「随分良くなった」
先生はそう言ってボクの翼を撫でる。
動かせない、触られている感覚もないこの翼はもう二度と飛ぶことは叶わない。
「乱暴なことをしたね。でも、」
「逃げたボクが悪い。わかってるよ」
「わかってくれてありがとう」
先生は後ろからボクの首に手を回してそっと抱きしめる。
「外の世界で君以外に羽が生えている子はいないってわかっただろう?外の世界は君に優しくしてくれないんだ。君に優しいのは私だけなんだよ」
いつも先生がボクに言い聞かせるこの言葉も今は信じられる。
生まれた時からずっと外を知らなかったボクはこの前ここを勝手に出た。
初めて見た外は酷く眩しくて翼を持っている人は誰もいなくて酷く冷たかった。
お腹が空いたのに誰もボクにご飯をくれないし、ボクの翼をジロジロ見て、怖いことをしようとしてきた。
飛んで逃げようとしたけど先生がボクの翼を切って助けてくれた。痛かったけど、あの怖い人たちは逃げっていったから先生はボクを助けてくれたんだ。
「先生、助けてくれてありがとう。大好きだよ」
「ああ、私もだよ」
飛べない翼でも大丈夫。だってボクには先生がいるんだから。
ススキをかき分け進んでいく。
自分がどこにいるのか、どこへ行こうとしているのか、ここがどこなのか全くわからない。
でも何か誘導されるように黄金のススキをかき分けて進む。進む。進む。
ススキの穂が頬を撫でる感覚がくすぐったく、次第に笑いが募る。
意味もなくススキをかき分ける自分がバカみたいで足を止めて大声で笑った。
「ぴぴぴぴぴ、ぴぴぴぴぴ、ぴ、」
「うーん...」
アラームの電子音がけたたましく鳴り響く音で目が覚める。いつもの朝。変わったことなんで何もない。
少し塗装が剥げた古い時計。面白みのない見慣れた白い壁。乱雑に畳まれずに置かれた洗濯物。そしていつも見るススキの夢。
なんてことない朝の始まりだ。
始まりはいつも、友人からの誘いだった。
遊び、本、映画、趣味。
自分が知らないことを友人から学ぶことや挑戦することは楽しかったし、さほど疑問には思わなかった。
でも時々、自分は友人に何をしてあげられるのだろうかと思う時がある。
始まりはいつも友人から。
でも今日は違う。今日は私から誘うのだ。