小砂音

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#15 春爛漫

ぼくの春爛漫は、少し早い。
河津桜が咲く頃だからだ。

息子と一緒に、少し遠い散歩に出向く。
川沿い近くまで車で連れて行ってもらい、
降りて、そこから小さな距離を歩いた。

来年、ここに来れるかどうかは分からない。

「――さん、ありがとう」

ぼくの人生には、愛されなかったこと、
お金がなかったこと、死のうと思ったこと、
とても不幸な記憶や思い出がたくさんある。

けれど君と出会い、息子を迎え、
幸せだったし、これからも幸せであると誓おう。

たくさん喧嘩もしたし、別れようともした。
子どもをもらうことでもとてつもない葛藤があった。
差別や好奇の目は、いつもすぐ隣に住んでいて、
隙あらば攻撃しようと、虎視眈々と目を光らせていた。

だけど、ぼくの人生は尚も続く幸せの中にある。
よくある恋愛が、よくあるのに難しい愛が、
こんなにも育ったことがあまりにも幸せだ。

「また来るよ」

魂はどうだか知らないが、
二月に咲く桜の木の下にきみの骨はある。
ぼくも近々、その暖かな土に包まれに行くと思う。

息子には秘密だが、その日が楽しみだなあと
春爛漫の中、ぼくの言のひとひらはふわりと散った。

4/10/2023, 3:07:11 PM