ほおずき るい

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4/17/2025, 11:09:34 PM

満たされない満たされない満たされない!
今まで感じたことのない飢えが胸を焼く。一呼吸する度にその飢えは風を吹き込んだ火のように燃え上がり手足を動かせと駆り立てる。
抑えた手の下で口角が上がるのがわかる。握り締めたシャツの下から痛いほどの鼓動が伝わるのもわかる。今ほど生を実感することはない。
ああ!やはりこうでなくては!


昔書いた使えそうなセリフ?展開?です。なんかいつまで経っても使う気配がないので供養。フリーライセンスです。

4/3/2025, 8:22:20 AM

上京して1年半、お父さんお母さんはいかがお過ごしでしょうか。私、山本輝子は家につくなり傷だらけの強面に脅されています。

「う、動がげでくださいぃぃ...!」
「あだだだだだ」
…そして何故か手当をしています。

「いやー助かったぜ嬢ちゃん!嘘見てぇに体が軽いのなんの!」
「はぁ…一体何でわたしの部屋にいだのが聞いても?」
ずり落ちたメガネを直して割れた窓ガラスを拾い集めていると強面の人はぱちんと指を鳴らした。すると床に散らばった窓ガラスが震え始め、浮かんでいって元通りになった。

「オレ、ヴィランってやつ」
ニコッ

「しかも魔法が使えちゃう」
とんでもないものが家の窓を蹴破って来たようです。

「だーいじょうぶだって!そんなびびんなよぉ!オレってヴィランだけど根はいいヤツなんだよ!ってそれ自分で言うやついねぇか!」
がはは!と笑う陽キャは言われてみれば確かにニュースで見るヴィランにそっくりだった。でもニュースで見るヴィランとは明らかに性格が違うのはなんでだろう?

「んだども…じゃなくて、でも性格ぜんぜん違うじゃないですか」
「お?標準語じゃなくてもわかるから方言でも全然オレ的にはオッケーだったんだけどな〜」
「質問に答えてください!」
「うーん…それさ、初対面で聞いちゃう?」
「治療したお礼と思ってください」
「それ言われちゃなんも言えねぇじゃんか〜」
頭の後ろで腕を組んだヴィランさんはうーんとひとしきり悩んだあと、指をぱちんと鳴らした。

「そーだ!オレ達付き合わない!?」
「…っは!?」
「いいじゃんいいじゃん!オレってば秘密主義の極まりだけど彼女にだったら全然教えちゃうよ〜?君はオレのこと知れて嬉しい!オレは彼女ゲットできて嬉しい!ほーらwinwinじゃね!?」
ねーいいでしょ!と、うるさく騒ぐヴィランさんの圧に負けるようにしてなぜかモブに過ぎない私はニュースを独占するヴィランと付き合うことになった。

「やっぱ初めての第一声って挨拶だよね?ってことでオレは田中治郎、に見せかけた辻秀樹だ。ヴィランじゃないときのあだ名はヒトデ。よーしじゃあ次君の番!」
「う、私は山本輝子、あだ名はモブ子、です…?」
「モブ子?なにそれ」
「イニシャルがMとBだからモブ子らしいです。まぁ、脇役の私にはぴったりですよね」
かつての同級生はみんなヒーロー養成所とかサポート専門学校とかに行ったのに私は普通の大学生。主役になれなかったただのモブ。まさか今更そのあだ名がこんなにも胸に刺さるなんて思ってもなかった。
これもそれも全部この辻秀樹とかいう人のせいだ、なんて心のなかで八つ当たりしていると秀樹さんは嫌に真面目な顔をし始めた。

「この世界に脇役はいない。誰もがこの世界では主役だ。数多のヒーロー、数多のヴィランでこの世界は構築されている。そりゃぁもう嫌になるくらい絶対的なルールによってな。だから君もヒーローか、嫌かもしんねぇけど、ヴィランだ」
「…じゃあ貴方はいやいやヴィランをやっていると?」
妙に説得力のあるような神妙なセリフにちらりと反抗心を見せた返事を返すと一瞬の空白が過ぎてから秀樹さんはごまかすような笑いとともに立ち上がった。

「その質問はちょっと早いんじゃねぇの〜?テルちゃんってばせっかちなんだから〜じゃ、オレはそろそろいくよ」
ベランダの窓をガラッと開けると枯葉色の風がカーテンを巻き上げて、まるでヒーローのマントのように秀樹さんに絡みついた。

「傷の手当、サンキュね」
カーテンが垂れ下がる頃には、ベランダにはまん丸の月が浮かぶ淡白な東京の夜景が彼を隠してしまった。

それからずっと秀樹さんは私のアパートにやってきては数十分話して、11時前にはベランダから姿を消した。ときには怪我をしていたり、ときにはお土産を持ってきたり(良いものも悪いものもあった)。電気をつけない月明かりが頼りの部屋で二人床に座って話す時間は日常に溶け込んで、いつしか習慣になった。

いつも来るものだから、私は日が出ているときに軽くつまめるおやつを買いに行くようになった。
でも、今日は運が悪かった。ヴィランとヒーローが対決しているところに遭遇してしまった。でも、不幸中の幸いっていうのか、彼らの対決はもうすぐ終わりそうだった。

「ッヒーローさんよぉ!!勢いがなくなってきてんじゃねぇのぉ!?悪を倒し、みんなを守るんじゃなかったっけかぁ!?」
「黙れこのヴィランめ!お前の悪行を止めるためにみんなで技を磨いてきた!いま!その技を発揮する時だ!行くぞ!みんな!」
「「「ああ!」」」
カラフルな衣装を身にまとったヒーロー達は声を揃えて一つの弾丸のような鋭い攻撃を放った。
その弾丸は外れることなくヴィランの心臓に突き刺さり、ヴィラン、秀樹さんは地に倒れた。

「秀樹さん!!!」
自分からは考えられないほど甲高く、ひび割れた声が出た。
ガタガタになった地面に足を取られながら体の末端から光の粒子になって空に向かっていく秀樹さんに駆け寄り、手を取ると秀樹さんは目を細めて笑った。

「お、テルちゃんじゃねぇか...カッコ悪いとこ見られちったなぁ...いや、ヴィランなら見せ場か?なんにせよ、オレは君のヒーローには、なれなかったけど...君を想う1人には、なれてっかなぁ...」
「あなたは...!間違いなく私の英雄でした...!たった1人の、かけがえのない...!」
ボロボロと溢れる滝のような涙の向こうで秀樹さんは一瞬驚いたような顔のあと光の中で笑って瞬きのあと、日の光に完全に、影もなく消えてしまった。

「あぁ…あぁぁ…!あぁぁぁぁぁ…ッ!」
ヴィランが死んだ事を悲しみその場にうずくまっている風変わりな私を周りの人間は立ち上がらせようと手を差し伸べる。その手を振り払い、私は日の下で声が枯れるまで泣き続けた。誰一人彼のために涙を流さない冷酷な世界の代わりに堂々と。

3/27/2025, 11:23:19 PM

春爛漫、小さい頃は好きだった言葉。綺麗でワクワクする言葉。
だが今では巡る四季の中で最も嫌いだ。
散る花弁、散る花粉、広がる恋の予感、広がる花粉、吸い込む清廉な空気、吸い込む花粉。

そう花粉、貴様と言う存在が完璧で完全な春を壊している。
花粉症というものはなぜ入学できるのに卒業できないのだろうか。人間卒業はよく聞くのに、花粉症卒業を聞かないのは何故だろうか。

毎朝起きて感じるのは舌の乾き、鼻の不快感。
毎日感じるのは杉を馬鹿の一つ覚えのように植えまくった偉大な先人達への恨み。(もちろん、そうせざるを得なかった背景もわかっている)

花粉症を発症してしまったこれを読んでいる貴殿にぜひ伝えたい。仲間は沢山いる。同じ症状で苦しんでいる人がいる。だから耐えて欲しいわけではない。ともに少しでも症状を改善できるように情報を伝え合おう。ともに邪智暴虐なるかの恨めしい花粉に立ち向かって行こうではないか。

ここで私が発見した鼻詰まりを解消できる方法を伝えたいと思う。筋トレだ。
脳筋思考ではないが、少し歩いたり運動をすることで鼻詰まりがスッと消えるのである。
個人差はあるため、一概に「絶対効く!」とは言えないが、やらない後悔よりやる後悔、または当たって砕けろという金言があるのだ。一考に値すると思う。

花粉を嫌う紳士淑女、並びに同士の皆々、手を取り合い知恵を振り絞り、時には涙を流しながらめげずに花粉に立ち向かって行こう。我々は決して1人ではないのだから。我々の手に花粉症の薬、目薬、ティッシュペーパーがある限り。

3/23/2025, 7:02:12 AM

「5年ぶりだっけ」
薄暗い車内の助手席に座った彼女は窓際に頬杖をついていて表情は見えない。
それでも私が頷いたのは気配で分かったのか彼女は続ける。

「貴方を探し出すのに5年もかけちゃったのね私。この5年間はまるで地獄みたいで…いきている心地がしなかったわ。5年前に何があったのかはあえて聞かないであげる。でもね」
大きく息を吸うのが聞こえたあと、彼女は小さな震える声を発した。

「私の事を少しでも思い出してはくれなかったのね」
言葉を…返せなかった。

「貴方はいつもそうだったわ。風みたいに気ままで人を無闇矢鱈に惹きつけて魅了して忘れさせない。この5年間私ずっと苦しかったわ。貴方が側にいないことに絶望して何度も死を想った。でもね、その度腹立たしいことに貴方との記憶が蘇るのよ。二人共若くてバカで浅はかで…誰よりも幸せだったあの頃を。貴方はきっとそんなことないんでしょう?ねえ」
苦しそうな彼女の声につられ、喉が張り付いて言葉が詰まる。

「答えてすらくれないのね。やっぱり―」
「車が広く感じたよ…ずっと」
彼女ははっと息を呑んでまたそっぽを向いてしまった。

「貴方のそういうところ、ずっと嫌いだったわ」

空港に着いて彼女の荷物を渡すと、彼女は顔に残った涙の跡をこすりながら毅然とした顔で私に嵌めていた指輪を突き出した。

「これ、5年前貴方から貰った指輪。あげたことすら忘れてるでしょうけど返すわ。もう二度と会わないでしょうしね」
私がそれを受け取ると一瞬泣きそうな顔になった後、彼女は踵を返して人混みの中に混ざって行ってしまった。

「さようなら、mon soleil」
この先ずっと、私の車は埋まることがないのだろう。

3/20/2025, 2:07:02 PM

「ね、最後に手を繋いでよ。これが最後だからさ」
両手を切断しなければ壊死が全身に広まってしまうと診断された日、僕は彼女にそう言って手を差し出した。涙を流す優しい彼女は僕の手を握りしめてくれた。
この温もりがもう自分の手で感じられないと思うと悔しいやら悲しいやら。

「そんなに泣かないでよ、君の手は無事なんだからさ。僕は大丈夫だから、」
「大丈夫なんかじゃないでしょ!」
彼女は滅多に大声を出さないのに叫んで僕の手を力強く握りしめた。

「大丈夫なんて言わないで!元気もないし、目だって虚なのに大丈夫なんて言わないで!」
「もういいんだよ。最後に君と手を繋げただけで。もう...いいんだ」
確かに大丈夫じゃない。僕は大丈夫じゃないけど、諦めてしまっているからもう「大丈夫」なんだ。これからずっと彼女と繋いだ手の温かさ、痛みは着いて回る。そんな予感がする。それはきっと僕自身を苦しめる記憶にしかなり得ないけど、それでも最後に、いや、最期に彼女と手を繋げてよかった。

成功するかどうかあやふやな手術を受けるため、僕は手術台に横たわり麻酔を吸う。
ああ、最期に思い出すのはやっぱり彼女の手の温かさなんだな。

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