『柔らかい雨』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
11月に入って山もやっと登りやすくなってきた 少し色づいてきた木々の間からの柔らかい日差し 鳥のさえずり 風の音… でも急に空が暗くなってきたと思っていると ポツポツ…ほてった肌にあたる 身近に自然を心地よく感じながら 今日も歩く…
ポポヤ
「あ〜、よく寝た」
仕事で残業漬けの日々を抜け、やっと迎えた休日。
余程疲れていたのか、目が覚め時計を見ると、10時を回っていた。
「あらら、もうこんな時間。急いで洗濯しなきゃ」
仕事の日は、遅い時間に帰るため、家事は後回しになっている。
「洗濯機を回して、掃除もしないと」
家事を始めないと。と思い、ベッドから降り、カーテンを開けると
「あっ…」
空はどんよりとした雲に覆われ、雨が降っていた。
「雨か。せっかくの休日なのに」
と、残念な気持ちになったけれど
「そっか。きっと神様が、今日はゆっくり休みなさい。って、私がのんびりできるように雨を降らせてくれたのかも」
気持ちを切り替え、柔らかい雨が降る窓の外を見つめながら、神様に感謝するのだった。
柔らかい雨は 丸みを帯びた湿度を持って
私の頬を撫でて行く
柔らかいと信じてた雨は 確かな鋭利さと
冷たさを持って 痛いほど気付かせる
追う雨はやがて剥き出しの意思を持つ
あぁ冬が来た。
✼•┈┈柔らかい雨┈┈•✼
柔らかい雨
要は小雨とか霧雨のことか。時々あるね。傘さす必要もない程度の雨。
そんなことより今日は電子レンジの話をしたい。あと昨日途中でやめたダイエットの話。
まず電子レンジの話から。電子音が鳴らないようにできる機能が素晴らしいというのは前も書いたけど地味に便利なのが時間の調整。
以前のはダイヤル式で回して時間調整をしてたんだけど今のはボタン式。一分、三十秒、十秒の三つのボタンで時間調整をする。
買う前はダイヤル式に慣れてたからボタン式とかめんどくさそうだなって思ってたんだけど実際に買って使ってみたら評価が変わった。圧倒的にボタンのほうが楽で便利。
今までは仮に五分だったら適当に回してから微調整する必要があったんだけどボタン式は五回ボタンを押すだけ。便利すぎる。
このボタンを押すってのが買う前はめんどくさそうに思えてダイヤルでいいじゃんって思ってたんだけど実際は逆だった。ダイヤルのほうが圧倒的にめんどくさい。
今思えばダイヤル式とかよくあんなめんどくさいの使ってたなって思う。労力としては些細な違いなんだけどね。
ただ毎日使うものだからその些細な違いが大きな違いに思える。おかげでなんか電子レンジを使うのがすごく楽になった。
今日はダイエットの話を書きたかったんだけどなんか電子レンジの話が思ったより長くなっちゃったな。しょうがないからダイエットの話は明日にするか。
天使の涙か、ティッシュペーパーかと思った。遠くに東京タワーを見据えた私の右頬を、雨がやさしく撫でた。
情緒と実利。いやティッシュに情緒を感じても別にいいんだろうけど。
昔のことを思い出す。未来のことを思い出すことはできないのだから当たり前かも知れないけれど、後ろばかり振り返っている自分が少し嫌いだ。
それは、天使の涙でもティッシュペーパーでもあったのかもしれない。涙は私にこぼれたあと、きっと誰かに拭き取られたのだろう、残っているのはなま暖かい感覚で、気化熱が私からなにかを奪っていく。それがたまらなく心地よい。東京と雨とタワーがあれば、シンガーソングライターなら二曲は書けるだろうけど私にはまだ不足だから、奪われたなにかと一緒に探しに行きたい。別段、大きくならなくてもいい、未来に向けての小さな種を。
テーマ柔らかい雨
柔らかい雨の季節がすぎて
雨に冷たさがまざる
君はもうすぐ冬毛かな
冬をむかえる準備が
あわただしく
紅葉していく
雨は嫌いだ。身体を芯から冷やしていき、感覚を奪う。
何より、自身が犯した沢山の罪の証拠を洗い流していくようで、居心地が悪かった。
「三耀は雨が嫌いかい?」
賽花が繕い物から顔を上げ尋ねる。答えなどとうに出ているというのに、彼女にそう聞かれると何故か俺は言葉に窮した。
「別に嫌いって訳じゃ…」
「けど、朝起きて雨が降っていると気落ちして見えるよ」
「そりゃ誰だってそうでしょ」
雨が降れば畑仕事は捗らないし、何より散歩さえ儘ならない。彼女と違って手持ち無沙汰になる。
「運動出来なくて彼女の機嫌が悪くなるからかな」
そう言って賽花は窓の外を見た。視線の先では仮作りの厩で愛馬が不機嫌そうに嘶いた。
「まあ、それもあるけど」
そもそも、この三耀という名も仮の名だ。記憶を無くしこの山中に行き倒れていたのを、賽花に拾ってもらった。その折に彼女の父の名を借りることになった。
だからこそ、思い出したい。元々俺は何者だったのか。何故あんな立派な軍馬が俺に懐いていたのか。
雨に降られる度に、記憶が洗い流されていくみたいだ。本当の自分から遠のいていく気がして焦りが募る。別に今の生活が嫌いなわけでも無いのに。
「…私はね、雨は好き”だった”よ。君がそんな顔するようになるまではね」
彼女は不思議だ。俺の何もかもを見透かしてるような気がしてくる。
「そろそろ君は消えて居なくなってしまうのかもな」
「そんなこと…」
無い、とは言い切れなかった。今だって、何故か駆け出して元いた場所に戻りたい、と掻き立てられている。どこに居たのかも分からないのに。
続きを言い淀む俺の言葉を遮る様に、愛馬が再び嘶いた。まるで俺を呼ぶように。
「……けれど迎えが来たみたいだよ」
賽花が諦めた様に苦笑した。俺はその言葉にハッとして外へ駆け出す。靴に泥が染み込むのを気にかけることもなく。
山の木々に雲間から差し込む光が当たる。霧雨が辺りを靄がけて、そこに居る存在の輪郭をぼやかせた。
「——若様!」
誰のことを言ってるんだ。俺にも分からなかった。なのに咄嗟にそう呼びかけた。
美しい毛並みの軍馬に跨った錦の鎧の男は、雷鳴が轟く様な大声で俺に呼びかけた。
「何をしている!早く帰って来い!—“ ”!」
その声を聞くや否や、俺は厩に向かって叫んだ。
「翡翠!」
呼ばれた彼女は柵を軽々と飛び越え俺の元へと駆け付ける。躊躇うことなく跨がれば、疾風の様に俺たちは駆け出した。
全身が雨でしとどと濡れる。けれどなりふり構わなかった。
(賽花に礼もしてないのに)
そう思い後ろを振り返れば、霧の向こうに確かに彼女が立ち尽くし俺を見送って居た。
何も気にすることはない。そう、言っているように見えた。
「一体どこをほっつき歩いていたのだ、岱」
あの山中で見た時と同じ、錦の鎧を身に纏った偉丈夫…従兄の馬超が問うた。
「はは、俺にもさっぱり…けど、多分」
あの日と同じ柔らかな霧雨に包まれながら、三耀—もとい、馬岱が答えた。
「山の神様にでも魅入られてたのかも」
豫劇:収馬岱 より
≪柔らかい雨≫
#柔らかい雨
窓を開けたまま、眠ってしまった。
目が覚めたら、しとしと柔らかい雨の音。
枕元のスマホに手を伸ばすと、彼からメッセージが何通も来ている。
“眠れない”“会いたい”“来て”。
仕事で悩んでいることは知っている。
ずっと励ましてきたし、会いたいと言われれば駆けつけた。
大丈夫、ムリしないで、いっそ辞めてしまおうよ、出直そう。
何を言っても、でも、だっての繰り返し。
簡単に言うなよ!とケンカになって、同じ所をぐるぐるするばかり。
私はそっとスマホの電源を切って、布団に頭まで潜り込んだ。
ごめん今日は行けない、だって雨が降ってるんだもの。
あなたのお母さんにはなれない、もう雨が降ってしまったんだもの。
秋のとある寒い日、その日の教会には豪雨が襲いかかっていた。前日に子供たちがリーリエの部屋の窓を割ってしまいその雨は容赦なく窓から入り込み窓辺を水で染めていった。
「あああ……だめね、一通り仕事が終わってやっと寝れると思ったのに!こんなベットまでびしょびしょだと寝れないわ」
「ふむ、面倒なことになった、物置で寝るか?多少は埃臭いが廊下で軽くはたけば使えるだろう?」
「そうねぇ……」
なんて言いながらリーリエの足は物置へ向かっていた
あまりにも今日は忙しすぎたのだ、雨の日はただでさえ偏頭痛が酷いのに、今日の台風の影響で怪我人が何人も出たのだ。
大体の怪我人は白の族長ヒティの命により治療に駆け回った白の一族で何とか足りたものの、その治癒能力を持っても治りきらなかった怪我人をこちらで受け持ったのだ、その際に使われるリーリエの治癒能力は白の一族よりも圧倒的に質が良い故に治癒速度もとんでもなく早い、が、やはり条件がある。
水、水、たくさんの水、負傷部分を包み込むだけの水が必要なのだ、それを操るための元の能力もやはりとてつもない量の気力が必要になる。唯一の救いが、リーリエの嫌いな雨である、どんな汚れた水でも能力を使うとたちまち綺麗な水になるのでその点は全く心配ない。
「うっ」
「おっと、大丈夫か?リー」
「うん、大丈夫よ、やっぱりあの量を1人で治すってなるとだめね、眠くて仕方ないわ」
「そうか、少しの間寝ていなさい、妾が準備をするからやすんでいろ、なに、すぐ終わる」
「そう?なら素直に甘えようかしら」
さっさと準備するルーリエを横目にリーリエはしばらく目を閉じた、目を閉じた先は暗闇ではなく先程の惨劇、白の一族により運び出された負傷者は皆ずぶ濡れな上に血にまみれていた。
私は水さえあれば治療は無限だが、白の一族にとっては有限である、回復さえすれば使えるが運び出した白の人らももはや顔色は土色であったので、その人たちも回復をしてあげていた。
血にまみれ、泣き叫び、もはや死体のごとく動かない人もいた、幸いにも死者は2人だけだったが、それは子とその母親だった。庇おうと覆いかぶさった母親と赤子はその折れた柱が母子を貫いたのだ。
着いた頃には仮死状態だった、どんなに回復を使おうと血液は再生できない、傷跡は塞がっても不足した血液を補うことなくその短い生を終えた。
今でも、あの光景が生々しく手に残っている。
ただでさえ冷たかった体はもはや氷のよう、開かれていた目は苦しそうな表情をしていたのでそっと閉じた。
「リー、終わったぞ、おいで」
「あっ」
つい寝かけてしまったが起こされるとそこには安易だが2人分は寝れるベットがあった、そこ行き横になるとそっとルーリエが頭を撫でながら一緒に横になってくれる。
「リー、今日はよく頑張ったな、妾も誇りに思う」
「うん、私頑張ったよね」
「勿論だ、愛しいリー、もう眠りなさい」
「おやすみ、かあさん」
母さんがこんなに優しくしてくれるのなら、たまにはこういうのもいいかもしれないと思う。
ある日酷く落ち込んでいた時、雨にすらすがりたいと思ったことがあった。その時肌に感じたのは、まるで空が慰めてくれているかのような、柔らかい雨だった。
人間なにかにすがりたい時は、どんなに冷たいものも温かく丸みを帯びたように見えてしまう。心身が自然と慰めを欲しているのだろう。
さて、果たして人間の錯覚が理由で時々雨が柔らかく感じられるだけなのだろうか。実は雨はいつも柔らかくて、 感情の起伏で感受性が強まった時にだけ、そのことに気付くのではないのだろうか。
雨が軟水なら軟らかい雨
硬水なら硬い雨になるのかしら
柔よく剛を制す柔らかい雨
剛よく柔を断つ剛い雨
ニワカ雨ニモ負ケズ
サウイフモノニ
ワタシハナリタイ
#柔らかい雨
美少女の全速力で一生懸命走ってるシーンは見応えがありそうだ♪
それはまさに一瞬のことであった。
「あ」
という声が出たのと彼女が車にぶつかって飛ばされたのは同時だった。残酷なことに、彼女は次のデートの約束を置いたまま死んだしまった。
結婚詐欺を始めてかなり経ったが、相手が事故死してこちらが香典を渡さねばならなくなる日が来るとは思わなかった。そして近ごろ業績の悪かった自分はこの案件のせいで物理的にもクビだろう。
「クソッ」
夜逃げが上手くいったとしても、この先ロクな人生は待っていない。どうしようもなくて苛ついたまま空をむなしく見つめると、小雨が降り出した。雨はすべてを隠して今日だけは何もかも忘れさせてくれるような気にさせた。
「来たぞー!降ってきたぁ!」
男衆が声を上げる。
「バケツだ!バケツ持ってこい!なんでもいい、カンカンでも巾着でも大丈夫だ!」
村のみんなは急いで外に出て、空から降るものをそれぞれの家から持ち出したバケツや箱や袋で受け止めようとした。
みんなが待ち望んだ、恵みの雨、柔らかい雨だ——
この村に“柔らかい雨”が降るようになったのは数ヶ月前のことだった。初めのうちは誰も気づかなかった。柔らかい雨は地面に落ちれば普通の雨と変わらず土に浸透していく。
ある日その雨が長く降り続いたとき、農作業で使っていたトラックの荷台に雨が溜まっていることに弥助が気づいた。そんなに強い雨ではないように思ったが、荷台には薄らと膜のように水が張っている。水が凍るほど寒い日ではない。弥助がその膜に触れてみると、柔らかかった。
それから村の方々で報告が上がってきた。外に置いていたバケツに溜まった雨が柔らかい、ビニールシートの上に柔らかい水が溜まって崩れそうだ。
そこで寄り合いを開いてみんなが採集した雨を集めることになった。
触ってみると確かに柔らかい。ゼリーのような感触で、しかし掬おうとすれば水のように流れていく。口に含んでみる命知らずもいたが、害はなさそうだ。舌に触れたときに一瞬だけ質感があるものの喉につく頃には液体になっていて無味無臭、水のようだった。
田畑にも被害は出ていない。もともと土には浸透するから地面から溢れることはないし、成分が水なら問題はない。
村の者たちは不思議なオモチャと思って採集したり、興味本位で研究したりとあまり深く考えずに新しい物質と接し始めた。
しかしひと月と経たないうちに、悲劇は起こった。
「痛っ、なんだ?石ころか?誰だオレの頭に石ころ投げたんは!」
農作業をしていた文六が憤慨する。
「石ころ?んなもん投げねーよ。痛っ!ん?」
反論した太兵衛も頭に痛みを感じて空を見上げる。
「雨…か?」
その日降った雨は砂利程度の大きさの粒でも人に痛みを与えるほどの強さがあった。
“硬い雨”が降ってきた。
夜に向けて激しさを増した雨は村の家屋を貫き、茅葺きの屋根は跡形も残らなかった。瓦屋根は貫かれることはなかったが、瓦が割れる被害は続出した。負傷者も多数。トラックや農機具にも被害が出た。
被害の状況から硬い雨の特徴も見えてきた。柔らかい雨と同じく地面に落ちれば浸透する。農作物にも害はない。しかしとても重量があり、物に落ちれば貫通するほどの威力がある。そしてもう一つ。
「あの日、痛い雨から逃げようとして、とっさに川に入ったんです。そしたら雨に打たれてる感覚がなくなって…」
調査チームが村の近くの池や川を調べてみると、魚たちが死んでいる様子はなかった。
詳しく調べると、水に落ちてもすぐに勢いと硬度を失い、普通の水と同化するようだった。
そして村の調査団はこう結論づけた。“柔らかい雨”が“硬い雨”の盾になる。
その日から村のみんなにとって、次に降る雨が“柔らかい雨”か“硬い雨”かは死活問題となった。みんな祈りながら次の雨を待った。そして柔らかい雨が降ると一斉に外に出て、バケツやお盆、お椀、グラス、ボウル、巾着、エコバッグ、ナップザック…雨を受け止められるありとあらゆるものを総動員して柔らかい雨を収穫するのだった。
集めた柔らかい雨で大切なものをコーティングするのが次の仕事となる。雨でハケを濡らして、家の屋根から農機具、ビニールシートなどに塗っていく。日除けのための笠もコーティングすれば硬い雨から身を守る鋼鉄の兜に様変わりだ。
柔らかい雨を帯びた村の家々は、朝日を浴びると虹色の輝きを放ち、幻想的な光景を生み出した。
『虹色の村』
旅の写真家がこのタイトルを付けてSNSで発表した一枚の画像が、全世界を駆け抜けた。写真家はさらにこうコメントを付けている。「生きるために懸命に努力する人のエネルギーは奇跡の光景を生み出す。私はその人々のエネルギーを写真に収めたに過ぎません」。
その後、この村には命懸けで訪れる観光客が世界中から山のように訪れ、みなが柔らかい雨でコーティングした防護服(笠と蓑)を買い求めた。
村のみんなは、今日も恵みの雨を待ち望んでいる。
ここ最近ずーっと晴れていて、だから、布団にくるまって、スマホばかり弄っていた。カーテンを閉めていても入ってくる陽の光が怖くて、私を責めるようにジリジリ焼いて、黒い汁にまで溶かしちゃうような気がしてた。
業者さんに発見されたら、人の形になってるのかな。私の形は、ベッドにくっきり残って、写真を撮ってくれるのかな。
そんな風に思うと、少しだけ悪く無い。生まれて初めて世間に爪痕を残せるような、そんな気持ち。
でも、今日の朝は違った。いつものように朝日が私を虐めてこない。音楽を止めても、耳鳴りが聴こえなかった。それは、外の音のおかげだった。
今日はカーテンを開けられる。ザッと思い切り引っ張ってやると、予想通りの良いお天気だった。雨雲が街を覆って、ざんざんと降る水滴が何も見えなくしてくれて、何の匂いもしない。
外に出よう。風呂に入ってなくても、髪がボサボサでも、部屋着のままでも、すっぴんでも。雨が包んでくれるから、傘が隠してくれるから。
みんな、雨に気を取られて、私を見ない。濡れたくない、寒い、って、みんな早足で、私を見ない。
家よりちょっと離れた場所の自販機で、大好きなメロンソーダを買った。今日の私はすごい。いつものメロンソーダが、すごく幸せで価値のある、ご馳走に見えた。
私を包む様に降る雨を
私は祝福と言おう
お題:柔らかい雨
#80 柔らかい雨
[心地良い雨]
帰り道。
ミストシャワーみたいな霧雨(きりさめ)。
きめが細かいから
肌に触れても、むしろ心地良い。
ここに柔らかい太陽が出ていると、
なお良し。
天然のリラックス空間
(肌には優しくないのでほどほどに)
の出来上がり!
柔らかい雨だと?
隣で君はそうこぼすけど
雨はこの肌に突き刺さる
でこぼことしたこの古臭くなってきた肌は
もうこの雨を優しく受け止められないのだよ
男は笑った
「柔らかい雨」
雨が降る中、傘もささずにアイスキャンディを齧る。
晴れわたる青空と穏やかな降雨は、ちぐはぐで。
「――目を凝らしたら、雫のかたちが見えそうな雨」
それが、君がこの天気を好む理由。
初めてそれを聞いたときの、ロマンチストな表情をする君の横顔に伝う、細やかな雫が目に焼き付いている。
「…………」
この雨は、世界から音を取りあげる。
意気地のない僕が君に愛を囁くには最悪の気候だった。
「…………」
目の前にいる君の乾いた唇が、ほんのわずか開かれた。
僕と同じ口の動きをしたのではないかという見立ては、未練がましい僕の妄想かもしれない。
僕を差し置いて、どこの狐に嫁いだというのだ君は。
そう文句のひとつでも言ってやりたいような。
僕の決意が遅かったのか、君の歩みが早かったのか。
それは未だに分からないままで。
淡く架かる虹と代わるように、君の輪郭がぼやける。
困るのだ。君はいつも奔放で、いつの間にか姿を消す。
まだ伝えたいことが、山ほどあるのに――。
半分も手つかずのアイスキャンディが、滑り落ちた。
咄嗟に掴んだ手に伝わる冷ややかな刺激で、我に返る。
僕の頬を流れるのは、ありふれた涙ではない。
悲恋にあえぐ雫は、とうに枯れてしまった。
美しく、そして憎い。
それはあの日と同じ、柔らかい雨。
2024/11/06【柔らかい雨】
『柔らかい雨』
柔らかい雨が降ると、そこらじゅうから匂いがする。
アスファルトが濡れた匂い、土が濡れた匂い、雑草が濡れた匂い。
家の中にいても、それらの匂いを感ずると「雨が降ってきたんだ。」とわかる。
しかし、最近は柔らかい雨が降らなくなった。
いきなり降る雨は直ぐに豪雨となり、匂いが発する瞬間さえ与えない。
雨の音が怖くなった気さえ、するのである。