小砂音

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#59 光と闇の狭間で

言葉を大切にしているのに
声にならなかったものを愛している


誰にも伝わらないものが
言葉以外の何かに書き換わっていて
冷えきった体を誤魔化すための掠れた鼻歌になったり
プラットホームに立つ人の背中を押したりしている

誰もいない、ただわたしのためだけにある家にも
ブレーカーを落としたような夜が来る
何もない部屋の窓際に横たわっていると
この国は希望とは程遠い光であふれていることに気がつく

こちらにいても
そちらにいても
何も変わりはしないんだ
見せかけの明暗

きっと真実は
生真面目で融通のきかない月日がただ
照らしたり沈んだりしているだけ

繋いだ手が離れた
愛しい人は自由な旅人になった
まだ生産者のわたしは
チカチカと目まぐるしい点滅を浴びながら
前へと押し流されていく

ここは狭間だ



「……。」

暗がりで拾う、遺された音
そこに言葉はなくて
輝く想いはあった

そこで光った
確かにあった

ここにいなければ
確かめられないこと
ここにいなければ
確かめられない音

12/2/2024, 7:15:50 PM