段々と暖かさが増してきた4月上旬。
会社帰りのサラリーマンよろしく、されるがまま電車に揺られていた俺は、ふと窓の外を通る桜に目を留めた。
もうそんな季節か、そう考えると同時に自然とため息が溢れる。女々しい話だな、と自分でも苦笑してしまう。ただ高校時代の部活仲間の名前がそれを冠したものだったというだけなのに。
所詮過去は綺麗に映るものだろう、と適当に思考を遮断しホームに足を降ろし、改札を抜ける。
俺だって暇ではない。大学はそれ程までに忙しく、かつ充実している。今日も講義室の最前列を取らんと改めて足を踏み出した次の瞬間、胸ポケットにある携帯が高らかに鳴り響いた。
さっと取り出し、ちらりと番号を確認する。もちろん身に覚えはない。何事か、と警戒しつつも応答ボタンに手をかざす。
「お、本当に繋がった!久しぶりー!」
ふと顔を見上げると、校舎への道がいつにもまして彩られていた。
春爛漫、桜の季節はまだまだ続くらしい。
4/11/2023, 9:32:35 AM