さいか

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涙の理由。


 ぐす、ひっく。隣から静かに漏れる嗚咽、時折しゃくりあげる声を、どれくらい聞いていただろう。微かに震えるか細い体を抱き締めることすら出来ず、僕はただ、隣にいてあげることしか出来なかった。

 プライドの高い彼女は、滅多に泣くことはない。けれどたまに、どうしようもなくなった時は、こうして静かに、堪えるように涙を流す。

 そして、例え友人の僕であっても、泣いている理由を聞かれたり、同情されることを酷く嫌う。ので、こうしてただ黙って、落ち着くのを待っているのだ。

 ──隣にいるのが僕じゃなく、アイツだったら……。

 チラつく言葉と、親友の顔を打ち消して、心の中で悪態をつく。しかし、どうしても思ってしまった。

 好きなアイツになら、彼女も心の内を明かしているだろうに、と。

 少しでも体を寄せれば触れてしまえるほど近くにいるのに、その事実だけで、そこら辺の道端に1人、取り残されたような感覚になる。なんと惨めだろう。

 片想いしている女の子1人すら、慰めることが出来ない自分の情けなさと。ここにいれば、あっという間に彼女を笑顔に出来るだろう親友への羨望を抱え込んだまま。僕はただただ、彼女の啜り泣く声に耳を傾けるのだった。

10/10/2023, 11:01:07 PM