『手を繋いで』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
手を繋いで眠りにつこう
後ろから抱きしめるから
君は私の手を握って
そんな君の手を
私は繋ぐから
絶対に離さないから
・・·・・· 手を繋いで ・・·・・·・・· ·・・·・・·・・·・・·・・·・・·・・·・・・・·
·・・·・・·・・·・・·・・· ・ Je suis en train d'écrire. ・·・・· ·・・·・・·・・・・·
手を繋いで
手を繋いで 春の散歩をしよう
いままで気にとめなかったものが
たくさん見えてくるから
手を繋いで てくてくと歩けば
いろんな話しができて
ぽつぽつと話しを聞ける
いろいろな場所に出掛けて
思い出が増える
手を繋ぐっていいね
手を繋いで
離した後に消毒されたらそれは
君が嫌われてるか、潔癖症かの2択になる。
しばし休業中
手を繋いであるこう
それだけで楽しくなる
幸せになる
手から何かが伝わってくる
手を繋いでどこまでも行こう。
決してその手を離さないから。
彼の左腕は動かない。
肩から先。自分の意思では動かす事は出来ず、触れる感覚さえないのだと言う。
「小さい頃に、事故にあったみたいでさ」
彼曰く、記憶にはないが雪崩に巻き込まれたらしい。
七つに満たない、幼い頃の出来事。覚えてないのも仕方がないのだろう。
「助からないだろう、って思われてたみたいだぜ。それが腕以外は問題ないってんだから、不思議だよな」
左腕に触れながら、彼はけらけら笑う。
触れている感覚はあるのに、触れられている感覚がない事が楽しいようだ。
「壊死とかじゃないんだってさ。ちゃんと血は巡ってるって。それでも動かないのは、医者でも原因不明」
「それは。まあ、そうだろうね」
「ん?何、原因でも見えた?」
ずい、と彼の顔が近づいて、思わず後退る。
不用意な事を言ってしまったと後悔するも、一度溢した言葉は取り消せない。
きらきらした目をして、それでそれでと答えを急かす彼を、取りあえず宥めて。
言葉を探すように視線を彷徨わせながら、伝えられる一つを口にした。
「手を、繋がれているから」
「手?」
きょとん、と目を瞬かせ、左腕に視線を向ける。
右手で左手を持ち上げ、何か見えはしないかと様々な角度に動かし。指を絡めて軽く揺すり。
だが結局は何も分からなかったのだろう。
手を離して、不満げにこちらを見つめ、ぼやきだした。
「何にも見えないし、感じないんだけどさ。一体誰と手を繋いでんの?」
「誰かの手に、繋がれてるよ」
「だから誰の手?」
誰、と言われても、誰か、としか答えられない。
何せ、手しか見えないのだから。
「もしかして、その手が俺を守ってくれたとか?守護霊とかってやつ?」
「守護霊ではないかな」
「それじゃあ誰の手?知らない奴が俺の事守ってくれてんの?」
どこか納得いかない顔をしながらも、彼はそれ以上は何も言わず。
席に座って、動く事のない左手をしばらく見ていた。
制服の裾を引かれる感覚に、視線を向けて顔を顰める。
左側。小さな手が引き止めるように制服を握り締めていた。
立ち止まる。それに気づいて一度離れた手は左手に移動して、するり、と指を絡め出した。
「やだな。もう」
溜息を一つ吐いて、手を引き剥がす。床に投げ捨て、そのまま踏み潰した。
彼と長く話していたせいで、どうやら着いてきてしまったようだ。
手。動かない、と笑って話していた彼の左腕に絡みついていたもののひとつ。
彼はきっと、左手と指を絡めて繋がれた手ひとつを想像しただろう。けれど現実は非情である。
左肩から先。無数の手が彼の腕を引いていた。
手首から先は見えなかった。断面が認識出来なかった事から、切り離された手が絡んでいるのではなく、どこか別の場所から彼の腕を引いているのだろう。
これからどうするか、と少し悩む。
急な席替えで、後ろの席になってしまった彼。今まで関わりがほとんどなかったが、話す機会が増えた事で面倒事に巻き込まれる予感しかしない。
「やだな」
一度話しただけで着いてきてしまった手を思い出し、気が重くなる。教室に戻るのが酷く億劫だった。
「あれ?こんなとこで何してんの?」
不意に聞こえた声に、僅かに肩が跳ねる。
げ、という言葉を呑み込んで、嫌々ながらも振り返った。
「大丈夫か?体調が悪いなら、保健室着いていこうか?」
心配そうな彼に、大丈夫だと首を振る。
相変わらず無数の手に絡まれている彼の左腕に先ほど踏み潰したはずの手を認め、さらに気分が降下した。
「顔色悪いぜ。無理すんなよ」
「少し考え事してただけだから。大丈夫」
無理矢理笑顔を貼り付けて、教室に戻るため歩き出す。
隣を歩く彼の左腕を見ないように、さりげなく視線を逸らし、早足で。
「そろそろ授業始まっちゃうから、急がないと」
「まだ大丈夫だと思うけど。まあ、いいか」
ふ、と笑う声。ひとつ遅れて、左手を引かれる感覚。
「え?は?」
突然の事に立ち止まり、手を見る。
彼の右手に、繋がれていた。
「俺の左手が、誰かの手と繋いでるって言ってたから。何かいいなって」
「意味が、分からない」
「おれが手を繋ぎたくなった。それだけ」
振り解こうにも、強い力で繋がれた手は解ける事はなく。
恐る恐る見上げた彼は、獣の眼で上機嫌に笑っていた。
「ずっと気になってたんだ。正しく見えるやつって、今じゃ貴重だから」
「見えてない。正しくは見えてないから。だからっ」
「見えてるだろ?折角仲良くなろうと手を繋いだのに、それを踏み潰そうなんて酷いよな」
口の端が引き攣っていく。
思っていた以上の面倒事に、目眩がしそうだ。
彼に繋がれた左手に、重なるようにしてひとつふたつと手が増えて行く。左手を辿って腕に絡みついた手が楽しげに揺れる。
またひとつ、手が増えて。
耐えきれずに彼の手を振り解き、距離を取った。
「キモい!」
絡みついた手を投げ捨てる。
「そんな酷い事言うなよ。加護はあるぜ?俺を今まで守って来たお墨付きってやつだ」
「こんなキモい加護なんかあるか!視界的によろしくないのは、加護じゃなくて最早呪いだろうが!」
思いの丈を叫ぶ。最後に残った手を彼の顔面めがけて投げつけた。
それを簡単に受け止め、彼は不本意だと言いたげに手を見て首を傾げた。
「おれの眷属の手だぞ。可愛くないか?」
「お前の眷属なんぞ知らん!」
知るわけがない。知ろうとも思わない。
彼の、正確には彼の左腕に絡んだ手の大本が一体何であるのか。面倒事の匂いしかしないそれに、関わるつもりは全くなかった。
「つれないな。末永く俺と仲良くしてもらいたいんだが」
「断る!」
「即答するなよ。俺が悲しむぞ。雪に埋まった時からずっと一人きりだったからな…友達が欲しいって望みに、これでようやく応えられると思ったんだが」
目を伏せる彼に、何も言えなくなる。
それは卑怯だ。騙されるわけにはいかないと思いながらも、否定する気持ちが凪いでいく。
酷いのはどちらだ、と口には出さずに悪態を吐いて。
彼を、見た。
「これ以上変なものを押しつけるようであれば、怒るぞ。あと、軽率に空間を歪めるな。さっさと元に戻せ」
「素直じゃないな。まあ、これから仲良くしてやってくれ」
けたけた笑い、いつの間にか閉じられてしまった空間を戻す彼に、小さく舌打ちして。
「どうした?やっぱり保健室行こうか?」
目を瞬かせ心配そうにこちらに寄る、元に戻った彼を作り笑いで誤魔化す。
「次の授業、面倒だなって」
「そう?俺は結構好きだけどな、科学」
他愛のない話をしながら、教室まで一緒に歩いていく。
彼の左手を繋いでいる手が機嫌良く揺れているのが、ちらりと見えて。
彼に気づかれないように、声には出さず悪態を吐いた。
20241210 『手を繋いで』
手を繋いで
何時でも繋げる距離でいたい、
例え温もりを感じ無くとも、
理解し合えると信じている
手と手を取り合い
共に進めば
怖いものなし
人と手を繋ぐ前に 先ずは自分と手を繋ぐこと
自分に優しく 人に優しく♡
20手を繋いで
手を繋いで一緒に行こうと言ったから
立ち止まって待ちながら生きていた
けど貴女はもう片方も繋いでいたみたいだ
離す時はすぐだと思った
手を繋いで、金曜夜の繁華街を歩く。
駅前の雑踏は飲食店が建ち並ぶ。
居酒屋の店先で店員が私たちに声をかけようとして、
佐々木先生がやんわりと断っていく。
先生は泣いている私を人目から守るように前を歩き、私は俯いて涙で滲む大きな皮靴を見ていた。
大きな手の温もり。
落ち着いた声音で紡ぐ優しい言葉たち。
小児科医の佐々木先生は私のことが好きで、私は外科医の浅尾先生が好きで、浅尾先生は結婚している。
浅尾先生に片想いするだけで楽しかった。
だけど浅尾先生に優しく終止符を打たれて、暗に佐々木先生を勧められて、私は哀しくて泣いている。
佐々木先生に告げられたことがある。
「一緒に働きたい」
「宮島さんを小児科ナースとして育てたい」
私に期待して、熱意を持って誘ってくれて、
すごくすごく嬉しかった。
佐々木先生は、私に恋してることを仄めかした。
「早く言いたいんだよ」
頬を撫でられ、熱っぽく囁かれる。
ドキッとした。
私は浅尾先生が好きなのに、それでも、あのとき、私の体温は上がったと思う。
私は佐々木先生の元へ行けない。
「外科看護をもっと勉強したい」
断ったら、うん、と先生が優しく微笑んでくれた。
悲しませてごめんなさい。
言えなかったけど、胸に切なさが疼く。
佐々木先生の誘いを断ったのに、先生は私に告げる。
「ひとりで泣かないで。泣くときは僕を呼んで」
「僕はキミのことが好きだからね。どうしても優しくしたくなる」
「僕はキミが僕のことを好きになってくれてから、どうして僕がキミに良くするか言おうと思ってた」
佐々木先生が優しすぎるから、私は涙が溢れて止まらない。
「私は既婚者を好きになったんです」
私を好きって言ってくれる人に、酷いことを言ってしまって、それさえも。
「誰のことも責められないよ。キミはただ好きになっただけだから。
出逢いが早ければ良かったのにね、としか言えないよ」
佐々木先生が繋いでくれた手の温もりは、
優しすぎて、暖かすぎて、
私は泣いてばかり。弱音ばかり。
それさえも許されて、
泣き止むまで幾らでも胸を貸すと、
カラオケルームで抱きしめられ、頭を優しく撫でられている。
入院している子どもたちは先生が大好きで、
お母さんお父さんも先生を慕っていて、
看護師たちスタッフにも優しくて、
外科看護しか知らない私にもたくさん笑顔で教えてくれて、
今、ずっと泣き止めない私をひとりにしないで、
支えてくれる。
私、「外科看護をもっと勉強したい」よりも、
佐々木先生の下で小児看護を勉強してみたい。
私と一緒に働きたいと言ってくださって、本当に嬉しかった。
絶対に辛いことが起きる看護の道でも、
佐々木先生は私に手を差し伸べて、
また頑張らせてくれるんじゃないかって信じられます。
だけど。
佐々木先生の元へ行って、私が先生を好きになるんじゃないかって期待させてしまって、
もし期待に応えられなかったら、先生を哀しませてしまうでしょう?
それがとても怖くて…。
私は佐々木先生を傷つけたくなくて、
先生の誘いを断ったんだって、今、はっきりと気づいた。
手を繋いだ夜に、
佐々木先生の無限の優しさを知って、
私は目が腫れるまで泣いた。
先生はずっとずっと、私の頭を撫で続けてくれている。
手を繋いで 関連作品 終わらせないで 2024/11/28-29
泣かないで 2024/12/01-02
眠れないほど 2024/12/05-06
「母の手」
母は歩くのがとても早かった
私が遅れて歩いていると
母は背中に手を当て
グーパーを繰り返した
私はその手を捕まえたくて
いつも母の手を目指して
追いかけていた
捕まえた母の手は
とても温かくて
とても力強くて
とても大きくて
とても優しかった
母と手を繋いで
歩く時間は
だいすきだった
年月は経ち
母と手を繋ぐことはなくなった
でも
手を繋ぐことはなくなっても
母の手は
いつもそばにあった
部活の試合に負けて
悔しくて泣いてしまった時
優しい手で
顔を包んでくれた
大事なプレゼンの前で
緊張していた時
温かな手で
お弁当を作ってくれた
独り立ちをする時
力強い手で
私の手を包んで
勇気をくれた
そして
大きくて
とても柔らかな手
優しく
白いベールをかけてくれた
いつか私も
母の手のように
大切な人のそばで
支え、守り、助ける
そんな手に
なりたい
2024/12/10 手を繋いで
【手を繋いで】
祭りの終わり、花火を見ながら参道を歩いていたらいつの間にか一人になっていた。
太鼓の音はするし、人の声も聞こえるのに周りには誰もいない。姿だけが見えなくなったようだった。
怖くなって走り出したけど、どこを探しても無駄だった。泣いていると、女の子がこちらにやってきた。
「こんなところで何をしているの。早く帰って」
心細いのに、そんな冷たく言われると少しムッとした。
「私だって帰りたいよ。貴方は誰なの?」
女の子は少し答えに躊躇った。
「私は……。ううん、私のことはいいよ…」
悲しげに言う女の子に私は少し罪悪感がした。
「あなたの浴衣可愛いね。見て、私の汚れちゃった」
女の子は私のことを見た。その表情は変わらなかったけど、こっちに来て手を差し出してきた。
「帰り方、分からないんでしょ。まだ戻れるから。手を繋いで。」
「あ、ありがとう」
手を取ると、少し冷たかった。私たちは歩き出した。
掌の熱と
脈打つ胸の鼓動が
私と、すぐ隣の温度が
無機質でない事を教えてくれる
鼓膜が震え、一定のリズムを刻む
うるさくて、騒がしくて
たまらない
手を繋いで
「足元に気を付けろ」
「ありがとうございます」
小さな段差に躓いた奥さんに手を差し出す旦那さん
旦那さんの言葉は冷たいが、奥さんの手をしっかりと握る手に相手を思いやる気持ちが伺えた
「手を繋ぐなんて何年ぶりですかね?」
「さぁな」
嬉しそうに話し掛ける奥さんに旦那さんは素っ気なく返すが、手は繋いだままだ
(お互い愛し合ってるんだろうな)
老夫婦の背中を見つつ、そんな事を思う私だった
「手を繋いで」
「ニンゲンしゃーん!」「……なに?まだ朝5時半だよ……?もうちょっと寝かせてくれ……。」「おしゃんぽのじかんでーす!」「あと2時間くらい待って…… ?」「やっ!やー!」
「おや、ニンゲンくん!今日は早いね!どうかしたのかい?」「まだ起きてないの、見てわからないか?」「分かってるって!なにか手伝えるかなぁと思ってねえ!」
「⬜︎⬜︎、ニンゲンくんを叩き起こしちゃダメだよ?」「やー!むぅー!」「……分かった分かった……。散歩……行こうな……。」「やたー!」「なんか……申し訳ないね……。」
寝ぼけた頭で身支度を整える。……しまった、ジーンズを被るところだった。こんな調子で散歩なんかできるのだろうか。ちょっと心配になってきた……。
「おちびのお兄ちゃん、そろそろ出ようか。」「んー!」「心配だからボクも一緒に行くよ。」「⬛︎⬛︎ちゃんもごーごー!なの!」「よしよし。」「えへへー!」
「⬛︎⬛︎ちゃん!ニンゲンしゃん!」「「?」」「おてて!ちゅなぐ!」「はい、おてて!」小さな手をこちらに差し出してきた。柔らかくて暖かい。
「ニンゲンしゃのおてて、おっきい!」「そのうちお兄ちゃんの手も大きくなるよ。」「ほんと?!やたー!」「……ニンゲンくんと⬜︎⬜︎が仲良しでよかったよ。」「なかよち!うれちいの!」
「ところで、今日はどこまで行くんだい?」「んー。わかんない!」「何にも決めていないのかい?!……それじゃあ、山に紅葉を見に行こうか。……暗いけどね。」
「今は暗いけど、朝焼けが綺麗かもしれないな。多分。」「あしゃやけ?」「日の出の時間帯になると空が薄紫と茜に染まって美しいんだよ。⬜︎⬜︎もきっと気にいるはずさ!」
「あしゃやけ、たのちみなの!」嬉しそうにぶんぶんと手を振る。……元気いっぱいでかわいい。
「ニンゲンしゃん!おしゃんぽ、たのちいね!」「うん、楽しいね。」「ふふふ!キミたち、本当のきょうだいみたいだねえ!」「ニンゲンしゃんもボクのきょうだい?!」「違うよ。」
「でも、こんなかわいいきょうだいがふたりもいたら、自慢できちゃう気がするよ。自分はそう思う。」「ニンゲンしゃん!」「ふふふ……今日はなんだか優しいねぇニンゲンくん!」
「ボクのことなら!!!いくらでも!!!自慢してくれて!!!構わないよ!!!」「はいはい。」「照れているのかい?!!キミにも可愛いところがあるんだねえ!!!実に興味深い!!!」
うるさいな……。「悪かったって!」
「けんかは、めんめだよ!」「け、喧嘩はしていないよ?!」「よかったー!」
「おや!ふたりとも!見てごらんよ!ここ、朝焼けがよく見えるよ!!」そう言っておちびの弟が右側を指差した。
薄い藤色で空は染まり、紅い雲が彩りを加える。
日の出が、山を、街を、全てを包んでいく。
そんな光景を、自分たちは手を繋ぎながら、静かに見つめていた。
「……きれい!きれい!あしゃやけ、きれいー!」
嬉しそうにはしゃいでいる。この子の白いほっぺたは、朝焼け色に染まっていた。
「⬜︎⬜︎に喜んでもらえてよかったよ!……それじゃあ、そろそろ家に帰ろうか!」「ん!」
正直、未だにちょっと眠い。
でも……早起きして、よかった。
そう思って、自分たちは朝日に照らされながら帰路についた。
『手を繋いで』
夕焼けを見ることも少なくなった午後4時半頃。
そろそろ帰ろうと伝えるもまだ帰りたくなさそうに
頬を膨らます歳の離れた妹。
また明日もここに来て遊ぼう?
そう言うとどこで学んだか仕方ないなあと
砂埃をはたきながら立ち上がる。
寒い時期なのに公園の砂場で遊ぶ姿はまだまだ若さを感じる。
水道の水で手を洗い、しっかりとハンカチで手を拭く。
よくできた妹だ。
感心していると帰る準備ができた妹が手を差し出してくる。
まだまだ甘えん坊さんでそこがまた愛おしい。
自分の手のひらで包み込める小さな手からは
優しい温もりが伝わってくる。
もう1日が終わるのに妹は今日のこと、
明日のことずっと話し続ける。
元気だな。そんな元気な妹の顔を見てると
こっちまで元気になってくる。
明日も手を繋いで帰れるといいな。
珍しく見えた夕方に妹と共にはしゃいでいた。
語り部シルヴァ
「たまには2人で出かけようか」
よく晴れた休日。僕はキミを誘って、車で水族館へ出かけた。
「水族館なんて、いつ以来かしら」
水族館に入り、キミは少しはしゃいでいるように見える。
「子どもが小学生の頃に来たよね」
キミの楽しそうな様子に、連れてきて良かったな。と、僕も嬉しくなった。
「はぁ、かわいい」
一緒に動物を見て、次の水槽に行くとき、並んで歩いていたはずが、キミはどんどんと先に行ってしまう。
「待って」
咄嗟にキミの手を取ると、キミは足を止め、僕を振り返る。
「どうしたの?」
「楽しいのはいいんだけど、僕を置いていかないで」
苦笑すると
「ごめんなさい。次は何かなぁって、ワクワクしちゃって」
キミは照れ笑いする。
「このまま、手を繋いでてもいい?」
先ほど取った手をギュッと握ると
「こんな、カサカサな手だけどいいの?」
キミは不安そうな顔をする。
「そんなの、良いに決まってるでしょ。お互いに、手がしわしわになっても、手を繋いでようね」
そう言って微笑むと、キミも微笑んでくれる。
「じゃ、行こう」
「ええ」
水族館を出るまで、手を繋いで歩いたのだった。
▶39.「手を繋いで」
38.「ありがとう、ごめんね」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
---
山小屋を借りて冬ごもりをしようと東の辺境まで来た人形だったが。
厳しい気候と排他的な住人たち。
余所者が冬に行く場所ではなかった。
この辺りは村や集落同士の距離が離れている。期限としては、あと一つ二つ。その後は気温が下がりすぎて表面温度を保てないだろう。
✕✕✕はフラフラとした若者を装い、
「適当に旅をしていたら着いた」として山の裾野にある村に入った。
そこは、今まで見てきた中で一段と色味の鮮やかな装いを身につけている住人たちの村。
夕方なのに足取りも軽く雰囲気も今までより緩んでいる。
人形は広場の隅に立つ青年に声をかけてみた。
「今まで見てきたのと装いが違うな」
「お兄ちゃん旅人だな。今日はどこもそうだと思う。お祭りなんだ」
「へぇ。どんな祭りなんだ?」
「冬始めの夜にみんなで手を繋いで祈る。そして、たんまりご馳走を食べるんだよ。冬を無事に越せますようにってな」
オレ、あの丸焼きがいいなぁ。目線を追えば火に炙られる丸々とした家畜が、料理や酒が並ぶテーブルの奥に見えた。
「祈る相手は?神?」
「神様かもしれないけどね。星や月、土にも山にも祈るんだ。特に山は大事だって大人はみんな言ってるよ」
「確かにすごい山だよなぁ」
「うん、でもそれだけじゃなくてさ」
戦争してたとき、
あの山に穴あけて武器の材料取ってて、人も沢山いて栄えてたんだって。
でもそのせいでひどく攻められて、全部無くなった。
それは山を大事にしなかったからバチが当たったってことらしいよ。
「そうなのか…僕も祈りの輪に入れてもらえるかな」
「あー…それならオレの隣でやれば大丈夫だろ。ついて来なよ」
青年は住人たちが形成しつつあった大きな円に加わった。✕✕✕も続く。
「あ、そういえば。山に入るのは大人たちが禁止してるんだけどさ」
青年が少し顔を人形に近づけ声を潜める。
「その時の穴や建物が未だに残ってるせいだって噂だぜ」
「本当だったらすごいな…だけど、ここからじゃ分からないな」
✕✕✕も合わせて小さく応えた。
「なんせ昔だからな。あっても埋もれちまってるのさ。さ、繋ごうぜ」
住人たちが勢揃いし、手を繋いで輪になる。
手の温かさを感じながら過ごす静寂の時間。
人形も周りに合わせて目を閉じた。
(下書きとして一時保存)
20241210.NO.114「手を繋いで」