あの子は親友。そう胸を張って言えなくなったのはいつからだろう。特にコンプレックスもなかった昔の自分はもう戻ってくることはないのかもしれない。
少しだけ悲しくなって───呆れてしまった。自分から彼女を拒絶したのに、今更悲しくなるなんて。自己中もいいところだ。
だけど、もしあの頃に戻ることができるのなら、絶対に戻りたい。戻ってやり直したい。そう思ってしまうのは、やはり自己中なのだろうか。
「初めましてっ」
彼女が私に最初にかけた言葉はこれだった…気がする。もう四年も前のことだから覚えてなんかおらず、でもそんな感じの言葉だった。
それから私たちは名乗りあい、少しだけ話をした。そうしてみると、好きなアイドルグループが同じだとか、算数は苦手だとかという共通点が見つかり、その短い時間の中だけで話したにしてはかなり仲良くなったと思う。
同じクラスの前後の席だったため、それなりに…というか、かなり関わることが多く、私たちが親密になるのも時間の問題だった。
休み時間には推しの話をしたり、先生の愚痴を言ってみたり。当時小学三年生で陰キャを極めていた私にとって、先生の愚痴というのはひどく憧れるものだった。
それを、彼女といればいとも簡単にでき、そんな自分に驚きもした。
そんな感じで、クラスが分かれてからも私たちはよく遊んでいたし、お互いに親友だと思っていたのだ。
だけど───小五になればだんだんと分かってくる。彼女と自分の差がかなり大きく、一緒にいると不釣り合いに見えるということが。
彼女はとても可愛かった。性格も悪い訳ではなく、そしてノリがよくてコミュ力が高かった。あっという間に彼女の周りには「イケてる」女子たちが群がり、仲良くなっていく。
それでも、彼女は私を選んでくれた。それはとても嬉しいことだと思う。でも、自分が大した人ではないことを知った当時の私には、それはとても迷惑なことだった。
どこかで、「なんであんなブッサイクな子と一緒にいるわけ?」と笑われている気がする。このままでは、彼女の人気も下がってしまうかもしれない。
だから、私はとても愚かなことをした。放課後彼女を呼び出し、「もう関わらないで」と言ったのだ。理由をしつこく聞かれても、「嫌だから」の一点張り。彼女がどれだけ傷ついたのかは計り知れない。
彼女は苛立つ思いをぶちまけてスッキリしたのか、澄んだ表情で私を一瞥し、「ならもういい」と言い残して去っていった。
それから、彼女と私が話したことは一度もない。
だけど、一度だけ目が合ったとき、悔しさも未練も残っていない澄み渡った顔で私を見ていたことを覚えている。それは本当に一瞬のことで、彼女はすぐに
「瞳、見て見て!」
と言われて視線を私からそらしてしまった。
彼女───瞳のあの澄んだ顔は、今も私の心に傷を残している。周りの目ばかり気にして愚かなことをした過去の私を思いっきり殴ってやりたい。
でも、どれだけ後悔しても時が戻ることも、私たちの仲が戻ることもないのだろう。悲しいけど、仕方がない。
零れそうになる涙を上を向くことで抑えながら、私は晴れ渡った青空を眺めていた。
───「澄んだ瞳」
7/31/2023, 8:03:21 AM