『手を繋いで』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『手を繋いで』
ふと手に目をやる。
あー大きいあの手。
あの手に包まれたら安心できそうだなぁ…って思う。
ん?ほれ。
って手を差し出してくれて。
手を繋いで隣を歩けたら。
なんて幸せだろうって考える。
そんな幸せな妄想を頭の中で今日も考えて。
これが現実ならなぁって。
手を繋いで体温を感じたいんです。
冷たくなった手を眺めながらそう思う。
手を繋いで
寂しい。
寒い。
そんな時、手を繋ごう。
そうしたら、心も体もあったかくなる。
きっと、そうやって世界は繋がってる。
手を繋いで
この手を離さないで。
ずっと繋いでてね。
ずっと一緒にいたいな。
この手をずっとずっと離さないでほしい。
「手を繋いで」
息子と手を繋いで、武蔵浦和の駅によく電車を見に行った。
当時、息子はまだ2歳か3歳だった。
まさに魔のイヤイヤ期で、洋服を着替えるのもイヤ、靴を履くのもイヤ、泣き喚いて垂らした鼻水を拭かれるのも「イヤ!」
たびたび癇癪を起こしては泣き喚き、ある時は極寒の道路に座り込み地蔵のように動かず鼻垂れ地蔵となり、またある時は雨上がりの水たまりに激しくダイブして泥団子となった。
私だって人の親である前に人の子である。
その鼻垂れ地蔵や泥団子をそのまま見て見ぬふりをして捨て置いて帰ろうかと思ったことは何度もある。
泥団子は泥団子という強烈な破壊力だけではなく、信じられないほど強靭な体力と攻撃力まで持ち合わせているのだ。
泣きわめき暴れる上に私に容赦なくうんちと寸分たがわぬ汚い泥を飛ばしてくる「The 妖怪泥団子」
それを見ないように通り過ぎる若者やおじさんたち。
「あらあら」とか「まあまあ」とか無難なつぶやきを繰り返し泥団子と私に哀れな眼差しを向けながら通り過ぎるおばさんやおばあさんやおばあさんかおじいさんかわからない人たち。
しかし、私にはその泥団子を回収し、洗い、人間として再生させなければならない義務があった。
毒親育ちの私の心には果てしない砂漠が広がり、頼れる人もない日常をただただ繰り返す毎日に疲れ切っていた。
そんな時、私は息子と手を繋いで電車を見に行った。
この世に生まれ落ちて、ほぼ全ての男子が通るであろう「アンパンマン」と「電車」のうち、後者である電車に、わが息子も、どっぷりとはまったのだ。
人見知りの強かった息子は、人混みの中で私にしがみつくよう右手をしっかりと繋ぎ、左手には必ず電車のおもちゃを握っていた。
買ってやったことは一度もない。
それらは遠く離れて暮らす大学時代の友人が送ってくれた友人の子のお下がりのひとつだった。
友人も「誰からか忘れたけどお下がりでもらったもの」と言っていて、お下がりのお下がりのお下がりの処分品、と言っても過言ではないほど、時代劇なら思わず「ようここまで生きてこられなさった」とねぎらいの言葉すらかけたくなるようなボロボロな電車たちだった。
塗装は剥げ、タイヤは曲がり、電車の一部は割れていた。
でも、それらが当時の泥団子であり鼻垂れ地蔵であり、妖怪でもあった息子の宝物だった。
ふと思い返すことがある。
なぜだったんだろう。
なんであんなに温かかったんだろう。
どんな時も、繋いだ小さな小さな息子の手は温かかった。
一緒に手を繋いで見た電車は、息子だけではなく電車に全く興味のなかった私の心をも癒した。
心がボロボロだった私と手を繋いだボロボロの泥団子だった息子、その息子がいつも握っていたのは地味でボロボロだったお下がりの京浜東北線の電車。
そんな何もかもボロボロだった思い出が、今はとても懐かしく私の心を温めてくれる。
今思い返せば、あの頃私は、間違いなく繋いだ息子の温かく小さな手から、生きるための大きな力をもらっていたのだと思う。
手を繋いでみんなが幸せになれる世界になりますように
手を繋いで
漆黒の闇
今時の日本でこんな夜ありえないね
ここはケアンズ オーストラリア
南半球なんだから南十字星を頼りに…..
とはいかなかった話
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その日の宿はエアビーでとった部屋
苦労して探し当てたのは広いお屋敷ではなく
その敷地の一角にあるコテージだった
夕食はついていないよねここ
途中カーブあたりにレストランがあったよ
歩いていけるんじゃない?
住宅街だし危険でもないか
散歩がてら行ってみる?
気軽にふらりと車道に出て右へ
さっき自分達が車で来た方へ向かった
カーブを過ぎた辺りだから遠くないよ
わかった
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この辺りとんでもなく広い敷地ばかりだよー
そんな呑気な事を言って通り過ぎたのはまだ日の落ちる前のこと
日が暮れて驚いたのなんのって広すぎる敷地の母屋の灯りは車道から見えないのだ
車はほぼ通らない 家の灯りも届かない
街灯までないなんてねどうなってるの?
怒りというより常識の怖さに愕然としたね
おまけに星空までない悲運
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何これ暗闇よ
どっち向いているんだかわかんない
ねぇお先真っ暗って言葉 道路も見えない今にピッタリじゃない スゴっ(笑)
ホント 何にも見えないねー
そのうち目が慣れるんじゃないかと手探りで2、3歩進んだが 諦めた
だって車道の真ん中へ向かっていたかもなんだよ私達
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携帯のライトを使う?
帰りのバッテリー大丈夫かな
じゃとりあえず俺ので行こう
この手に掴まって
彼の手が映し出された瞬間手すりを掴むように無機質に握った ルビー婚です私達
(暗闇だとヨチヨチ歩きになっちゃうでしょ)
私達は2人きりの夜道をヨチヨチヨチヨチ
道路に照らし出された白線だけを頼りに進んだ
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行けども行けども灯りはない
疲れて心細く思った瞬間だった
半歩前行く人の手の温もりが沁みてきた
なんだかなあ
手を繋ぐなんてハネムーン以来いつぶり?
いやー過去より未来のいつだろう
この人に支えられてヨチヨチ歩いている自分が闇の中にはっきり浮かんだ
そして私はその手の温かさに自分を委ねている
今晩の事は来たる日のシュミレーションなのかも
煌々とした日本じゃ手を繋ぐなんて
まあここ数年ははありえないもの
遠く、手を繋いで寄り添い歩く少年と少女の姿を認めた
表情が見えなくとも、互いに微笑み合っている様子が手に取るように分かる。幸せそうな二人がとても微笑ましく、妬ましく思えて自嘲した。
なんて愚かで惨めなのだろう。ただ与えられたものを受け入れた結果の婚姻であったはずなのに。
目の前に手をかざし、去って行った二人を思い描く。
二人を自分を彼の姿に置き換え。彼と手を繋ぐ、もしもを想像して。
――本当に、惨めだ。
叶わぬ空想を掻き消して、目を伏せた。
彼と夫婦になり、いくつか変わるものはあれど、彼との関係が変わる事はなかった。
否。ここ最近、彼は屋敷に戻ってはいない。以前は彼と共に祓い屋として方々を駆け回っていたが、今はそれもない。
大事にされているのか。それとも飽きてしまったのか。
結納を済ませた後から、彼は自分を屋敷から出そうとはしなかった。
小さく息を吐く。一人でいるからか、今日はやけに気が滅入る。
そろそろ戻るべきだろうか。屋敷のモノらに辟易して屋敷から抜け出してきたが、こうして悪い事ばかりを考えてしまうのなら、彼らに世話を焼かれている方がよほどいい。
顔を上げ、もう一度だけ二人の去って行った方へと視線を向ける。込み上げる寂しさから逃げるように踵を返し。
背後にいた誰かと、ぶつかった。
「――ぁ。すみません。気づかなくて」
「そうだよな。いつ気づくか待ってたが、結局気づかないままだったな」
揶揄うような低い声に、思わず身を縮ませた。
「な、んで」
「仕事が終わったからな。帰るのは当然だろう?」
離れようとする体を、許さないとばかりに強く抱き留められる。彼の表情が見えない事が不安で、怖くて。これ以上機嫌を損ねるのを恐れて、抵抗する事が出来ない。
「っ、ごめんなさい。屋敷を抜け出して。少し外の空気が吸いたくなって」
言い訳にしか聞こえないと分かっていても、それでも逃げたと思われたくなくて、必死に言葉を紡ぐ。自分の態度一つで、今まで続いていた人と彼の契約が切れてしまうのだけは、避けなければならなかった。
「もう勝手に屋敷から出ないから。だから」
「いい。一人にさせてたオレが悪い」
静かな彼の声からは、怒りの感情は感じられない。それに密かに安堵して、彼の顔を見ようと身じろいだ。
「これからは人間共に振り回されずに済むからな。思う存分一緒にいてやれるぜ」
「……それって」
嫌な予感に動きが止まる。彼の言葉の意味を知りたくないのに、体はその言葉の真意を問うため、視線を上げて彼を見た。
「ああ。別にオマエがどうこうって訳じゃない。ただ爺が死んだ。契約者が死んだから、契約も終わったってだけだ」
爺の子に継ぎたかったみたいだがな、と彼は笑う。楽しげなその笑みに何と返したら良いのか分からず、無言で彼を見続けた。
「赤子だったオマエを対価に、オレを従える人間との契約は、契約者だった人間の死によって終わった。これでオマエも自由になったって訳だ」
「じ、ゆう」
自由。それはつまり、彼と共にいる理由が一つなくなったという事だ。これで自分には夫婦という曖昧な関係しか残されていない。契約よりも遙かに簡単に、それこそ彼の気分一つでなくなるだろう関係。
もしかすれば、それすらもすぐになくなるのかもしれない。彼が人に従っていたのは、自分という暇つぶしの玩具があったからだ。差し出された対価を気に入り、玩具に飽きるまではと、暇つぶしに契約をした。それを契約者の死で終わらせ、新たに契約を結ばなかったのならば、それは自分に飽いてしまったのだろう。
そこまで考えて、ふと彼と離れたくないと強く思っている自分がいる事に気づく。
今まで受け入れるだけだった、受け入れるしかないと、そう思っていたというのに。
贄として彼に捧げられた事も。彼の側にいる事も。彼と夫婦になった事も。
「さて、オマエはこれからどうしたい?オレのご機嫌取りをする必要はなくなったんだ。オマエの意思で、何がしたいか言ってみろ。妻の望みになら何だって応えてやるよ」
顔を近づけて、彼は囁く。彼の言った妻の言葉に、微かに胸の苦しさを覚えた。
まだ妻と、彼と夫婦でいられるのだろうか。彼の隣にいても許されるのか。
それならば、と。ぼんやりと先ほどの二人の姿を思い浮かべる。
幸せそうな二人。手を繋いで、寄り添って歩いて――。
望んでもいいのだろうか。
「手を…」
言葉が続けられず、口籠もる。
言える訳がない。言葉にしてしまうには、それはあまりにも烏滸がましい。
「いいぜ、言え。言葉にしろ」
俯きそうになるが、彼はそれを許さない。目を合わせて、言え、と促される。
望め、と。それを許しているのだと。
傲慢なほどに気高く、美しい狸の主に促されれば、黙するままでいる事など出来ようがない。
無意識に掴んでいた彼の服の裾を、さらに強く握り締める。笑いながらも真剣な彼の目に写る、不安そうな自分を見ながら、静かに口を開いた。
「――手を、繋ぎたい。です」
あの二人のように。
形だけでない、本当の夫婦になりたい。
そう思いを込めて伝えれば、彼は僅かに目を見開き。そして優しく目を細めて微笑んだ。
彼のこんな穏やかな表情を、初めて見る。
「もっと我が儘になればいいのにな。本当にオマエは、純粋で、無垢で」
少しだけ体を離されて、彼の服を握り締めていた手を解かれる。両手で包み込むように目の前まで上げられて、指を絡めて繋がれた。
「そんな可愛いオマエを、オレは一等愛しているよ」
繋いだ手を引いて、彼は唇を触れさせる。
それを間近で見て赤くなる自分を揶揄うでもなく。彼はさらに手を引き、倒れ込む体を抱き上げて歩き出した。
帰るのだろう。彼と自分の屋敷に。
ふと、頬に冷たい一滴が触れた気がして、顔を上げる。
済んだ青の空の下。ぽつり、ぽつり、と雨が降ってきていた。
「天気雨…?」
「案外、狸でも雨を降らせる事が出来るもんだな」
初めて知った、と。楽しそうに、眩しそうに空を見上げる彼の横顔を見ながら。
本当に彼と夫婦になれたのだと、いっそ声を上げて泣いてしまいたかった。
「永遠に大切にさせてもらうぜ?オマエさん」
「はい…私も、愛しています」
いつかの言葉に、今度はしっかりと言葉にして返す。
驚いたようにこちらを見つめる彼に微笑んで、彼に擦り寄った。
20250320 『手を繋いで』
"手を繋いで"
遠い昔、手を繋ぐあの人を見上げて。
なんでこの人は僕を殺してくれないのかな、と
ずっとそう思っていた。
時折向けられる視線の中には、確かに息を呑むほど鮮烈な憎悪が宿っていたのに。
あの人は僕に何を望んでいたんだろう。
今になっても分からないや。
みんなあいしてます。
手、、繋いでも良い?
私さ今日すごく楽しみだったんだ、
誘ってくれてありがと♡
いい匂いするし、カッコイイヨ✨️
あのさ、、わたし明日休みだからさ?
だから何だって話だよね。ほら急ご映画始まっちゃうよー!
手を繋いで
後少しで届きそうな距離
あとは勇気だけ
目が合って固まってしまった
どうしよう
貴方に届くまで何度でも
何でもないって嘘を付いた
手を繋いで:
駅前の通り、よく使うコンビニ、いつもの帰り道。
日が暮れていく路地のあちこちに思い出が散らばっていて、思わず感傷的になりそうだ。
あ、この看板。独特なフォントで書かれていて、お互い読めなくて笑い転げたなあ。
夏の暑い日にはここの自販機でどっちが奢るかじゃんけんなんかもした。
そういえばもう別の建物になってしまったけど、この先にあった店の雰囲気が好きでインテリアを選ぶときに真似したっけ。
いやはや、夕食時のやさしいかおりがノスタルジーに拍車をかけていけない。
一刻も早く家にたどり着きたくて歩みを早めつつ、履歴の一番上にある名前に手早く電話をかける。
「もしもし、もうすぐ帰るよ。何か買っていくものはある?……うん、うん。……わかった。それじゃあまたあとで。だいすきだよ」
この先きっと僕は
誰かと手を繋ぐたびに
君の手の温もりを思い出すんだろうな
桜舞う春の午後も
蝉の鳴く真夏の早朝も
金木犀が香る秋の夕暮れも
指先がかじかむ冬の夜も
あなたと手を繋いで歩いていくこの日常が
ずっと続きますように。
お題:手を繋いで
ある日突然影の世界に迷い込んだ私は、あの日からずっとそこでの生活を余儀なくされていた。
放課後には後輩(かれ)の声を追い掛けて、彼の呼び掛けにここだよって返事をする毎日。
とりあえず、食事も授業も滞りなく出来ているのだけは有り難かった。
いつも通りに過ごす一人ぼっちの世界で、相変わらず影達は犇(ひし)めき合いながら和気藹々としている。
やる事のない私はそれをぼんやりと眺めて時間を潰し、授業を受けてを繰り返す。
そうして本日の授業を終えて、また後輩(かれ)との問答が始まる。必死に捜してくれる後輩(かれ)とそれに答え続ける私。
でも今日は、鏡の側に行っても後輩(かれ)の声は聞こえなかった。何処の鏡に行ってもそれは同じで、酷く胸が苦しくなる。
遂に彼は諦めてしまったのだろうか、と。
そうしたら私はどうなってしまうのかと、不安と恐怖が一気に押し寄せてその場にへたり込んで⋯⋯声を殺して泣いた。
拭っても拭っても止まらない涙に、最終的には諦めてそのまま止まるまで流し続ける。
そうして気付いたら疲れて眠っていたらしくて、起きた頃には真暗になっていた。
正直、怖くないと言ったら嘘になるけど⋯⋯もう何もかもどうでも良くなってて、体も怠くてその場でもう一度寝直そうかと思い始めた時だった。
『先輩!』
そう聞こえて、私が振り向こうとした瞬間―――衝撃と共に体を締め付けられる。
自分が抱き締められてると理解するまでに、少し時間は掛かったけど⋯⋯ここで過ごして始めて感じた温もりに、夢じゃないとようやく分かって泣きそうになるも何とか堪えた。
先輩、先輩って繰り返す後輩(かれ)の声に、まともに返事する事も出来ずにただギュッと抱きしめる。
ようやく離れて、見えたその顔は泣きそうで⋯⋯でもどこか安堵するような表情をしていた。
『ずっと、捜してたんすよ。声だけ聞こえるのに、全然姿見えねぇし⋯⋯だから色々調べて一か八かで試して―――ほんとに、見つかって良かった。』
そう言って私の目元を指で拭う。あれだけ泣いたのにまだ流したりなかったのか⋯⋯私の目にはまた涙が溜まっていたらしく、拭われると同時にポタリと1滴落ちた。
『私の声⋯⋯届いてたの?』
『俺には聞こえてましたけど、他の奴には分かんないっす。あと、俺こっちに来る方法は知ってても、戻る方法分かんないっす』
すんません。
そうバツの悪そうな顔で謝る彼。
『帰り方分かんないのに、一か八かで来ちゃったの? なんでそこまで』
してくれるの? って言い終わる前に、その言葉は彼によって飲み込まれた。
直ぐに離れた温もりに驚いていると、もう一度抱き締められて『そんなの、アンタの事好きだからに決まってるでしょ。いい加減気付いて下さい。』なんて言われて、もう我慢できなくてふふっと笑ってしまう。
『ごめんね、笑ってる場合じゃないって分かってるんだけど⋯⋯嬉しくて、止められそうにないや。』
それだけ伝えて彼に抱きつきながら笑う私を、どんな顔で受け止めてたのかは分からない。
でも、この影の世界で彼と2人きりで生きるのも悪くない。
そう思ってしまったのだから、もう認めるしかないと彼に向き直る。
『私も君の事、好きみたい。だから⋯⋯帰る方法がわからないなら、この世界で私と一緒に生きてくれる?』
そう言った私に一瞬驚いた顔してから、彼はふわりと嬉しそうに笑った。
『そんなの聞いたらもう離す気ないっすわ』
そう言いながら立ち上がった彼は私に手を差し伸べながら、とりあえず帰りましょう、先輩。と言ったので、私も頷きながらその手を取り彼に立たせてもらうと昇降口を目指す。
その道中で私がどっちのお家に帰るのかと聞いたら、真っ赤になりながら動揺した彼。
可愛いと思ってつい笑ってしまったら、不貞腐れた彼に家来ても良いっすよって言われて、今まで凄く寂しい思いをしたのでお言葉に甘えることにした。
そうして彼と手を繋いで歩く帰り道は、いつも通り影が犇(ひし)めくだけの景色なのに⋯⋯何故か凄く煌めいて見えた。
「ね、最後に手を繋いでよ。これが最後だからさ」
両手を切断しなければ壊死が全身に広まってしまうと診断された日、僕は彼女にそう言って手を差し出した。涙を流す優しい彼女は僕の手を握りしめてくれた。
この温もりがもう自分の手で感じられないと思うと悔しいやら悲しいやら。
「そんなに泣かないでよ、君の手は無事なんだからさ。僕は大丈夫だから、」
「大丈夫なんかじゃないでしょ!」
彼女は滅多に大声を出さないのに叫んで僕の手を力強く握りしめた。
「大丈夫なんて言わないで!元気もないし、目だって虚なのに大丈夫なんて言わないで!」
「もういいんだよ。最後に君と手を繋げただけで。もう...いいんだ」
確かに大丈夫じゃない。僕は大丈夫じゃないけど、諦めてしまっているからもう「大丈夫」なんだ。これからずっと彼女と繋いだ手の温かさ、痛みは着いて回る。そんな予感がする。それはきっと僕自身を苦しめる記憶にしかなり得ないけど、それでも最後に、いや、最期に彼女と手を繋げてよかった。
成功するかどうかあやふやな手術を受けるため、僕は手術台に横たわり麻酔を吸う。
ああ、最期に思い出すのはやっぱり彼女の手の温かさなんだな。
お題:手をつないで
本当は手を繋ぎたい。
恋人なんだから。
でもその権利がないことを知っているから、
手ぇつなごって言えないでいる。
彼女は結婚したいのだ。
僕だってできることならそうしたい。
でも今はできないよ。
幸せにできない。
だから
恋人だけど、
無意識に一線を引いてるんだ。
僕では彼女の気持ちに応えてあげられない。
今ここで彼女の手を握ってしまったら、
それはとても卑怯でずるいことだ。
愛してるからこそ、
別れなきゃいけない気がしてる。
白いシーツに爪を立てた
その手の甲に 重ねた手
包みこんだ その細い指が
縋るように絡み合った
【手を繋いで】
最後の瞬間も
どうか このまま
お題『手を繋いで』
私と手を繋ぎましょう。
ほら、一緒に行きましょう。
そして、星と星を繋いで、遊びましょう。
星の粒がきらめく海に手を浸して、
木の船から身を乗り出して
消えない傷を作りましょう。
手を繋いだ、ふたりだけで。
お題 手を繋いで
夢中になると、今その時に全力を注いでしまうのは私の悪い癖だ。現にこうして私は今、写真撮影に夢中になった結果、迷子である。いい年した大人が、夕暮れ時に。どうしても写真が撮りたかった。綺麗な蝶を見つけたのだ。撮れると思ってしまったのだ。撮れなかったが。頼みの綱であるスマートフォンはついさっき充電が底を尽きた。全くどうしてこうなった。
これは腹を括らなければいけないな、と思う。幸運なことにここは住宅街。恥ずかしいが背に腹は変えられない。勇気を出して呼び鈴を鳴らし、道を聞こう。周りを見渡せばどの家も温かみのあるあかりが灯っていて、私はそのうちのひとつに、吸い込まれるように手を伸ばした。
「そこはダメ」
ぎゅっと反対側の手を引かれ、思わず振り返る。ドールハウスから出てきたみたいな乙女心くすぐられる格好の女性が険しい表情をして、私の手を引いていた。
「あ、その、私迷っちゃって、スマホも使えなくて…」
「でしょうね。でも、そこも、あそこも、あの家も…とにかく全部ダメだから」
「はい…すみません…」
「ついてきて。ここから出たら帰れるでしょう」
そう言って、彼女は私と手を繋いだまま歩き出した。私は黙って彼女の後に続いた。数分ほど歩くと、見慣れた大通りに出た。あっさり見つかった帰り道に先ほどまでの苦労は何だったのだろうかと頭を抱えたくなる。
「わざわざありがとうございました。スマホも使えなくて、困っていたので助かりました」
「たまにいるのよ。複雑だからね、ここって」
「ひとつお聞きしても?」
「なあに」
「…どうして、呼び鈴を鳴らしてはいけなかったんでしょうか、ここには何かルールがあるんですか?」
不思議だった。道を尋ねることがそんなに悪いことなのか。だとしたら認識を改めなければならない。そう思って、何気なく聞いたことだった。彼女は急に真顔になった。私の背中を嫌な汗が伝って落ちる。
「…食材がわざわざ歩いてきてくれたら、便利なことだと思わない?」
瞬きをした次の瞬間、もうそこには住宅街なんて無くて、もちろん彼女も、いなかった。握り締めていたスマホが振動する。充電は72パーセント。道を検索するには、充分すぎる残量だった。