『涙の理由』
ぽつ、ぽつと雨が降る。
頭に雫が当たる感触がする。
けれど、下を向いて地面のアスファルトを見ても、黒いシミはできていない。
不思議な雨。
そう思って、膝に座ったまま、後ろのお母さんを見上げる。
「ねぇ、お母さ……」
ぽつ、と頬に雫が落ちる。
お母さんの目から溢れて、頬を伝い、顎を滑り落ちて離れた雫が、僕の頬に。
「……どうして泣いてるの?」
「お父さん、いつになったら帰ってくるのかしらね。……体が冷えちゃうから、もう家の中に入りましょうか」
壊れそうな感じで笑ったお母さんの目尻から、また雫が流れ落ちる。
ぽつ、と頬に当たったそれは、僕の顎を伝って服に小さなシミを作った。
僕は毎日、お母さんとのんびり外を眺める時間が好きなのに。
10/10/2023, 10:07:47 PM