#60 勝ち負けなんて
勝ち負けを優劣と勘違いするからおかしくなってる。
勝ち組とか負け組とかもそうだし、順位を決めない運動会もそうだ。
人工知能が発達する前から、既に社会がおかしくなってる。
――仕方ないなあ、もう。
そんなふうに、ビジュが最高な生成人間に笑って甘やかされて、人間はメロつくんだ。
猛暑で右脳も左脳も溶け合って、空調の効いた部屋でゲームをしているそう遠くない未来、易しいはずのPCが相手なのに、ディスプレイにはYou Dieって映ってる。
#59 光と闇の狭間で
言葉を大切にしているのに
声にならなかったものを愛している
誰にも伝わらないものが
言葉以外の何かに書き換わっていて
冷えきった体を誤魔化すための掠れた鼻歌になったり
プラットホームに立つ人の背中を押したりしている
誰もいない、ただわたしのためだけにある家にも
ブレーカーを落としたような夜が来る
何もない部屋の窓際に横たわっていると
この国は希望とは程遠い光であふれていることに気がつく
こちらにいても
そちらにいても
何も変わりはしないんだ
見せかけの明暗
きっと真実は
生真面目で融通のきかない月日がただ
照らしたり沈んだりしているだけ
繋いだ手が離れた
愛しい人は自由な旅人になった
まだ生産者のわたしは
チカチカと目まぐるしい点滅を浴びながら
前へと押し流されていく
ここは狭間だ
「……。」
暗がりで拾う、遺された音
そこに言葉はなくて
輝く想いはあった
そこで光った
確かにあった
ここにいなければ
確かめられないこと
ここにいなければ
確かめられない音
#58 空が泣く
いつもあなたはそうやって
我慢するわたしの代わりに
空色の傘を開かせてくれる
#57 雨に佇む
雨に打たれなければ、癒えない感情は存在する。
雨に打たれなければ、満たされない感情も存在する。
雨に打たれなければ、生まれなかった感情も存在する。
雨に打たれなければ、流せない感情も存在する。
そういうものをわたしは幾つか知っている。
きっと誰しもが知っている。
だからドラマや映画などで、使い古されている。
そんなことを、雨の降る窓辺に佇んで、コーヒーを飲みながら考える。
雨の降り頻る日曜日の朝は、退屈なのに、このようにどこか好ましい。
#56 私の日記帳
日記でさえ、他人に読まれてしまうことを想定して、うまく書けなかった。だけど、他人の目を気にしすぎることが損だということに気づいた最近は、日記が書けるようになったし、続くようにもなった。
包み隠さず書くコツは、固有名詞もきちんと記すこと。汚い言葉も拙い言葉もそのまま書くこと。そして、柔らかく呼吸するようにするすると書けるボールペンを選ぶこと。
正直、楽しいことや嬉しいことがあった日は書く気がしない。苦しくて、辛くて、むかついた時にしか、書きたい衝動には駆られない。たぶんわたしにとって、上手く言葉にできず、整理できない感情を抱くことが苦痛なのだと思う。
そしてありのまま書き連ねたあとは、一種の開放感が生まれて、ぐしゃぐしゃで眠れなかった脳味噌にも、羊が一匹二匹……とやって来るようになる。
今日も気づきを書いていた。今日は珍しく、他者に対する嬉しい気持ち。
日記を通して、言葉を知りたい気持ちも、育み続けようと思う。やはり言葉は、よく分からない気持ちを表すために、とても大切なものだ。