつも俺にエサを運んでくる人間が、やたら憐れみを込めた目で俺を見ながら、コソコソと人間同士で話している。もうすぐ俺にも順番が回ってくるってことだろう。特に悔いもないが、クソッタレな生涯だったな。
そう思っていた次の日、俺のケースの前にメスの人間の子供が来た。大体の子供は俺に興味を持たないか、俺の見た目について可愛くないだのなんだのと騒ぎ立てるが、こいつは違った。ただただ、俺の方をじっと見つめていた。あの人間とは思えない、澄んだ瞳だった。
そのとき、メスの人間の子供の親らしき人間二人がこちらにやってきた。この二人はどちらも人間らしい、というか人間の中でも特に濁り切った目をしていて、全く子供と似つかなかった。親のうちのメスの方はオスに媚びるように寄りかかっていた。
「サキ、こいつがいいの?こんなのやめとけば?」
「……このこがいい」
「そ。じゃあ店員さん、この犬でお願いします」
親子は何やら会話をすると親の方は俺に興味を無くしたようで、手に持っている薄い板をいじり始めた。子供の方はまだ俺の方を見ていて、どうやら自分は「買われた」らしいと俺が気づいた時も、俺にじっと付き添っていた。
「…ごめんね、ママはとってもこわいけど、わたしがちゃんとまもるから。おせわもするから」
人間の言葉は俺には理解できないが、その子供の言葉は、なんだかあたたかいような気がした。
あなたの澄んだ瞳は、キレイな泉のよう。
あまりにキレイだから、あなたの瞳に私の醜い顔がくっきり映ってしまう。
私はまるで鏡を見ているような気分になって、あなたの顔を見ることが出来ない。
「どうして顔を逸らすの?」
だなんて言わないで。
あなたのそのキレイでまっすぐな眼差しは私の汚い心をグサグサと刺すの。
あなたがキレイであればあるだけ、私は自分の醜さを痛感してしまう。
お願いだから、キタナイ私をこれ以上見ないで。
/7/30『澄んだ瞳』
ガタガタと荒い風が窓を鳴らす。
小さな君は怖がって僕のひざの上で震えている。
――こわい、こわい、嵐がくる日は誰かがいなくなってしまう。
そう言ってガタガタ震える君を、僕はなだめるように背中を撫でる。
大丈夫。今日は僕が隣りにいるから大丈夫。
たとえどこかで誰かがいなくなったとしても、君の前からは誰もいなくならないよ。
僕が隣りにいるよ。
寝るのがこわいと泣き渋る君。
二人きりの家から誰かが――僕が――いなくなるのがこわいと
外の雨のように涙をこぼす君。
濡れるひざがすっかり冷たくなった頃、君はようやく眠りについた。
だけど、僕は君から離れることはしないよ。
雨がやみ、夜が明けるまで。
/7/29『嵐が来ようとも』
クラスで優しいあの子は、澄んだ瞳をしていた。
けれど蓋を開けてみれば、部活でいじめられていたらしい。
「目は口ほどに物を言う」か。
私は見る目がないらしい。
「澄んだ瞳」
澄んだ瞳───
私は、これの意味が分からなかった。
調べてみると、言い換えや類義語ばかり。
純粋な瞳、無垢な瞳、少年のような瞳など……
つまりは、何も知らない綺麗な瞳ということだと
私は結論づけた。
汚らわしい物を知ってしまったら、彼らの瞳は純粋な瞳とは言えないだろうか。
だが、知っている少年、少女だっているはずだ。
でも、彼らは言わず純粋な瞳をしているだろう。
そうなると、何も知らない綺麗な瞳ということじゃなくなる。
澄んだ瞳とは何なのだろうか。