『星空』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
見上げた空は
雲に覆われて
見えない星に
想いを馳せる
会いたいと声にできたとして
この空はきっと
叶えてくれないから
会いに行く
待ってて
【星空】
なんとなく過ごして、なんとなく仕事して、なんとなく人付き合いして、なんとなく理由なく生きてる人生。
「もう疲れちゃったな」
いつの間にか考えてることが言葉に出てしまっていた。
辛かったことだけが頭に残っている。
幸せなことは何故か何一つ思い出せない。
そんな、しょうもない人生。
こんなことを考えるなんて今日はいつもより疲れているみたいだ。そんなことより早く家に帰って寝たいな…
ずっと下をみながら歩いていた。
靴が汚れてるな。
そんなことしか考えてなかったのに、コンクリートに反射する微かな光をみた瞬間、無性に空に目を向けたくなった。
重たい首をゆっくりと上にあげるとそこには、数え切れないほどの無数の星とどこまでも続いていく空があった。
星空ってこんなに綺麗だったっけ?
その日は家に帰るまでずっと空をみていた。
いつの間にかもう家の前についていた。
ふと頬を触ると濡れていることに気づいた。
最後くらい自分に優しくしてもいいかな。
そう思い、いつもより多く睡眠薬を飲み私は眠りについた。
星空綺麗だったな…
お題:最後の星空
『星空』
今日は七夕
私の彦星はどうしているだろうか
もう会えないのかもしれない
すごく好きだったし、これからも好き
笑顔で、幸せでいてね
最後に送った手紙の返事は来ない
それでも私は今でも想いを紡ぎ続けている
曇っていて星空は見えないけれど、
想いは銀河まで届いているだろう
ここ最近、というより、かなり長い間、星空を見上げていない。最後に見たのは、まだ暑くなる前の春の夜だったと思う。1人で見上げても、虚しくて寂しくて、やり切れない夏の夜だ。
星空。
星空を
2人で見よう。
2人の為の
月を待ちながら。
少しの距離でも
同じ月を。
(星空)
プラネタリウム
星座
流れ星
天の川 彦星 織姫
流星群
星空
飽きずに振り続ける初夏の雨。
曇天の日が続く梅雨の季節。
その合間に。
ふと顔を見せる、星空。
何時もより、少しだけ貴重に思える、
夜半の星の煌めき。
一際明るい星。
目を凝らさなければ見えない小さな星。
ぼんやりと輝く星。
青い星、赤い星、白い星。
星空は、様々な星を、
全て受け入れて、
こんなにも美しい。
大人も子供も。
豊かな人も貧しい人も。
善人も悪人も。
夜空を振り仰ぎ見れば、
星達は、等しく輝いてくれるんだ。
その事が、俺の不甲斐無さを、
星達が受容してくれているみたいで、
明日は会えないかも知れない綺羅星に、
そっと、溜息を零す。
こんな駄目な俺でも。
星だけは赦してくれるんだって。
星空の下で、少しだけ自惚れてみるんだ。
きらきら光る、なんて小さな頃はよく歌っていた。
七夕になると星型に切り抜いた金銀の折り紙やシールをそこら中にはっていた。
だけど、ほんものの、夜空に光る星なんてずっと知らなかった。
だってそうだろう。街は人工の明かりが強すぎて星が負けてしまう。そうでなくとも、そびえる建物が多すぎて空はとても狭い。時折見える瞬きは飛行機のライトや人工衛星で、ほんものを知る機会なんてなかったのだから。
星とは星型をしたものであり、高感度カメラのレンズ越しにしか存在しないものだった。
はじめて星を知ったのは林間学校のとき。
街の明かりは山によって遮られ、車の走行音も酔っ払いの奇声もない。虫の声を聞いたのも、そのときがはじめてだった。
満天、降るよう、そうとしか言えなかった。肉眼でも判る程の大量の瞬き。ありすぎて、早見盤を使っているのに、なかなか星座を見つけることができなかった。
それに、星はほんとうにまたたいていた。それが大気の屈折率のせいだとしても、ちかちかと繰り返す強弱に目も心も惹きつけられた。
思わず、手が伸びそうになったのも仕方がない。大袈裟でなく、手を伸ばせば届きそうだったのだ。
就寝時間まで、それを過ぎてからもベッドに寝転がりながらずっと見ていた。
数年経った今ですらくっきり思い出せる程、瞼の裏に焼きつけたそれは価値観を変えるに十分過ぎた。
この世には隠れているもの、気づけないものが多すぎる。だけど、少し目を向けてみるだけでも世界はその姿を変える。
足元の花。流れる雲。噴水の水滴ひとつすら。
嗚呼、ほんとうに、この世は美しいもので溢れている!
コップ代わりの取っ手付きビーカー
自家製のレモンシロップ50ml
炭酸水をたっぷり注ぎ
氷を放り込む
今日は贅沢がしたくって
星空を飲んでみたくって
月に見立てたレモンの輪切り
星に見立てた金平糖
ビーカーに入れた
それらは深く沈んでいった
あんまり星空には見えなくて
少しガッカリしたが
それでも何時もより贅沢で
気分は良かった
その気分のまま
夜更けの自室に戻り
卓上ライトにビーカーをかざす
そこにはキラキラした数え切れないほどの星があった
沢山の星が下から上へと昇り消えていく
図らずもそれは星空だった
私はその星空を飲み
底から掬い取った青い星を
奥歯で噛んだ
幽かに檸檬の味がした
小さな贅沢を噛み締めた
〜星空〜
『星空』
あんなに愛した星々から、
「見たくもない」と目を逸らした
あの日をきっと僕は忘れない。
それは冬の日のことでした。
十八の私は、進路だなんだと
見たくもない現実ばかりを見せられいて、
大変疲弊しておりました。
学校帰り、駅から出た私はふと空を見上げ、
確かにその両目に星空を映したのです。
そこにはいつもの通り、
眩しく輝く星々がおりました。
普段なら「もっとよく見たい」と
瞳孔を開かせていたところです。
けれどその時、私の身体は初めて
星々に対して拒否反応を示しました。
「見たくない」
咄嗟に顔を背けました。
地面を見ながら歩きました。
そんな自分が惨めでなりませんでした。
星々の輝きが眩しくてたまらなかったあの日。
とてもじゃないが見ていられなかったあの日。
あんなに愛した星たちから、
目を逸らしてしまったあの日。
あの日をきっと僕は忘れない。
そうして今日も星空を眺める。
星空
昔、バカみたいに青いケーキを食べた。
四角くて青いクリームがたっぷりのったそれは、どうも気持ち悪くて仕方なかった。
味は普通のケーキだったのに、見た目が受け入れられなくて、一口でやめた。
でも眺めているうちに蛍光灯の下のアラザンが光っていることに気が付いて、すごく、星だ、と思った。
本当の星は銀じゃないし、本当の空は青じゃないけど、幼い私には星空に見えた。
その日星空を食べていた。
この満点の星空の下あなたといれて僕は幸せです。
来年の夏もまたこの場所に来てこの景色をあなたとみたいです。
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theme 星空 2024-07-06
→短編・プラネタリウム
もうすぐプラネタリウムの上映が始まる。隣の席の彼女が「楽しみだね」なんてこっち見て肩を上げる。あ〜、今日も可愛いなぁ。
館内の灯りが消える。暗闇とアナウンス。上映が始まる……――。
彼女と出会ったのは3年前。マッチングアプリ経由で付き合い始めた。まるでアプリのCM並に価値観が一緒で、初対面のときから初めて会った気がしないくらい盛り上がって、とにかく最高で。
そして今日は3回目の出会った記念日だ。毎年必ずデートしている。もちろん今年も。平日なので仕事終わりからの夜デート。でも今年の記念日は今までとは気合いが違う。
俺はポケットに忍ばせてある指輪を握りしめた。今日、今ここで、俺は彼女にプロポーズする!
俺のプランはこうだ。プラネタリウム上映中に彼女と手を繋ぐ。そのときに一緒に指輪を仕込んでおく。何を渡されたのかと彼女は確認するはずだ。驚く彼女。その指輪を再び手に取り、彼女の左薬指に指輪を通す。星空の下でのプロポーズ。(映像だけど……、そこは、まぁ、予算とか時間とか、ね?)その後は2人でよく訪れてるフレンチを予約してる。店長に相談に乗ってもらった結果、ケーキと花束を店が用意してくれることになった、と、一通り今夜のプランを再確認した俺は、球面のドームに広がる映像を睨みつけた。
どういうこと!? 手元まで暗い映像ばっかり続くの、何なの? 下見の時はずっと明るいくらいの星空の映像ばっかりだったじゃん! またよりにもよってダークマターとダークエネルギーって渋いテーマだな、オイ!
彼女の横顔に顔を向ける。焦る俺とは対照的に真剣な顔で宇宙の神秘に聞き入っている。好奇心旺盛な彼女の目が星空を映したように輝いている。あぁ、やっぱりこの子のこと、好きだなぁ、俺。
彼女、きっとこのあとの食事でこの話をしたがるだろうな。一緒に盛り上がりたいけど、俺、ほとんど聞いてないわ。しょうがない、計画変更! ここでのプロポーズは諦めて、レストランでしよう。今のバカ話をして、一緒に笑おう。それで週末には図書館で宇宙のことを調べに行こう、その後は……。
「それでは只今よりこの時期の夜空をお見せいたしましょう」
映像が切り替わった。
うわぁ、と方々から歓声が上がる。それくらい綺麗な満天の星空 がスクリーンに映し出されている。観客席まで届く優しい灯り。
そうだ! これを待ってた! 今しかない! 慌てて計画を実行に移す。ヤベェ、手汗ハンパない。
汗だく俺の手に、彼女のびっくりした顔がこちらを向いた。俺の予想とは違い、彼女は握った手の中にある硬い感触を握ったまま探るように動かす。コロコロコロ。輪っか状のもの。これはなぁに? やがて、なぞなぞの答えを見つけた彼女は興奮に顔をクシャッと寄せたような愛嬌のある笑みを浮かべた。
彼女が声を出さずに口だけを動かした。
―YES
彼女の笑顔とこの星空を俺は一生忘れない。
テーマ; 星空
【星空】
都会住みでもないですが、適度に汚染された空の地で育ち、夜空には数える程度の星しか見たことなかった若かりしころの自分は、いつか満天の星空を見てみたいなーと憧れていました。ロマンあふれる雄大な宇宙の神秘、じかに目にできたらさぞ感動するだろうと、ずっと夢見ておりました。
それから時は過ぎ、社会人となってポツポツと旅に出るようになったころに、ようやくチャンスが到来しました。
N県の花と回廊で有名なお寺近くの宿に泊まった時のこと。旅の疲れですぐに寝付いたのですが、なんの拍子か突然真夜中の三時頃に目が覚めてしまいました。そしてふと、ここが街から離れた自然あふれる山の中だということを思い出し、もしかして満天の星空が見られるかも!と思い立って期待しつつ窓を開け、夜空を見渡してみました。
すると予想通り……というより、予想を遥かに上回る想定外の光景がそこにはありました。
見慣れない巨大な大きさの星がいくつもあり、それよりは小さい星も無数にウヨウヨとあって、それらが強烈にギラギラと不気味に輝いて夜空に所狭しとひしめき合っている……そんなおぞましくも禍々しい眺めが目の前に広がっていたのです。
――満天の星空って、こんなにも気味の悪いものなの――?しばしドン引き状態で呆然と眺めていましたが、ちょうどその時に流れ星、火球らしきものが現れ、その迫力と恐ろしさに震え上がり、急いで窓を閉め布団の中へ潜り込み、早く夜が明けることを願いながら眠りました。
その体験以来、夜空に浮かぶ星はおろか、月までも見るのが恐ろしくなってしまった次第……調べてみると「星空恐怖症」なる症状があるとか。満天の星空へのロマンは全人類が共通に持っている感情だと思っていたのに……いや、もしくは星空恐怖症なる私のような存在は人類外なのかも?まあそんな自覚は多少ありますが……(´Д`;)
あんな禍々しいものが常に頭上に漂っているなんて ―― 悪夢のようなあの光景を思い出すたび、考えるたびに憂鬱になる。ロマンチシズムを欠片も持ち合わせていない、超残念な私の身の上話でした(ー_ー;)
星を欲してはいけませんか
きらきらと まばゆいあの星を
手を伸ばし胸に仕舞うことを
許していただけますか
あっじゃあこれとこれとあれとそれとそっちとー
え?
別にひとつだなんて言ってませんけど
欲張りなんです、私
“星空”
初めて流れ星を見た時
初めてできた彼氏とずっと一緒にいたいと、
お祈りをした。
若かった。
今、星空の下
独りの家に帰る毎日。
それも、悪くないと思える。
嬉しいこと楽しいこと
悲しいこと辛いこと
夜の闇がそれらを包んで星になり
光となって私に降り注ぐから。
星空を眺めてみる。
この光はたった今光っている光ではない。
何億光年前の光だ。
もしかしたら、今この瞬間にはもう光って居ないかもしれないのだ。
そんな、遠くから光だけ届くなんて、なんとも不思議でたまらない。
地球上だったら、富士山の光とか、届かないのに。
なんでだろう。空気が無いから?
さっぱりわからない。不思議すぎる。
鈍色の空から除く星空
汗も拭かないまま目を閉じた日が人生で幾度かあって
または横になりたいと思えない日が幾度かあったとして
そんな日は夏に多い
誰もいない道を歩く自分はきっと主人公なんだろう
明日も人生頑張ろう
『星空』
僕は夏の大三角形が見つけられない。
「ほらっ、あそこにおっきくて明るい星が三つあるでしょ?」
お姉ちゃんはそう言って、小さな瓶の中に入った金平糖を一つ口に放りこんでごりごりと音を鳴らした。
「星がいっぱいありすぎて分かんない」
僕は探すのを諦めて布団に潜り込んだ。
「もう、すぐいじけるんだから」
お姉ちゃんは手に持った金平糖が詰まった瓶をからからと音を立てながら回すと、「よしっ分かった!明日はもっと星を減らしてきてあげる!」と気合が入った声で言った。
「昨日も同じこと言ってた」
お姉ちゃんは昨日から、僕のために星を減らしてあげるからと言って張り切っていた。そんなことできるはずないじゃんと、ぼそっと僕は呟く。
すると、次の日の夜。本当に星が減っていたのだ。
「どう?見えるようになった?」
お姉ちゃんは昨日よりも減った金平糖が入った瓶を片手に尋ねた。
「まだ分んないけど、星は減った気がする」
「まだだめかぁ」とお姉ちゃんは溜め息まじりにそう呟くと、瓶の蓋を開けて「半分も減らしたのになぁ」と言いながら、金平糖をぱくぱくと食べ始めた。
「もう、こうなったら、明日はデネブとアイルタイルとベガだけ残すしかないかぁ」
そう言ってベッドの上に寝転がった。
次の日の夜。
夜空を見ると、本当にデネブとあるタイルとベガだけが夜空に光り輝いていた。
「夏の大三角形だ!」
僕はこのとき初めて夏の大三角形を見ることができた。
「すごいでしょ?ちゃんと夏の大三角形が見えたでしょ?」
お姉ちゃんは自慢げに言った。
「うん!本当にすごいや姉ちゃん!でもどうやって減らしたの?」
「私がお星さまをたくさん食べたからよ」と、お姉ちゃんは片手に持った瓶を覗き込みながら言った。
僕も瓶を覗き込むと、瓶の中に入った金平糖は、あと三つだけだった。
星空 「創作 銀河鉄道の夜」
ケンタウルス祭の夜 〜七夕前夜祭〜
ジョバンニは、口笛をふいているようなさみしい口つきで、檜の真っ黒に並んだ街の坂をおりて来たのでした。
坂の下に大きな街灯が、青白く光って立っていた。
ジョバンニは少し臆病者の足つきで街灯の方へおりて行きますと、いままで化け物のように、長くぼんやり、うしろへ引いていたジョバンニの影ぼうしは、だんだん濃く黒くはっきりなって、足をあげたり手を振ったり、ジョバンニの横の方へまわって来るのでした。
「ぼくは立派な機関車だ、ここは勾配だから速いぞ、ぼくは今そね街灯を通り越す」
「そうら、こんどはぼくの影ぼうしはコンパスだ、あんなにくるっとまわって前の方へ来た」とジョバンニはひとり言を言いながら、大股にその街灯の下を通り過ぎたとき、ザネリが新しい襟のシャツを着て、街灯の向こうから飛び出して来て、ひらっとジョバンニとすれ違いました。
「ザネリ、烏瓜ながしに行くの」ジョバンニがそう言ってしまわないうちに
「ジョバンニ、お父さんから…」その子が投げつけるように叫びました。
ジョバンニは、ぱっと胸が冷たくなり、そこらじゅうキーンと鳴るように思いました。
「なんだい!ザネリ」とジョバンニは高く叫び返しましたが、もうザネリは向こうの家の中へ入ってしまいました。
「ザネリはどうして、ぼくがなんにもしないのに、あんなふうなんだろう?」
ジョバンニは、せわしくいろいろのことを考え呟きながら、さまざまな灯りや木の枝で、すっかり綺麗に飾られた街を通って行きました。
明日は七夕の夜 ケンタウルス祭です。
時計屋の店には恋の時を知らせる、からくり時計のドワーフに明るく燈がついていて、1秒ごとに石でこさえた梟の赤い眼が、くるくる動いたり、いろいろな宝石が海のような色をした硝子の盤に載って、星空のようにゆっくり循ったり、銅の人馬が向こうからこちらにまわってくるのでした。
その真ん中に丸い星座早見が飾ってありました。
ジョバンニは我を忘れて、星座の図に見入りました。時間に合わせて盤をまわすと、その時間に出ている星座が楕円形の中にめぐってあらわれるようになっているのでした。
銀河が帯になって、その下では微かに爆発して湯気でもあげているようにジョバンニには見えるのでした。1番後ろの壁には、七夕の夜空じゅうの星空の不思議な獣や蛇や魚や瓶の形が描かれ、こんな蠍の赤い勇者だの夜空にぎっしりいるのだろうか、あゝぼくは、その中を旅してみたい、どこまでもどこまでも歩いてみたいと思うのでした。
それから、にわかにお母さんのことを思いだして、ジョバンニはその店をはなれました。そして窮屈な上着を気にしながら、それでも胸を張って顔をあげ大きく腕をふって街を歩いて行きました。空気は澄みきって、まるで清水のように通りや店の中を流れました。
街灯はみんな真っ青な楢の枝で包まれ、プラタナスの小径などはたくさんの豆電燈がついて、人魚の都のようでした。よその子供らはみんな新しいあつらえの着物を着て、星めぐりの口笛をふいたり、「ケンタウルス露をふらせ」と叫んで走ったり、青い花火を燃やしたりして遊んでいました。けれどもジョバンニは、また首を垂れてそこらの子供らの賑やかさとはまるで違ったことを考えながら歩くのでした。
お母さんに牛乳を…ジョバンニは急ぎました。
窮屈な上着を着て、七夕の前夜祭の賑の中を。
「お母さんは、ご病気だから大変ね」牛乳屋のおかみさんは言いました。それには適当な挨拶をしてまたジョバンニは歩きだしました。
また口笛をふく子供らとすれ違いました。
みんな川の方へ走って行くのでした。みんな聞き覚えのある声でした。遠くにカンパネルラの声もザネリの声も聞こえてくるのでした。ジョバンニは逃げるようにカンパネルラの声を避けてしまいました。そしてカンパネルラもまた高く口笛をふいて川の向こうの方へ歩いて行ってしまいました。ジョバンニはなんとも言えずさみしくなって、わあわあと言って泣きました。
まもなくジョバンニは走り出して黒い丘に急ぎました。
〜銀河ステーションにて〜
誰かがこっちを見ました。
それが、カンパネルラだとわかるのにすこしの
時間がかかりました。ジョバンニが、きみ前からここにいたの、きみにここで会うなんて思いもしなかったと言いだそうとしたときカンパネルラが「みんなね、ずいぶん走ったけれど遅れてしまったよ、ザネリもね、ずいぶん走ったけれど追いかけなかった」と言いました。
「どこかで待っていようか?」とジョバンニが聞くと カンパネルラは「ザネリは還ったよ、お父さんが迎えに来たから」カンパネルラはそう言いながら、ずいぶん顔色が青白く苦しそうでした。ジョバンニもすこし忘れものがあるような不思議な気持ちで黙り込むのでした。
すると、カンパネルラが勢いよくいうのでした。
「ぼくはきっと見えるここにいたって」
そして、立派な地図をだしました。どこかで見たことのあるようなその地でした。
「この地図はどこか買ったの?黒曜石でできてるね」
「銀河ステーションで貰ったんだ、きみは貰わなかったの?」
「あゝぼくは銀河ステーションを通ったろうか
…いまホームに立っているけど」
「おや、あの川原は月夜だろうか」
「月夜でないよ、銀河だから光るんだ!」ジョバンニは嬉しくなって飛び跳ねました。
~北十字 彼岸からの便り~
「お母さんは、ぼくを赦してくださるだろうか…」カンパネルラが口火を切った。
「ぼくは、お母さんがほんとうに幸せならそれがいいんだ、お母さんがほんとうに幸いになれるなら、けれどどんなことがお母さんのほんとうの幸いなのだろう」カンパネルラは泣きそうになりながら一生懸命に尋ねました。
「きみのお母さんはきみが幸いなら幸いなのではないの」ジョバンニは、そう応えるのがやっとでした。
「ぼくは、わからない。けれど、誰だってほんとうにいいことをしたら幸せなんだよね、だからお母さんはぼくを赦してくださるんだ」カンパネルラは、なにかほんとうに決心して涙を堪えてそう言った。
にわかに、ぱっと明るくなり見ると煌びやかな銀河の上の十字架がたって、それはもう真夏の赤い星をも凍らせる星の牌と言ったらいいか。しずかに永久に立っているのでした。
「ハレルヤ ハレルヤ」前からも後ろからも声がおこりました。振り返って見ると旅人たちは
みな真っ直ぐに立ち黒いバイブルを胸にあて祈っています。カンパネルラとジョバンニもあわてて立ち上がりました。カンパネルラの頬は熟した苹果のように甘く柔らかく輝いて見えました。
向こう岸が青白く揺れて光って煙り時々すすきが風に揺れてりんどうの花の青が見え隠れするのは、やさしいおくり火のようでした。
さあ、どこまで二人は行くのでしょう。
白鳥の停車場を越えて、蠍の針を踏まないように、赤い心臓を通り抜け、天の川を渡るのでしょう。
今夜はもう遅い。
明日また、必ず七夕の星めぐりきみと二人で。
2024年7月6日
心幸