『海の底』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「海の底」
暗くて、冷たくて、静寂に包まれた海の底。
この静けさに安らぎを感じはじめたのはいつの事だっただろうか?
……確か、かけられる感謝や肯定の言葉全てが痛く感じるようになった頃と同じくらいだったっけ……
じゃあ、あの雑音から逃げ出して、自ら意識を沈めたのはいつだっただろうか?
……いや、違う。私が自分の意思で逃げたんじゃない。
だって私は、その言葉たちとその想いが……痛いなりに受け止めようと頑張ったはずだ。
この痛みは、私の心が感情を忘れていない証だから、と。
なら、なぜ私は今この場所にいるの?
何も感じなくていい、揺蕩うだけでいいこの場所に
「キミが、もう壊れてしまいそうだったから」
「キミを壊すのはボクがいい」
「だから、キミが望んだようにしたんだよ」
静寂と深淵と空虚に満ちたこの海の底に、送ってあげたんだからさ?
ここに太陽の光は届かない
潜在意識のもっと奥深く
沈んだ船と眠った思い出
海の底まで僕の全てが沈んでも
僕を照らしてくれるものはなんだろう
最近ケータイゲームをよくやるようになった。
好きなアニメのゲーム。
ケータイゲームって、客観的に見るとまぁその楽しさとか知らないからだけどくだらないとか馬鹿らしいとか思ったりする。
そう思ってたのに自分がそれをやってる。
もうほぼ現実逃避
やるべきことはわかってる。
でもそれはゴールが遠くて
ゲームは手を伸ばせばすぐに達成感とか満たされた気分にさせてくれる。
だからって何かを成したわけでもない。
僕は仕事をしてる。より良い仕事をしたい。それはできるだけ他人に迷惑をかけたくないからでもある。
あとは認められたいとか。自分をもっと好きになりたいとか。なのかな。
なんにせよ、今の僕にはやる気もない。なんだか力が入らない。
心が浮き沈みすると表現されるなら僕の心はきっと海の底だ。呼吸の仕方は忘れて。酸素は吸えてないようだ。真っ暗で力が入らない。
ゲームというチョウチンアンコウの光に誘われていつ食べられてしまってもおかしくない。
ただ、こんな時でもそんな時もあるさと。
自分はきっと大丈夫だと思ってて。
なんて楽観的なんだろか。
傷を治すのも、海の底から浮き上がるのも同じ
必要なのは時間だ。
だから流れに身を任せて良いんだよ。どこかに流れ着いたと思ったら、そこで咲けばいい。
海の底
それは人々の心
それは恋心の行先
それは帆船の終着点
僕らは数多くの行先が海の底である事を知っている
僕らはそれでも海の底を知らない
それは誰もの最後
それは僕らの最後
〚海の底〛
私の頭の中の話をしよう
私は思ったことを正直にすぐ言ってしまうという
人として最低な癖がある
すぐにでも直せそうなこの癖が
私から中々抜けていかなかった
それで過去に色んな人を傷つけてまわってしまった
それを見たり、聞いたりした友人達は
皆、口を添えてこう言ったのだ
「お前の頭の中が知りたいよ」とね
私はその台詞を何回も聞くので考えた
(一体自分の頭の中はどんなに無神経で荒れているんだ)と
簡単なイメージは"湖"とでも言ったほうが
想像しやすいだろうか
深い湖の底に思ったことや、
知っていることが魚のように泳いでいる
私はその言葉に触れることも手懐けることも出来ない
だが、意味ならわかる
言ってはいけないということも
でも気づけばその言葉達は水面から外へ、
つまり口の外に逃げてしまうのだ
私はその言葉をただ、一番底で見つめるしか出来ない
いっそのこと水槽に入って
全ての言葉を逃がした後に一人で泳いでいたい
私を釣り上げる、必要としてくれる人が現れてくれるかも
しれないから
暗い……苦しい……息がッ……
海面から
下へ下へと落ちる浮遊感
浅くなる呼吸に
恐怖が濃くなり意識が遠退いていく
「ッくは!!」
会社のデスクからガバッと顔を上げて
何だ夢だったのか……と
安堵する反面
減る気配のない仕事量と
何杯飲んだのかわからない珈琲の現実は
海の底に落ちゆく恐怖と
何ら変わらない
#海の底
お題 海の底
心
心は海みたいなもんだ。最初は美しいが、環境の問題で汚れ、
元の美しさはなくなっていく。だが、それを解決しようと努力する人たちが居る。
しかし、それをしてくれる人達はいつかはいなくなる。
海の底 足についた鎖が錘となって沈んでく、深く深く沈みやがて忘れ去られ消えていく。
心をしんと澄ませて
音も光もない 深い海に潜り
伸ばした手に
そっと触れた言葉を
拾い上げて
ここに並べている
「海の底」
#307
海の底を映したような碧玉が私を射抜く。
見透かされている。暴かれている。
それなのに目を離すことはできなくて
あ、
美しい瞳が、弓形に形を変えた。
昔好きだった人は
深海魚が好きだった
だから私も深海魚が好きになった
深海魚の本もプレゼントした
彼が喜んでくれるように
なんでもした
だんだん彼の態度は冷たくなって
それでも好きで
とどめに言われたのは
「◯◯の気持ちは重い」だった
最初に告白した時答えはなかったから
ずっと誤解してた
はっきり断ってくれたら良かったのに
好みじゃないって
言ってくれなきゃわからない
気持ちがエスカレートしてしまった
今思い出しても
ばかみたいだ
こんな気持ちは
海の底の底に埋めておくんだ
皮肉にも彼の好きな深海魚の泳ぐ
真っ暗な海底に…
【海の底】
どんな言葉も
君に伝わらないのなら
貝になりたい
貝になって
海の底に沈む
昏く澄んだ海の底
ときどきぽつりと
あぶくを吐く
海の底
しんしんと、雪が積もる。
何も聞こえない。
空を見上げれば、いつまでも夜。
ただ僅かな光が捉えられるのみである。
ここは生命の終着点。
役割を終えた亡骸たちの行き着く先。
無数の命が眠りにつき、目覚める時を今か今かと待っている。
海の底には、未知が眠っている。
奇々怪々な生き物の数々。
太古の星を語る鉱物たち。
大昔に沈んだ誰かの宝物。
ここには、世界中の秘密が流れ着く。
心地よい静寂の世界は、役目を終えて眠りについた命の揺籠である。
未知の溢れるこの場所は、世界中の秘密が集まって形作った別世界だ。
いつか誰かに暴かれるその日が来ないよう
底も見えぬ深い暗闇に
何も聞こえぬ静寂の中に
世界中の秘密と眠りについた命を守っている
「はいよっ」
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「ここらへん車多いから気つけてなー。」
「うん!ありがと!」
足元に転がってきたボールを持ち主の子に返すあなた。
昔から子どもが好きだったが今もやはり好きなんだなぁと実感する。
それとともに「自分といると子どもの顔を拝むことはできないがいいのだろうか」とあなたとともに生きることを決めた時から幾度も考えていることが頭に過る。
思考がどんどん暗くなり海の底に沈んでしまったのように息ができなくなる。
「…なぁ、自分今変なこと考えてるやろ?」
「へっ?」
「わかりやすすぎ。」
「……。」
「何度も言ってるやろ?俺はお前といられることが一番の幸せやから。」
「…うん、ごめん。」
「また不安になったら言ってな?何度でも愛囁いたるから!」
「ふふっ。わかった。」
度々海の底へ沈むめんどくさい自分を救い上げてくれるあなたが大好きだ。
240120 海の底
嘘をついたのはあなたのせいではないよ
あなたの為でもないよ
私の、醜くて汚い、ただのエゴなの
だから、
どうか、追いかけてこないでね
ここにあなたの居場所はないわ
ここはあなたのいるべき場所ではないの
だから、
沈んで、沈んで、
堕ちてゆく。
日光の届かない、深く暗い海の底にも、光はあった。
_____________アリシア・アメスタシア
彼女は海底の住人。
淡い翠の瞳、ふっくらとした桃色の唇、滑らかで砂のように白い肌。上半身は地上に住む人間と似たようなつくりだが、下半身は青と紫のグラデーションを帯びた鱗に覆われている。純新無垢で美しい、海の妖精とまで言われる人魚。
輝くような銀髪は、決して海中にはあるはずのない金色の髪飾りで纏められている。蝶の形をした、美しい髪飾り。
けれども、彼女は知らない。
その髪飾りが蝶の形をしていることも。蝶が何であるかすら、彼女は知らない。蝶は海底にはやって来れないから。
光のない海の底では、彼女こそが光だった。
みずみずしく輝かしい、アリシアこそが。
中でも、どこからか髪飾りを見つけてそれをつけ始めたときから、彼女はいっそう輝きをましたように、周りの魚たちは感じていた。
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アリシアが海底を泳いでいると、たまに硬くて大きななにかと出会う。周りの魚たちは、それを船と呼んでいた。
地上に住む人間たちが、海を渡るために使っているんだそうだ。
でもけっきょく、こうして海に沈んでしまう。人間たちは海に出ることはできないのだ。だから彼らは、陸地で静かに暮らしているのだと、魚たちは言った。
そしてこうも言っていた。
絶対に地上に出てはならない。人間はとても恐ろしい生きものだから。見つかれば、すぐにでも捕らえられて鱗をすべて剥ぎ取られてしまう。
アリシアはそれを信じ、ずっと海底で暮らしていた。
ある日、魚たちとかくれんぼをしていたとき、アリシアは大きな船を見つけた。今まで見てきたものより、ずっと大きな船だった。
(どうして人間たちは、どんどん船を大きくするのかしら?大きいものほど沈んでしまうのに)
アリシアはそれが不思議で仕方がなかった。
ちょうど鬼役の魚が近づいてきたのを見て、その船の中に素早く隠れた。
船の中は広い。
なのに、空間がたくさん小分けにされていた。分けない方が広いのにと思った。小分けにされた空間には、2人ずつくらい、人間がいた。みんな苦しそうな顔をして、動かない。人間は、海の中では生きられないのだ。呼吸、というものが必要なのだと、教わった。
船の中は面白いものがたくさんあった。
人間たちはなぜだろうか、みんな布を纏っていて、煩わしそうだった。でもそれをかわいいとも思った。
魚を模したふわふわな物体があった。小さな子供が抱いていた。深海に住むアリシアには見覚えのない魚の形だった。
本というものを見つけた。黒い線がたくさん引かれていて、アリシアには何が何だかさっぱりわからなかったが、ところどころに描かれた綺麗な絵には、目を輝かせた。
船の中を思う存分に探検していたところで、一人の動かない人間が目に入った。
他の人間たちよりもカッチリした、息苦しそうな布を纏っていた。両手でそれはそれは大事そうに、小さな箱を持っていた。
アリシアはなぜだかそれがやけに気になり、近づいて箱をその人間の手から抜き取った。固くなった手から箱を取るのは難しかったが、なんとか抜き取った。
開けてみるとそこには、美しい髪飾りがあった。
それが髪飾りであると、最初アリシアはわからなかったが、同じようなものを頭につけていた小さな人間を先ほど見たのを思い出した。
髪飾りを気に入ったアリシアは、さっそくそれで銀髪を一束纏めて、これまた先ほど見つけた、自分の姿がうつる壁の前に行ってみた。
銀色の髪の上に金色の髪飾りは、よく映えていた。
「おーい、アリシア。降参するから、はやく出てきておくれ!もう君以外は、みんな見つけたんだ」
鬼役の魚の声がした。
「じゃあ、私の勝ちね!今行くわ!」
元気な返事をしながら、アリシアは船を出る。金色の髪飾りをつけたまま。
(とっても素敵な髪飾り!それに、船の中って面白いものがいっぱいだわ。…人間はとっても怖いけれど、いつかちょっとだけ…ちょっとだけ、上の世界に行ってみたい…)
_______________________________________
アリシアのその願いは、まだ叶えられていない。
周りの魚たちが止めるからだ。みんなの光であるアリシアには、一生、海底の住人でいて欲しい。…それが、魚たちの願いだ。
海底を、その明るい笑顔で照らし続けて欲しいのだ。
けれども今、彼女が一番まぶしい顔をするのは、地上を勝手に想像し、夢を抱き、それを熱烈に語っているときだった。みんなと遊んでいるときとは、まったく別の種類の笑顔。…わくわくからくる笑顔。
彼女の美しさをまたひとつ磨いたのは、「好奇心」だった。
【海の底】
海の底に、沈んでいく。
深く、深く。
もう、意識も持たなそうだ。
懐かしい思い出が流れるように出てくる。
所謂、走馬灯、というやつだろう。
出てくる思い出には、いつもあなたがいる。
最後に見たのがあなたでよかった。
必死に僕を助けようとしてくれた、あなたで。
僕の勝手な行動だったのに、必死で止めようとしてくれて。
僕は嬉しかったよ。
あなたにあえてよかった。
でも、最後くらい笑顔が見たかったな。
あなたの笑顔が大好きだったから。
涙でぐちゃぐちゃな顔も、悪くはなかったけど。
どんな顔でも好きだから。
苦しくなってきた。
もう、酸素が無いらしい。
段々と、ぼんやり靄がかかっていく意識。
最後の力を振り絞って呟く。
「ありがとう」
自分の口から出た泡が綺麗だ、そう思った。
浮かんでいく泡とは反対に海の底に向かって体が沈んでいく。
もう、思い残すことは何もない。
ほとんど何も見えなくなっている目をそっと閉じ、僕は意識を手離した。
るあ
海の底
この海の底に、遺跡が眠っているらしい。
らしい。というのは、もちろん噂だけが立っていて実際に確認した者がいないからである。
海はどこまで深いのかもわからず、未だ人間は海の底まで潜る術を持たない。
だけど確かに古い文献をあたるとこの辺りには都が栄えていたと記録がある。
それがどうして海の底に沈んでしまったのか。
その記録は、どこにもなかった。
ここに住んでいた人たちはどのような暮らしをしていたのだろう。
どのような文化が栄えていたのだろう。
海に思いを馳せてみても、答えは得られない。
そのまま船は海域を抜けて目的の大陸へ向かう。
船旅は順調だ。
そう、思っていたが。
船底から、微かに波とは違う振動を感じた。
そして突如目の前に上がる水柱。
どうやら、波乱の幕開けのようだ。
都があったかどうかはあまり覚えていない。
私はずっと城で暮らして、地上を見に行く時もいつも城から直接水面まで上がっていたから、城の周りがどうなっていたのか分からないんだ。
湖と海では違うのかもしれないね。
私は物心ついた時からずっと彼女達と城にいて、生きる為の全てをそこで覚えたから。
最初から湖の底で暮らした私と、地上にいた者が水底に降りるのとでは違うのかもしれない。
でも、そうだな·····。
水底というのは静かで、居心地は良かったよ。
光はあまり差さないけれど、だからこそ時折見える陽の光は綺麗だった。
白い砂が降り積もったみたいに広がって、上を泳ぐ生き物の影が黒く差すのが見えてね。その影を追い掛けるのが楽しかった。
その人がどんな人なのか、私は知る術も無いけれど、海の底の都に辿り着けたなら、きっと幸せに、穏やかに暮らしていると思うよ。
◆◆◆
「還りたいのですか」
「·····私が?」
「私には貴方が湖に帰りたがっているように聞こえました」
「まさか」
「だったら何故·····」
そんな遠い目をするのです?
続く言葉は、それこそ昏い水底に音もなく飲み込まれてしまう。
――あぁ、こんな話、するんじゃなかった。
END
「海の底」
潮騒が響いている。
年中夜の空間に今日も今日とて、
無表情を貫き通す傘の御人が海を眺めている。
かつて彼は、海に降り注ぐ言葉を愛でていた。
幼い彼女の先生代わりというのもあったが、
本質的に言葉というものに興味があったからだろう。
思考の海の管理に勤しんでいた。
海漁りする自分より熱心に、海からの拾い物をしたり、分類分けをしたり、検索しやすいよう工夫を加えたりと、実に働き者だった。
どちらが良い言葉を見つけられるか競っていたあの日々が、今となっては懐かしい。
本体の暴走が起きて暫くすると、彼は冷めた表情をすることが多くなった。
あれほど熱心に管理していた海も管理しなくなってしまったし、自分との拾い物競争もしてくれなくなった。
止むことなく届く言葉で荒れる海にも、彼は表情一つ変えず、ただ見つめるばかりだった。
そして、自分が気付いた時には──どこから作り上げたのか──傘を持ち、空からの言葉を嫌うまでになっていた。
彼は、この世界で最も本体に近いところに存在している。
一番の被害者は──彼だったのだと知ったのは随分後になってからだった。
「やあ、こんばんは」
傘の御人に声をかけると、凪いだ目に僅かに光が灯った。
「この時間にやって来るとは何事だ?ドリームメーカー」
「カードの御人に拾い物の一部を譲って欲しいと言われましてね。折角だから、拾いたてのものを差しあげたほうが良いかと思いまして。こうして、やって来た次第です」
海漁りさせてくださいね。
軽い口調でそう言うと、いつもならば「勝手にしろ」とか言ってくるのに返事がない。
不思議に思って彼の方を見ると、思い詰めた顔をしている。
「どうかしましたか?」
「…お前は、この海の底がどうなっているか知っているか?」
「知っている…としたら、どうします?」
敢えて遠回りの言葉を選ぶと、
彼は俯きボソリと呟くように言った。
「海の底は今、どうなっている?」
「それは、貴方自身が見なくてはいけないことです。ねぇ、思考の海の管理人さん」
名前を呼ぶと彼の肩が僅かに震えた。
口を開いたり閉じたりしている。
言うべき言葉を躊躇っているのか、
或いは沢山の思いが、言葉が、
彼の邪魔をしているのかもしれない。
「ねぇ、たまには自分と勝負しませんか?」
ドリームメーカーの言葉に思考の海の管理人は、
疑問符を浮かべた。
「拾い物競争しましょう、海の底で」
ドリームメーカーはそう言うと、
海を指差し、ニッと笑った。
────────────────────────
ドリームメーカーと思考の海の番人もとい管理人
"海の底"
用事を済ませた帰り道。数メートル先に見覚えのある建物が見えた。
──前に飛彩と行ったカフェがある水族館だ。
あの時はカフェが目当てで、水族館の動物達はカフェから見える程度の、ほんの一部しか見ていなかった。
──ちょっと見ていくか。
お留守番中のハナに申し訳ないけど、カウンターで入場料を払い水族館の中に入る。
──帰ったらいつもよりいっぱい撫でてあげなきゃな……。
中に入るとすぐ、ペンギンやアザラシの他、水深が浅い所に住む魚達だろう。淡い青の空間の中、元気にすいすいと泳いでいる。
──元気いっぱいだな。まるでおもちゃで遊んでる時のハナみたいだ。
猫じゃらしや蹴りぐるみで遊んでいるハナの姿を思い出す。改めて目の前の魚達と重ねると、とてもよく似ていて、なんだか可笑しくて小さく控えめに笑って奥へと歩みを進める。
奥に進むと、深海に住む魚達だろうか、先程より暗く、深い青で満たされた空間が広がっている。中の魚達は、先程の水槽の中の魚達と違い、ゆったりした動きで泳ぎ回っている。
──綺麗……。
優雅に泳ぐ姿に、その言葉以外に相応しい言葉が思い浮かばない。
ふと気がつく。魚達のように、この空間に来る前より歩みが遅くなっている。この空間の照明と相まって、まるで深いプールの底を歩いているような足取りだ。
──そろそろ帰ろう。これ以上はハナが怒って爪を立ててくる。
爪切ったばかりだけど。
その後は歩きながら横目に魚達を見ていって、出入り口から建物の外に出る。
──今度はゆっくり見たいな。久しぶりにカフェにも入りたい。あの時食べたティラミス美味しかったから、また食べたい。
そう思いながら、早足で帰路に着いた。