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秋のとある寒い日、その日の教会には豪雨が襲いかかっていた。前日に子供たちがリーリエの部屋の窓を割ってしまいその雨は容赦なく窓から入り込み窓辺を水で染めていった。

「あああ……だめね、一通り仕事が終わってやっと寝れると思ったのに!こんなベットまでびしょびしょだと寝れないわ」
「ふむ、面倒なことになった、物置で寝るか?多少は埃臭いが廊下で軽くはたけば使えるだろう?」
「そうねぇ……」

なんて言いながらリーリエの足は物置へ向かっていた
あまりにも今日は忙しすぎたのだ、雨の日はただでさえ偏頭痛が酷いのに、今日の台風の影響で怪我人が何人も出たのだ。
大体の怪我人は白の族長ヒティの命により治療に駆け回った白の一族で何とか足りたものの、その治癒能力を持っても治りきらなかった怪我人をこちらで受け持ったのだ、その際に使われるリーリエの治癒能力は白の一族よりも圧倒的に質が良い故に治癒速度もとんでもなく早い、が、やはり条件がある。
水、水、たくさんの水、負傷部分を包み込むだけの水が必要なのだ、それを操るための元の能力もやはりとてつもない量の気力が必要になる。唯一の救いが、リーリエの嫌いな雨である、どんな汚れた水でも能力を使うとたちまち綺麗な水になるのでその点は全く心配ない。

「うっ」
「おっと、大丈夫か?リー」
「うん、大丈夫よ、やっぱりあの量を1人で治すってなるとだめね、眠くて仕方ないわ」
「そうか、少しの間寝ていなさい、妾が準備をするからやすんでいろ、なに、すぐ終わる」
「そう?なら素直に甘えようかしら」

さっさと準備するルーリエを横目にリーリエはしばらく目を閉じた、目を閉じた先は暗闇ではなく先程の惨劇、白の一族により運び出された負傷者は皆ずぶ濡れな上に血にまみれていた。
私は水さえあれば治療は無限だが、白の一族にとっては有限である、回復さえすれば使えるが運び出した白の人らももはや顔色は土色であったので、その人たちも回復をしてあげていた。
血にまみれ、泣き叫び、もはや死体のごとく動かない人もいた、幸いにも死者は2人だけだったが、それは子とその母親だった。庇おうと覆いかぶさった母親と赤子はその折れた柱が母子を貫いたのだ。
着いた頃には仮死状態だった、どんなに回復を使おうと血液は再生できない、傷跡は塞がっても不足した血液を補うことなくその短い生を終えた。
今でも、あの光景が生々しく手に残っている。
ただでさえ冷たかった体はもはや氷のよう、開かれていた目は苦しそうな表情をしていたのでそっと閉じた。

「リー、終わったぞ、おいで」
「あっ」

つい寝かけてしまったが起こされるとそこには安易だが2人分は寝れるベットがあった、そこ行き横になるとそっとルーリエが頭を撫でながら一緒に横になってくれる。

「リー、今日はよく頑張ったな、妾も誇りに思う」
「うん、私頑張ったよね」
「勿論だ、愛しいリー、もう眠りなさい」
「おやすみ、かあさん」

母さんがこんなに優しくしてくれるのなら、たまにはこういうのもいいかもしれないと思う。

11/7/2024, 1:04:09 AM