『星座』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
ふと
見上げる星空
誰かが名付けた
星座を探す
明けていく空
輝いていた星々が
空色に飲み込まれて
見えなくなる
消滅したわけではない
確かにそこに存る
明る過ぎて
見えないだけ
まるで
闇に飲まれるまで
忘れていた
大切なもののよう
心が疲れたら
星空を見上げてみよう
瞬きながら奏でる
星たちの歌を聞こう
「星座」
星座
人は死ぬと星になるんだよ。満点に輝く星たちを見あげながら思い立ったのは、いつの日かの祖母の言葉だった。眠れない夜に宛もなく愛車を走らせて何となく向かった山の展望台には当然だがだれもおらず、深夜であることも相俟って異世界に迷い込んだような妙な静けさが満ちていた。年季の感じる自販機で飲み物を買おうとして、集る虫の多さに踵を返しす。手持ち無沙汰に何となく頭上を見上げれば、そこには街中ではお目にかかれない、何の光源にも遮られない自然そのものの輝きがあった。その美しさに、口からは自然に息が吐き出されていく。そうしてしばし夜の独特な雰囲気と非日常感にぼんやりと身を浸していて、ふと星の話が頭をよぎったのだ。
今も昔も、そんな与太話信じるような可愛げのある子供ではなく、大抵の話に可愛くもない返答ばかりをしていたが、何故かこの話だけは反抗する気も起きなかったのを未だに覚えている。
祖母が亡くなってもう暫く経つ。葬式で散々泣いて、もう二度と人を罵るにしても死ね、だなんて軽く言わないと誓ったのは遠い過去。今では気に触ればいとも容易く人の不幸を口に出して願った。
こんなしょうもない自分じゃあ、きっとあの星々のように綺麗に輝くことなんて出来ない。なれても良くて五等星以下か。なんて考えてふと、祖母も生前大概、いやかなり口が悪かったのを思い出した。なら祖母も、星になれたとしても主役級にはなれないな、なんて考えたら自然に笑みが零れていた。
もういい時間だしそろそろ帰ろうと、ゆっくりと車の方へと足を向ける。途中で足を止めて、これで最後ともう一度空を見上げた。星々たちが変わらず輝いてるのを見納めながら、街中では見えなくなってしまう星々は、しかし変わらずそこに存在しているのだと妙な感傷がよぎる。そこに自分のやるせなさだのを重ねようとして、野暮だなと思考を振り払った。結局、なるようになるさ。
空に輝く星々を繋げて絵を描くなんて、素敵なことをするものだ。朝日が登るまで星を結んで過ごせたら幸せだろうな。
星って綺麗だね
僕もああなりたかった
ねぇ、神様
いつになったらあそこにいけるの?
【星座】
歳を重ねるにつれて気にしなくなるし
何月生まれの人が何座とかわかってない。
ちなみに私は10/25生まれだからさそり座。
「星座」
星を数える
手を止めて
ほんの少しだけ
休もうか
星座は、地球上のどこからでもいつの時代でも同じ形を描ける、巨大な芸術作品だ。
そのはずだった。
「おいらは型にハマるのが嫌なのさ」
そう言って星々があちらこちらへと動いてしまったものだから、世界中の人々はてんわやんやと大騒ぎだ。天文学者は新しい星座を制定しなくてはいけないからと数千年ぶりの名誉に興奮したまま毎日会議を繰り返し、歴史研究家は星が勝手に動くのなら古文書や遺跡に描かれていた星座が全く信用ならなくなったと頭を抱え、かと思えばネット上では「#ぼくが考えたさいきょうの星座」という文と共に空の写真に線を書き足した投稿がトレンド一位を取り続けている。星座早見盤を作っていた会社は商品の回収で忙しいらしい。
「お空は良くない場所だったの?」
空を見上げていたら隣に落ちてきた星へと、話しかける。白く小さく輝くそれは髪の毛座とかいう星座の一部だった星だ。
「そうじゃなくてさ。おいらたちはずっと、ずーっと、同じ位置にいて同じ線を当てがわれてたわけ。おいらなんてずーっと髪の毛だったわけよ。それに気付いた瞬間、嫌だな、って思ったんだよな。動きたい、違うものになりたい、好きな時に好きな場所に移動していろんな星座になれる、そんな自由が欲しい、って」
「お星さまもそう思う時があるんだね」
言えば、星は不思議そうな顔をした。星にも表情があるんだとそこで初めて気がついた。
「含みがあること言うじゃねえか。……よし、おいらがお前に自由を分けてやる。何せおいらは星だからな、願いを叶えるのには慣れてんだ」
星は空を指差した。指どころか手もないけれど、確かに空を指差した。
「好きに星座を決めてみろ。今の星空は誰の物でもねえ、何を描いたって誰にも怒られねえし不正解になることもねえ。星が動いてせっかく決めた星座がぐちゃぐちゃになるかもしれねえけどな。今日の空はマジもんの自由だ。地平線の向こうじゃ太陽と月が並んで晩酌してるんだぜ」
星の指先を追って星空を見上げる。あちらでは織姫と彦星が並んでいるし、こちらでは小熊と大熊が寄り添っている。みんな好き勝手していた。
「……じゃあ」
星を指す。そのまま他の星へと指先をずらしていく。
――星座のなくなった夜は、誰もが自由だった。
実家の荷物を処分するから、大切なモノがないか確認するようにと母から電話があった。
久々に帰省すると自室はすっかり物置き部屋と化している。
片付け始めてはみたものの、押し入れの中からは懐かしい思い出が次々と出てきて、部屋いっぱいに広がり収集がつかなくなってきたぞ。
気づいたら、もう真夜中だ。
いささかウンザリしてベランダへ逃げ出し、缶コーヒー片手に一服する。
今はマンション暮らしなので、ベランダでの喫煙行為自体が懐かしい。
散乱した部屋の惨状に目をやると小学校の頃に配られた星座盤が目についた。
どれどれと手に取り、星空と見比べながら今の季節に合わせようとスライドしてみる。
ん!?隠れた部分から何やら手書きのメッセージが出て来たぞ。
あやちゃん、ありがとう。
せっかくのサプライズ、今頃気づくなんてゴメンな。
コーヒーの苦い思い出が新たに刻まれた。
星座
「星座になれるなら何座になりたい」
「銀河」
「星座って言ったじゃん……」
色々あるよと分厚い本を差し出した。
しかしその視線は頑なにスマホに向けられている。
「流星群」
「なんでよ」
「星座って、大なり小なり物語が付属するじゃん……。そんな他人の後付けストーリーに付き合わされるとかごめんなの」
なるほど。
「……詳しいね」
「ちっちゃい頃……、プラレタリウムで働きたいって思ってて……」
それに思わず相手の顔をまじまじと見てしまう。
「…………それならさ、私が星座になったらアンタが私のことみんなに説明してね」
我ながらいい考えだ。
そう納得して帰り支度をはじめる。すると君も置いていかれまいと支度をしだす。
「はぁ?」
「ねぇ、今から紹介文考えといて」
「しかも私?!」
「誰ともわからない紹介文を付属されるのは嫌なんでしょ」
笑いながら廊下を駆ける。二人分の足音。
不思議と二人の足跡こそ星座に見えた。
どれもこれも酷い神話ばかりだな
空を見上げてまで嫉妬、恨み、妬み
神様でさえ不倫、裏切り、罠。
君の星座はどれだ?
僕の星座はどれだ?
仲良くしてるかい?
せめて僕らだけでも仲良くしようね。
夜空の神様を反面教師にして
僕らは仲良しになろう
永遠に光るあの星の様に。
昔の人の目印だったというそれは、建物で覆われ行きがう光達のせいで姿すらも見えなくなってしまった。キラキラと光り輝くたった一つのそれは、どこか寂しそうにただ浮かんでいる。
私は、あまり空を見上げるのは好きでは無い。
身長が小さいから、上を見上げると首が痛いとかそういうちょっとした理由もあるけれど、見上げた時に目に入り込むあの空の広さが苦手だった。途方もなく、どこが終わりなのかすら分からない。もしかしたら、目の前のここが終わりで、そのちょっと横が始まりなのかも、なんてそんなことを考える。
空の始まりと終わりは一体どこにあるのだろう。
空を見ていると人間は、とてつもなく小さいんだろう。その人間が作り上げた国も、私たちからすれば大きくは見えるけど、やはり空から見ればまだまだ小さいのだ。
私たち、人間には終わりがある。それを私は理解しているから、終わりのない空のことを気味悪く思う。終わりがなければ、一体全体どうやって日々の突然に湧き出てくる虚無感や、得体の知れないものに体を蝕まれる違和感に、耐えられるのだろうか。
終わりとは、そこで一切合切を断ち切って、無に帰るものなのではないだろうか。もし空に終わりがないだとしたら、それは何と恐ろしいことなんだろう。
空はいつだって何も言わずにただ美しい色だけを描き、私たちを飲み込んでいた。
その日は、いつもと同じように、空から夜が降ってきた。
冬に近付いたからか日の光が隠れるのが早くなったと感じる。まるで、夜から逃げるように。もしかしたら、夜が逃げているのかもしれないけど、なんて、そんな事を考えながら、すれ違う人たちの顔を見て歩いた。
疲労、怒り、喜び、無、様々な事情を抱えた顔で人々は歩く。誰一人として空なんかを見ずに、ただ早足で、この人混みの中を抜けたいと逃げるように歩くから、何となくまた逃げる日の光を思い出した。きっと人間もみんな、いつも何かから逃げている。
逃げて焦って必死にもがいている。
インスタから流れてくる、元同級生達の旅行に恋に勉強にと、キラキラした日常を見てから、ただ只管に仕事に明け暮れる毎日を過ごす自分と比べて。それから、自分より上手く生きれる後輩を見て。毎日意味も分からず頭を下げ続け、自分の頭皮を相手に見せつけるだけの。そんな、子供の頃に描いていた大人とはかけ離れた自分を見つける度、人間はみな逃げ惑う。
そんな私たちを、決して逃がさないようにと、空がこの世界丸ごと閉じ込める。
みんな、自分が檻の中にいるってことに気付いてはいない。空はずっと広くただそれだけのものだと思っている。始まりもなければ、終わりもないような、そんなものが、ただ広いだけなんて、そんな面白くもないことは絶対に有り得ないのだ。
私は、空を見る。
好きでは無い空を、けれど、嫌いでもないこの空を。
暗く、何も映さない空の中に1つ、ぽつんと光が見えた。それが星だと気付いたのは、数分後の事だった。光り輝く街の光はいつも空の中の光をかき消す。私は、星を見たことがなかった。この地上の光だけに包まれ、空を見ることもあまりせず、興味もなかったから、名前は知っていても姿を見たのは本やテレビで載っていたものだけ。
それだから、最初は飛行機かなにかだと思っていた。けれどいつまで経ってその場所から少しも動かないから、やっとこさその時に星だと気づいたのである。
その星に、どこか大層惹かれた自分が居た。
その正体が何かを知りたくて、初めてプラネタリウムとやらに行ってみた。そこには、私の知らない世界が沢山広がっていた。まるで、空に穴が空いたみたいに沢山の星がキラキラと光り輝いていた。空の始まりがあるとしたら、あの1番光り輝く星なのかもしれないな、なんて沢山の光の粒を見ながら思った。
夏の大三角形、とやらを教えてもらった。この地上に沢山の光がある場所では絶対に見えないその星座が、酷く目にこびりついた。
空は、私たちを閉じ込めているのではなくて、私たちに引き止められているんだろうか。
空も星も実は、大きな布で出来ていて、星を描いたその色の変わる布はいつも地球を包んで、抱えている。だから、きっと逃げ出すと、地球を包んでいた布は抱えることを止め、その結果私たちは落下していき、そして、何時しか割れてしまうんだろう。
もしかしたら、あの星の輝きは綻んだ布の間から見えた外の世界の光かもしれない。
点と点を繋いで作ったあの星座とやらは、私たちとこの空を繋ぐ唯一のものなのかもしれない。
私たちが、自分を見失わない為の、生きるための目印。
そして、空が地球を落とさないように、必死に耐えて生まれた綻び。
空の外にある世界に、行きたくならないように、空を私たちの中に引き止めるために、地上に光を灯し、空の外からの何かを消したような、そんな気がした。
心の中に適当な点と点を繋いで自分だけの星座を作ってみた。
これは、私だけの今日の終わりだろうか。これがここにくれば、私の今日は終わる。そうした目印になる。
生きるための、そして空を私たちの手元にずっと置いておくための、目印に。
私は少しだけ、空が好きになった。
────────
空がテーマみたいになってしまいました。
しかし、空がないと星は生まれませんからね。良しにしませんか?
そういえば、この前道端に放置された犬のうんちが、バイト先に行く途中、見る度に地球の肥料になって行くのを見て、あぁ、生きてるなぁって思いました。
乾燥して、色が変わり、綻んで崩れていく。人間の心みたいと思いました。
そう考えると、いや、うんちからどう繋がったは謎ですが、人間の心はどこか空のようですね。
沢山の色に移り変わり、決して終わりの見せぬその広さ。キラキラを灯したかと思えば、直ぐに他者からの光に負けて見えなくなる。
『秋風』
疲れすぎた夏が
気づいたら何処かに行ってしまった
夜
仕事の帰り道
何気なく空を見上げると
半分以上欠けたお月さま
あれ
この前 満月だったはずなのに
もうこんなに欠けちゃったの?
なんだか 意味もなく
寂しくなっちゃうよ
そんなことを ぼんやりと
考えていたら
風に乗って 急に 突然に
秋の匂いが やってきた
(あぁ 久しぶり 元気だった?)
こうやって また1年が過ぎていくんだね
そうやって また 過去が増えていくんだね
もう一度空を見上げる
こどもの頃から変わらない星空
きみたちはまだ元気なのかい?
それとももう既に思い出の中なのかい?
秋が ざわざわっと追い越していく
もう 秋になちゃったんだね
気づかなかったな
秋の匂いを吸い込んで
ゆっくりと深呼吸を ひとつ
明日は上着を一枚増やそうか
夜空の星たちは
キラキラと秋風に揺れていた
小さい頃、星座は英雄たちの成れの果てだと聞いた事がある。
あの頃は、星座になった英雄たちはどんな事をしたんだろうかとか、あの形は名前通りには見えないぞとか、いろんな事を考えたりしながら星空を眺めていた。
いまや星空どころか、空さえもろくに見上げていないつまらない男になってしまった。
まぁでも、こういうのは良い機会だから、また星空を眺めて物思いでもしてみたいと思った。
星座
今も昔も、同じ景色を見られているって、
なんかすごく神秘的に感じるな。
オリオン座しかわかんないけど。
星座
「死んだら星座になりたーい」
「そんな偉大なことしてへんやろ」
星の見えない東京の街で、瞼に星をうかべる。
「いいじゃあないですか。幸せなら」
「幸せやったら星座になれんの」
「おれ北斗七星希望!!」
「もはや星座やない」
秒針が進む音が木霊する。林檎の皮を剥きながら、漠然と思った。
「お前、死ぬんやなぁ」
「……そうだねぇ」
「見てるさかいなぁ、ずっと、ずっと」
「何を」
「北斗七星」
窓際は冷たく、彼はそっぽを向いて寝ている。何かを言わなければいけない気がして、言ってしまえば、彼を傷つけてしまう気がした。
「やっぱオリオン座がいいー」
「荷ィ重いわ」
彼は死ぬのだと思った。笑った。
『とある天文学者の見解』
とある天文学者は星座をこう説明した。
「誰かの人生であり、誰かの宝物であるもの。それが星座だ。」
夏の大三角や、魚座乙女座蠍座
アンドロメダ座とかは有名処。少し面白いテーブル山座はあんまり知られてないかも。
今、僕がベランダから見ているのはヘルクルス座。
全天で五番目に大きな星なのに、構成する星はいずれも三等星以下の暗めな星ばかり。
英雄ヘラクレスの姿を星座にうつしたものにしてはいささか寂しい。
英雄ヘラクレスは何を思って戦ったのだろう。
からからした風が、星座を見つめる僕の瞳を柔らかくつんざく。
ひとしきり静まり返った夜。月夜の梟の声は、少し寂しいものと思える。
懐かしい東京の黒い空は明日の曇天を知らせていたのだろうか。
_東京に上京して早半年。辛い時はいつも夜空を眺めていた。
涙ながらに天にすがって、「明日は大丈夫」と乾ききった風に頬を撫でてもらう。
小さい頃から勉強して、天文学者になった僕は都会の灯りに嫌気が指していた。
キラキラした雰囲気にも午前二時を回っても消えぬ灯りにも、心は疲れきっていたんだ
そんな時こそ星に助けてもらおうと思っても、星は人工の灯りで見えないし。
じゃあ室内でプロジェクションマッピングの星空を見て寝ようと思っても、外の声が煩くて眠れない。
_結局疲れて故郷に帰ってきた。
故郷は暖かく、心の隙間が埋められていった。
東京では聞こえなかった梟の声も、見えなかった星空も、会いたかった人々も、
全部全部、ここに在った。
故郷に帰ってきてからはもくもくと研究に取り組んだ。
新しい星を見つけよう!と奮闘して何年も調べ続けた。
その結果、ある星座の近くに星を見つけた。
少し青く、消えてしまいそうなほど暗いけれど確かに存在している星が。
僕は声を震わせた。やっとの思いで見つけた星だった。
しかし、その星は近くにあった他の星の超新星爆発により亡くなってしまった。
愛していた星を初めて嫌いになった瞬間だった。
まぁ、その数時間後にはまた大好きに戻っていたんだけれどね。
_星はやっぱり面白い。
冷めかけのコーヒーを啜りながら何回目か分からない思想を繰り返す。
とある本のページを捲りながら、また星に想いを馳せる。
ああ、星座のエピソードは全てまとめたら何ページになるのだろう。
悲しいものからおちゃらけたものまで様々だ。
まさに生命を象徴するものの一つだと思う。
本でなくとも物語を得られるとは何とも芸術的だ。
星はもしかして昔からあった大図書館だったのだろうか。
そうだとしたら面白い。自分もその時代に生まれてみたいものだ。
後味が悪くなりつつあるコーヒーを飲み干し、彼は寝室へと帰る。
彼がその晩見た夢はヘラクレスと会う夢だったとかなんとか。
お題『星座』
織川より
お久しぶりです。織川です。めちゃくちゃ時間おいての登場です。不定期になりすぎですね。待ってくれていたお方々すみませんと同時に有り難うございます。ですが、実はまだまだ不定期になりそうです。理由はまぁ…勉強ですね。はい。お勉強してきます。
というか最近またスランプ気味です。話の持ってきかたが不自然すぎますね…読みにくい作品になってしまっていると思います。すみません…
こうなったら踊るっきゃねえ。
玄関で立ち尽くした私は決意した。
そうと決まれば善は急げだ。パンプスを乱雑に脱ぎ捨て、両手にスーパーの袋を持ったまま猛然と冷蔵庫へ突っ込むとささっと野菜やら肉やらを手早くしまい、やっぱり気になって玄関に戻りパンプスをそろえて並べ、そのままぐるんと身をひるがえし勢いよくリビングへと飛び込む。つるつる滑るフローリングに摩擦力でブレーキをかけて止まると、すっ、とポーズを決める。ダンスを始める前の待機ポーズだ。もちろんダンスなど習ったことはないので、これはなんちゃってそれっぽいポーズである。なんだかずいぶん優美な形になってしまった。まあいいか。
上げた右手を勢いよく撫で切るイメージで振り下ろす。体をひねり、回り、足を軽快にたんたんたんと鳴らす。あとはもう全部適当に、体が思うままに、おまかせで。
ベランダの窓から差し込む夕日がまぶしい。きゅっと目をつむり、そのまま踊り続ける。マンションの一室で狂ったように踊っている人間がいるなどとは、きっと外にいる誰もが思いもしないに違いない。いや、階下の住人だけは気づいているかも。不在にしていてくれたらいいんだけど、と思いながら、延々踊る。今の私は誰のためでもない、自分のためだけの私だ。
「あははっ」
息切れの混じった笑い声がこぼれた。
おかしな動きになっているだろう。きっと目も当てられないほどにひどい。でも、楽しかった。ずっと腹の奥で凝り固まっていたなにかがほぐれて溶けていくような感覚がして、驚くほどに清々しくて、気持ちがよかった。
ひとしきり踊って、体力が尽きたところで、私はようやく動きを止めた。へろへろと床に座り込む。
さすがに疲れた。もう動けない。
「はあ……」
結んだ髪を雑に解く。日はどんどん沈んでいって、気づけば窓の外にはわずかに残照があるばかり。ぼんやりと眺めながら、電気もつけないまま、暗い部屋の中で黙って瞬きを繰り返す。なんだか冷えてきた。荒い息が落ち着いて凪いでいくのを聞きながら、ソファーにもたれかかる。少しずつ重たくなるまぶたに抗わず、ついに完全に閉じようとしたそのとき、ぱっと床の上で四角い明かりが灯った。
一瞬だけ夢から覚めたように意識がはっきりする。床に放りだした鞄から滑り出たらしいスマートフォンが、煌々と真っ白な光を放っている。ホーム画面には通知が一件。
『踊りませんか』
幼なじみからのメッセージだった。
たった一言、それだけで意図を把握する。すなわち――『憂さ晴らしに遊びに行かない?』、だ。
ちょうどいい。思わずにま、と笑みが浮かんだ。なんてタイミングがいいのか。
返事をしようとのたのた床を這うようにしてスマートフォンに手を伸ばす。けど辿り着く前に膝から力が抜け、無様に突っ伏した。想像以上に体力を消耗していたらしい。運動不足かそれとも歳というものか、あるいはどちらもか。とてつもない疲労感。
――返事は休んだあとでもいっか。
放置されたスマートフォンが、急速に明かりを落とし暗くなる。部屋はまた一段と濃くなった闇に沈み、私は今度こそ黙って重たいまぶたをゆっくりと閉じた。
(お題:踊りませんか?)
今から16年前
長女が、1年生の夏休み
なにがしたいか聞いた
星について知りたいと
彼女は言った
その夏は
家族で
星祭に行った
手作り望遠鏡を作るあの人や
長女が嬉しそうに
輝いていた日
望遠鏡の業者の方が用意した
高そうな望遠鏡で見た星は
赤い星で
みんなで代るがわる覗いた
大切な思い出
#星座
空にきらめく
光のつぶたち
時に優しく
時に寂しく
そして
時に悲しく
静かに瞬く
私は
星に祈る
星に願う
そして
星に感謝を
今日一日の安寧を
『水瓶座のあなた! 今日の運勢は絶好調! 何もしなくても運気が舞い降りて来るでしょう』
急に今朝見たニュース番組で流れた『今日の運勢』を思い出した。
確かに今の私には運気が来ている。
あの占い師、当たるんだと感心していると隣から視線を感じた。
「な、なにか……」
緊張気味に答えると彼はニコッと笑い、「よろしくな」と軽々しく口にする。
「よろしく……お願いします」
たかが占い。されど占い。
ずっと好きだった彼と隣の席になれた。
それだけが真実。
"星座"