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「涙の理由?それを聞きたくて走ってきたの?」
私は呆れる。
走ってきたのは、私のファンだと言って憚らない後輩である。
私のことを何でも知りたいらしい。
こうなると思ったから、見つからないようにしたのに。
「はい、何かあったのなら放おっておけません」
「何でもないわ。ワサビが効いただけよ」
「嘘です。ワサビなんて食べてないですよね」
たしかに適当に言い逃れをしたが、普通追求するかね。
「あのね。それは聞いてほしくないって意味だから」
「分かりますよ。でも先輩のこと知りたいんです」
「‥あんたね、そろそろ怒るわよ」
「先輩、怒った顔も素敵です」
さすがのこれには開いた口が塞がらない。
段々落ち込んだのがバカらしくなってきた。
この子の相手をすると、最後にはいつもそうなる。
この子なりの励ましなのだろうか。
「あー、涙の理由ね」
彼女の目が輝き始める。
「あれ、何だっけ」
「えー、今更なしですよ、それ」
そう言われても、今はもうどうでも良い。
だが彼女は納得しないようだ
その時、悪魔が囁いた。
私のことを知りたいとな
ならば教えてあげよう
「うーん、寿司食べたら思い出せそう」
「ホントですね。そこに回転寿司あるんで入りましょう」
彼女は疑わず、寿司屋に入っていく。
計算通りだ。
今の私の顔はかなり邪悪であろう。
これを見逃すなんて、あいつもまだ未熟だ
涙の理由、教えてやるよ。
私のことも、たくさんな。
最初に言ったはずだ。
わさびが効いたのだと。

10/10/2023, 10:49:53 PM