『春爛漫』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
3、2、1………という掛け声と共に、パシャリという軽快な音が鳴る。その音の正体は、笑顔を浮かべている先生が構えるカメラのシャッター音だ。何度か撮り直した後、納得がいったのか先生は『OKです!』なんて意気揚々とカメラを下ろした。
学年ごとの集合写真が終わった瞬間、生徒達は騒めきだし各自友人と話したりなど好きなことをし始めた。本来ならば注意をする筈の先生は先生同士で話が盛り上がっている。
自分もこんな時は友人と話しているのだが、生憎友人は風邪で休んでいる。クソ……俺には友人がアイツしかいないのに、なんて心の中で文句を垂れる。少し居心地の悪さを感じ、俺は担任に保健室に行くと伝えて校庭を後にする。
幸運なことに保健室には生徒が誰もおらず、養護教諭の先生だけがいた。一応気分が悪いとありきたりな仮病の理由を使い、熱を測ることとなった。どうせ熱なんてある筈がない、だって仮病なのだから。なんて考えていると、ピピッ…と体温計の音が鳴った。自分の傍から抜いて体温を確認する。
目を疑ってしまった。平熱を示す筈の体温計には、37.8とデ
ジタル文字で記されていたのだ。それを見た養護教諭の先生
はすぐに俺の親に連絡を入れ、早退させる準備を始めた。
『もしかして、僕の風邪移ったかな?』
早退した次の日、堂々と俺の部屋に居座って小説を読むアイツは、寝転がっている俺に視線も向けずに聞いてきた。
『花冷えで風邪引いただけだから』
全然元気じゃないかという気持ちを飲み込んで、俺は窓から差し込む光に目を細めながら答えた。
すると微かに開かれた窓から一枚の桜の花弁が、アイツの読む小説に舞い落ちた。
春爛漫という言葉が似合うアイツを見て、身体中を襲う倦怠感が少し軽くなったことは俺だけの秘密だ。
_春爛漫_
桜並木
憂鬱な朝の登校
少しでも春に歓迎されている気分
寒い心が少し解された
でもそのまま蕩けて動けなくなりそう
春は優しすぎるんだよ
4月も半ばにさしかかろうとしていて、春爛漫の情景を感じさせる息吹と呼応するようにクラスにも笑顔とコミュニティが広がり始めたみたいだ。教室にいる彼らの時計と病室にいる僕の時計の指す時間はきっと全然違うものなのだろう。いつになれば僕の時間は動き出すんだろうかなんて他責思考な自分。誰かにむかえにきて欲しいと思うのはあまりに我儘だろうか。
春爛漫
シートを広げて
お弁当
お腹いっぱいでも
甘いものは別腹
お団子も
花見はおまけ
みんなで
ワイワイしたいだけだよ
桜さんありがとう
春爛漫
春爛漫ってなんですか笑
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こんにちは😊希-のぞむ-デス!めちゃめちゃ空いてしまった…高校生になりました‼️
初日から最悪です。😭もう行きたくない笑
春爛漫って冗談抜きで意味わからない笑明日も書けません…明後日はかけるようにしますね❣️❣️❣️
春爛漫
あたたかい季節
お花見日和
春爛漫
気持ち良い
桜吹雪の
木の真下で
春感じる
なな🐶
2024年4月10日959
「春みたいな頭。」
紫煙に包まれてぼやけた視界の中、御崎さんは皮肉たらしくそれを口にした。
眼の前にいる私に向けられて発せられたもの。
ひどく蔑む、あるいは見下すような声色であることは、観察に疎い私でもよく分かる。
「桜が満開の様子を、頭の中がお花畑と例えたのでしょうか。」
「まあ、それもある。これトリプルミーニングだから。」
「残り2つは?」
「考えてみなって。初めから答えを求めんのは、社会人として良くない姿勢だ。僕が矯正してあげないと。」
貴方だって、それほど褒められたエチケットを持っていないだろうに。
優秀な成績に胡座をかいていることは日々感じる。
表上はニコニコしていたって、上からも下からもそれほど慕われていないことをこの人は知っているのだろうか。
「……あ。入学式のようにおめでたい頭?」
「お、いいねそれ。クアドラプルミーニングだ。」
聞き慣れない言葉に顔をしかめる。
「なんですか、それ。」
「知らない?トリプルの次。4って意味の。」
「初めて聞きましたよ。」
スカートをふわりと翻し
葉桜の中で舞う君が
花から花へと飛び回る蝶のように
人の輪へと入っていく
羽休めに、僕の所へ寄り道をしないかと
淡い期待を抱いてしまうのは
きっと、春のせい
題 春爛漫
ヤァ、グーテンアーベント⋯⋯。 今夜は寒いな、こちらにおいで、さっき火を炊いたばかりだから、魚の下処理を手伝ってくれ。⋯⋯ ヒトに会うのは久しぶりだ。⋯⋯ 君は、どこから来たんだい⋯⋯ ホォ、フランセーズ⋯⋯ フランクライヒか⋯⋯。 あそこは、遺物が多く残っているから、楽しかっただろう。⋯⋯ 俺は、エッフエル塔が好きだったな⋯⋯ 高い塔があっただろう、⋯⋯ 名前を知らなかったのか、馬鹿め、本を読め。遺物が多いところには、図書館という、本が多く保存されていた場所があるんだ。運が良ければ、まだ読める本が見つかる。俺は今まで、様々な場所を旅して、いくつか図書館を見つけたが、⋯⋯ それでも、世界が滅亡した理由だけは見つけられなかったな。
⋯⋯ 俺か、俺は、生まれた時から親父と歩き回ってたから、故郷はない。けど、親父はドイチュラントの辺りの人だと話してたから、俺にもその血が流れてるはずだ。
君はこれからどこへ⋯⋯ 東か。⋯⋯ 俺は、もう旅は辞めることにしたんだ。ここから西に行ったところに、小さな集落ができているらしい。そこに定住しようと思う。⋯⋯ 何故って、滅亡の秘密を知ったからさ、どうりで、図書館では見つけられないはずだと思ったよ。
⋯⋯ 知りたいのか。いいのか、お前の旅の目的を奪うことになるぞ。⋯⋯ そうか、分かった。
俺は、47回太陽を巻き戻した日、大陸の東の果てにたどり着いた。その地の名はシナと言った。とても美しいところだった⋯⋯。 崩壊した朱い建築には、覆い被さるように大量のアサガオと言う青や、紫の花が伝い、川にはとめどなくスイレンという宝石のような花が流れ、そして至るところにサクラやウメ、モモというピンクや赤の花の木が咲き乱れていた。そして、その地をさらに美しくしていたのは、花の間を舞う、たくさんの可憐なる小さな生き物だった。ホヮーポーという、リンゴほどの高さの、玉のように可愛らしい人の形をした精霊だった。
⋯⋯ 俺は、今まで生きてきた理由を知った。この地を見つけるために、生きてきたのだと、本気で思った。それほどに神秘的なところだった。この荒廃した世界で、唯一生き残った地だと思った。
奥地まで進んで行くと、一層花の甘い香りが強くなった。それを辿って行くと、おそらく城跡であろうところに、ひとりの翁が佇んでいた。首からロウバイという黄色い花の木を生やした、枯れ木のような翁だった。あの甘い匂いは、翁のロウバイから香っていた。
⋯⋯ 翁はいろいろな話を聞かしてくれた。その地の名がシナということや、目に映る花々の名前や、小さな可愛らしい精霊の名を教えてくれたのも、その翁だった。そして、世界滅亡の背景も、枯れ木に花を咲かせたような顔で語ってくれた⋯⋯。
翁の話によれば、シナはかつてより花の絶えない美しい国だったと言う。シナの人々はカジン(華人)と呼ばれ、カジンは、かつて天界を追放された百花仙子(ひゃっかせんし)という花神と99人の花の精の子孫であるとされ、男も女も、シダレザクラのようにしっとりと美しい者ばかりであったそうだ。極東の浄土と呼ばれることもあったらしい。
⋯⋯ シナは暴力を持たぬ国だった。ただただ花を愛し、水を恵み、国を愛するだけだった。⋯⋯ “シナを手折ること勿れ”。シナを攻めてはいけないという戒めの言葉だ。彼ノ国は花神・百花仙子の恩恵を受けているため、土地や民に害をなせば、花神の天罰が下ると言われていた。そのためシナでは、たとえ国民であろうと、花の木を手折るのは重罪だったそうだ。
例えば桜の枝を手折ってみれば、枝はどこまでも伸び、罪人を追いかけて、最後には絞首にかけて桜の枝に括られる。カジン達はそれすらも風流とみなし、花見改め首見(シュミ)をして酒を飲み団子をかじり、歌を歌って宴をしたそうだ。花見は一年中できるが首見はそうできるものでは無い、と翁が嬉しそうに話していた。⋯⋯ 彼らは神の子だから、人とは少しズレているのだろう。
他にもカジンを殺した者は、カジンから溢れ出す花がくっついて離れず、耳の穴や鼻の穴に入り込んで、窒息して死ぬ。これをテンニョサンカ(天女散華)というらしい。それだけ聞くと汚らしく思うだろうが、その実情は、ヒトから花が生えているように見え、風流だそうだ。
だからシナを攻めてはならない⋯⋯。
しかし⋯⋯ しかし遠い西の帝国・ドゥーグゥオは、そのことを知ってか知らずか、花の国を手に入れるため攻めてきた。極東には花の絶えぬ炯々(けいけい)たる国があると聞いて、その生命の神秘を求めたからだ。
ドゥーグゥオだけでは無い、他の多くの国がシナを欲していた。だが周辺国は花神の天罰を知っているので、花園を汚すことはしなかった。
ドゥーグゥオの初攻めは天女散華や花神の天罰により撃退された。それでも多大な被害が出たが⋯⋯。 侵攻に失敗したと知らせを受けたドゥーグゥオの王は怒り、次は火攻めを命令した。これにはシナは太刀打ちできなかった。国中が炎に包まれ、民は黒焦げ、植物は塵と化した。
百花仙子は悲しみに染まりながらも、敵の大将に直談判に行った、「どうかやめてください」と、その人とは思えぬ麗しい顔を涙に濡らして。しかし大将は花神の言葉には耳も貸さず、シナの神が自ら殺されに来たとして、花神の首をはねた。
花神はこの世のものとは思えないほどの美しい花を吹き出しながら地に手折れた。それは留まることを知らず、花は吹き出し続け、世界中の罪人に天罰を下した。生き残ったのは、ドゥーグゥオの兵士から生き逃れた少数のカジンと、罪を犯したことの無い世界中の小さな子供だけだった。
記録が残らないはずだ。一瞬にして世界中に春が訪れ、花が咲いたのだから。
花神を亡くしたカジン達は長い時間の中で少しずつ元気をなくし、枯れていったそうだ。翁自身も、もうじき手折れると語った。
⋯⋯ この話を聞き終わったとき、やはり俺は、この地を見つけるために、生きてきたのだと思った。俺の血が言った、極東の浄土の神に、罰を与えてもらえと⋯⋯。
俺は、翁のロウバイを、彼の首ごとサバイバルナイフで掻っ切った。薄い皮とボロボロの骨だけだから、桜を手折るよりも楽だった。吹き出た黄色い花弁は、甘い香りを漂わせながら、俺の周りを2、3回廻ってヒラと落ちた。花神がもういないからか、罪から解放されているからなのか、翁は俺に罰を与えてはくれなかった。
⋯⋯ 俺は旅の目的を失った。だから、これからは百姓でもしてのんびり生きるさ。
⋯⋯ 嘘だと思うか?⋯⋯ そうか、自分の目で確かめるのも悪くない、あそこはまさしく桃源郷だ。翁の話じゃあ、海の向こうにはワという国があるらしい、⋯⋯ 信じられないだろ、水平線の向こうにも土があるなんて⋯⋯。 マ、海を越える物も、目印も、何も無いが⋯⋯。
⋯⋯ そうか、フィールグリュック⋯⋯。
設定の時に書いたメモ(読まなくていい)
シナ(幻想国家・中国)という花の絶えない美しい国。その国の人々はカジン(華人)と呼ばれる。カジンは、かつて天界を追放された百花仙子と99人の花の精の子孫であるとされ、男も女も、花のようにしっとりと美しい者ばかりである。まさに極東の花園。
シナを手折ること勿れ。シナを攻めてはいけないという戒めの言葉である。彼ノ国は花神・百花仙子の恩恵を受けているため、土地や人民に害をなさば花神の天誅が下ると言われている。そのためシナでは、たとえ国民であろうと、花の木を手折るのは重罪である。
桜の枝を手折ってみれば、枝は伸び、罪人をどこまでも追いかけて、最後には絞首にかけて桜に括られる。カジン達はそれすらも風流とみなし、花見改め首見(シュミ)をして酒を飲み団子をかじる。花見は一年中できるが首見はそうできるものでは無いので。彼らは神の子なので人とは少しズレているのである。
カジンを殺した者は、カジンから溢れ出す花がくっついて離れず、窒息して死ぬ。これを天女散華という。
だからシナを攻めてはならぬ。
しかし西の帝国・ドゥーグゥオ(德国、ドイツ)は、そのことを知ってか知らずか、花の国を手に入れるため攻めてきた。極東には花の絶えぬ炯々たる国があると聞いて、その生命の神秘を求めたからである。
ドゥーグゥオだけでは無い、他の多くの国がシナを欲した。だが周辺国は花神の天誅を知っているので、花園を汚すことはしなかった。
「春爛漫」
咲き乱れて散る桜
桜吹雪の中、舞い踊る君
それは、それは、なんとも美しく
言葉で言い表せないほどに魅了させられる
さくら、さくら、舞えや、吹雪け
花散らして、この身を奪え
踊れや、歌え
さくら散るまで終わることなく
その身削りて、魅了させ
桜と共に美しい君、散ってゆく
せめてその刹那で君を魅せたい
多くの人に君を覚えて貰うため
君の舞を心に刻むため
歌えや踊れ
汗も涙も忘れるほどに
痛みも苦痛も感じぬほどに
疲れさえ、呼吸さえ忘れて舞い踊れ
君に幸せを届けるために
僕のこの命捧げよう
春爛漫
あの時はまるで、狂ってた
あなたのためなら
世界も殺す
自らも
今考えれば馬鹿らしい
その分、楽しかった
嬉しかった
楽だった
花びらが視界に入り、先を見えなくさせるとき
いつもあなたを思い出す
世界も
自らも殺した怪物を
私にした、桜色を
テーマ《春爛漫》
あの震災の日を思い出す。
君は僕を助け、代わりに死んだ。
、、、あの日から僕は小さな神社に通っている。
森の中にある、小さな石でできた神社。
今日も僕は此処にお祈りに来た。
『君がみつかりますように』
ボクは目を開け、鳥居をくぐる。
『今日はもう帰ろう。』
すると後ろから君の声がした。
すぐに振り向くと、君がいた。
『やぁーっとみつけた』
「、、、ごめんっ!」
ボクは自然と涙が出た。
泣いてうずくまるボクに君は手を差し出し、強く腕を引いた。
「え?」
ボクは立ち上がると、君は言った。
「此処には誰もいないんだ。さ!踊ろう!」
ボクは君にされるがまま踊る。
リズムも何もない、ただ両手を繋ぎぐるぐる遊んでいるような、、僕はだんだん楽しくなり、二人で踊る。
2人だけの、いや、僕だけの空間で。、
桜はもう咲き乱れていた。
春は光る。
いつでも、
何度でも、
私がたとえ目をつぶっても。
色を連れて。
匂いがする、花の開く気配が、渦を巻く風が。
空の高さを下げながら、つま先ばかり見ている私の頭の上で光始める。
顔を上げれば、爛漫の。
春爛漫
花が咲き乱れる
雲ひとつない快晴
心地のよい風が吹く
『春爛漫』
#72 春爛漫
ずっと季節は行きつ戻りつしていたのに
いつの間にか春は根を下ろしていました。
染井吉野は散り八重桜満開
花水木やツツジの花咲く
藤棚からは溢れこぼれるうす紫
そして、
オオイヌフグリ
ホトケノザ
カタバミ
ハナニラ
カラスのエンドウ
タンポポ
足元の小さな春も満開
心浮き立つ季節です。
お題「春爛漫」
段々と暖かさが増してきた4月上旬。
会社帰りのサラリーマンよろしく、されるがまま電車に揺られていた俺は、ふと窓の外を通る桜に目を留めた。
もうそんな季節か、そう考えると同時に自然とため息が溢れる。女々しい話だな、と自分でも苦笑してしまう。ただ高校時代の部活仲間の名前がそれを冠したものだったというだけなのに。
所詮過去は綺麗に映るものだろう、と適当に思考を遮断しホームに足を降ろし、改札を抜ける。
俺だって暇ではない。大学はそれ程までに忙しく、かつ充実している。今日も講義室の最前列を取らんと改めて足を踏み出した次の瞬間、胸ポケットにある携帯が高らかに鳴り響いた。
さっと取り出し、ちらりと番号を確認する。もちろん身に覚えはない。何事か、と警戒しつつも応答ボタンに手をかざす。
「お、本当に繋がった!久しぶりー!」
ふと顔を見上げると、校舎への道がいつにもまして彩られていた。
春爛漫、桜の季節はまだまだ続くらしい。
のどかな陽気
光りに包まれて
永遠の平和を願いたくなる
春爛漫
春爛漫
満開の桜を見上げるとなんとも尊い気持ちになる。
何度目の春なのか数え切れないが、春に得た思い出は
いつまでも色褪せない宝物だ。
春の日差しの温かさにうつらうつらしながら物思いに耽っていた。
柔らかなひだまりに安心感を覚えるのは、きっと大切な人たちの心づかいや優しさと似ているからかもしれない。
ひとひらの桜の花びらは、そっと撫でるように落ちていった。
柔らかな風が枝を揺らせば、薄く色付いた花びらがさあっと舞い散った。地にもあたたかい日差しをそのまま吸い込んだ様な黄色や白の小さな花々が芝生の中にぽつりぽつりと顔を出し、柔らかな風に揺られている。
命が芽吹き、花開く季節。今年もまた、春が訪れた。
住宅地にほど近い公園は休日であれば家族連れで賑わう場所だ。今は平日の朝ということもあり人の姿はほとんど見当たらないが、それは人間に限った話。公園のあちこちでは甘い蜜を求めて蜂や蝶、小さな鳥たちが飛び交い、各々がお気に入りの花に挨拶をするように顔を寄せている。
そんな公園の一角、他のものと離れてぽつんと生える桜の木に一匹のメジロが飛んできた。
メジロはひらりとその木に降り立つと、すぐに辺りを見回し始める。まるで誰かを探しているかのようにきょろきょろと首を動かしていれば、背後からガサガサと葉が揺れる音。振り返れば、メジロよりも少し大きな身体のスズメがぴい、と声を上げた。
「やあ、メジロくん。去年ぶり」
「やっぱりスズメくんも来てたんだね。ほら、幹の近くに白いお花が落ちてたから」
そう言ってメジロが視線を向けた先には、付け根ごと千切られた桜の花が落ちている。少し濡れた茶色い土の上、花びらに混じってぽつぽつと落ちている様は、溶け残った雪の跡に似ていた。
「相変わらずスズメくんは蜜を吸うのが下手っぴなんだね」
「仕方ないよ。ぼくのくちばしは、メジロくんと違って太くて短いもの」
小さな嘴を趾の方に向けしゅんとするスズメを見て、メジロはくすりと笑う。
「どうしてしょんぼりするのさ。君がお花を咥えて蜜を吸う姿は、人間さんに大人気じゃないか」
「メジロくんだって、どんな葉っぱやお花にも負けない綺麗な緑の羽が、素敵だって言われてるじゃない」
褒め合いっこをしてお互いの顔を見た途端、どちらともなしに笑い出す。一頻り笑えば、またどちらからともなく口を開いた。
「ねえ、スズメくん。今年の蜜も甘いかい」
「うん。甘くって、ちょっとだけ酸っぱくて、とっても美味しいよ」
「ふふ、良かった。今年の冬は長かったから心配だったんだ」
「寒さに負けないように、いっぱい栄養蓄えてたのかもねえ。ぼくもちょっぴり太っちゃったもの」
そう言いながらスズメは自分の腹周りの毛繕いをする。冬の名残のふわふわの羽毛に嘴が埋まりむぐむぐと動く様子がどこか面白くて、メジロは思わずチチ、と声を出して笑った。
「そうだ、スズメくん。ここに来る前にね、人間さんたちを見かけたよ。みんな黄色い帽子を被ってて、大きいたんぽぽが歩いているのかと思っちゃった」
「きっと〝がっこう〟に行くんだよ。前にツバメさんが教えてくれたんだ。春になると小さい人間さんは〝がっこう〟に行っておべんきょうをするんだって」
「うへえ、おべんきょう。人間さんも大変だねえ」
舌を出し嫌そうな顔をしたメジロに対し、スズメはこくりと一つ肯いた。
「でも、それが終われば楽しいこといっぱいあるんだって。だから頑張っておべんきょうしてるみたいだよ」
「そっかあ、だからあんなににこにこでぴかぴかしてたんだね」
「うんうん、人間さんもお花と同じくらい春らんまんだ」
そう言うとスズメは花を一輪ちぎって蜜を吸い始める。メジロもそれに続いて、傍に咲く小さな花に嘴を差し込んだ。ちうちうと少しずつ蜜を吸えば、蕩けるように甘くて少し酸っぱい、春の味が広がった。
【春爛漫】
春爛漫。
駅の通りの桜並木も満開で、庭には春に備えて植えた小さく綺麗な花が咲き誇っている。若々しい緑が気分を明るくしてくれる。
君が窓の近くにいるのを見つけて「暖かいねぇ」なんて話しかけながら横に座る、君は窓の外の庭の景色に夢中らしく、きらきらした目をこちらに向けてくれることはない。
「あ、モンシロチョウ」
窓の外を、小さなモンシロチョウがふわふわと飛んでいる。君はそいつを捕まえようと体制を整えたあと、ふとこちらをじっと見つめてきた。
「ふふ、開けないよ」
とてもわかりやすい視線に思わず少し笑ってしまった。君は気まぐれで、投げかけた言葉に返事をしてくれることは少ないけど、不思議といつもたくさん会話をしている気がする。
「今度花屋で桜を買ってこようかな...君がイタズラしないなら」
と外から君に目を移す。君ははぐらかすような声色で「にゃぁ」と一言鳴いた。