『春爛漫』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
4/13 ラーメン
近所にあるのに何故か入り辛い飲食店、そんなお店ってありませんか?美味いとも不味いとも評判がない。こっちはいつ潰れるかと心配するけど、いつまでも残っているお店。俺にとってはそれがラーメン◯◯◯だ。その昔、歩いて5分の位置に新しいラーメン屋さんが出来た。俺の住む街は寂れている。飲食店はできては消え、できては消えを繰り返した。だがラーメン◯◯◯は、しっかり街に溶け込んだ。1回くらいは行ってみるかと思いつつ、10数年間そのチャンスは訪れなかった。しかし、今日、等々そのチャンスが訪れたのだ。いつもは選択肢の最後の方にランキングしているラーメン◯◯◯だが、普段行っていないお店に行きたいと言う好奇心と兎に角腹が減ったから適当に済ませるかと言う打算の力の融合によってランキング1位に躍り出たのだ。少し緊張しながら店の前に自転車を停める。店内に入ると常連らしい客2人と、気弱そうなおじさんの店主がいた。テレビではメジャーリーグのドジャース対パドレス戦をやっている。カウンターは学校の机の様に落書きが彫られている。これどうやってやったの?店主の目の前だよね?メニューを見てラーメン◯◯◯の生存戦略を理解した。ラーメン500円。安い。俺は550円の味噌ラーメンを注文した。運ばれてきた味噌ラーメンは実にシンプル。メンマとコーンとチャーシューがまばらに盛ってある。そしてなんと言う正直な味。そうだ。500円のラーメンに隠し味なんか必要ない。とにかく口に放り込め。常連らしい客は相次いで帰って行った。店主と過ごす2人きりの時間。その時チャンスが訪れた。大谷翔平が打席に立ったのだ。ホームランを放とうものなら盛り上がる事間違いない。俺はラーメンを平らげ、大谷翔平の打席に集中した。大谷のバットがボールを捉えた。ホームラン。とはいかなかったがライト線に運ぶ2塁打を放った。ありがとう大谷、それで十分だ。俺は会計に向かうと店主に話しかけた。
「それにしてもよく打ちますねぇ。」
「あ、ああ、そうですね、チャンスですから良かったらゆっくり見て行って下さい。」
「いや、良いもの見せて貰ったんで大丈夫です。」
店主との束の間の交流。もう2度と来ることはないが。
『春爛漫』
『ねえ! 速く学校行こ! 桜綺麗だよ!』
満開の桜並木を2人で歩いた、高校3年生の春の思い出。
桜を見るたびに、俺の1番好きな人、小夜の事を思い出す。
小夜は春が好きで、よく俺の手を引っ張って外に出て桜を見るような、桜が大好きな子だった。
当時の俺は「ゲームしたいから行きたく無い」みたいな事を言う生意気な小僧だった。だが、正直満更でも無かった事を覚えている。
2人で、桜を見に行った。時にはお花見をしたり、桜並木を歩いたりした。
全て俺と小夜との大切な思い出だ。
「小夜、春が来たぞ。お前の大好きな春、そして桜だ」
目の前の墓に手を合わせた後、俺は言う。
「同期の悠凛は花粉症が酷いってさ。俺は花粉症じゃないからわからないんだけどさ」
少しだけ、世間話をする。世間話、と言っても俺が一方的に話すだけのただの独り言だ。
「お前も一緒に桜を見れたら良かったんだけどな。そうすれば……お前との思い出をまた語れたかもしれん」
少しだけ、目尻が熱くなる。目の前に眠っているであろう人の顔を思い浮かべてしまったから。
「じゃあ、そろそろ行くよ。仕事に行かなきゃ。またこれくらいの時間に来るよ。じゃあな」
小夜の墓に背中を向けて、歩き出す。少しだけ歩くと、桜の花びらがひらひらと降って地面に落ちた。
(二次創作)(春爛漫)
新しい階層に足を踏み入れる時は、いつだってわくわくする。迷宮に潜る理由は人それぞれで、たとえば財宝を見つけて一山当てたい者であったり、冒険者としての名声を得たい者であったりする。個別の理由で挑む者、散歩感覚で浅い階層のみ出入りする者ももちろんいて、パラディンのオニキスにとっては新しい階層を見たい、が大きな理由だった。
5階までは、瑞々しい緑が眩しい春のダンジョンだった。続く6階からは一転して色付いた木々が目を惹く物悲しげな秋のダンジョンだった。11階は氷と樹氷の煌めく冬のダンジョン。ならば今日足を踏み入れる16階は、きっと春のダンジョンに違いない。
「――!!」
果たして、オニキスを迎え入れたのは、視界を埋め尽くさんばかりの薄桃色の花だった。
「これは、凄いですね」
ずっとオニキスに付き従っているガンナーのパールが、ひょこっと顔を出す。
「確か、サクラと呼ぶのです。この木の下に座ってお弁当を食べるのが春の慣わしだと、ルビーさんが……」
「…………」
オニキスは、静かに歩みを進める。迷宮の中、まして第四階層のここで、呑気にランチなんて死に直結する行為だ。だが、樹海基軸のそばであれば、魔物の気配は皆無だ。それに、ちょうど、今朝宿屋で貰ったパンがあったはず。
樹海基軸の少し前、ちょうど幹の太いサクラの木があったから、オニキスはそこに腰を下ろした。すぐに、パールもそれに倣う。そのまま上を見上げれば、隙間なく張り出した枝とサクラの花の隙間から、僅かに空が見える。
かつて、オニキスのギルドには何人かのメンバーがいた。どのギルドよりも深い今の階層に到達する間に、皆命を落とし、今や残るのは二人だけ。新しいメンバーを募る気にもなれず、ただただここに来た。
「パール」
この階層で最後だと思うか?と答えの無い問いを、しかしオニキスは飲み込んだ。代わりに、
「綺麗だな……」
と呟く声が、サクラに吸い込まれていく。
春爛漫
大好きな言葉だ
鋭利な言葉にかすりもしない
聞くだけで暖かくなって素敵な未来を想像しワクワクが止まらなくなってしまう
出逢いは少し肌寒くて、でも陽が暖かいそんな日だった。
第一印象はあまり良くなかった。ちょっと清潔感に欠ける見た目、ぶっきらぼうな態度、厳しい目つき、抑揚のない声色。何をやっても怒られそうだ、この人とは関わるのはやめよう、と初日にして思ったものだ。
それから少しして、仕事の都合で2人きり。あぁなんてことだ、絶対怒られないようにさくさく働かねば、気を遣って先回りして動かねば、なんてことを考えながら書類を書いていると私の作業をじっと見ているその人。やばい、何かやらかしたか、ええいとりあえず謝罪だと思いなんの脈絡もなく「すみません急ぎます、あ字汚くて読めないですよねほんとすみません頑張ります」なんて口早に伝えると「いや、そんなことねぇよ、全然きれいじゃん、字。俺のほうが汚ねぇし。焦らなくていいから、ゆっくりやろ。」
いわゆる毒親と言われる両親から、何をやっても中途半端 、頑張りが足りない、一番じゃない、下手くそ、駄目、と小さい頃から否定され続けた私にとって『字がきれい』というあの人の言葉はこれまでの人生で誰にも、両親にすら言われたことのないほどの最上級の称賛だった。認められた気がした。受け入れられた、そんな気持ちになった。私の心はまるで春爛漫。たったその一言で文字通りすべてが輝いて見えたのだった。
他人からすると笑い話だろうが、わたしはあの日の出来事を、一生忘れないだろう。
着慣れない制服を着て入学式に参加し、周りの人に倣うように大きく3つの文字が書かれた看板の前で親と写真を撮った後、胸に付けられた薔薇だか何だかの安っぽいブローチもどきを外した。
今年の桜はかなりの遅咲きらしく、入学式には蕾すら見えなかった。それを周りの同級生らしき人達は残念がってたが、私は何も感じなかった。
祖父母にも外食に連れていかれ、お祝いされて、やっと、「入学式っていいなぁ」と感動した。
美味しいお肉を食べて感動しない人はいないと思う。
ちなみに、中学の卒業式の日は寿司を食べた。
その時ももちろん、寿司が美味しくて感動した。
だが、その日以降、中学と変わらないような日々を過ごした。
小学から中学に進学するのと違って、今回は中学から高校への進学。
普通は去年から話してた友達がいなくなっただの、仲のいい友達が同じ学校になったはいいが、クラスが違うだのそれなりの変化があるだろう。
が、私には関係のない事だった。
小学にも中学にも親しい友達なんていなかったので。
去年よりも難しく、つまらない授業を右から左に聞き流す。
窓際の一番後ろの席が私の席だった。
あまり運がいい方では無い私がこんないい席にあたるなんて。
今年の運をそうそうに使い果たしてしまったかもしれない。
少しこの先の未来が不安になり、ふと窓の外を見た。
青空でも見て、先程湧き上がってしまった小さな不安を消し去ろうと思ったのだ。
今日は、朝から天気が良く、私が望んだ青空がそこにあった。
前の席の人は背が高い人なので、私が窓の外を眺めていようと、先生にバレることはない。
そもそも、先生がかなり高齢で、耳が遠いだの目が悪いだの、悪くいうとガタがきている先生なので、一番前の席で寝ている人にも気づくことは無い。
だから私は、遠慮なく、青と白で作られた綺麗な世界を楽しんだ。
授業中は静かでいい。
休み時間になると途端に、耳障りな雑音がそこらじゅうに溢れる。
うるさくてうるさくて、空も本も楽しめないのだ。
だから、この綺麗な青空を存分に楽しめるのは、きっと、今しかない。
「ねぇ」
というのに、今しかないというのに。
「ねぇ、隣人さん」
暇なら少しおしゃべりしない?
私の右隣に座った少女が私に話しかけているようだ。
面倒くさい。
それしか感じなかった。
だが、このまま話しかけられ続けたら、それこそあのガタが来ている先生でも気づいてしまうかもしれない。
その子は少し声が大きかった。というか、よく通る声だった。
「いま授業中だから。」
話しかけないで。
そういうように暗に伝えた。その子の顔を一瞬たりとも見ずに。
「そうだね」
その子は少し間を置いてから、そう言って、そこからは何も言ってこなかった。
流れていく雲を見ているうちに授業が終わったらしい。
周りに雑音が流れ始めた。
お楽しみタイムはここまでのようだ。
はぁ、とため息をつく。
この先生以外は、割としっかりしている先生ばかりなので、外をぼーっとみていたらおそらく怒られてしまう。
今日は、少ないチャンスタイムに邪魔が入ったせいで、いつもよりも気分が沈んでいた。
うるさい教室から離れようと窓から目線を外すと、隣人と目があった。
隣人である少女は、私と目が合うと途端に嬉しそうにはにかんだ。
「授業中におしゃべりするのはよくないよね!」
だから、今おしゃべりしよう。
私のいつもより落ちていた気分がさらに落ちた。
少し顔にも出ていたと思う。
だが、無邪気さが滲み出ている少女は、私と"おしゃべり"しようと試みているようで、キャッキャと楽しそうに笑いながら、色々な話題を出てきた。
いつもあんなにウザったく思っていた"他人の声"だったが、不思議とその少女の声には不快感を感じなかった。
次の日も、その次の日も隣人の少女は私に話しかけ続けた。
彼女は私のことを「隣人さん」と呼んだ。
そして、なぜだか分からないが、ガタが来ている先生の授業の際には必ずと言っていいほど、私をおしゃべりに誘った。
先日の「授業中に話しかけるのは良くなかった」などと反省しているような言葉は何だったのだろうか。
何度も「授業中だから」と断っているのに。
ただ、休憩時間はよく少女とおしゃべりをするようになった。
おしゃべりというか、一方的に彼女が話しかけてくるだけだが。
私は許可してないのに、あちらが勝手に"おしゃべり"をしてくるのだ。
「授業中だから」という断り文句以外が思い浮かばなかったから。あと、周りのうるさい雑音しか聞こえないよりも、少女の声があったほうがマシだと思ったから。
彼女の行動を許した理由なんて、そんなものだ。
少女が話しかけて来てから2週間たった。
彼女は、毎日のように私をおしゃべりに誘ってくる。
休憩時間におしゃべりをするのはもちろん、やはりあの先生の授業中も必ず誘ってきた。
私の貴重な癒しの時間なのだ。天気がいいと爽快な気分になるし、天気が悪くても、それはそれでこの後はどんな天気になるかな、などと想像してみたりして楽しい。
だから、何度も「授業中は無理」と断っているのに。
あの先生の授業が始まり、今日も今日とて日課の空観察を始めた。
今日は青空だったため、凄くいい気分になった。
ふとその下を見ると、いつ間にか桜が満開になっていた。
少しだけ感動した。
「彼女の笑顔は、春爛漫という言葉が似合うものだった。」
急に先生の声がはっきりと耳に入ってきた。
春を感じていた矢先に、"春爛漫"という聞き慣れない言葉が聞こえたからなのかもしれない。
先生の方を向く。
どうやら、音読をしていたようだ。
「春爛漫とは、花が咲き乱れ、美しく輝く様子のことです。」
初めて知る言葉に無感動にへぇと頭の中で言葉を呟いた。
「ねぇ、隣人さん」
少し、ほんの少しだけおしゃべりしない?
いつものように隣の少女が私に話しかけてきた。
今日は、綺麗な青空で。その下で綺麗な春を見れたから。
理由なんてそれだけだった。
「いいよ」
私は初めて、彼女のおしゃべりの誘いに肯定を返した。
私は初めて、授業中に彼女の顔を見た。
無邪気さが残る少女はきょとんとした顔をしていた。
しかし、蕾が一気に開くように、顔を綻ばせた。
ああ、春が来た。
彼女の笑顔は、春爛漫という言葉が似合うものだった。
『春爛漫』
桜が咲いた。
溢れんばかりにいくつもの花が埋め尽くすように。
生命力に満ちた桜並木を眺めて、私は過去を思い出す。
私は、公立の学校に通い、親や先生から文句を言われない程度の成績を取り、高校も就職者向けの公立校に入って。
そんな庶民の豊かとはいえない生活に何の向上心もなく、ただ早く働いて家を出たいなとだけ思って……人生を楽観視していた。
当然、給料もよくはなく、好きなものを買うという訳にはいかなかった。
まぁ、これはどんな職業でも欲に終わりが来ない限りはついて回って来るのだろうが。
そして困ったのが、私が女性であったという点である。
給料が安い。
仕事をもらえない。
そもそも就職も、男性募集の求人が多かったのを見てこんなにも日本の社会は女性に厳しいものなのかと思った。
まぁ、早く結婚しろということなのだろう。
成人してからは、田舎だけに周囲から見合いの話を勧められることも多かった。
が、私は結婚生活というものに何の魅力も感じなかった。
恋愛をしたこともないし、恋愛小説や少女漫画を読んでも、回りくどくてもどかしいだけでどんな感情もわかなかったのだ。
結婚のイメージがわかなかったので、見合いの話は持ちかけられればすぐに断るような生活を続けた。
じきに周囲のおせっかいなおばさんおじさんも諦めたらしい。
陰口を叩かれることはあっても、お見合いの話はいつの間にやら聞かなくなった。
そんな生活が変わり、私は今東北にいる。
私が高卒で禄に仕事をこなせなかったからか転勤を命じられ、再就職を乗り越える気力もなかったので一人暮らしである。
大学にでも通っていれば機会があったかもしれないが、一人暮らしはこれが初めてだ。
万全の準備をして挑もうと気を張っていたら、妙に疲れた。
あと一週間は休みがあるので、新生活の支度は後にして気を休めることにした。
この辺りの地理を知りたかったこともあり散歩に出た私は、今年二度目の桜を見ている。
向こうでは咲き始めたばかりの桜をゆっくり見る暇などなかったので、今年はいいかと思っていたが、なるほど実際に見てみると、東北はこれほどに気温が低く、桜の開花も遅いのか。
ーーばたり。
車通りもなく、静かだった桜の下に、何かが落ちた。
そちらを見れば、鮮やかな赤と黄色。
随分派手な色の服に金髪かあと思い、一拍置いて我に帰る。
人が、おそらくはまだ若いであろう少女が倒れていた。
慌てて近寄り、反応がないことを確認すると、携帯で救急車を呼んだ。
思ったよりもずっと冷静に、淡々と状況を伝えることができたのに驚く。
心臓がばくばく鳴っている。
3分もしないうちに救急隊が来た。
まあ実際はもう少し時間が経っているのだろうが。
救急隊に連絡先を伝え、身分証明に免許証を見せたが、他に何を聞かれたか、何か聞かれたかは覚えていない。
家に帰ると翌日、その少女からであるらしい電話がかかってきた。
連絡先などいつ渡したかなと思うも、記憶が確かでなかったため、渡しているのだろうと電話を取り、挨拶を返した。
が。
「突然すみません、連絡先を渡していないはずの相手からいきなり電話を貰えば驚きますよね。」
そういう訳ではなかったようだ。
「私は、先日桜の木の下で倒れた者です。紫音といいます。電話番号は、お姉さんが救急隊の人に話していたところでちょうど目覚めたので、覚えていたんです。」
「体調が大丈夫そうでよかったです。若いんですから、体を大事にしてください。」
ああ、あの時か。
とりあえず社交辞令を口にし、彼女の身を案ずるも、本当に体は大丈夫なのかなと思い直し、どきりとする。
「すみません、私は医学生で……勉強のためには、倒れても休む訳にはいかないんです。心配おかけしてすみません。寝不足で寝てしまっただけで、もう気を失って十分に寝たので大丈夫です。本当に、ご迷惑おかけして申し訳ありません……。」
なんと、謝罪のための電話であったのか。
若いのに体を犠牲にしてまで勉強して、資格を取ってからも休みなく働かなければならないとは、医者になるというのは、私の浅はかな想像よりも何十倍と大変なものであるらしい。
後ろめたい気持ちが浮かび、ちくりと胸に何かが走る。
「大変ですね。それでも医者を目指すなんて、相当な覚悟が必要でしょう。」
「いえ、私は両親が医者をしていて……。医者以外の職業は認めないと言われて、ずっと塾通いで勉強しただけなんです。なので、頭がいい訳でも、人間として優れている訳でもないんです。医者なんて、しょせんいくらもある職業の一つですし。」
余計に苦労人ではないか。
心臓の動きが先程より増して、さらに早くなる。
もう、この私の何倍も人生を味わった少女には余計なことは言わないようにしよう。
私は決意した。
「それで、私、お友達がほしくて。突然ですが、恩人ということならば、何度も会いに行っても父から文句を言われることもないですし。ですから、その。これからも、定期的に連絡しても大丈夫でしょうか。」
……おお。
彼女の父親は、かなり干渉してくる人柄のようだ。
私など、嫁ぎ遅れと言われる年齢になろうと、結局は諦められて何も言われなくなったのに。
この子の場合は、先に折れて諦めなければならなかったらしい。
衝撃に早くなった鼓動が戻っていないが、この子が人生を諦めなければならないというのが、どうにも許せなかったので衝動的に了承した。
彼女はかなりのお嬢様であるようで、毎回会食を奢られていた。
また、小学校から私立の女子校……いわゆるお嬢様学校だったために男性が苦手だなどという悩みも話してもらえるようになった。
私も、彼女がこれほどまでに人生を決められてしまっているのに、人生を選べるはずの自分は何もできない、していないというのが嫌で、海外に行くことが夢だったなと思い、必死にお金を集めながら英語の勉強をした。
そして、私は一人になる度に、思うようになったのだ。
彼女の人生を決めているのが私ではないという事実が、なんとも気に食わないと。
彼女を私だけのものにしてしまいたい、連れ去ってしまいたいと。
彼女は国家試験に合格した。
そこで私は、一緒に海外へ逃げようと誘った。
彼女の瞳から溢れる涙は、満開の桜を映して、頬を桃色に染め上げていた。
私と話しているうちに、随分と砕けたものになった口調で、彼女は答えた。
「桜と行く!!絶対について行ってみせる!!」
うららかな日差しを照り返す小川沿いの桜並木はいままさに見頃だ。
ソメイヨシノ。エドヒガン。ヤエベニシダレ。赤茶色の葉のヤマザクラ。うす緑の葉と一緒に咲くオオシマザクラ。マメザクラにカワヅザクラにカンヒザクラ。少し離れたところには淡い黄緑のギョイコウや花びらが百枚もあるケンロクエンキクザクラなんて珍しい品種も咲いている。
360度、見渡す限りの春爛漫。まさに絶景。しかもこの眺めを独り占めできるなんて!
「いやー、今年も見事な咲きっぷり!」
私はすっかり満足してゴーグルを放り、ソファに大の字になった。
向かいでお茶をすするおじいちゃんは渋い顔になる。
「まったく近頃の若いもんは。わしがおまえくらいの歳には自分の足でなあ」
そう言ってくどくどとしみったれた昔語りを始めた。
うるさいな、せっかくの気分が台無し。
「アンインして!」
瞬時にかき消えるおじいちゃん。
今度はもっと静かなやつオーダーしよ。
(春爛漫)
■お題:春爛漫
3月も終わるというのに、雨が続き、冬の寒さが居座っていた。桜が咲いても、足元を這うような寒さのせいでまるで春を感じない。身を縮こませて帰路につく。
明日だろうか。いや、明後日には。おそくとも、今週中には。
温かな日差しの中、柔らかい草の上に寝転んで。若い草の香りと、ふと気がついた名も知らぬ小さな花に微笑んで。ただ青空を楽しむ。
明日だろうか。いや、明後日には。おそくとも、今週中には。
春爛漫、陽射しも美しく、見慣れた街の風景が親しげに私に微笑む。
また一年が過ぎた。何の変哲のない、しかし貴重な時間が、気付けばさらさらと零れ落ちていく。なんだか虚しい。この虚しさは、後戻りの出来ない、時の旅人としての虚しさである。
桜落としの雨に、風。
咲き誇った桜が散るのも春爛漫
春爛漫
この時期は家族や友達と一緒にお花見をすることが多い
毎年桜を見に行くけど、チューリップや梅の花を見に行くのも良いかもしれない
桜吹雪が綺麗だ。暖かい陽射しが窓から差し込んでくる。こんな日のことを「春爛漫」などと言うのだろう。
桜の植わった並木道。桃色の絨毯の上をゆっくり歩くだけで心が安らぐ、気がする。
いつもは空いている隣町の森林公園の駐車場も、こんな絶好のお花見日和には空きがなくなってしまうと聞いた。桜は毎年咲くのに、これまで多くの人に愛されているのか。少し羨ましい。
毎年冬を乗り越えて咲くのに例え、合格を「サクラサク」なんて言う。今年、咲いたサクラ達が春爛漫の今日、新緑の季節を夢見ているだろう。
お弁当を用意し終えて、場所取りをしている男たちの所へ向かう。
「おう、ひな!」
こっちだと手を挙げて、音量設定が出来ていない声で幼なじみが私を呼んだ。既に赤ら顔だ。
レジャーシートの重しのように酒瓶が置かれており、もう何本か空き缶が転がっている。
花より団子ではなくうちの所は花よりポン酒、らしい。
周りは親子連れが多いというのに、うちは昼間っからご機嫌な酔っ払いばかりだ。
「ひなちゃあん、おかずなにぃ?」
ふわふわした声が上から降ってくる。かなりしっかり目に体重をかけてくるのは義弟。じゃれつくのはいいが重い、体格差を考えてほしい。
「からあげとだし巻き玉子。あときんぴらさんとウインナー」
「やったぁ、おれひなちゃんのからあげすき〜」
「だから作ってきたのよ」
「ねぇちゃん、おにぎり俵型?」
「具はなあに?」
「んもう、弁当箱開けて自分で確認し!」
弁当箱を置くとそこに群がる。さすがの食い付きだ。
そして、もう弁当なんて入らないほど飲んだくれたおっさんどもの方に行く。
「おつかれ、ひな」
「誰のせいで疲れてると……ええご身分で」
「はっはは、ぐっすりやろ?よっぽどおつかれやねんやろな」
目線の先には一升瓶を抱いて荷物に持たれて眠る私の旦那様。
口開けて寝てるはるわ、よだれ垂れてる。
よだれが垂れていてもだらしなくても綺麗な顔は綺麗で少しずるい。この年齢にしてははしゃぎすぎな金髪に桜がくっついているのも腹が立つほど似合っている。
「んぅ…ひなぁ?」
「あんた、桜にモテモテなんはいいけど、攫われんといてや」
「せやったら、ひなちゃんが離さんとってやぁ」
そういうと私の足に頭を乗っけて、またくうくうと寝息を立てる。
「離れられへんわ……こんなん」
桜を剥がすように彼の髪を撫でた。
私も花より男子やわ。
『春爛漫』
作者の自我コーナー
いつものパロ。お互いベタ惚れ。
時は四月。
世界に春が訪れ、世界に緑に溢れ花が咲き乱れる。
それらを目当てに虫や蝶たちがやってくる。
鳥も恋の季節で、歌声で異性にアピール。
まさに春爛漫といった風景だ。
あらゆる生命が活動するこの季節。
春の陽気に誘われてクマが巣穴から出てくるように、桜の木の下から死体も這い出てくる季節でもある。
そう死体である。
皆さんは一度は聞いたことがあるだろう。
『桜の木の下には死体が埋まっている』と……
あまり知られていないが、本当に埋まっているのだ。
信じられていないのも当然で、その死体と言うのは普通の人間と見た目がそっくりで、まず見分けがつかない。
這い出てくる現場を見なければ、死体だと気づかないであろう。
ではなぜ『春になると出てくるのか?』。
それは簡単だ。
花見の宴会に参加するためである。
みなさんも花見会場に行ったとき、妙に人が多いなと思ったことは無いだろうか?
どこにこんなに人間がいたのだろうかと。
それは這い出てきた死体が混じっているからだ。
死体たちは、普通の人間に混ざって花見の料理に舌鼓《したつづみ》を打っているのである。
いくらなんでも知らない人間が参加していれば、すぐにでも気づくと思われるかもしれない。
だがそこは花見会場……
全員とは言わないが、酔っぱらって判断力が低下している人間も多い。
死体は入念に人間たちを観察し、大いに盛り上がっている宴会を選んで混じるので、まず気づかれる事はない。
宴会に参加した後は料理を食べて、頃合いを見てその場から離れる。
このことからも分かる通り、死体は人間を襲わない。
人間を襲うよりも、盗み食いする方がリスクが低いからだ。
もしかしたら花見会場で、うずくまって動かない人を見たことがあるかもしれない。
それも死体だ。
実は死体にも様々な個体がいて、宴会に混じるのが下手な個体がいる。
そうして何も食べれなかった個体がお腹が減って動けなくなった、と言うのが真相なのだ。
こうして桜の木の下に埋まっていた死体はエネルギーを補給するのだが、桜の花が見ごろなのは短い……
桜も散って花見が行われなくなったら、死体はどうするのか?
また桜の下に埋まっていくのである。
そう、死体は花見のシーズンだけ活動する存在なのだ。
埋まった後は、夏・秋・冬を土の中で過ごす。
そして季節が廻り、花見のシーズンが来れば、また土の中から出てきて花見客の料理を失敬する。
こうしてみると、死体は何の役にも立って無いように思えるだろう。
だが死体は埋まっている間に、桜の成長を促し花を綺麗に発色させる特殊な物質を生成する。
死体は桜の成長に貢献しているのだ。
そうして綺麗に咲いた桜を、人間が見て楽しむ。
これだけをとっても自然の複雑さが感じられるだろう。
人間は桜を見て花見を行い、桜は死体によって大きく成長し、死体は人間の料理を食べて命を長らえさせる。
桜と死体と人間は、お互いに欠かすことが出来ない、いわゆる共生関係なのだ!
くしくも今は花見シーズン。
これを読んでいるあなたも花見に行くことがあるかもしれない。
その時は自然の雄大さを感じながら、死体と一緒に桜を楽しんでいただければ幸いである。
[春爛漫]
昨日、なかがいいともだちと4人できれいな夕日を見ながらお弁当を食べた。みんなでお弁当を交換しながら食べた、そして今日は待ちに待ったなかがいいともだちと、お花見にいく日。もうはるだから、桜が凄いさいていたわたしたちは、桜を見ながら自分たちが持ってきた皆で作ったお弁当を食べた。すごく美味しかった。私たちは、食べ終わったら、お散歩をした。それで私たちは帰った。わたしたちは、みんな楽しかったなとみんなの思い出に、残った。私も楽しかったなと思った。その後みんなお花見楽しかったねと、ともだちが、いった。みんなそのことばにおうじて、たのしかったねといった。
私の住む地域の桜は、例年通り遅く咲いた。そして雨とそれに伴う強風で、一瞬で散った。桜は美しい。
「春爛漫」
今日はいい天気だ。暖かくなってきたから寝覚めも悪くないし、少しだけ早く起きられた。
「あ、おはよう!!!珍しいね〜!!!キミが早起きなんて!!!」
自称マッドサイエンティストは楽しそうに朝ごはんを作っている。何かいいことでもあったのか?
「今日隣町で桜祭りが開催されると聞いたよ!!!行こう!!!」
人が多いところはあまり好きじゃないから一人で行ってこいよ。
「え〜〜!!!ヤダヤダ!!!キミも一緒に行こうよ〜!!!ボクは桜餅と三色団子をたらふく食べたいんだ!!!おすすめを教えてくれたまえよ!!!ボクは花を食べるという発想そのものに興味を抱いているのさ!!!」
花より団子とはこのことか……。桜を見にいくんじゃなかったのか?
「桜を目で楽しみつつ、味も楽しむんだよ!!!五感を全力で使ってね!!!」
仕方ない。行くか。
「やったー!!!」
麗らかな春の日の下で、自分たちは花見をしに桜並木まで向かった。
「うおー!!!桜ってこんなに綺麗なんだね!!!」
「花筏ってこういうやつを言うのかい?!!」
「あ!!!屋台があるよ!!!桜餅が売られているじゃないか!!!団子もあるぞ!!!」
相変わらずやかましい。ちょっとは落ち着け。
「……にしても、人が多いね〜!!!まあこんなに綺麗な景色が、春にしか見られないっていうのもあるから妥当ではあるか!!!」
「……ぼっちはキミだけだね」
なにか言ったか?
「いや〜???ま、とにかく桜餅と三色団子の食べ比べをしたいから全種類買ってきてくれたまえ!!!ボクはここでキミの分まで桜を楽しんでおくからね!!!」
……はぁ。まあせっかく来たんだ。とりあえず餅と団子を買おうか。意外と並ぶんだな。
行列の中で、自分もゆっくり桜の木を見上げた。
満開の桜から漏れる日の光が柔らかい。
風に身を任せてひらひらと舞う花びらを目で追う。地面に落ちる。そこは花びらと小さな花で溢れていた。
これが「春爛漫」か、そう思っているうちに自分の番が来ていた。とりあえず頼まれていたものを買う。……意外といい値段だな……。
値段に驚きつつ、あいつの待つ場所へと向かった。
「おかえり〜!!!遅かったね!!!随分と並んでたのかい?!!とにかく、『例のブツ』は買えたんだろうね……?」
そんな言い回しをするなよ。……はい、これが『例のブツ』だ。
「うひょ〜!!!桜餅って本当に桜色なんだね!!!いっただっきまーす!!!おいしい!!!」
餅なんだから気をつけて食えよ。
なんて思っているうちに全部食べてしまった。おい、自分の分は……??
「あ……ごめん……せっかく並んでもらったのにね……。キミの分まで食べちゃった。にしても桜って美味しいね!!!」
満足するまで桜を見たあと、帰路についた。
途中で買いたいものがあったことを思い出したのでスーパーに寄る。
値引きされた弁当を選んでいるときにあいつが自分を呼んだ。
「おー!!!これ見て!!!『春爛まん』だって!!!中に桜餡が入っているそうだよ!!!これも買ってよ!!!」
よほど桜が気に入ったのか勝手に買い物カゴに「春爛まん」を入れる。全く……。
「今日はありがとう!!!あとでこれ、半分こしようか!!!」
半分こ、か。そんな言葉久しぶりに聞いたな。
少し懐かしい気持ちで、自分たちは家に帰った。
ようこそ、春爛漫
僕の嫌いな季節がやって来ました
そろそろ、死のうと思うんだ
死ぬならやっぱり春がいいだろう?
春に死ぬことにも、死ぬこと自体にも理由も意味もないけれど、
きっと、美しいと思うんだ
生と同時に死も授けられて、己の命を全うしていく
僕にはもう十分だと思ったんだ
死にたい
なにもない僕を想像したい
この日をどれだけ待ち望んだことか
君にはわかるか?こんなにもウキウキするんだ
早く君のもとへ行こう
さて!さようなら!
またどこか、次の未来でお会いしましょう😆
題名が分からないためやりません。
明日は描きます。
すみません