ほおずき るい

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4/3/2025, 8:22:20 AM

上京して1年半、お父さんお母さんはいかがお過ごしでしょうか。私、山本輝子は家につくなり傷だらけの強面に脅されています。

「う、動がげでくださいぃぃ...!」
「あだだだだだ」
…そして何故か手当をしています。

「いやー助かったぜ嬢ちゃん!嘘見てぇに体が軽いのなんの!」
「はぁ…一体何でわたしの部屋にいだのが聞いても?」
ずり落ちたメガネを直して割れた窓ガラスを拾い集めていると強面の人はぱちんと指を鳴らした。すると床に散らばった窓ガラスが震え始め、浮かんでいって元通りになった。

「オレ、ヴィランってやつ」
ニコッ

「しかも魔法が使えちゃう」
とんでもないものが家の窓を蹴破って来たようです。

「だーいじょうぶだって!そんなびびんなよぉ!オレってヴィランだけど根はいいヤツなんだよ!ってそれ自分で言うやついねぇか!」
がはは!と笑う陽キャは言われてみれば確かにニュースで見るヴィランにそっくりだった。でもニュースで見るヴィランとは明らかに性格が違うのはなんでだろう?

「んだども…じゃなくて、でも性格ぜんぜん違うじゃないですか」
「お?標準語じゃなくてもわかるから方言でも全然オレ的にはオッケーだったんだけどな〜」
「質問に答えてください!」
「うーん…それさ、初対面で聞いちゃう?」
「治療したお礼と思ってください」
「それ言われちゃなんも言えねぇじゃんか〜」
頭の後ろで腕を組んだヴィランさんはうーんとひとしきり悩んだあと、指をぱちんと鳴らした。

「そーだ!オレ達付き合わない!?」
「…っは!?」
「いいじゃんいいじゃん!オレってば秘密主義の極まりだけど彼女にだったら全然教えちゃうよ〜?君はオレのこと知れて嬉しい!オレは彼女ゲットできて嬉しい!ほーらwinwinじゃね!?」
ねーいいでしょ!と、うるさく騒ぐヴィランさんの圧に負けるようにしてなぜかモブに過ぎない私はニュースを独占するヴィランと付き合うことになった。

「やっぱ初めての第一声って挨拶だよね?ってことでオレは田中治郎、に見せかけた辻秀樹だ。ヴィランじゃないときのあだ名はヒトデ。よーしじゃあ次君の番!」
「う、私は山本輝子、あだ名はモブ子、です…?」
「モブ子?なにそれ」
「イニシャルがMとBだからモブ子らしいです。まぁ、脇役の私にはぴったりですよね」
かつての同級生はみんなヒーロー養成所とかサポート専門学校とかに行ったのに私は普通の大学生。主役になれなかったただのモブ。まさか今更そのあだ名がこんなにも胸に刺さるなんて思ってもなかった。
これもそれも全部この辻秀樹とかいう人のせいだ、なんて心のなかで八つ当たりしていると秀樹さんは嫌に真面目な顔をし始めた。

「この世界に脇役はいない。誰もがこの世界では主役だ。数多のヒーロー、数多のヴィランでこの世界は構築されている。そりゃぁもう嫌になるくらい絶対的なルールによってな。だから君もヒーローか、嫌かもしんねぇけど、ヴィランだ」
「…じゃあ貴方はいやいやヴィランをやっていると?」
妙に説得力のあるような神妙なセリフにちらりと反抗心を見せた返事を返すと一瞬の空白が過ぎてから秀樹さんはごまかすような笑いとともに立ち上がった。

「その質問はちょっと早いんじゃねぇの〜?テルちゃんってばせっかちなんだから〜じゃ、オレはそろそろいくよ」
ベランダの窓をガラッと開けると枯葉色の風がカーテンを巻き上げて、まるでヒーローのマントのように秀樹さんに絡みついた。

「傷の手当、サンキュね」
カーテンが垂れ下がる頃には、ベランダにはまん丸の月が浮かぶ淡白な東京の夜景が彼を隠してしまった。

それからずっと秀樹さんは私のアパートにやってきては数十分話して、11時前にはベランダから姿を消した。ときには怪我をしていたり、ときにはお土産を持ってきたり(良いものも悪いものもあった)。電気をつけない月明かりが頼りの部屋で二人床に座って話す時間は日常に溶け込んで、いつしか習慣になった。

いつも来るものだから、私は日が出ているときに軽くつまめるおやつを買いに行くようになった。
でも、今日は運が悪かった。ヴィランとヒーローが対決しているところに遭遇してしまった。でも、不幸中の幸いっていうのか、彼らの対決はもうすぐ終わりそうだった。

「ッヒーローさんよぉ!!勢いがなくなってきてんじゃねぇのぉ!?悪を倒し、みんなを守るんじゃなかったっけかぁ!?」
「黙れこのヴィランめ!お前の悪行を止めるためにみんなで技を磨いてきた!いま!その技を発揮する時だ!行くぞ!みんな!」
「「「ああ!」」」
カラフルな衣装を身にまとったヒーロー達は声を揃えて一つの弾丸のような鋭い攻撃を放った。
その弾丸は外れることなくヴィランの心臓に突き刺さり、ヴィラン、秀樹さんは地に倒れた。

「秀樹さん!!!」
自分からは考えられないほど甲高く、ひび割れた声が出た。
ガタガタになった地面に足を取られながら体の末端から光の粒子になって空に向かっていく秀樹さんに駆け寄り、手を取ると秀樹さんは目を細めて笑った。

「お、テルちゃんじゃねぇか...カッコ悪いとこ見られちったなぁ...いや、ヴィランなら見せ場か?なんにせよ、オレは君のヒーローには、なれなかったけど...君を想う1人には、なれてっかなぁ...」
「あなたは...!間違いなく私の英雄でした...!たった1人の、かけがえのない...!」
ボロボロと溢れる滝のような涙の向こうで秀樹さんは一瞬驚いたような顔のあと光の中で笑って瞬きのあと、日の光に完全に、影もなく消えてしまった。

「あぁ…あぁぁ…!あぁぁぁぁぁ…ッ!」
ヴィランが死んだ事を悲しみその場にうずくまっている風変わりな私を周りの人間は立ち上がらせようと手を差し伸べる。その手を振り払い、私は日の下で声が枯れるまで泣き続けた。誰一人彼のために涙を流さない冷酷な世界の代わりに堂々と。

3/27/2025, 11:23:19 PM

春爛漫、小さい頃は好きだった言葉。綺麗でワクワクする言葉。
だが今では巡る四季の中で最も嫌いだ。
散る花弁、散る花粉、広がる恋の予感、広がる花粉、吸い込む清廉な空気、吸い込む花粉。

そう花粉、貴様と言う存在が完璧で完全な春を壊している。
花粉症というものはなぜ入学できるのに卒業できないのだろうか。人間卒業はよく聞くのに、花粉症卒業を聞かないのは何故だろうか。

毎朝起きて感じるのは舌の乾き、鼻の不快感。
毎日感じるのは杉を馬鹿の一つ覚えのように植えまくった偉大な先人達への恨み。(もちろん、そうせざるを得なかった背景もわかっている)

花粉症を発症してしまったこれを読んでいる貴殿にぜひ伝えたい。仲間は沢山いる。同じ症状で苦しんでいる人がいる。だから耐えて欲しいわけではない。ともに少しでも症状を改善できるように情報を伝え合おう。ともに邪智暴虐なるかの恨めしい花粉に立ち向かって行こうではないか。

ここで私が発見した鼻詰まりを解消できる方法を伝えたいと思う。筋トレだ。
脳筋思考ではないが、少し歩いたり運動をすることで鼻詰まりがスッと消えるのである。
個人差はあるため、一概に「絶対効く!」とは言えないが、やらない後悔よりやる後悔、または当たって砕けろという金言があるのだ。一考に値すると思う。

花粉を嫌う紳士淑女、並びに同士の皆々、手を取り合い知恵を振り絞り、時には涙を流しながらめげずに花粉に立ち向かって行こう。我々は決して1人ではないのだから。我々の手に花粉症の薬、目薬、ティッシュペーパーがある限り。

3/23/2025, 7:02:12 AM

「5年ぶりだっけ」
薄暗い車内の助手席に座った彼女は窓際に頬杖をついていて表情は見えない。
それでも私が頷いたのは気配で分かったのか彼女は続ける。

「貴方を探し出すのに5年もかけちゃったのね私。この5年間はまるで地獄みたいで…いきている心地がしなかったわ。5年前に何があったのかはあえて聞かないであげる。でもね」
大きく息を吸うのが聞こえたあと、彼女は小さな震える声を発した。

「私の事を少しでも思い出してはくれなかったのね」
言葉を…返せなかった。

「貴方はいつもそうだったわ。風みたいに気ままで人を無闇矢鱈に惹きつけて魅了して忘れさせない。この5年間私ずっと苦しかったわ。貴方が側にいないことに絶望して何度も死を想った。でもね、その度腹立たしいことに貴方との記憶が蘇るのよ。二人共若くてバカで浅はかで…誰よりも幸せだったあの頃を。貴方はきっとそんなことないんでしょう?ねえ」
苦しそうな彼女の声につられ、喉が張り付いて言葉が詰まる。

「答えてすらくれないのね。やっぱり―」
「車が広く感じたよ…ずっと」
彼女ははっと息を呑んでまたそっぽを向いてしまった。

「貴方のそういうところ、ずっと嫌いだったわ」

空港に着いて彼女の荷物を渡すと、彼女は顔に残った涙の跡をこすりながら毅然とした顔で私に嵌めていた指輪を突き出した。

「これ、5年前貴方から貰った指輪。あげたことすら忘れてるでしょうけど返すわ。もう二度と会わないでしょうしね」
私がそれを受け取ると一瞬泣きそうな顔になった後、彼女は踵を返して人混みの中に混ざって行ってしまった。

「さようなら、mon soleil」
この先ずっと、私の車は埋まることがないのだろう。

3/20/2025, 2:07:02 PM

「ね、最後に手を繋いでよ。これが最後だからさ」
両手を切断しなければ壊死が全身に広まってしまうと診断された日、僕は彼女にそう言って手を差し出した。涙を流す優しい彼女は僕の手を握りしめてくれた。
この温もりがもう自分の手で感じられないと思うと悔しいやら悲しいやら。

「そんなに泣かないでよ、君の手は無事なんだからさ。僕は大丈夫だから、」
「大丈夫なんかじゃないでしょ!」
彼女は滅多に大声を出さないのに叫んで僕の手を力強く握りしめた。

「大丈夫なんて言わないで!元気もないし、目だって虚なのに大丈夫なんて言わないで!」
「もういいんだよ。最後に君と手を繋げただけで。もう...いいんだ」
確かに大丈夫じゃない。僕は大丈夫じゃないけど、諦めてしまっているからもう「大丈夫」なんだ。これからずっと彼女と繋いだ手の温かさ、痛みは着いて回る。そんな予感がする。それはきっと僕自身を苦しめる記憶にしかなり得ないけど、それでも最後に、いや、最期に彼女と手を繋げてよかった。

成功するかどうかあやふやな手術を受けるため、僕は手術台に横たわり麻酔を吸う。
ああ、最期に思い出すのはやっぱり彼女の手の温かさなんだな。

3/9/2025, 10:22:47 PM

「涙の恩恵」
昔々、ある村では水神の気分によって天気が左右されていた。
水神が人々の喜ぶ顔を見たり、花が綻ぶ様を見て喜べば晴れ、命が消えること、植物が枯れたことに悲しむと雨が降った。
ある年、水神のもとに1匹の白い犬が現れ、大変よく水神に懐いた。水神もまたその犬をよく可愛がった。
しかし水神が喜ぶと言うことは晴れると言うこと。
ずっと雨が降らず、植物は元気をなくし枯れゆく。
このままでは冬を越せないと思った村人たちは水神の前で水神が可愛がっていた犬を無惨に殺した。
殺された犬の血が水神の頰に着くほど間近で犬の死を見た水神は深く悲しみ、何日も雨を降らせた。

水神の愛犬を殺してからしばらくの間、雨がよく降った。むしろ日の光が欲しくなってくる頃だった。
悩んだ村人たちは相談の末、父親がいない家庭から母を人質に娘を脅し、水神の機嫌を取ってこいと言いつけた。
娘は人質の母を解放すると言う条件の元、水神が住む神社へ訪れた。
緊張で震える手を握りしめてふすまの外から声をかける。

「水神様、いらっしゃいますか」
返事がない。娘はほっとしたような、がっかりしたような気持ちのまま帰ろうとする。
その時、神社の中からか細い声が聞こえてきた。

「...何の用かね」
心臓の音が一際大きく聞こえた。
娘は今にも力が抜けそうな足を叱咤して返事をする。

「この村の者です。水神様に捧げ物をお持ちいたしました。開けてもよろしいでしょうか」
先ほどのようにすぐには返事がない。しかし娘はじっと返事を待った。
すると音もなくスルスルとふすまが開き、入れとでも言うように風が吹いて娘を押す。
娘は警戒しつつも開かれたふすまを通り、神社の中に入った。
娘が一歩踏み入れた瞬間、暗く灯りの一つもなかった部屋の中の灯台に次々と火が灯り始める。
部屋の奥の火が灯った時、娘は初めて水神の姿を見た。
昔、犬が死ぬ前の水神はよく村を歩き回り、村人と話を交わしていた。その時の水神は艶々とした水色がかった淡い白髪にふっくらと色づいた頬と優しく垂れた目元の美青年だった。
今、娘が見ている水神は虚な目、少しこけた頬、艶のない髪の毛をまとめることなく床に垂らしている。
娘は衝撃を受けた。
娘は遠くからだったが水神を見たことがある。恐ろしいほど綺麗だったことを覚えている。その微笑みや川のせせらぎのような声、全てが娘にとって神なのだと信ずるに足るものだった。
今や神というより病人のような風貌の水神にどう声をかければ良いのかわからなかった。

「お前は、村のはずれで母と暮らしている娘か」
「お、覚えていらしたのですか」
「無論。我が村を歩く時、いつも遠くから眺めておった。我に話しかけるでもなく、祈るでもなく、ただ、遠くから眺めているだけの変わった娘」
娘は気付かれていたことに恥ずかしく感じた。それに、自分の信仰心のなさを指摘されているようで少し居心地が悪いような気がした。
俯く娘の目に自分が持ってきた包みが入った。

「そ、そうだ、水神様、こちらをどうぞ」
娘が差し出した包みを不思議そうに首を傾げながら受け取る。
水神が包みを解くとそこにはいくつかの果物があった。

「...これはそなたらが食うものであろう。なぜ我に」
「元気がない時、母はよく果物を私にくれました。水神様も、元気が出ればと思いまして...」
よく考えれば村で祀っている水神ならもっといろんなものを食べているかもしれない。そう思った娘はだんだん恥ずかしくなってきた。実際水神は果物を手に取るだけで食べようとしない。

「我は要らぬ。お前が食べると良い。何も嫌いだから要らぬのではない。我は食物を必要としない。だが気持ちだけ貰おう」
そうそう言うと水神はおもむろに手にした果物に口付けた。
小さなちゅ、と言う音と共に果実が少し色褪せた。

「っえ...?いま、何が、」
「この果実に込められた感情を吸い取った。味に変化はないはずだ」
食べろとでも言うように差し出された果実を恐る恐る手に取る。

「本当にお召し上がらないのですか?」
「要らぬ。我は食べれぬし、食べれたとしても我が子からは取らぬ」
我が子
それは水神が村人に呼びかけるときに使う言葉。
水神は古くから村を見守っているから村人は我が子同然なのだそうだ。
では我が子が愛犬を殺したなら?
水神の悲しみは計り知れないだろう。
娘は自分の手の中にある果物を見る。一口も齧られていない色褪せたまんまるの果実。
これでは水神の機嫌を上げる足しにもならない。

「水神様、水神様の好きなものは何でしょう」
「藪から棒にどうした。我の好きなものなどもう無い」
娘は無性に腹立たしくて、悲しくて空っぽになってしまった水神が哀れでならなかった。
加えて水神をこんなふうにしてしまったのは自分たち村人だと思うと腹が立って涙が出る。
水神の表情のように色褪せた果実の上を水滴が滑り落ちる。
娘が涙を流すのを見て初めて水神の表情に変化が現れた。

「どうした、どうした娘、どこか痛いのか、泣くな、泣くな」
昔見た親子のように娘を抱きしめ、袖で涙を拭ってやる。よしよしと声をかけながら頭を撫でて落ち着かせる。
こうして娘と水神は数年に渡り心を交わし仲を深める。水神は喜びで空を晴れ渡らせ、感動で地を潤した。

そんな中、年頃になった娘が嫁に行く話を聞いた水神。娘があまり喜んでいない様子から望まない結婚だと思い、水神は塞ぎ込む。
水神が塞ぎ込んだのと同時に村の天気は大荒れ。土砂崩れが発生し川が荒れ、村の建物はほとんど流された。
娘の家も流されかけたが娘の母が庇ったおかげで娘は助かる。
雨が弱まった頃に娘が水神に会いに行くと水神は嬉しそうに娘を出迎えた。
途端に晴れた天気を見て娘は母を殺した水神に怒りをぶつけた。

「どうして普通に泣かないの!?あんたが泣いたから村は壊滅して母は死んだのに!」
娘が怒りの形相で掴み掛かったことに水神は一瞬戸惑いと悲しみが混ざった表情をしたのち、娘の手を握り、指を絡める
「天上から水神の役を遣わされた我は人と似た体を得た。人と感情を交わし、人が喜ぶときは天気を晴らせ、悲しむときは雨を降らすために感情を得た。だけれども、この体は涙を流す機能が備わっていなかった。ただ自分の感情で天気を左右するためだけに存在する我は何もできぬ。悲しみ怒るお前と共に涙を流すこともできぬ。だからお前が我を殺せ」
水神はそう言って娘の手のひらを自分の胸に当て、その上から自分の手を重ねた。
ずずず...と泥にでも手を沈めるかのような感覚と共に娘は自分の手が水神の体に飲み込まれていくのを見る。

「我は自分で自分を殺すことができぬ。この手足には天へと繋がる鎖が絡まっていてそのような行為をした途端に鎖が引っ張られ動けなくなる。我が悲しめば我の代わりに空が泣く。だがその涙は可愛い我が子を悲しませ殺してしまう。ならお前が終わらせてくれ」
娘の指先に何か温かいものが触れる。思わず握ると水神は大量の血を口から吐いた。

「嗚呼、」
微笑みながら小さな嘆息と共に血を吐く水神は倒れる直前に何かを呟いた。

「我も鎖を断ち切れたのなら」
後半はあまりにも小さすぎて娘には聞こえなかった。

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