『涙の理由』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「あ、お疲れ様です」
部室に入ると予期せぬ人物がそこにいた。今日はオフの日なのに、なんでここにいるんだろう。その思いが顔に出ていたらしい。先輩は私に向かって苦笑いする。
「俺がいちゃまずい?」
「あっ、いえ、お休みなのにどうしたのかなって」
「部室のロッカーに忘れ物しちゃってさ。それを取りに来ただけ。だから安心しな、すぐ消えるよ」
「あ、そんなつもりはなくて……」
慌てて否定する私を見て今度は我慢せずに笑い出す。きっとこれはからかわれているんだと思う。いつだったか、お前の反応はいちいち面白いから見てて飽きない、と言われたことがある。
「俺は忘れ物取りに来たけど、お前はどうしたんだよ」
「あ、ここで勉強しようかと思いまして」
「勉強?」
「……駄目、ですかね」
「駄目じゃないけど。何、そんなに成績悪いわけ?」
「いや、明日確実に当たる授業があって、家だと捗らないからここでやってこうかな、って」
「ああ、そゆこと。教科は何?」
「へっ」
「教えてやるよ。一応、お前より1つ上の先輩様だからな」
先輩はそう言って、壁に畳まれ立てかけられていたパイプ椅子を2つ持ってきて私の前にセットした。テーブルは、備品であるボールが入った段ボール箱。この簡易的な勉強机でも文句は言えず、大人しく隣に座る。
「数学です」
「ふぅん」
先輩は広げた教科書と暫く睨めっこしていた。そして、おもむろに私のノートに何かを書き始める。さらさらと数式を書いてゆく手をじっと見ていた。とても綺麗な字だった。
「これに当てはめて解けばこのへんの範囲は大抵出来る。応用問題も、基本はこれ使えばオッケー」
「なるほど」
「じゃ、これ解いてみ?」
先輩がノートに問題を書き記し、ほい、と私にシャーペンを渡してきた。唸りながらも、言われた通りの順序で解いてゆく。自分でもびっくりするぐらい理解できている。すごい。先輩って、頭良かったんだ。初めて知った。
「……今、なんか余計なこと考えてたろ」
「え?あ、いや」
「何思ってたんだよ」
「いや、あの、先輩の教え方分かりやすいなって」
「嘘つけ。どーせ、意外と先輩って頭良いじゃん、とか何とか考えてたんだろ」
違います、と、すぐに否定できなくてまたしても先輩に笑われた。お前は嘘がつけない典型的なヤツだな。それは褒め言葉なのかどうなのか微妙な所だけど言われて悪い気はしない。
先輩の手作り問題は全て解け、嘘みたいに出来が良かった。これなら明日、どこが当たってもどんと構えていられる。
「先輩ありがとうございます。お陰で明日の授業大丈夫そうです」
「そりゃぁ良かったな。他に分かんないとこは?この際だから教えてやるよ」
「いいんですか?んーと……」
ページを捲って前回の授業内容を振り返る。分かんないところって、言われたって数学自体が苦手科目だから1箇所に絞れない。どうしようかとぺらぺら捲る。その私の手が突然止まった。先輩が掴んだからだ。
「教えてやる前に、お前からも1個教えてよ」
「え……」
「こないだ1人で泣いてたでしょ、ここで。部活終わってみんな帰った後に」
見られていた。驚く間もなく先輩はぐっと身を乗り出してくる。
「誰に泣かされた?」
「え、と」
「お前を泣かしたヤツ、誰だって聞いたんだよ」
珍しく先輩が怖い顔をしている。私が泣いてたことに、そんな怒りを感じる理由なんてあるのだろうか。けど、本気なのは分かった。私の手首を掴む力がなかなか強いから。
「あの、違うんです」
「何が」
「理由は……これです」
反対の手で鞄の中を漁り、取り出したのは1冊の本。険しい顔する先輩の眼の前に突き出した。
「これ、すっごく感動するんです。身寄りの無い主人公の女の子が旅をしていくストーリーなんですけど、とにかく涙なしでは読めない展開が続くんです」
熱弁を振るう私に多めの瞬きで応える先輩。捕まっていた手首はようやく解放された。そして、勢いよく先輩は段ボールの即席机に突っ伏した。
「んだよ……」
「せ、先輩」
「マジで焦ってたんだからな」
「あの、なんか……すみません」
先輩の勘違いだったわけだが、紛らわしいことをしていたのは自分なので謝ろうと思った。あの日私は、皆が帰った後にここで読書をしていた。感動して、涙してしまった現場を先輩がたまたま目撃したということらしい。
「お前が誰かに泣かされたんじゃないかと思ってた」
「実は……感動の涙でした」
「ったく、そんなオチあるかよ」
はあぁ、と盛大に溜め息を吐いた後、先輩は自分の鞄を掴み立ち上がる。
「もう勉強はヤメ。集中力切れたわ」
「あ、はい。ありがとうございました。お疲れ様でした」
「お前も帰るんだよ!」
「うえぇ!はいっ」
急いで教科書やペンケースを鞄に突っ込み、すでにドア付近にいる先輩を追い掛ける。何だか色々申し訳ない。勉強の面倒だけでなく、要らぬ心配をかけてしまった。
「お詫びに駅前のマックな」
「はい、よろこんで」
ちらりと先輩の横顔を伺う。もういつもの表情に戻っていた。良かった、もう怒ってないみたい。心配かけてしまったのに、不謹慎にも嬉しいと感じてしまった。部室の鍵をかけるその後ろ姿に、心のなかでもう一度ありがとうございますと呟いた。
「なんで泣いてるの?」
なんて聞いてくるこの男は狂ってる。
私は恐怖で声も出せなくなっていた。
涙だけが流れ続けていた。
私はこの男から逃げ出したはずだった。
スマホもしっかりと男の家に置いて行って
位置情報は分からないはずだったのに。
なんで男が目の前に居るの?
「探したよ。家から出ちゃうなんて
一人で寂しかったよね。
もう泣かなくて大丈夫だよ。
迎えに来たからね。」
なんて抱きしめてくる男。
違う。違う。逃げ出したはずなのになんで居るの。
あなたが怖くて仕方がない。
涙の理由は貴方のせい。
─────『涙の理由』
もう無理だと自分で堰を切った。
それまで大泣きしていた子ども達が一瞬ビクッと体を強ばらせて、私の顔を見た途端また泣き始める。
育児は大変で、大変なことを1人でしなければならないのが苦しくて、いつか終わると他人は言うけど終わるまでに私がこの子達を虐待すると確信していた。
子ども達に分からせるように大泣きしながら、誰か助けてと床を殴る。私なんか何かの拍子で死ねばいい。死にたい。もう子ども達と関わっていたくない。
日はまだ高い。お昼ご飯を作らなきゃ。外に出なきゃ。誰か、誰かと泣いている。
title 涙の理由
涙の理由。
ぐす、ひっく。隣から静かに漏れる嗚咽、時折しゃくりあげる声を、どれくらい聞いていただろう。微かに震えるか細い体を抱き締めることすら出来ず、僕はただ、隣にいてあげることしか出来なかった。
プライドの高い彼女は、滅多に泣くことはない。けれどたまに、どうしようもなくなった時は、こうして静かに、堪えるように涙を流す。
そして、例え友人の僕であっても、泣いている理由を聞かれたり、同情されることを酷く嫌う。ので、こうしてただ黙って、落ち着くのを待っているのだ。
──隣にいるのが僕じゃなく、アイツだったら……。
チラつく言葉と、親友の顔を打ち消して、心の中で悪態をつく。しかし、どうしても思ってしまった。
好きなアイツになら、彼女も心の内を明かしているだろうに、と。
少しでも体を寄せれば触れてしまえるほど近くにいるのに、その事実だけで、そこら辺の道端に1人、取り残されたような感覚になる。なんと惨めだろう。
片想いしている女の子1人すら、慰めることが出来ない自分の情けなさと。ここにいれば、あっという間に彼女を笑顔に出来るだろう親友への羨望を抱え込んだまま。僕はただただ、彼女の啜り泣く声に耳を傾けるのだった。
君は泣かない。泣かないと思われていた。どんなに辛くても泣いた顔を見せたことなかったから。
だけど俺は知ってた。君が誰にも見られないところでひとりぼろぼろに泣いていたこと。いつからかその肩を慰める役を、俺に任せてくれるようになったこと。
「バーカ。お互い様だろ」
ぐずぐず鼻を啜りながら俺の隣で泣き顔を見せる君が言う。
「お前が泣く時は俺がいつも隣にいるんだから」
「…まぁそう」
涙の理由が別でも同じでも、涙を見せる時俺たちは互いの存在を必要としている。
まさに、病める時も健やかなる時も、だな…
▼涙の理由
「涙の理由?それを聞きたくて走ってきたの?」
私は呆れる。
走ってきたのは、私のファンだと言って憚らない後輩である。
私のことを何でも知りたいらしい。
こうなると思ったから、見つからないようにしたのに。
「はい、何かあったのなら放おっておけません」
「何でもないわ。ワサビが効いただけよ」
「嘘です。ワサビなんて食べてないですよね」
たしかに適当に言い逃れをしたが、普通追求するかね。
「あのね。それは聞いてほしくないって意味だから」
「分かりますよ。でも先輩のこと知りたいんです」
「‥あんたね、そろそろ怒るわよ」
「先輩、怒った顔も素敵です」
さすがのこれには開いた口が塞がらない。
段々落ち込んだのがバカらしくなってきた。
この子の相手をすると、最後にはいつもそうなる。
この子なりの励ましなのだろうか。
「あー、涙の理由ね」
彼女の目が輝き始める。
「あれ、何だっけ」
「えー、今更なしですよ、それ」
そう言われても、今はもうどうでも良い。
だが彼女は納得しないようだ
その時、悪魔が囁いた。
私のことを知りたいとな
ならば教えてあげよう
「うーん、寿司食べたら思い出せそう」
「ホントですね。そこに回転寿司あるんで入りましょう」
彼女は疑わず、寿司屋に入っていく。
計算通りだ。
今の私の顔はかなり邪悪であろう。
これを見逃すなんて、あいつもまだ未熟だ
涙の理由、教えてやるよ。
私のことも、たくさんな。
最初に言ったはずだ。
わさびが効いたのだと。
悲しい涙はつめたくて
嬉しい涙はあたたかい
身体に収まりきれない感情が
内から心を震わせて
溢れてこぼれる ”涙の理由”
泣きたい時に泣けなくて
心に蓋がある時は
”涙の理由” を文字にする
つめたい時は 書き殴り
あたたかい時は ていねいに
”涙の理由” を文字にする
どうしてかな、上手く伝えられないのが、すごく悲しい。
こんなにも、愛しているのに。
『涙の理由』
ぽつ、ぽつと雨が降る。
頭に雫が当たる感触がする。
けれど、下を向いて地面のアスファルトを見ても、黒いシミはできていない。
不思議な雨。
そう思って、膝に座ったまま、後ろのお母さんを見上げる。
「ねぇ、お母さ……」
ぽつ、と頬に雫が落ちる。
お母さんの目から溢れて、頬を伝い、顎を滑り落ちて離れた雫が、僕の頬に。
「……どうして泣いてるの?」
「お父さん、いつになったら帰ってくるのかしらね。……体が冷えちゃうから、もう家の中に入りましょうか」
壊れそうな感じで笑ったお母さんの目尻から、また雫が流れ落ちる。
ぽつ、と頬に当たったそれは、僕の顎を伝って服に小さなシミを作った。
僕は毎日、お母さんとのんびり外を眺める時間が好きなのに。
【涙の理由】
君の瞳からぽろぽろと涙が溢れていた。重たい腕を持ち上げて、君の頬を濡らす雫をそっと指先で拭う。
「なか、ないで」
「っ、馬鹿! 君のせいだよ! あのくらい防御魔法で弾けたのに、なんで私を庇ったりしたの⁈」
君の手が僕の傷口に当てられていた。展開された最高峰の治癒魔術が僕の傷を癒していく。塞がり始めた傷口の僅かな熱とこそばゆさが心地良かった。
「ははっ。なんで、だろ」
理屈では確かに、君を庇う必要なんてどこにもなかった。だけど敵が君を狙っていると気がついた瞬間、勝手に身体が動いていた。万が一にも君が傷つくところなんて、僕は見たくなかったんだ。
「大丈夫、だから。もう、泣かないでよ」
君の涙の理由なんて馬鹿な僕にはわからないけれど。君にはいつでも、いつまでも、笑っていてほしい。それだけが僕の願い、僕が戦う唯一の意味なのだから。
馬鹿、ともう一度。涙の滲んだ声で君は囁いた。
涙の理由…
夕陽が綺麗でね。
夕陽が綺麗でね。
僕は心が包まれた気がして
気づいたら涙が溢れてたんだ…
あぁ、僕も誰かを包み込めたらな。
なんて思いながらしばらく眺めてた。
【涙の理由】
私の目の前に君の幻想が見えた。
君はもう、星になっているのに。
私の心の中に、君に再び会えたという嬉しさと、君はもう消えてしまうのかという悲しみが混ざり合い、私は思わず涙を流した。
歩いてきたのです
一歩一歩踏みしめ
歩んできたのです
重たい荷物は全部
置いてきたのです
ボクは出逢います
キミに出逢います
置いてきた荷物を
大事そうに抱えて
これは玉手箱です
蓋を開けますよと
にっこり笑います
ボクは思うのです
キミがいるのなら
どんなかなしみも
変えてしまおうと
消してしまおうと
流れゆく涙と共に
ボクは歩くのです
キミと歩くのです
『涙の理由』
通過
暴走する感情を
押さえ込まなくても良いと
教えてくれたから
※涙の理由
涙の理由
私は眠りから覚めた。なぜだか枕が湿っていた。
何か変な夢でも見たんだろうな。とりあえず、洗濯機に枕カバーを放り込んで顔を洗った。何か夢の記憶が無いか思い出そうとしてみるが何も思い浮かばない。気になる。
「 ー!!!」
目の前に飛び散る鮮血。
スローモーションのよう倒れていく
慌てて抱えあげるが呼吸が浅い
その人物はそっと頬に触れ自分に対して
「 」
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たまに見る夢。
自分は剣を振るっていて何かと戦っている。ある程度の敵を倒し切ると叫び声が聞こえて気が付いたらその黒い影の誰かが倒れてる。その人物が何かを伝え微笑んだのち冷たくなって自分が叫ぶところで毎回起きる。
その夢がなんの夢なのかも、黒い影が誰なのかわからないけど、その夢を見るととても悲しい気持ちになる。
銀時が感傷に浸っていると8時のアラームがなった。
坂田銀時。かぶき大学に通う二回生である。銀色の天然パーマがトレードマークである。ごく普通に両親の愛を受け育ち、大学生になったのを期に大学近くに一人暮らしをしている。
今日は講義がないのでアルバイトの喫茶店を仕込みから手伝うことになっている。
大学の近くにあるそのカフェは裏路地にあるため満席にこそならないが、常連客はなかなか多い。
気合いを入れなくては。
なんだって今日は『あの人』が来る日だからーーー
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新しい仕込みを教えてもらい、飲み物類を用意し、店の外の プレートをOPENに変える。
オーナーはあ表で黒板アートのメモを作り!俺は店内で調理とコーヒーの準備しながらお客様を待つ。
午前中はゆっくり時間が過ぎ、お昼は少し混んだがファミレスとかチェーン店ほどは混んでいないだろう。
だんだん落ち着いていき、近所の人や勉強しに来た大学生などで半分ほど埋まっているくらいだ。
そろそろ来るはずと食器類を洗いながらドアをちらちら見る。一頻り終え手を拭いまたドアをちらっと見ると控えめにチリリンとドアベルが鳴りドアが開く。
「…十四郎さん!こんにちは!」
「ああ、こんにちは」
「いつものでいいですか?席いつものところ空いてるのでどうぞ!」
「いつもので頼む。ありがとう」
軽く会話をし、彼ーー十四郎さんと呼ばれた男は店内奥の窓際のソファ席に腰を下ろし、ノートパソコンを取り出す。
男の名は土方十四郎。歳は29歳。近所に住んでいるらしく決まった曜日にこの喫茶店に空いてきた午後やってくる常連客。職業は恋愛小説家で、ドラマ化や映画化もしている。黒髪のストレートヘアに切れ長の目、モデル顔負けのスタイルだが、メディアにも出ず、サイン会もしない、ペンネームもヨツバの為女性と思われてるんだと苦笑していた。
坂田銀時の片想いの相手である。
オーナーが土方がいつも頼むBLTサンドを作っている横でブルーマウンテンコーヒーをカップに注ぎながら土方を見る。PCを使う時だけかけると言っていた銀縁メガネをかけようとしてるところだった。それだけの仕草なのに様になっていてかっこいい。
オーナーが「銀時くんお願いね」と言ってきたのでサンドイッチが出来たと気付く。出会ってから覚えた砂糖ミルクは要らない、マヨネーズはボトルごと。頭の中で再生し、運んでいく。
「十四郎さんおまたせしましたー。進みはどうですか?」
「ん。進みか?あー……ぼちぼちだな」と目を逸らしながらコーヒーを口に運ぶ。これは全く進んでないんだなと察する。
「……イマイチ主人公の女のキャラが決めきれねぇんだよ」
「え、3日前も言ってなかった?まだキャラ決まってなかったんですか」
「……るせぇ。てかお前がなんでそんなこと言うんだよ」
「山崎さんに来たら進捗聞いて見張ってくれって頼まれました」
「くそ、山崎の癖して……!」
膨れながら土方は慌てすぎてたらしく忘れてたマヨネーズをコーヒーに入れながらもう一度口に運ぶ。
向かいに座り自分用に持ってきたカフェオレを飲みながら打ち込んでは消すを繰り返している土方を観察する。考える方にソースを割いているからか手元が疎かのままサンドイッチを食べているため口元にマヨネーズがついている。ついてるよ、と教えても生返事だ。しょうがないので拭ってあげるとびっくりしたのか目を丸くしてこっちを見ている。
「や、マヨネーズついてたから……」
「う、あ、わるい……」
恥ずかしかったのか少し頬が赤くなっている。かわいいなぁと思いながら聞いてもいいのかなぁと思いつつ恐る恐る聞く。
「今回の話ってどこまで決まってるんです?」
「あー、男は警官にしようと思ってんだが、そうすると相手は何がいいのかなと悩んじまってさ」と返ってきた。
自分の案が採用されるだとか、助けになるとは思わないが考えてみる。警官といえばドラマとかでよく見る刑事課だとかコ○ンの怪盗○ッドを捕まえる警部だとか交番のおまわりさんとかが妥当だろうか。だがそれだと捻りがなさすぎて埋もれてしまう気がする。かといって未来感出して時空警察みたいなトンチキだとヨツバの純愛系が難しそうだよななどと考え、ふと頭に思いついたことを言ってみる。
「江戸を護るおまわりさんとその町のよろずごと承ってる店の店員とかどう?すごい変わってるけど面白そうじゃないですか?」と提案すると初めて見るレベルで驚いている。なんか変なこと言っただろうか。やっぱり設定がおかしすぎたか。なんでもないと伝えようと土方を見た。
ーー泣いていた
目の前で土方がぼろぼろと泣いているのだ。ギョッとして慌ててポケットに入れていたハンカチを渡した。
「ご、ごめん!変なこと言いました!?そんな泣いちゃうくらい嫌でした!?十四郎さんほんとごめんね!」そういうと泣いてることに初めて気付いたらしくあ、とかう、とか言葉にならない言葉を発していた。
渡したハンカチを土方は受け取り涙を拭きながら悪いとだけ呟き黙ってしまった。
その後会話が続くことなく2人して黙ったまま時間が過ぎ、銀時は「休憩終わるから……」と言うと土方も「俺も今日は帰るよ。悪かったな、坂田」と支払いをして帰っていった。
その後土方は喫茶店に来なくなってしまった。
「おい、銀時。いつまでんなシケたツラしてんだよ。その常連来なくなって3ヶ月だろ?引っ越したんじゃねぇの?」
「……表札はかかってたもん。引っ越してはねぇもん。」
「ストーカーぜよ」
大学で項垂れる坂田を慰めることなく腐れ縁の友人たちが自由に過ごしている。土方が来なくなって2週間経った初めは友人たちも少しだが慰めていたが通ってた曜日の次の日は必ず落ち込んでた為めんどくさくなって慰めるのをやめていた。
「もうンな常連のこと忘れて次の女探せよ。紹介してやろうか」
「高杉の趣味悪ぃからヤダ。つーか、忘れるとか無理だし」
「あ?人の優しさ踏みにじるのか?テメェ」
キレそうな高杉と坂田をシカトした坂本はズット黙ってる桂に話題を変えた。
「ヅラぁ、今日静かやと思うちょったが何読んどるき?」
「ヅラじゃない!桂だ!む、これか?ヨツバ殿の新刊が今日出たのでな」勢いよく坂田が顔を上げた。
「ヨツバの新刊!?」
「ああ、発売まで内容日公開で発売日しか発表されていなかったのでな。気になって今朝買ってきたので読んでいるんだ。今までの感じはありつつ、だが珍しい設定でなかなか面白いぞ」
「へぇ。ヅラがそんな褒めるのか。どんな話なんだ?」
「時代は珍しく現代ではなく江戸末期でな。主人公は万事屋というなんでも屋をやっているんだ。そこに事件が起こり主人公は巻き込まれる。解決しようとしてる時に警察官の男と出会うんだ。お互いに助け合ったりしていくうちに恋愛に、という流れだ。まだ途中だから結末とかはわからんが」
自分がなんとなく考えて提案した設定だ。それが採用されている。設定が嫌なわけではなかったらしい。じゃあなんであの時、土方は泣いていたのだろうか。
だが、何故だか分からないが読んだらわかる気がした。……否、読まなきゃいけない気がした。
今まで土方を好きといいながらヨツバの小説もメディア作品も見たことがなかった。活字は好きじゃないし、恋愛映画はつまらないと思っていたから。
でも今回はーーー
「悪い!帰るわ!!」
「は!?銀時まだ講義あるだろ!」
「代返頼む!今度奢る!!!」坂田は全力で走っていった。
「……なんなのだ?」
「さぁ……?」
「金時に春が来るぜよーあっはっはっ!」
大学を出て真っ直ぐ本屋へ向かう。見つかるか不安だったがヨツバの本はすぐに見つかった。小説に興味ないから気にしてなかっただけでヨツバはそもそも超人気作家なのだ。発売日なのだから特設コーナーくらい組まれる。
一冊手に取り買って急いで家に帰る。カバンを投げ座り呼吸を整えて落ち着いてからページを開く。
設定は桂が言っていた、あの日自分が言った設定だった。
万事屋を営む主人公の女と江戸の警察真選組のNO.2の男の恋愛の話。
女は厄介事に巻き込まれやすいがお人好しの為見捨てることが出来ず、仲間の少女と少年と大きい犬と助け合いながら解決していく時に、いつものように事件に巻き込まれた時に男と出会う。
最初は女が首を突っ込むことが気に食わなかった男と言い合いになるが、関わっていくにつれて女にも譲れないこと護りたいものがあると知った男が徐々に女のことを認めていき、時に背中を預け、時に助けを求め合い愛を深めていく、そんな話が事件ごとに短編のように綴られているものだった。
活字が嫌いな銀時でもさらさらと読み進めることが出来、なんで人気なのかわかる気がした。
最後の章になり読み進める。最後の話は大規模で厄介と最初から匂わされていた攘夷志士の軍との戦いであった。
危ないシーンがありつつも攘夷志士軍をほぼ制圧することに成功し、あとは敵の大将と言うシーン。
万事屋3人と1匹と真選組TOP3で辿り着き、敵将を守るようにいる敵を倒していく。ほぼ倒し切りあと少しという所で男が女の名を叫び、女が振り返ると男が寄りかかってくる。声をかけ触れると手が真っ赤に染まる。攻撃をしてきたやつを倒し、敵将を倒す。
みんなが声をかけてる中浅い呼吸をしている男に駆け寄る。それぞれ止血をしたり、救護呼んだと声をかけたり名前を呼んだりしている。
女も名前を呼ぶと男はそっと目を開き、もっと一緒に呑みに行きたかったこと、行きたいとこ連れてってやれなかったこと、全然幸せにしてやれなかったこと、一緒にいれないことを詫びた。助かるんだからそんなこと言うなと女は怒るが、男はそっと女の頬に手を添えて小さく微笑んだのち「来世でも会えるといいな」と呟き息絶えてしまう。
救護が来るがもう亡くなっていると告げられる。
ラストのシーンは墓の前でお前の分までうんと幸せになって、天国であったら自慢してやるからなと女が宣言して終わる。
読み終わった銀時は泣いていた。話はもちろん悲しかった。何故ならバッドエンドだったから。幸せになって終わると思っていたから。
でも、それだけじゃない悲しさがある。
クッションソファに凭れ、天井を眺める。でも涙は止まる気配を見せない。
そっと目を閉じ、主人公のことを考えていると気付いたら眠りについていた。
━━━━━━━━━━━━━━━
天人と戦っている。
最初は斬っても斬ってもキリがなかったが沢山の仲間のおかげで前に進むことが出来、敵の数も減ってきた。
昔馴染みの桂や高杉、坂本とも連携を取り、新八や神楽、腐れ縁の真選組と共に突き進む。
ようやく敵将の前に辿り着き、周りを取り囲まれながらも戦い、神楽と沖田が軽口を叩き、近藤が新八にお妙をくれと言って今じゃないだろとツッコまれていた。
自分も腐れ縁で、犬猿の仲でーー恋人の土方に声をかける。
「土方くん実はもう限界なんじゃない?だからタバコ控えた方がいいって言ったろ」
「ハッ!糖尿メタボにゃ言われたかねぇな!」
「公式設定1キロ差だからね!?メタボじゃないからね!?」
なんて言いつつ倒しきった。
敵将の方を向き、倒そうとした所で話を始めた為言い訳がましいと無視しようとした所で叫び声が聞こえた。
「銀時!!!!!!」
瞬時に振り向くと土方が銀時を庇うように袈裟斬りされ、その後に身体を貫かれていた。
倒した天人がギリギリで生きており攻撃してきていた。
土方の散った血液越しにその天人を目視した銀時は頭に血が上り、木刀で天人を壁に打ち付ける。
笑っている敵将も視界に入れると、力の限り叩きつける。こいつだけは、こいつらだけは……!それしか頭になくただひたすらに攻撃をする。
「銀時!!!もうやめろ!!!」近藤が羽交い締めにし、新八神楽が呼びかける。
沖田が救護を早くと怒鳴っている。
「銀ちゃん!!!!落ち着いてヨ!!!!」
「銀さん!!!!!もう!!!もうその天人は!!!!」
冷静になれない銀時の耳に小さく咳き込む音が聞こえる。ハッとし、動きを止め土方に駆け寄る。
抱えあげ、「土方!!土方聞こえるか!?助けくるからな!」手を握り声をかけ続ける。
口が動いているが音にはならず届かない。
「無理すんな!後で聞くから!なにも今じゃなくていいだろ!?」
「トッシー!がんばるネ!まだ酢昆布一年分貰ってないヨ!」
「土方さん!!あんたを殺すのは俺だって言いやしたよね!?こんなとこでくたばんな!」
「土方さん!僕まだ土方さんにも色々教えて欲しいんですよ!!」
「トシがいなきゃ真選組はハチャメチャになっちまうよ!!一緒に支えてくれるんだろう!?」
口々に言う様子を目で追い、ゆっくり横に振る。
そして震える腕をゆっくり銀時の顔に触れ、目を細め音もなく
「来世で待ってるな」
と伝え力が抜けた。
それぞれが名前を呼ぶがもう返事は返って来なかった。
━━━━━━━━━━━━━━━
ガバリと銀時は起き上がる。
なんで、なんでこんな大切なこと忘れてたんだろう。
家を飛び出す。
教えてもらった家を目指す。
広すぎるから寂しくなるし手入れも金がかかって大変だけど、でも居心地がいいと言っていた教えてもらった屋敷を目指す。
広い平屋とか作家先生ぽいと言ったら笑ってたあの屋敷。
走って走って呼吸も苦しくなっても走って。
たどり着く。
勝手に門をくぐり、家を見ると電気が着いていたためいるようだ。
インターホンを鳴らすと玄関の電気がつく。
「山崎?さっき打ち合わせ終わっただろ。忘れ物か?」
声とともに玄関が開く。
銀時を目にし、一瞬驚いた顔をしたがすぐに元に戻し「どうした?」と声をかけてくる。
手に持ってた本をかざすと
「今日発売のやつか。興味無いって言ってたから珍しいな」
なんでもないように話してくる。
逃げようとしてると直感で思った。逃がさない。逃げさせはしない。
「……近藤は泣いてずっと話しかけてるし、沖田くんはしゃくりあげて泣くし、神楽も新八も声上げて泣くし、ジミーも、新八の奴らもお妙や九兵衛月詠も、町の奴らも全員泣いてたんだよ。なんでお前が犠牲になんなきゃいけねぇんだって。俺だってそうだ。沖田のねえちゃんとこいくの早すぎんだよ。馬鹿じゃねぇの」
「お、まえ……」
「来世で待ってんなら声かけろよ。銀さんからのナンパ待ちしてんじゃねぇよ。鬼の副長が聞いて呆れるな。で、なんで言ってくんなかったの、土方くん」
「……待ってるとは言ったが、会ったところで結局昔と同じで幸せはやれねぇなと思ったんだ。すぐに離れられる今の関係が幸せだからそれでいいと思った」
「本にあった男のセリフってさ、土方くんが最後に言ってた言葉だろ?」
「ああ。もっと万事屋と呑み行きたかった。もっとでかけたかった。忙しさにかまけてあまり会えなくて寂しい思い悲しい思いばかりさせて幸せはやれなかった。声にはならなかったけどな。お前が読むとは思わなかった」
「ヅラが読んでてあらすじ教えてくれてよ。ざわざわして買って読んだ」
「……そうか」
「で?」
「……?」土方はキョトンとしている。
「俺さ、飽きもせずこの時代でも土方くんに恋しちゃってたんだよね。前世の記憶戻る前からさ」
あっけらかんと銀時は言う。戸惑う土方に続けて言う。
「あ、もちろんライクじゃなくてラブね。かわいいキスじゃなくて土方くんどろどろにするようなキスしてぇし、土方くんに突っ込んでアンアン言わせたいって方ね。もちろんオカズは出会ってからは土方くんだったよ」
「へ、は、はぁ!?!?おまっ!」
土方は身の危険を感じ一歩下がるがその分詰められる。
「その感じだと土方くん、俺の事好きだよね?」
にじり寄ってくるため下がるが、玄関框に突っかかり尻もちをついてしまう。そのまま銀時が覆いかぶさり、肩を押され押し倒される。
「つーかさ、29だっけ?年上?年上の色気のある土方くんとかエロくね?俺まだ19だからさァ、超元気なわけよ。土方くんどう?」
手を押さえつけながら馬乗りになり土方に問うが、銀時は答えを求めていない。顔を近付け
「それで、十四郎は俺の事今世も好き?」目を見つめる。
彷徨わせるたのち恥ずかしさで少し潤んだ目で銀時と目を合わせ
「……言わせるな、ばか」と一言だけ。
変わらないかわいさに早急に唇に噛み付く。
若ぇな、や、俺今若いんだったと思いながら土方のことを味わう。
喫茶店ではそんなに吸ってなかったが、この味わい的に今世もヘビースモーカーだなとか、癖変わってないなとか、相変わらず呼吸下手だなとか色々考える。
今世でも苦手で感じないかなと両耳を塞ぎ、指で触りながら舌をわざと音立てて吸ったり、わざと水音を出す。
予想通りピクピク反応し、先程よりも声が漏れる。
変わってないことに感謝しつつ貪り続けると腹を殴られる。
紅潮し涙が流れヨダレも垂れた状態で
「な、なげぇよ……!」
と伝えてくるが、そんなのただ下半身に来るだけである。
これが大人の色気か……!と思いながら横抱きする。ひっ!と驚いた声をあげる土方に
「寝室どこ?」と聞く。
「聞いてどうする!……まさか」こういう時の予感は当たる。
「ここでしてもいいけど、寝室のがいいだろ?いやー、十四郎の処女また貰えるのかー!張り切っちゃう」
「お、おまっ、おまっ!!」
「え、処女だよね!?違うの!?」
「うううううるせぇ!!!」
ーーー夜はまだ始まったばかりである
#涙の理由
外は大雨、帰れなくなった僕は教室へ足を運んだ。
雨足が弱まるまで教室で時間を潰そうと思ってのことだった。
だけど、教室には先客が居た。
窓の外に見える大雨のように涙を流す君が。
一瞬、教室に入るのは躊躇われたけど、君の泣き顔を見続けるなんてことはしたくなくて、僕は教室へ1歩足を踏み入れた。
悩み。わかった亭主の借金。
借金自体よりもあの人の借金癖。
その場が良ければ動物的にやっちゃう人。
浮気も借金もそう。
あれだけ理性があって賢いのに、
一方でそういうところがある。
多分それは…あの親がそう育てたから。
世の中の正しいとされることを都合よく
さも正しいように躾として押し付けられて来たから。
幼少期から「良い子だったのよー」って言われるような言動を押し付けて来たから。
『涙の理由』
嬉しい涙。
悲しい涙。
寂しい涙。
苦しい涙。
今の私の涙はどれだろう。
もう、感情がぐちゃぐちゃでわからない。
どうして泣いているんだろう…
それも、わからない…。
#涙の理由
私の専門は遺伝子工学
あの日は酔っており、友人とふざけて
ティンカー・ベルでも作ってみよう!!
今ではいったい何をどうやって作ったのか···
地獄のような二日酔いと戦った後の出社
ラボの培養水槽の中に彼女は誕生していた。
羽はないが、サイズは手のひら、いくら育てても
それ以上大きくなることはなかった。
発表はしなかった。そうした方がいい気がしたからだ
彼女はまだ言葉を話さない。
こちらの言っていることは理解している。····たぶん
そんな彼女が満月の日に時おり涙を流す。
研究者と言うものは理由を知りたがる、悪いクセだ
だが願わくば、彼女の口から直接理由が知りたい。