『春爛漫』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
春爛漫
新学期多くの人が新鮮な気持ちで春を迎えるのだろう。期待と不安が入り交じり胸の鼓動が高鳴る。
通りかかったお家の前に並んだチューリップが満開だった!
朝から気分はどんよりしてたんだけど、赤白黄色の花がはち切れんばかりに花弁を広げて陽の光を浴びる姿を見て嬉しい!と思えた。
まだ花を見て「嬉しい!」とか「すごい!」とか思える自分がいてホッとした。
今日1日くらいは、少しのあいだだけでもいいから、気分を上げたままで過ごしたい。
お題:春爛漫
ど田舎生まれど田舎育ちな所為なのか、都会とかに住んでると異常なほどに自然が恋しくなる。
季節感を五感で感じられないと不調になってくる。
そんなわけで、鬱憤がたまると外に出る。
本当は人に合わないようなところに行きたいのだけれど、そうそう遠くにも行ってられないので、フラフラとご近所を徘徊する。
ちっちゃな季節感を発見したり、自然を体で感じて満足したら帰巣本能に従って帰る。
ご満悦だ。
今住んでるところは北国。春まで後ちょっと。
あと数週間後には春爛漫になるだろう。
梅に桜、チューリップにライラック。クロッカスや鈴蘭もいい。
白銀から極彩色な世界に変わる春。
世界が一変する。
ついでに自分も変われる気にさせてくれる。
早く春に塗れたい。
お題: 春爛漫
【春爛漫】
穏やかに細切れの雲が浮かぶ青い空。柔らかく流れる風が花弁を攫っていく。ひらひらと舞い散るそれが並木を埋めて、休日の朝を行く人々の足取りもどこか軽い。しばらく姿を見なかったブチの猫が塀の上で欠伸をし、軽い上着だけ着込んだ主人に連れられた犬はしきりに空中で鼻を蠢かせている。小さな雀が土の上を啄み、そこらじゅうでアリが更新している。
「季節が巡んのは早いねぇ」
「教授、それジジくさいです」
校舎一階の印刷室で、手摺りした今季のレジュメをまとめていた助手が肩を竦める。
「サボってないで、ちゃんと終わらせましょうよ」
「サボってなんかないよ、いいかい、僕らのやるような学問はね」
「「観察することが何よりも大事」」
声が重なって、教授はほうれい線を深くした。助手は片眉を上げてふうっと吐息する。言外に続けろ、という圧。手にした携帯電子タバコ──水蒸気式のものを口にして、ふぅっとミントの香りのする煙を吐き出す。
「それは血眼になって詳細をとにかく見極めようとするようなものでなくてもいい、ちょっと遠目に眺めて、ぼんやりとしていて見えてくるものもある」
「その通りだ」
「何年やってると思ってるんですか」
教授はやれやれと肩を回して、手近なプリントを手繰り寄せた。A3サイズのプリントを三種類、いずれも四つ折りにするだけだが、講堂が広い場所を割り当てられているので、最大人数分の七十組必要なのだ。
「そうだ、四年目か。君、そろそろ論文でも出したらどうだい」
「……どうでしょう」
助手は再び肩を竦めて、小さく吐息する。
「論文を出しても、テーマがテーマなんで……助教、なれますかね」
「推薦はしておくとも」
教授は微笑んで手元の紙をぱたん、と折った。そこにするりと窓から入り込んだ花弁が乗る。
「君は君が思うよりよく見てるよ。テーマも絞れてる。新規性も必要だが、再現性を確定的にしていくのもありだ。適度にやれば適度に成果になるさ」
だと、いいんですけど、という小さな呟きは、外から聞こえてきた子供達の声にかき消された。
こんばんは、それだけをメールを送って来る人は初めてです。
貴方は私に愛の証拠に高額のプレゼントをくださいとは?
貴方と私の愛は高額の物程度だったんですね
だったら私は貴方にはプレゼントはいたしません
貴方は優しくて、素敵な人です
他の女性なら誰でも振り向いてくれるでしょ。
その人に言ってきっとプレゼントをしてくれるでしょ。
何でも高額な物を.....
そしてその人と幸せになってください。
私は全然気にしません
今までどうり知らない顔して生きていきます
メールが来ても見ますが返事はしないです。
早く貴方の存在から消してくだい。
そして新しいいい人を探してください。
もちろん私は感謝をします
産まれて初めてのこんな気持ちにさしてくださった事を
でも私も貴方の存在を消します。
短かったけど本当に幸せをありがとう
#5「春爛漫」
俺は花見に来ていた。
風に吹かれて散る桜が、天然のアクセサリーのようだった。
優しく頬を撫で桜を散らしていく風、昼寝にもってこいの心地よい木漏れ日。
そして一斉に咲いた桜はこれ以上にないほど春爛漫と言った感じだ。
この世を去った君にはどんな風に映っているのだろうか?
−ふと悲しくなる–
君と桜を見ながら話をしたかった。沢山楽しい思い出を作りたかった。
君この花を見てなにを想っているのだろうか
今年もまた、春が来たのか。
僕は窓の外からちらりと姿を覗かせるピンク色を見てそう思った。
僕がいる部屋はどこまでも白一色で、四季なんてものは少しも見えない。ベッドの近くにある窓から見える景色だけが、毎年僕にこっそりと、でもはっきり四季の訪れを教えてくれた。
僕は子どもの頃から大きな病気を抱えていて、今年18になる今まで両手で数えられるほどしか外に出たことが無い。毎年今度こそはと思うけれど、気持ちに身体が追い付いていかなくて。周りが当たり前のように楽しむイベントを、この無機質で狭い部屋からいつも見送ってばかりだった。
「…また、お花見に行けなかったな…」
沈む気持ちに応えるように怠くなっていく身体を横たえて、僕は静かに目を閉じた。
…カサカサ、カチャカチャ。
意識の遠いところで音がしている。
それと同時に、自分の近くで人が動く気配を感じて、僕はゆっくりと目を開けた。
すると視界に飛び込んできたのは赤、ピンク、黄色など色とりどりの花たちで。
「…なんで、はな…」
そうぽつりと呟くと、近くで動いていた人はビクッと肩を震わせた。
「…お、わぁ!?起こしちゃった?ごめんね?びっくりした〜」
そう言いながら僕の顔を覗き込んできたのはよく知る幼なじみで。相変わらず綺麗な顔をしているなぁと寝起きの頭でぼんやりと考えた。
「いや大丈夫だよ。それより、どうしたのこれ」
僕はゆっくりと身体を起こし、病室を彩る花たちを見回して尋ねた。
「どうしたのって、春だから!」
目の前の彼はそれだけを元気よく答えた。
いや、もうちょっと説明…。
僕が戸惑っていると、察したのか察してないのか彼は花を指差しながら次々と言葉を重ねた。
「これはチューリップ、これはスイートピー、これはスイセン、あとはたんぽぽもいるよ!これは名前なんだっけ…?全部ちゃんと聞いてきたんだけど忘れちゃった、ごめんね!」
彼が紹介してくれる花はどれも春に見かけるという花たちで、僕はなんとなく彼の考えたことが読めてしまった。
「ここに来る途中でね、花屋さん通ったの。そしたら春のお花がたくさん売ってて、すごく綺麗で、見てほしくてたくさん買ってきちゃった!あそこの土手の桜も綺麗に咲いててね、それ見たらますます早く見せたくなっちゃって、春が来たよーって教えてあげたくて!」
そう僕に話してくれる彼の目は輝いていて、とても楽しそうだった。
「…それで、こんなにいっぱいのお花?」
「うん!毎年お花見に行けなかったって落ち込んでるでしょ?だったらここでお花見したらいいじゃん!って思って。…あっ!もちろんちゃんと看護師さんに許可はとったよ!?」
椅子に座って両手をあわあわと動かしながら一生懸命話す彼に、なんだか笑いが込み上げてきて、僕は久しぶりに声を出して笑った。
「なんで笑うの!いっぱい考えて、喜んでくれると思ったのに!」
そう言って頬を膨らます彼はとても可愛いらしくて、僕はうりうりと頭を撫でた。
「すごく嬉しいよ、僕の病室にも春が来てくれて」
僕がそう言うと彼の顔はパッと輝いて、わーい!良かったぁと抱きついてきた。
しばらく彼の背中を撫でていると、すんっと鼻を啜る音が聞こえて、僕はぴたりと手を止めた。
「…僕なんでもするから。夏になったら夏の男になるし、秋になったら秋の男になる。冬は冬の男になるし、お花だって来年も再来年もたくさん持ってくるから。だから、」
ずっと一緒にいてね、と君は小さな小さな声で呟いた。
今は安定しているけれど、僕は1週間前まで体調を崩していて家族以外とは面会謝絶状態だった。もう何度も繰り返されるその状況に怖さは感じつつもどこか諦めと共に慣れてしまった自分もいて。
目の前ですんすんと泣く彼を見て、あぁ彼も僕に会えるまで怖かったんだなとそんなことを改めて感じた。
「…いなくなるわけないでしょ。まだ一緒にお花見にだって行ってないのに。今年は無理そうだけど、僕頑張るからさ。来年は外に連れて行ってくれる?」
そう声を掛けると、彼は勢いよく顔を上げてまかせて!と笑った。
泣きながら笑うその顔は僕達を囲む花たちに負けず劣らず美しくて。
…春みたいな君が、春を連れてやって来たなぁ。
僕は病室いっぱいに漂う花の香りを感じながらもう一度彼に身を寄せ、すっと目を閉じた。
春爛漫という言葉を表すなら、きっとこの病室と僕達がぴったりだろうと思いながら。
‐春爛漫‐
春紅の薄紅櫻
いたづらに花びら
舞ひ散らしつつ
川一面を
埋め盡くし
短き春を
惜しみ流るる
けふと言ふ日は
二度とは來ぬぞと
春爛漫
暗い部屋から覗く小さな窓がまるで額縁に切り取られたように見える。
何度額縁から外を覗いただろうか。
何もできない自分を責め続ける日々が数え切れないほど過ぎ去っていく。
今日もまた額縁を覗く。
外はまぶしいほど春めいて、桜が爛漫と咲き乱れている。
自分とは程遠いその世界に憧れと恐怖を抱いた。
いつか自分も似合うように思いを馳せながらも今日も一日暗い部屋で過ごす。
それしかできない自分には日差しが痛く感じた。
春爛漫
その中で最も美しく咲き誇る君よ!
お題:春爛漫
ここに来るのは、10年ぶりだ。
季節は五月蝿いくらいに春めいて、桜の花を爛漫に光らせる。
桜の元に集う群衆はどれも、陽光に勝るとも劣らない笑顔をさんざめかせ、馬鹿騒ぎをしている。
10年前+に見たときはこれほど人が集まるような場所ではなかったけれど、随分と出世したものだ。
ここは山の深いところで、道路も通っていなかったのだが、観光の目玉にしようと目をつけた行政が、道路を開拓し、公園を作り、駐車場を整備し、看板を立てた。
それからこの場所はこの刹那の季節だけ、賑わいを見せるようになった。
喧騒を尻目に、ちびちびと焼酎を齧る私の肩にぱしりと固い感触があった。
見ればとてつもない美人がそこにいた。
まだ高校生くらいに見える。
「おとうさん、こんなところで一人で何をしてるんです?」
それほど大きい声ではなかったが、喧騒を容易く貫いて言葉が耳朶を揺らす。
その嫋やかな声音は、枝垂れ桜を思わせた。
「見てのとおり、花見です」
「誰かと来てるんですか?」
「うーん、私はそのつもりでいるけれど」
女性が傾げた白い首を舞い寄る花弁が彩った。
「毎年家族で来てたんです。ほら」
私はスマホを探り、1枚の写真を見せた。
妻と娘が写っている。
バックに桜の木。
私は撮影をしていたから写っていない。
「へぇ、楽しそうですね」
「そうでしょう。まあ5年前、離婚しちゃいましたけど」
「娘さん、この時何歳くらいですか?」
「12歳、だった」
「そうなんですね」
春に似つかわしくないほど涼やかな顔には、ひとつも汗が浮かんでいない。
なんだかここだけ、喧騒から切り離されているような不思議な感覚だった。
「ひとりっ子、だったんですか?」
「……」
春一番が吹いて、忽ち花弁が舞い踊った。
喧騒はすっかり消えてしまって、木がザワつく音しか聞こえない。
「10年前、ここを訪れた夫婦がいました。人目のつかない山奥にシャベルだけを持って」
「……」
「若い男女の駆け落ちは過酷なものだったことでしょう。子供を育てるのにもお金がかかります。一人でもキツイのにましてや、二人も」
「……」
「生まれた子供が双子だったのは、不運な偶然で、誰も責められるものではない。しかしそれほど賢くない夫婦にも明白に分かったことでしょう」
「……」
「このままでは一家で心中するしかなくなってしまう。そこで夫婦は思いました。片方を生まれてこなかったことにしようと」
「……」
私の首筋に汗が垂れていた。
そこ桜の花びらがぺたりと張り付く。
「夫婦は協力して、子供を山奥まで運び、とうとう埋めてしまいました。間違っても掘り起こされないように、1番大きな桜の下に」
「……」
「仮に生きていたならば、私くらいの年齢でしょうか」
ざあっ、と風が梢を揺らす音が聞こえた。
今日はずいぶんと風が強いらしい。重たいまぶたをこじ開け、薄目で見た天井には、カーテンの隙間から溢れる光がうっすらと伸びている。昨夜までの雨はどこかへ去っていったらしい。晴れたなあ、とまだ半分意識を眠りに漬けたまま、うつらうつらと思う。
外では雨雲の置き土産のように風がどう、どどう、と吹き荒れているようだった。ベランダから見える桜の木々はきっと、今こうしている間にも花弁を散り散りにひらめかせていることだろう。まぶたの裏に思い浮かべた淡やかな情景が夢へと変わるその瞬間、ぶわりとカーテンが膨らみ、朝の光が今にも閉じそうなその隙間から網膜を焼いた。
「う、」
思わずこぼれたうめき声とともにぎゅうと目を瞑る。まぶしい。うめぼしのような顔をしながら少しの間うめいて、迷った末に渋々起き上がった。二度寝も魅力的だったが、それよりも一晩中開けっ放しだったらしい窓のほうが気になった。寝る前に閉めなかったっけ。いまだ回らない頭で昨夜の記憶を思い返す。
……ああそうだ、雨戸を閉める前にベッドに入ってしまって、閉めなきゃと思いながら結局雨音に寝かしつけられてしまったんだったか。
我ながら防犯意識が低い。まあ過ぎたことだし、とそれきり考えるのをやめた。
カーテンがぶわりぶわりと広がるたび、朝の光が床をさっと照らしては波のように引いていく。無防備にそこへ踏み込んだ私の白い足の甲が、まっさらな光に照らされた。そのままぺた、ぺた、と進む。膨らむカーテンの端を捕まえて、しゃーっと勢いよく開いた。
ついでに雨戸も勢いよく開けた。
寝起きには厳しい光の中、少しずつ慣らすように薄目でまばたきをしながら、ベランダへと出る。風がごうっと髪もパジャマの裾ももみくちゃにして、思わず「わああ」と弱々しい悲鳴が出た。けど、ああ、それよりも、風がやわらかい。冬の刺すような冷たさはなく、わずかなよそよそしさとほころんだばかりの花のようなあたたかさが入り混ざったような、春の風だ。
ようやく光に慣れた目を開けば、足元のプランターで赤いチューリップが揺れているのが見えた。顔を上げれば薄青の晴れた空と、枯れることを知らないかのような満開の桜。薄紅色の花びらが風に巻き上げられて宙を舞っている。眼下の道路は一面花びらで染められて、花筏のようだった。
柵によりかかり、そのまましばらくぼうっと眺める。思っていたよりも冷えるが、それでも部屋に戻ろうとは思わなかった。
すうと大きく息をした。千朶万朶の春の朝だった。
(お題:春爛漫)
(あるいはただ美しいだけの話)
草木も寝静まった夜更け過ぎ、心地好い夜風が頬を撫で擽られる。
少年は1人外に見える暗い森をただ呆然と眺めながら眠りに着く。
「起きて…起きて…」
と女性の声がする。
少年はハッと目を覚まし辺りを見渡すが誰も居ない。
「なんだ夢か、、」
もう一度眠りに着こうとするが急な寒気に襲われる。
「はっくしゅっ!!風邪引いたのかな、寒い、、」
身体がガタガタと震え急いで頭から何重にも毛布を被る。
しかし、服は冷や汗で濡れその上夜風に曝されていた為に身体が冷えきっており着替えも無かった。
少年の熱は上がり続け終いには視界が眩み意識が朦朧とし始めた。
「んッ、んんー、、」
毛布の隙間から朝陽が射し込む。
「朝、、?」
少年はいつの間にか気を失っていた。
「、ッ!?」
少年は咄嗟に毛布で身を包む。
動揺を隠せないまま恐る恐る顔を上げると、そこには肌や髪は白く毛先まで艶があり唇は韓紅色で貴賓高く、瞳は透き通る樣な勿忘草色をした見知らぬ女性が1人座って居た。
すると、女性が
「おはよ。」
と話し掛けてきた。
反射的に
「おッ、おはようございますッ!!」
と少し照れ臭さを混じえながら返す。
一瞬にして心を奪われた気がした。
「(心臓の音が煩い、、聴こえたらどうしよう、、)」
そんな事を考えながら
「あ、あの貴女は一体、、」
と女性に問い掛ける。
女性は優しく微笑み
「私は、雪女。昨日の夜、倒れてる君を助けた。」
と言ってきた。
少年の脳内が数秒間だけピタリと止まった。
「(この人は何を言ってるんだろう、、?)」
と言わんばかりの表情を浮べた。
その後、女性に家や家族、妖怪など色々な事を聞き少年は無事に村へ戻った。
村へ戻った少年はその体験を本に書き記し大切に保管していた。
それから約13年の時が流れ少年は町へと移り住み商売をしていた。
その頃には少年の記憶から女性は消え少年は1人の女性と結婚していた。
この手の話ならこの後に続くのは、
[少年は物置の整理をする為に古い物置小屋へ向かう。]と言った一文だろう。
しかし、それを日常生活に置き換えた時に少し違和感を覚える。
そして、最終的には物置小屋の中で見付かった本により記憶が蘇り少年はその場所へ向かう。
その後、女性と再会し2人は結ばれ幸せになるという樣な一見するとハッピーエンドを迎える事になるのだが、果たしてこれは2人にとってハッピーエンドなのかと疑問に思う。
そもそも、不倫になる事が許されている樣な描写。
また、残された妻はどうなるのという疑念が読者同士の論争にまで発展する事が多々ある。
[この話はその問題を解決すると共に、、、]
この後は、ご自身で感じた言葉を入れて下さい。
2人が結ばれたとて超える事の出来ない障壁が存在する。
それは寿命。
少年は老いや死がある人間。
雪女は老いも死もない妖怪。
少年の寿命と共に雪女は天涯孤独の道を往く事になる。
決して、相交えない2人が幸せになるにはどうすれば良いか。
答えは実に簡単で雪女が転生し人間となれば2人は共に生きる事が出来る。
そして、雪女は少年と別れた後に転生し再び少年の元に現れ2人は結婚していた。
魂の転生には、100から1000年と長い人も居れば半年から数年と短い人も居たりとかなり個人差があるが平均で4年5ヶ月と言われる。
目の前の恐怖から目を反らせば自己防衛に繋がるが君を待つものはその先にある。
目の前の恐怖とその先の幸福、君はどちらを選ぶ?
これは、とある少年と雪女の愛の御伽噺。
桜が辺り一面に咲きほこる季節。
僕はあなたの後ろ姿だけで、恋に落ちてしまいました。
黒い艶のあるストレートのロングヘアーに、
スリムな身体。
ベージュ色のトレンチコートともに、春風に靡く髪は、なんと言い表したらいいのか分からないくらい、とても美しかったのです。
今日もまた、駅の付近の桃色に色づく大樹の下に、あの人がいます。
日差しが花の隙間から入り込み、より一層艶やかに光っています。
そんな僕は今日、勇気を振り絞って話しかけてみようと思います。
少しでも積極的に、自分からアプローチしていかなければ。
〜春爛漫〜
桜は咲いている間が美しい、そう彼女はいった
散っていく様は切なく見てられないとも
春爛漫
春が地面から顔を出し
蕾から顔を出し
天真爛漫に微笑む
春爛漫の候
#15 春爛漫
ぼくの春爛漫は、少し早い。
河津桜が咲く頃だからだ。
息子と一緒に、少し遠い散歩に出向く。
川沿い近くまで車で連れて行ってもらい、
降りて、そこから小さな距離を歩いた。
来年、ここに来れるかどうかは分からない。
「――さん、ありがとう」
ぼくの人生には、愛されなかったこと、
お金がなかったこと、死のうと思ったこと、
とても不幸な記憶や思い出がたくさんある。
けれど君と出会い、息子を迎え、
幸せだったし、これからも幸せであると誓おう。
たくさん喧嘩もしたし、別れようともした。
子どもをもらうことでもとてつもない葛藤があった。
差別や好奇の目は、いつもすぐ隣に住んでいて、
隙あらば攻撃しようと、虎視眈々と目を光らせていた。
だけど、ぼくの人生は尚も続く幸せの中にある。
よくある恋愛が、よくあるのに難しい愛が、
こんなにも育ったことがあまりにも幸せだ。
「また来るよ」
魂はどうだか知らないが、
二月に咲く桜の木の下にきみの骨はある。
ぼくも近々、その暖かな土に包まれに行くと思う。
息子には秘密だが、その日が楽しみだなあと
春爛漫の中、ぼくの言のひとひらはふわりと散った。
【春爛漫】
春爛漫。桜が葉桜になるより前の寒さが少しだけ落ち着いた気がする季節。
「ここから先は危険だから。」
進もうとした先を手で邪魔される。昼じゃないこともあってか人はほとんどいや、全く見当たらなかった。邪魔してきた手を払うようにしてライトを持っていない方の手で退ける。
「危険だと思って来ているんだから注意くらいはしっかりしてますって。一応、依頼で来てるってことくらい分かりますよ。」
そう、これは依頼。普段、人とは関わるはずのない者たちが人の世に関わってしまったから仕方のない依頼。
「君、そう言ってこの前も勝手なことしていただろ。」
「別に結局、解決できたならよかったじゃないですか。」
あぁ言えばこう言うと怪訝な顔をされたが、気にしている場合ではない。そう、解決できるのならいいじゃないか。襲われても助けてやらないぞ、と。呆れられる始末。でも、助けられて危険な目に遭われるよりかは突っ込んで早めに解決した方がいいと思うのはきっと昔大切な人を目の前で失ったから。まぁ、この人に限ってそんなこともないな、とは思う。半年ほど前の依頼のことだった。異常なレベルの強さの人ならざる者と相対したときにお前は先に逃げろ、なんて。目の前で家族が喰われかけのところをみすみす逃げられるわけもない。結局、応戦していても歯が立たず大人たちに瀕死のところを助けられた。兄はというと手遅れだった。目を開けると最初に対面したのは病院の天井。そこからの流れは簡単だ。兄を亡くしてさらには瀕死で見つけられた俺は心身ともに療養が必要と考えられしばらく依頼を受けさせて貰えなかった。身体が治ってきた頃、気の毒に思ったのか今俺の隣を歩いている兄の知り合いが名を挙げた。大人たちもこいつが監督するならばという妥協の形でまた依頼を受けさせて貰えるようになった。依頼には最低二人が必須。そのことを見越してなのだろう。実際、兄の知り合いは手練れだった。
「デカい口を叩くわりに依頼中に考え事とはな。考えるな、お前は考えない方が強い。ほら、気配が近づいてきてる。」
「これでも、頭脳はなんですけどね。でも、本当に嫌な空気ですよ。この気配はあの時と同じくらいな気がするってかかなり異常ですよ。」
気配の察知能力には長けていた。兄が殺された時は依頼を遂行した後の出来事で本来なら俺らが相対するはずじゃなかったんだ。気配が同じくらいなだけではない。あの時と匂いが全く同じだった。
「上もこれを俺らにやらせるって春爛漫の陽気にやられたんじゃないですか。」
「それがそうでもなくてな。リベンジって名目で俺らへの負担。お前への精神的、肉体的負担。なんてものは、考えてくれないらしい。」
まだ、春爛漫の陽気にやられたと言われた方が幾分かマシだったかもしれない。気配が近づくにつれ化け物と言わざるを得ない何かの姿が視界に入り込んできた。ソレはかつて人であった肉塊を嫌な音を立てて喰いながら近づいてきた。
「だが、安心していいのは今のお前なら勝てるぞ。」
「あの、化け物見てよくそんな冗談言えますね。」
冗談をあまり言わない人だと思っていた。ただ、依頼を遂行した後に冗談を笑ってあげるためにとりあえず神経を研ぎ澄ます。そして、いつもと同じように得物をかまえる。隣で得物をかまえているこの人もいつもよりは神経を研ぎ澄ましていた。化け物が動き出したら戦闘開始の合図だった。緊迫した死と隣り合わせの危ない賭け。一歩間違えれば瀕死で済むかさえ分からない。あの人の得物が化け物を捉えたのですぐさま俺も援護に回る。散々、叩いた後も怯む様子はなかった。
「息、上がってますよ。歳じゃないですかね。」
「残念ながらそんなに老いてはないがな。あぁ、そろそろだと思うんだが。」
そんな意味深な言葉がきこえた瞬間。怪物が大げさに膝をついたという表現もおかしいがいきなり嗚咽を漏らしながら苦しみ始めた。隙間に紛れる聞き覚えのある声がした。
「好機だ、一気に叩くぞ。」
さっきのように敵を叩いて怯んだ瞬間、援護側だった俺がとどめを叩き込んだ。どうやら、化け物は動けなくなったらしい。だが、嗚咽を漏らす化け物の声にやはり聞き覚えがあった。耳を澄まして、化け物をよく見ると知った顔が浮き出てくる。
「あぁ、本当に化け物じゃないか。このこと上も貴方も知ってたんですか。」
「上はどうだろうな。少なくとも俺は薄々気づいてた。よくあることなんだ。喰われて死んだと思われていたやつの精神が強すぎて化け物の動きを止めるなんてことが。」
たしかに、化け物が動きを止めたのは兄の精神によるものだった。
「悪かったな。ただ、あの精神は俺でも驚く。化け物級だよ。ただ、お兄さんはお前が相手だから動きを止めたんだと思うぞ。辛いことをさせたか?」
兄にまた俺は逃がされてしまったらしい。
「いえ、仕方のないことではあるので。割り切ってなきゃ今も依頼なんて受けてないですよ。ただ、これで冗談笑ってあげられますよ。」
鼻で笑いやがった後に精神が残っているものの肉体はとうに亡くなっているので兄が戻ることはないらしい、とか言っていた。まぁ、今更戻られても怒られる気がしかしない。心苦しいとかそれこそ笑われて俺の癪に障るだけだ。
「春爛漫、この桜が赤く染まってなきゃもっと喜べたんですけどね。」
とりあえず今は帰って寝たい。花見を楽しむのは帰ってから少し先になりそうな気がした。
『春爛漫』
祖母の部屋に入るなり目に飛び込んできた光景に、沙綾は立ち竦んだ。
「すごい」
一言だけこぼれ落ちた声に、祖母はおかしそうに笑う。
「まぁ、普段着ばかりだけどねぇ。数だけはあるのよ」
祖母が箪笥から引っ張り出してきたのは、祖母や祖母の姉妹たちが娘時代に着ていた着物たちだ。
着物が着てみたいと言った沙綾のために、奥に仕舞い込んでいたものを出してくれたのだ。
「まだまだあるけど、今日はね、春のお花だけにしといたわ」
そう言って、一枚一枚広げて見せてくれる。
山吹色の地に真っ赤な椿がぽんぽんと咲いている紬、紫の地に大きな白い牡丹の花をモチーフにした銘仙、空色の地に友禅で桜が描かれた付下げ、濃紺の地に小さな梅の花が散りばめられた可愛らしいウール、次々と引き出される着物たちに沙綾の目が輝く。
「すごいね、おばあちゃん、ここだけ春みたい」
この家の辺りにはまだ春の訪れは遠いが、座る祖母と沙綾の周りには沢山の着物が広げられ、まるで花畑の中に居るような華やかさだった。
「そうよ。春は短いからね。着るもので楽しまないと損でしょ」
祖母はそう言って、着物に合わせる帯や帯揚げ、帯締め、帯留め、半衿を見せてくれる。
そうなれば、それから始まるのは実際に羽織ってみてのファッションショーだ。
「あら、丈は大丈夫だけど、裄が少し足りないわねぇ。今の子は腕が長いのね」
「あ、大丈夫だよ。こういうの着けると可愛いでしょ」
沙綾が祖母に見せた画面には、レースとフリルで作られたアームカバーが映し出されている。着用モデルの女性は着物姿で、着物の袖口からレースがチラ見えするのが可愛いのだと沙綾は力説した。
「まぁまぁ、よく考えるのねぇ。こっちはブラウスを下に着ているのね? まぁまぁまぁ」
感心して何度もうなずきながら、祖母はまじまじとモデルの写真を見つめる。
「いいわねぇ。帽子を被るのも可愛いわねぇ」
「でしょ? おばあちゃんもこういうの好きだと思ったんだー」
好感触に、沙綾もまたにこにこと笑う。自分の好きなものを、近しい人に認めてもらえるのは嬉しいものだ。
「ねぇ、来週おばあちゃんも一緒に着物着てデートしようよ。デパート行ってさ、パフェ食べるの」
「あら、沙綾ちゃんはパフェを奢ってほしいでしょう」
ぺろりと舌を出す孫を小突いて、だが祖母は嬉しそうに頷いた。
「最近、遠出もしていなかったものね。デートしましょ」
「うん! じゃぁ来週着る着物選ばなきゃ」
祖母と孫がまるで同年代のようにきゃっきゃと遊んでいると、仕事から帰ってきた母が突撃してきたり、「なにそれお母さんも行く!」と言い出したり、最終的に何故か祖母と沙綾の友人まで一緒にパフェを食べに行くことになっていた。
そして、5人で着物で遊びに行く会はその後も定期的に開催され、その会ごとにテーマを決めるようになった。例えば、夏ならば「祭り」、水族館に行くときは「魚」といったようなものである。
「ねぇ沙綾、次の着物会のテーマはどうしようか。お花見だけど、桜じゃありきたりだし」
母に尋ねられた沙綾は、少し考えてからぴっと人差し指を立てた。
「春爛漫! で、どうでしょ?」
2023.04.10
ー4月。
桜が咲き誇り、風に花びらが舞う。
その向こうではウグイスが忙しくラブソングを歌っている。
菜の花のそばでモンシロチョウもつがいでひらひらと踊っている。
風に合わせて足元のチューリップもゆれる。
公園でおしゃべりに夢中な学生たちとすれ違う。
春爛漫。
今年も会えてよかった、大好きなこの季節に。