いろ

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【涙の理由】

 君の瞳からぽろぽろと涙が溢れていた。重たい腕を持ち上げて、君の頬を濡らす雫をそっと指先で拭う。
「なか、ないで」
「っ、馬鹿! 君のせいだよ! あのくらい防御魔法で弾けたのに、なんで私を庇ったりしたの⁈」
 君の手が僕の傷口に当てられていた。展開された最高峰の治癒魔術が僕の傷を癒していく。塞がり始めた傷口の僅かな熱とこそばゆさが心地良かった。
「ははっ。なんで、だろ」
 理屈では確かに、君を庇う必要なんてどこにもなかった。だけど敵が君を狙っていると気がついた瞬間、勝手に身体が動いていた。万が一にも君が傷つくところなんて、僕は見たくなかったんだ。
「大丈夫、だから。もう、泣かないでよ」
 君の涙の理由なんて馬鹿な僕にはわからないけれど。君にはいつでも、いつまでも、笑っていてほしい。それだけが僕の願い、僕が戦う唯一の意味なのだから。
 馬鹿、ともう一度。涙の滲んだ声で君は囁いた。

10/10/2023, 9:54:01 PM