【海の底】
海の底に、沈んでいく。
深く、深く。
もう、意識も持たなそうだ。
懐かしい思い出が流れるように出てくる。
所謂、走馬灯、というやつだろう。
出てくる思い出には、いつもあなたがいる。
最後に見たのがあなたでよかった。
必死に僕を助けようとしてくれた、あなたで。
僕の勝手な行動だったのに、必死で止めようとしてくれて。
僕は嬉しかったよ。
あなたにあえてよかった。
でも、最後くらい笑顔が見たかったな。
あなたの笑顔が大好きだったから。
涙でぐちゃぐちゃな顔も、悪くはなかったけど。
どんな顔でも好きだから。
苦しくなってきた。
もう、酸素が無いらしい。
段々と、ぼんやり靄がかかっていく意識。
最後の力を振り絞って呟く。
「ありがとう」
自分の口から出た泡が綺麗だ、そう思った。
浮かんでいく泡とは反対に海の底に向かって体が沈んでいく。
もう、思い残すことは何もない。
ほとんど何も見えなくなっている目をそっと閉じ、僕は意識を手離した。
るあ
1/20/2024, 12:31:41 PM