手を繋いで、金曜夜の繁華街を歩く。
駅前の雑踏は飲食店が建ち並ぶ。
居酒屋の店先で店員が私たちに声をかけようとして、
佐々木先生がやんわりと断っていく。
先生は泣いている私を人目から守るように前を歩き、私は俯いて涙で滲む大きな皮靴を見ていた。
大きな手の温もり。
落ち着いた声音で紡ぐ優しい言葉たち。
小児科医の佐々木先生は私のことが好きで、私は外科医の浅尾先生が好きで、浅尾先生は結婚している。
浅尾先生に片想いするだけで楽しかった。
だけど浅尾先生に優しく終止符を打たれて、暗に佐々木先生を勧められて、私は哀しくて泣いている。
佐々木先生に告げられたことがある。
「一緒に働きたい」
「宮島さんを小児科ナースとして育てたい」
私に期待して、熱意を持って誘ってくれて、
すごくすごく嬉しかった。
佐々木先生は、私に恋してることを仄めかした。
「早く言いたいんだよ」
頬を撫でられ、熱っぽく囁かれる。
ドキッとした。
私は浅尾先生が好きなのに、それでも、あのとき、私の体温は上がったと思う。
私は佐々木先生の元へ行けない。
「外科看護をもっと勉強したい」
断ったら、うん、と先生が優しく微笑んでくれた。
悲しませてごめんなさい。
言えなかったけど、胸に切なさが疼く。
佐々木先生の誘いを断ったのに、先生は私に告げる。
「ひとりで泣かないで。泣くときは僕を呼んで」
「僕はキミのことが好きだからね。どうしても優しくしたくなる」
「僕はキミが僕のことを好きになってくれてから、どうして僕がキミに良くするか言おうと思ってた」
佐々木先生が優しすぎるから、私は涙が溢れて止まらない。
「私は既婚者を好きになったんです」
私を好きって言ってくれる人に、酷いことを言ってしまって、それさえも。
「誰のことも責められないよ。キミはただ好きになっただけだから。
出逢いが早ければ良かったのにね、としか言えないよ」
佐々木先生が繋いでくれた手の温もりは、
優しすぎて、暖かすぎて、
私は泣いてばかり。弱音ばかり。
それさえも許されて、
泣き止むまで幾らでも胸を貸すと、
カラオケルームで抱きしめられ、頭を優しく撫でられている。
入院している子どもたちは先生が大好きで、
お母さんお父さんも先生を慕っていて、
看護師たちスタッフにも優しくて、
外科看護しか知らない私にもたくさん笑顔で教えてくれて、
今、ずっと泣き止めない私をひとりにしないで、
支えてくれる。
私、「外科看護をもっと勉強したい」よりも、
佐々木先生の下で小児看護を勉強してみたい。
私と一緒に働きたいと言ってくださって、本当に嬉しかった。
絶対に辛いことが起きる看護の道でも、
佐々木先生は私に手を差し伸べて、
また頑張らせてくれるんじゃないかって信じられます。
だけど。
佐々木先生の元へ行って、私が先生を好きになるんじゃないかって期待させてしまって、
もし期待に応えられなかったら、先生を哀しませてしまうでしょう?
それがとても怖くて…。
私は佐々木先生を傷つけたくなくて、
先生の誘いを断ったんだって、今、はっきりと気づいた。
手を繋いだ夜に、
佐々木先生の無限の優しさを知って、
私は目が腫れるまで泣いた。
先生はずっとずっと、私の頭を撫で続けてくれている。
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