『愛情』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
親から愛情をもらえなかったと思っていた
でもそんなことはなかった
愛情の捉え方、定義が違うだけだった
違う人間なのだから
「愛してる」
とあなたが言うたびに。
大きな腕で抱きしめられるたびに。
いつか終わりが来る確信が、わたしの目を醒まさせる。
「ずっと一緒にいよう」
「そうだね」
笑って返事をしながら、心は冷えていく。
最後の日の足音に怯える。
あなたの愛情のナイフが無自覚にわたしを切り裂いて、毎日傷だらけなのに。
「愛してるよ」
あなたは全く気づかないで、宝物のようにわたしを扱う。
本当は全部自分のせいなのはわかっていた。
素直に愛を受け取れずに、勝手に苦しんでいる自分のせい。
それでも、愛情は恐ろしくて、あなたの優しさが怖くて。
今日も一人で泣いてしまう。
そっと彼女の手を握りながら、彼は愛の言葉をささやいた。
「あなたと一緒なら、世界は奇跡に満ちているような気がする。僕は君に、永遠の愛を誓います。」
その言葉を聞いて、彼女が木漏れ日の下で微笑む。
彼の心の中ではいつまでも、その彼女の笑顔が輝き続けていた。
愛情かぁ。
1番先に浮かぶのは、一昨年まで飼っていたコーギーだろう。
遺影を見て、以前撮ったたくさんのかわいい写真を見て「あぁ、愛をくれたんだなぁ」と思った。
思い出すと、心臓のあたりあったかくなる。
本当に、物理的に。
もちろん、むこうはそんな事考えてなかっただろうけど…。
これから、私がそういう思いを忘れませんように。それと、誰かにそういう思いをいつの間にかお裾分けとかできてたら嬉しい。
愛は力がいる
無償に愛を貰えるは
赤ちゃんまでかと
立ちなさい 歩きなさい
嫌だなんて おかまいなし
成長してくには 我慢しなさい
なんて ある
愛情は私の意思を無関係に
起きているのか
私為に 力注いでる
愛情に 有難うとか
なかなか 言えない
愛情が欲しい?
なら僕のお願いも聞いて欲しい
1回でいい
1回でいいから
ぼクノもノになッテ.......♡
愛情から生まれて
全世界の人は愛されているのか。
愛情から見放された人もいる。
相手にそそぐ愛の気持。
器にたまるのはわずか。
本人も気づかないことがある残酷さ。
「愛情」
「愛情」
いつも私にたくさん愛情をかけてくれる貴方は
むかし誰かにたくさん愛情をかけてもらってたんだろうな。
私の知らないときに
知らない場所で
ちょっと知ってるあの人に
愛情。思えば愛と言えるような感情を抱いたことがないかもしれない。
好きという気持ちはわかるけど愛か。食べ物だと肉とか甘いものが好き。最近は地味目な食べ物も好きになった。たくあんとか。
年を取ると食べ物の好みって本当に変わるものだな。昔はたくあんなんて買う気一切しなかったもんだ。
でも今では常に冷蔵庫にあるようにしてる。最近はまっているたくあんは賞味期限が短いからあんまり買い置きできないのが欠点だ。
まぁ食い物の話はこれくらいにして愛情ね。たくあんは好きだけど愛情ってほどでもないし。
愛は好きの上にある感情って気はするけどいまいちわからない。愛とはなにか。哲学だね。
で話は変わるけど最近冬用の服を買った。長袖のインナーを買ったんだけどこれがおおはずれ。
ちょっと腕を伸ばしたら袖が縮まっちゃう。これが大分不快なんだけど返品はできないしかといって着続けるのもなぁって感じで困ってる。
#愛情
「愛情」とは「優しさ」と同じくらい定義が曖昧だと思う。
何を以て「愛情」とするのか。
親から子への愛情、愛しい他者への愛情、しかし、そこに打算や駆け引き、そして損得勘定がない前提でないと愛情とは呼べないのではないか。
もしくは、愛情というものにはそういった俗物的なものも内包しているのか。
「男」や「女」、または「人」と言った主語の大きな話になると収拾がつかないので、あくまでも私一個人の考えとして、あるいは肌感としての話をしよう。
例えば親子間の愛情。
私自身は、親から好きなものや行動を否定されたことはない。自分の好きなものを馬鹿にされるのは本当にしんどいであろうから、その点はマイノリティ寄りの趣味でも恥ずかしげもなく「好きである」と主張できる(もしくは他の人と違っていても気にしない)メンタリティに育った。
しかし、否定はしないが保護もしない人たちだった。
勉強もしろと言われた覚えはなく、必ず「知らないからね」という叱られ方をした。
勉強ができなくても、テストの成績が悪くても、アンタが困っても、全て「知らないからね」と言われた。
なので、常に自分で決め、自分で判断して、誰もケツモチしてくれない中で生きてきた。
そしてある程度の年齢になったら、「アンタはどうせ何を言っても聞かないんだから」という言葉に変わった。
いや、賛成も反対も代替え案も何も提示されなかったから自分でやることに決めざるを得なかったんですけれども?と思うが、早い段階で親と私は違う生き物で見えているものも感じ方も全て異なっており、意見を鵜呑みにする必要はないと断じていたので、「また言ってら」となった。
母は私の言動の結果が悪かった時のみ、無言を貫いていたのに「だからあの時私は言ったのに」という呪詛を吐きがちで、「アンタに言っても聞かないからね」がセットになる。
それでも、私は母が好きだし、そういう人なんだと飲み込んでいる。
「母親らしいことをしてこなかった」と唐突に言われたことがある。結婚してからだ。
「申し訳なかったかもしれない」と謝罪された。
特に感情は動かなかったし、母は「私の母親」というくそめんどくさい役割を頑張っていてくれたなと思う。私は自分の子供の頃みたいな子を育てるのは絶対に嫌だ(ものすごく捻くれてて扱いづらい)。
結婚してから、夫の母、つまりは義母という存在が爆誕した。
義母はとても素直な田舎の人と言った感じで、私の母とは全く違う(思えば、私の母は新宿育ちの一人っ子で社長の娘、義母は生まれも育ちも青森で7人兄弟の5番目)。
義母に接していると、「お母さんってこんな感じなんだぁー!」と思う。
私の夫に対して心配性で、でも過干渉ではなく、毎年たくさんのりんごを送ってきてくれて、私に対してもとても優しくフレンドリー。
毎年の帰省では、夫の兄弟家族とみんなでご飯を食べに行き、義母が全額出してくれる。みんなで集まれるのが楽しいと言い、帰省中は上げ膳据え膳。手伝いもいっさいしない。夫が運転する車で3人(ないし未婚の義兄も一緒に4人で)青森県内の観光スポットに遊びに行ったり、まじでただの観光旅行。それなのに「来てくれてありがとう」って。え、神?神様なの?
ああいう人は愛情深いって言うのだろう。そう感じる。
子(この場合夫)と子が選んだ女(私)に親切にしてくれ、愛情をかけてくれる。義母を見ていると、親子の愛情ってこういう感じなんだなーと思うのだ。まさに無私。損得なしの掛け値なし。
私は母のことが「好き」だし、父も「別に嫌いではない」。一番上の姉のことは「嫌い寄りの普通」だし、真ん中の姉のことは「無」である。
自分の親戚関係はほぼ「かなり苦手寄りの普通」で、ううん、「どちらかというと関わり合いたくない」かな。ちなみに祖父母はどちらも他界している。
そして、義母は「好き」で、義兄家族も「好き」で、未婚の義兄も「普通」で、夫の親戚関係は「好ましい寄りの普通」である。
こうなると関わった年数は、相手に対する愛情には関係ないのかもしれない。
愛情って難しいね。
最後に。
私が一番愛情を傾け、愛情をもらっていると感じる人は、言うまでもなくなく夫で、夫が幸せでいれば他のことは概ねどうでもいい。誰が死のうが生きようが関係ない。誰が不幸になろうとも、夫さえ幸せでいてくれればそれが私にとっての最善。夫と母が川で溺れていたら、「お母さんごめーん」って言いながらまっしぐらに夫を助ける。夫を助けたあと母も助けるけどね。
あとは猫。猫に対しては無限の愛情が湧く。
まあ、猫はね。唯一絶対神だから。
2023.11.28 猫田こぎん
愛情
を
受精
に見間違えた
まぁ、大差ないか
父が亡くなって、もう何度目かの盆を迎えた。
墓前で手を合わせる。隣には夫。
「何度も来てるのに……慣れないわね」
込み上げてくるものがある。子供を庇ったという最期はとても父らしい。ひとつの小さな命が助かったことは喜ばしいことなのに、それでもやっぱり私には父が必要だった。生きていてほしかった。
そっと、肩に優しく触れる手があった。夫だろうかと思って隣を見ると、まだ目を閉じて手を合わせている。後ろを振り返ってみても誰もいない。
「父さん?」
幽霊とかの類が苦手なのに、そう思ってしまった。
「どうした?」
「いや、今肩に」
確かにあたたかい手が……と言うと、夫は笑った。
「そうじゃねぇの?お前のことずっと心配なんだよ。いつまで経っても俺には任せらんないってか……結構厳しいな」
泣けることを言ってくれる。でも、夫がいるおかげで今の私が在るんだから。もっと自信持ってほしいな──とは言えずに横顔をただ見つめていた。
「帰るか」
「うん」
夫からそっと繋いだ手。なんだか嬉しくて握り返した。ちゃんと伝わっているよ……不器用だけど、いつも感謝してる。
「ありがとね」
何が、という顔の夫。
今なお父に見守られ、夫に支えられ……私は果報者だわ。自然と笑顔になる。
「何がだよ、ちゃんと言えって」
「ん、秘密」
今日は美味しいものでも食べよう。また泣いてしまうかもしれないけど、その時はあなたに触れたい。
明日も明後日も、その先も、いい日でありますように。
ずっとずっと、幸せを紡いでいけるように頑張るから。父さん、見ていてね──
【愛情】
11/27「愛情」
やめてほしいな。勘違いしちゃうから。
その優しさはいつだって優しさにすぎなくて、決して愛情じゃない。嫌になるほど知っている。
ほんと、そういうとこ。あんたのことなんか大嫌い。
何で毎回こんなに優しくしてると思ってるんだ。
ずっとずっと一緒にいるのに、一番近くにいるはずなのに、手も繋がせてくれない。
お前だけなのに。この、鈍感。
(所要時間:6分)
11/26「微熱」
何度計っても、37度2分を超えない。体はだるいのに、体温計は免罪符にはなってくれなそうだ。
「会社休みたいなぁ…」
いっそインフルとか発症しちまえー、と思うも、一人暮らしでアレはそれはそれでつらい。
布団から出ないとそろそろ遅刻しそうだ。仮病使っちゃおうか。38度あるんですー、とか。いや今って熱あったら証明書とか提出いるんだっけ? いらないよね?
「よし、休も!」
余りまくった有給を使うなら今だ。微熱は相変わらずだけど、そう決めると体は現金で、スッと布団から起きられた。
さて、丸一日引きこもってゲームでもするかー。
(所要時間:10分)
11/25「太陽の下で」
照りつける太陽の下、傘をかぶって畑仕事をしている祖母に、そっと近寄って声を掛ける。
「ばあちゃん、俺…」
「知っとるさ。東京さ行くんだろ」
腰を伸ばして、祖母は日焼けした顔でにかっと笑った。
「なあに、寂しかぁないさ。お天道様の下にいるのは一緒だ。頑張れや」
ビル街のふもとで、太陽を仰ぐ。
この空はいつだって、故郷につながっている。
(所要時間:8分)
11/24「セーター」
首周りを包むような、…何て言うんだ。タートルネックは違う気がする。こう、首のあたりを折り返して着るタイプのセーターが、好きだ。
いや、俺が着るんじゃなく。
彼女が可愛すぎて、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」の真逆を行ってる。彼女可愛きゃセーターまで可愛い。
彼女がそのセーターを着て、その小さな顔が小首を傾げるとか。襟?に細い指が触れたりするとか。もうね、最高。ヘキだ。
流行とかそういうのには疎いけど、このセーターはなくならないでほしい。そして、冬にはこのセーターを着てずっと隣りにいてほしい。
…いや、それって彼女を流行遅れにしちゃうかなぁ。うーん、難しい。
(所要時間:8分)
愛情
愛情だと思ったものは執着。
愛情だと思ったものは執念。
愛情なんてなかった。これっぽっちもなかった。
愛する気持ちなんて、愛したい気持ちなんて、
──存在しなかったんだ。最初から。
愛情
貴方のことならなんでもわかる
私の愛する唯一のひと
愛しい貴方
貴方と出会ったのは
深夜の交差点
恋人を失って茫然自失
赤信号も気づかずに渡ろうとした私
腕を掴んで引き戻してくれた
生きる意味をくれたひと
これは運命
去っていく後ろ姿を見送った
貴方には恋人がいた
私のように貴方を愛す人だったら
貴方に釣り合う人だったら
でも違ったの
貴方が知らなかっただけ
寂しく辛そうな背中
それも少しの間
すぐに忘れるから
貴方を見つけるのは簡単ではなかった
あの夜お礼も言えずに別れていた
運命のひとだからいつか再会できる
待ってはいられなかった
もう貴方を愛し尽くしていたから
時間はかかったけど見つけたよ
多くの時間を費やしても
少しも苦に思わなかった
貴方のことを知るごとに
愛が深くなっていった
運命だと確信できた
貴方の上司は最低だった
パワハラで降格異動してきた男
優しい貴方は部下を守るため
一人で受け止めていたのよね
重い荷を背負ったよう俯きがちだった
空いた役職に貴方が就いた
パワハラから解放と同時に昇格
重荷からの解放か仕事への意気込みか
すっと背筋の伸びた後ろ姿
病めるときも
健やかなるときも
この命ある限り
愛し続け真心を尽くすことを誓います
貴方が私を知らなくても
太陽の下での続き
愛情
「どうしても 冬に会って欲しいの?」
君は、頑なにそう言って居たのに・・・
何故 僕は、あんな事を呟いて
君と一緒に出掛けてしまったんだろう...
すぐ 冗談だよと返せば良かった。....
君が 出掛けようと言った時に否定
すれば良かった。....
君が僕の前から 姿を消して
一年が 過ぎた。
初めの内は事件や 何かに巻き込まれたの
かと思い 気が気じゃ無く
方々を探し回った。
だけど 君は、どこを 探しても
見つから無かった。
君と最期に会った 暖かい春の日
木漏れ日の中で 君と一緒に
草の上に寝転んで 君は
とても嬉しそうに笑って居たね
まるで 焦がれていた物に
初めて 触れた様な
そんな笑顔だった。
帰り際に交わした君とのキス
君から 言い出した時は
びっくりしたけど...嬉しかった。
僕は、照れくさくて
躊躇う様にキスを
したけど...
君は、僕の頭を引き寄せ
情熱的なキスを返した。
瞬間 頭の中が 真っ白になった。
君は、貪る様に
必死に記憶する様に
僕の唇に吸い付くから
僕の体は 背筋から
甘い 歓喜の痺れが
走っていた。
思えば あれが君との最期だった。
君が結局 何者だったのか 僕は
知らない
だけど...
「冬にしか会えない...」
君が言った その言葉を
僕は、もっと深く考えるべきだった...。
ねぇ 僕は君に愛情を注げていただろうか...
結局 君に愛情を貰ってばっかで
何も返せていない様な気がする。
僕がそんな風に考え込んでいると
ふと カーテンの隙間から
冷たい風が吹き込んで来た。
そうして 僕の耳朶に...
「馬鹿ね... そんな事ある訳無いじゃない」と そんな君の声が
飛び込んで来た様な錯覚を覚えた。
僕は、顔を上げ
目から流れる水滴が これ以上流れない
様に 必死に堪えた。
あなたから貰った愛情を
今度は私があげる番
私からの愛情を受け取って
─────『愛情』
好きなものをひとつにまとめて
()で囲って右上にiを付ければ
そこはあいじょうで満ちている
こんなことでふふっと笑う
そんな人にもiを付ける
愛情か? とか訊かれても困る。
一言で言えば、腐れ縁のようなものだ。正直、面倒臭い。
注意しても聞かないし、こっちをおちょくってくるし、仕事の腕はいいようだがまともなところなんて見たことがない。
それでいて、他の人には優しく接しているが、俺の前ではあの態度だ。
でも、俺のことを遠回しに心配してくれているのは知っている……してるよな? 俺にだけああいう態度を取るのも、まぁ、俺には甘えているんだと思えば悪くない……そうか?(自問自答)
だから、体調を崩して、俺の前なのに少ししおらしくしているお前は調子が狂う。早く元気になっていつもみたいに軽口を叩いてくれ。
少し調子が戻ったお前に「気安く頭を触るな」とさっき怒られたばかりだというのに、ベッドで眠るお前の頭を撫でる。
愛情か? とか訊かれても困る。
この複雑な想いをまだその一言にまとめたくない。
『愛情』
きっかけはフランス語の講義だった。言葉を学ぶ以上話し相手は必要であり、講義の場合その役割は隣の席にいる人が担う。友人や知人同士でそれぞれがペアを作る中、余り者にいたのがノンさんだった。
フランス語では肯定を「ウィ」、否定を「ノン」という。それが名前を呼ばれている様で恥ずかしいのだとノンさんは語った。面白がってあらゆる質問に否定で返した時から、少しずつ打ち解けていった。
ある日の講義で、三十分ほどのショートフィルムを鑑賞して感想を述べ合う課題が出た。フランスのパリを舞台にしたロマンスで、それなりの面白さだった。
講義の後半で、ビズが話題になった。頬と頬を寄せあってリップ音を軽く鳴らすフランス式の挨拶で、親しい間柄で行われるらしい。文化や風習という言葉をこれほど意識したのは初めてかもしれない。
講義が終わって昼は何にしようかと考えていた折、ノンさんから図書館へ行かないかと誘われた。特に断る理由もないので了承する。その意図するところが何なのか、気になるのももちろんあった。
「借りたい本でもあるんですか?」
食堂に向かって行軍する人々の流れに逆らって、図書館へと歩いていく。木についた新緑が眩しく、風が初夏の香りを運ぶ。ノンさんの長い髪が吹かれて揺れる。
「あの、少し、気になる本があって」
それから会話はなく、ただ歩幅を合わせて黙々と歩く。
五分ほど歩き、図書館に辿り着いた。学生証を機械に読み込ませて中に入れば、館内はいつもより閑散としていた。腹が減っては勉学にも勤しめない。
検索コーナーへと向かうものだと思っていたけれど、ノンさんは地下一階にある、年代に分けられた古書の棚へと向かった。階段は金属製で、丁寧に降りても音が反響した。
ほとんどの人間が、目的がなければ古書に用はないらしい。フロアには誰もいないようで、ノンさんを追いかけてぐんぐんと奥まった場所へ行く。結局、フロアの隅っこにある棚の前で足は止まった。
「ここら辺に、気になる本があるんですか?」
棚に置かれた本を一冊手に取る。かなり古い材質の装丁が手に馴染まず、ぱらぱらと捲ると中は漢字だらけで読める箇所が一つも見当たらない。
「あの、ごめんなさい」
謝罪される事柄に心当たりがなかったので、首を傾げることにした。
「その、気になる本があるというのは、嘘、なんです」
「なるほど?」
本を棚に戻す。
「その、ビズ、してくれませんか」
一瞬、ビズという単語が処理されずに脳を通過していく。再試行したインターネットみたいに、遅れて理解がやってくる。
「したいんですか?」
小さな頷きが返ってくる。
「いいなって、思って」
「分かりました。やりましょう」
戸惑っているノンさんの肩を優しく掴んで頬を寄せる。リップ音というよりかはタンギングといった感じの音が鳴った。
「どうでした?」
「映画の、ヒロインになった気分です」
ビズされた方の頬を両手で押さえながら、ノンさんは恥ずかしそうにはにかんだ。
用件は本当にそれだけだったようで、図書館はその本分を果たすことなく終わった。せっかくだからと一緒に昼食をとることになり、お礼ですとりんごジュースを奢ってもらった。
「別に断らないんで、今度何かする時は普通に誘ってください」
食堂のおばちゃん特製のカレーを雑に頬張る。
「それなら、もう一つ、あるんですけど」
「何ですか?」
バッグをごそごそと漁り、ノンさんはスマホを取り出した。
「連絡先、交換したいです」
「そういえば、してませんでしたね」
メッセージアプリを開いて、QRコードを読み込ませる。ビズより先にやるべきでしたねという言葉は飲み込んだ。その代わりに一枚、隣で頬を撫でているノンさんを写真に収めて、『交換記念です』というメッセージと一緒に送信する。
『これからよろしくお願いします。』
律儀に読点のついた返信に、思わず笑みが溢れる。流石に今回ばかりは「ノン」とは言えなかった。