"海の底"
用事を済ませた帰り道。数メートル先に見覚えのある建物が見えた。
──前に飛彩と行ったカフェがある水族館だ。
あの時はカフェが目当てで、水族館の動物達はカフェから見える程度の、ほんの一部しか見ていなかった。
──ちょっと見ていくか。
お留守番中のハナに申し訳ないけど、カウンターで入場料を払い水族館の中に入る。
──帰ったらいつもよりいっぱい撫でてあげなきゃな……。
中に入るとすぐ、ペンギンやアザラシの他、水深が浅い所に住む魚達だろう。淡い青の空間の中、元気にすいすいと泳いでいる。
──元気いっぱいだな。まるでおもちゃで遊んでる時のハナみたいだ。
猫じゃらしや蹴りぐるみで遊んでいるハナの姿を思い出す。改めて目の前の魚達と重ねると、とてもよく似ていて、なんだか可笑しくて小さく控えめに笑って奥へと歩みを進める。
奥に進むと、深海に住む魚達だろうか、先程より暗く、深い青で満たされた空間が広がっている。中の魚達は、先程の水槽の中の魚達と違い、ゆったりした動きで泳ぎ回っている。
──綺麗……。
優雅に泳ぐ姿に、その言葉以外に相応しい言葉が思い浮かばない。
ふと気がつく。魚達のように、この空間に来る前より歩みが遅くなっている。この空間の照明と相まって、まるで深いプールの底を歩いているような足取りだ。
──そろそろ帰ろう。これ以上はハナが怒って爪を立ててくる。
爪切ったばかりだけど。
その後は歩きながら横目に魚達を見ていって、出入り口から建物の外に出る。
──今度はゆっくり見たいな。久しぶりにカフェにも入りたい。あの時食べたティラミス美味しかったから、また食べたい。
そう思いながら、早足で帰路に着いた。
1/20/2024, 12:26:54 PM