ほおずき るい

Open App

「5年ぶりだっけ」
薄暗い車内の助手席に座った彼女は窓際に頬杖をついていて表情は見えない。
それでも私が頷いたのは気配で分かったのか彼女は続ける。

「貴方を探し出すのに5年もかけちゃったのね私。この5年間はまるで地獄みたいで…いきている心地がしなかったわ。5年前に何があったのかはあえて聞かないであげる。でもね」
大きく息を吸うのが聞こえたあと、彼女は小さな震える声を発した。

「私の事を少しでも思い出してはくれなかったのね」
言葉を…返せなかった。

「貴方はいつもそうだったわ。風みたいに気ままで人を無闇矢鱈に惹きつけて魅了して忘れさせない。この5年間私ずっと苦しかったわ。貴方が側にいないことに絶望して何度も死を想った。でもね、その度腹立たしいことに貴方との記憶が蘇るのよ。二人共若くてバカで浅はかで…誰よりも幸せだったあの頃を。貴方はきっとそんなことないんでしょう?ねえ」
苦しそうな彼女の声につられ、喉が張り付いて言葉が詰まる。

「答えてすらくれないのね。やっぱり―」
「車が広く感じたよ…ずっと」
彼女ははっと息を呑んでまたそっぽを向いてしまった。

「貴方のそういうところ、ずっと嫌いだったわ」

空港に着いて彼女の荷物を渡すと、彼女は顔に残った涙の跡をこすりながら毅然とした顔で私に嵌めていた指輪を突き出した。

「これ、5年前貴方から貰った指輪。あげたことすら忘れてるでしょうけど返すわ。もう二度と会わないでしょうしね」
私がそれを受け取ると一瞬泣きそうな顔になった後、彼女は踵を返して人混みの中に混ざって行ってしまった。

「さようなら、mon soleil」
この先ずっと、私の車は埋まることがないのだろう。

3/23/2025, 7:02:12 AM