ほおずき るい

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2/8/2026, 8:30:36 AM

実は小学二年生の時に漏らしたことがある

1/27/2026, 10:44:26 AM

麗らかな春の日差しが降り注ぐ片田舎の道路を走る。フロントガラスから差し込む光が眩しくて思わず目を細めると小さく笑われる。
「眩しいのに遮光板つけない癖まだ残ってたの?」
「危ないじゃない。なんか飛んできたら気づかないでしょ」
「そんなことないと思うけど...」
困ったように眉を寄せるこの女の着ている真っ白なワンピースには所々黒ずんだ血がついていて、それが艶々として長い黒髪と透けて消えてしまいそうな白い肌という容姿を不気味で異様なものにしていた。
「ユキのためにこんなことしなくて良いんだよ」
「黙ってて」
彼女は後部座席に分厚いカーテンで包まれた、ちょうど人一人分の大きさの塊を見て言う。バックミラーでそれを確認して、汗ばんだ手に力を入れる。
「別にあんたのためなんかじゃない」
「優しいねぇミナミは」
優しくなんかない。これは私のエゴだ。本当にバカだと自分でも思う。こんなことをしたのを誰かに知られたら刑務所行きだ。

 自宅のガレージに車を止めて後部座席からそれを取り出す。死後時間が経っていたからかカチカチに固まって冷たくなっているこれは持ち上げた時、泣きたくなるほど人の形を保っていて、魂が空っぽだからかとても軽かった。
「ミナミ、泣かないでよ。ちゃんと人の形はしてるでしょ?」
「うる...っさい...!泣いてなんかないってば...!」
彼女から目を逸らしてこれを裏庭に広がる雑木林に運ぶ。祖父が死んだ後私に残してくれた遺産だったが、うまいこと手入れができずに鬱蒼としていて雑木林と言うより森のようだった。
 その少し開けた場所にカーテンに包まれたそれを置き、スコップを取りに行った。彼女は来なかった。

 納屋から雑木林に戻る途中で倒れるほど強い風が吹いて、カーテンが捲れてやしないかと不安に駆られて早足で戻ると案の定カーテンは捲れていて中身が見えていた。彼女はしゃがみ込んで死んだそれをどうでも良さそうに見ていた。
「唯一の良いところだったのに顔もぐっちゃぐちゃになっちゃったね。ミナミもそう思わない?」
「言ってる場合じゃないでしょ。早く戻さなきゃ」
紫、青、赤とカラフルで不気味な痣に彩られたその顔は生前どんな見た目だったかもわからない。ただその美しい黒髪だけは脳に強く、強く訴えかけるのだ。
 1度目を瞑り、捲れたカーテンをかけ直して穴を掘り始める。少し湿った土は柔らかく、そして重かった。春とはいえども直射日光を浴びた背中はじっとりと汗ばみ、しょっぱさが時折口に広がる。
「ミナミ、自分を責めないであげてね。痛かったと思うんだけど、それはミナミのせいじゃないよ。ユキのせいだよ」
「あんたのせいでもないでしょ。あの2人が悪いんだから」
彼女はちょっと驚いた顔をしてふっと穏やかに微笑んだ。
「ありがとうミナミ。大好きだよ」
私は答えることができなかった。いつもなら、笑って返せるのに今回に限っては喉の奥がひっついて声が出ない。

 すっかり日が暮れた頃、カーテンに包まれたそれはぽっかりと空いた穴に収まる。
「これで後は埋めるだけだね。手伝えなくてごめんね...ミナミ、埋めないの?」
彼女、ユキは私の顔を覗き込む。きっとひどい顔をしているんだろう。顔から出る液体全部出ているに違いない。真っ青か、真っ赤かわからない顔色で泣いているに違いない。
 そんな私をユキは立ち上がってそっと抱きしめた。
「ごめんね、ミナミ。こんなことになっちゃって。恨んで良いよ、嫌いになっても良いから。泣かないで」
「っなれるわけないじゃん...!嫌いになんて、なれないよ..!」
目を丸くしたユキは頰を緩ませた。血色のないその頰がかすかに赤くなったように見えた。
「...ありがとう」
「大体何で勝手に死んでるの!今日は、一緒に出かけるって、約束したのに!」
「うん、ごめんね」
「だから早く逃げようって!言ったのに...!」
所詮は独り言だってわかってる。
 ユキ、雪乃は死んだ。今穴の中でカーテンに包まるそれはユキで、今私を抱きしめているのもユキ。いや、ユキの幽霊だ。

 今朝私はユキを迎えに行った。出かける約束を果たすためだった。ユキの両親はユキを虐待していた。いわゆる毒親というものだった。大学生の私と同い年のはずなのにユキは学校にもいけず、家に閉じ込められていつも殴られていた。
 でも打ちどころが悪かったのかユキは動けなくなってしまった。動かなくなったユキが1人家に取り残された理由なんて考えなくてもわかる。だから私はユキの体を車に乗せた。

 異変はそこから始まった。

ユキを後部座席に乗せて運転席に乗り込むと助手席にはユキが座っていた。叫ぶかと思った。
「驚くと思うけどさ、多分そのうち消えると思うからあんまり気にしないでよ」
驚きやら恐怖やらで声が出ない私にユキは苦笑してそう言ったのだ。そういう問題じゃないと叫びたかったが何も言えなかった。否定してしまったらユキが消えてしまう気がした。
 幽霊のユキは生きている時のユキと何一つ変わらなかった。傷ひとつない綺麗な顔で綺麗に笑って、鈴のような声で笑う。そして誰の目にも映らない。生前から大人たちはみんなしてユキをいないものとして扱った。あの頭のおかしい奴らに関わりたくないというのが本音だったのだろう。
 でも私は大人たちの止める声を聞かずにユキにこっそり会い続けた。いつかここから逃げてしまおうと計画も立てた。そのために私は免許も取ったしユキはこっそりとお金になりそうなものを貯めていた。
「でも生身じゃないけど一応あの家からは出れたし結果オーライじゃない?」
そう言われた時はひっぱ叩いてやろうかと思ったけど、どうせ私からは触れないのがテンプレートだ。睨むだけに留めていた。

 幽霊との妙なドライブはほんの少し楽しかった。ずっと車を走らせたいと思うほど。家に戻ってユキを埋めたくなんかなくなった。あの家にいたら、絶対に放置されてドロドロになってしまうから連れてきたけどユキを埋めたら幽霊のユキは消えてしまうのだろうと直感していた。
 だから今も土をかけるのを躊躇ってしまう。

 まだ言いたいことも言えていない。まだ行きたかったところに行けてない。まだ十分にユキと生きていない。まだしてないことがこんなにあるのにどうして、彼女に重い土をかけて隠してしまえるだろうか。誰よりも美しい彼女を。
 私の葛藤に気づいたユキはスコップを握る私の手の上から自分の手を重ねた。
「ミナミ、連れてきてくれてありがとうねぇ。あの家から出られて本当に良かったよ。ミナミ運転上手になったね、もうちょっと乗りたかったなぁ...ね、悲しいけどさ、このまま私を野晒しにしたらミナミが捕まっちゃうよ。埋めて?ユキの最後のお願いだよ」
「...本当に卑怯だ。そんなこと言われたら断れないって、わかってるくせに」
「うん、ユキは卑怯な子だよ」
どこまでも呑気で自分が消えることもわかってなさそうなその無邪気な笑顔に歯を食いしばるもスコップで土を持ち上げ、震える手つきでユキの体にかける。
 残りは顔の部分だけとなったところで手を止める。
「どうしたのミナミ、疲れちゃった?ちょっと休む?」
首を振る。
「まだ最後の挨拶してないじゃん」
スコップを近くに突き刺して埋められてるユキの顔にかかったカーテンを捲る。相変わらず誰かわからないほどひどく傷がついたその顔はそれでもやっぱりユキだった。
「ユキ、愛してる。これからも、ユキが死んでも。おやすみ、ユキ」
さようなら、私の最初で最後の恋人。誰よりも愛おしくて何を犠牲にしても良いと思えた人。
 最後に土をかけた瞬間、ユキは溶けて消えてしまった。




このお話は私の別名義のアカウント「ヒメオウギ」と言う名前でpixiv様にて投稿させていただいた小話です。こちらに載せていないお話等もそちらにありますので気になった方はぜひご覧ください。決して無断転載等ではありませんのでご安心ください。名前も小説家になろう様にて使っているアカウント名のひらがなバージョンです。

6/12/2025, 10:53:44 AM

 かの著名な作家はI love youを月が綺麗ですねと訳した。またある作家は死んでも良いわと。
 死んでも良いほど愛せる気持ちがわからない。好きと伝えるのが恥ずかしいから月を褒める気持ちもわからない。一生知ることもないと思っていた。

「わ、私は、あなたのこと好きですよ」

真っ赤な顔で、絞り出すような声で、恥ずかしそうに言うもんだからこっちにまで照れがうつって仕方がない。

「ぼくも、君のことが...」

なんてことだ。好きですの一言が喉にしがみついて出ようとしない。「好き」と言う言葉は照れ屋すぎやしないか?

「つっ、月が綺麗ですね!?」
「え、あ、はい...?」

伝わらない。おいどうなっているのだ先人たちよ。あんたらが決めた日本語訳が全く通じないではないか!

「し、死んでも良い!」
「それは困ります!」

くそう、これもダメなのか!
どうやって言うんだ!?I love youだなんて!

4/17/2025, 11:09:34 PM

満たされない満たされない満たされない!
今まで感じたことのない飢えが胸を焼く。一呼吸する度にその飢えは風を吹き込んだ火のように燃え上がり手足を動かせと駆り立てる。
抑えた手の下で口角が上がるのがわかる。握り締めたシャツの下から痛いほどの鼓動が伝わるのもわかる。今ほど生を実感することはない。
ああ!やはりこうでなくては!


昔書いた使えそうなセリフ?展開?です。なんかいつまで経っても使う気配がないので供養。フリーライセンスです。

4/3/2025, 8:22:20 AM

上京して1年半、お父さんお母さんはいかがお過ごしでしょうか。私、山本輝子は家につくなり傷だらけの強面に脅されています。

「う、動がげでくださいぃぃ...!」
「あだだだだだ」
…そして何故か手当をしています。

「いやー助かったぜ嬢ちゃん!嘘見てぇに体が軽いのなんの!」
「はぁ…一体何でわたしの部屋にいだのが聞いても?」
ずり落ちたメガネを直して割れた窓ガラスを拾い集めていると強面の人はぱちんと指を鳴らした。すると床に散らばった窓ガラスが震え始め、浮かんでいって元通りになった。

「オレ、ヴィランってやつ」
ニコッ

「しかも魔法が使えちゃう」
とんでもないものが家の窓を蹴破って来たようです。

「だーいじょうぶだって!そんなびびんなよぉ!オレってヴィランだけど根はいいヤツなんだよ!ってそれ自分で言うやついねぇか!」
がはは!と笑う陽キャは言われてみれば確かにニュースで見るヴィランにそっくりだった。でもニュースで見るヴィランとは明らかに性格が違うのはなんでだろう?

「んだども…じゃなくて、でも性格ぜんぜん違うじゃないですか」
「お?標準語じゃなくてもわかるから方言でも全然オレ的にはオッケーだったんだけどな〜」
「質問に答えてください!」
「うーん…それさ、初対面で聞いちゃう?」
「治療したお礼と思ってください」
「それ言われちゃなんも言えねぇじゃんか〜」
頭の後ろで腕を組んだヴィランさんはうーんとひとしきり悩んだあと、指をぱちんと鳴らした。

「そーだ!オレ達付き合わない!?」
「…っは!?」
「いいじゃんいいじゃん!オレってば秘密主義の極まりだけど彼女にだったら全然教えちゃうよ〜?君はオレのこと知れて嬉しい!オレは彼女ゲットできて嬉しい!ほーらwinwinじゃね!?」
ねーいいでしょ!と、うるさく騒ぐヴィランさんの圧に負けるようにしてなぜかモブに過ぎない私はニュースを独占するヴィランと付き合うことになった。

「やっぱ初めての第一声って挨拶だよね?ってことでオレは田中治郎、に見せかけた辻秀樹だ。ヴィランじゃないときのあだ名はヒトデ。よーしじゃあ次君の番!」
「う、私は山本輝子、あだ名はモブ子、です…?」
「モブ子?なにそれ」
「イニシャルがMとBだからモブ子らしいです。まぁ、脇役の私にはぴったりですよね」
かつての同級生はみんなヒーロー養成所とかサポート専門学校とかに行ったのに私は普通の大学生。主役になれなかったただのモブ。まさか今更そのあだ名がこんなにも胸に刺さるなんて思ってもなかった。
これもそれも全部この辻秀樹とかいう人のせいだ、なんて心のなかで八つ当たりしていると秀樹さんは嫌に真面目な顔をし始めた。

「この世界に脇役はいない。誰もがこの世界では主役だ。数多のヒーロー、数多のヴィランでこの世界は構築されている。そりゃぁもう嫌になるくらい絶対的なルールによってな。だから君もヒーローか、嫌かもしんねぇけど、ヴィランだ」
「…じゃあ貴方はいやいやヴィランをやっていると?」
妙に説得力のあるような神妙なセリフにちらりと反抗心を見せた返事を返すと一瞬の空白が過ぎてから秀樹さんはごまかすような笑いとともに立ち上がった。

「その質問はちょっと早いんじゃねぇの〜?テルちゃんってばせっかちなんだから〜じゃ、オレはそろそろいくよ」
ベランダの窓をガラッと開けると枯葉色の風がカーテンを巻き上げて、まるでヒーローのマントのように秀樹さんに絡みついた。

「傷の手当、サンキュね」
カーテンが垂れ下がる頃には、ベランダにはまん丸の月が浮かぶ淡白な東京の夜景が彼を隠してしまった。

それからずっと秀樹さんは私のアパートにやってきては数十分話して、11時前にはベランダから姿を消した。ときには怪我をしていたり、ときにはお土産を持ってきたり(良いものも悪いものもあった)。電気をつけない月明かりが頼りの部屋で二人床に座って話す時間は日常に溶け込んで、いつしか習慣になった。

いつも来るものだから、私は日が出ているときに軽くつまめるおやつを買いに行くようになった。
でも、今日は運が悪かった。ヴィランとヒーローが対決しているところに遭遇してしまった。でも、不幸中の幸いっていうのか、彼らの対決はもうすぐ終わりそうだった。

「ッヒーローさんよぉ!!勢いがなくなってきてんじゃねぇのぉ!?悪を倒し、みんなを守るんじゃなかったっけかぁ!?」
「黙れこのヴィランめ!お前の悪行を止めるためにみんなで技を磨いてきた!いま!その技を発揮する時だ!行くぞ!みんな!」
「「「ああ!」」」
カラフルな衣装を身にまとったヒーロー達は声を揃えて一つの弾丸のような鋭い攻撃を放った。
その弾丸は外れることなくヴィランの心臓に突き刺さり、ヴィラン、秀樹さんは地に倒れた。

「秀樹さん!!!」
自分からは考えられないほど甲高く、ひび割れた声が出た。
ガタガタになった地面に足を取られながら体の末端から光の粒子になって空に向かっていく秀樹さんに駆け寄り、手を取ると秀樹さんは目を細めて笑った。

「お、テルちゃんじゃねぇか...カッコ悪いとこ見られちったなぁ...いや、ヴィランなら見せ場か?なんにせよ、オレは君のヒーローには、なれなかったけど...君を想う1人には、なれてっかなぁ...」
「あなたは...!間違いなく私の英雄でした...!たった1人の、かけがえのない...!」
ボロボロと溢れる滝のような涙の向こうで秀樹さんは一瞬驚いたような顔のあと光の中で笑って瞬きのあと、日の光に完全に、影もなく消えてしまった。

「あぁ…あぁぁ…!あぁぁぁぁぁ…ッ!」
ヴィランが死んだ事を悲しみその場にうずくまっている風変わりな私を周りの人間は立ち上がらせようと手を差し伸べる。その手を振り払い、私は日の下で声が枯れるまで泣き続けた。誰一人彼のために涙を流さない冷酷な世界の代わりに堂々と。

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