ほおずき るい

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「ね、最後に手を繋いでよ。これが最後だからさ」
両手を切断しなければ壊死が全身に広まってしまうと診断された日、僕は彼女にそう言って手を差し出した。涙を流す優しい彼女は僕の手を握りしめてくれた。
この温もりがもう自分の手で感じられないと思うと悔しいやら悲しいやら。

「そんなに泣かないでよ、君の手は無事なんだからさ。僕は大丈夫だから、」
「大丈夫なんかじゃないでしょ!」
彼女は滅多に大声を出さないのに叫んで僕の手を力強く握りしめた。

「大丈夫なんて言わないで!元気もないし、目だって虚なのに大丈夫なんて言わないで!」
「もういいんだよ。最後に君と手を繋げただけで。もう...いいんだ」
確かに大丈夫じゃない。僕は大丈夫じゃないけど、諦めてしまっているからもう「大丈夫」なんだ。これからずっと彼女と繋いだ手の温かさ、痛みは着いて回る。そんな予感がする。それはきっと僕自身を苦しめる記憶にしかなり得ないけど、それでも最後に、いや、最期に彼女と手を繋げてよかった。

成功するかどうかあやふやな手術を受けるため、僕は手術台に横たわり麻酔を吸う。
ああ、最期に思い出すのはやっぱり彼女の手の温かさなんだな。

3/20/2025, 2:07:02 PM