駒月

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 父が亡くなって、もう何度目かの盆を迎えた。
 墓前で手を合わせる。隣には夫。

「何度も来てるのに……慣れないわね」

 込み上げてくるものがある。子供を庇ったという最期はとても父らしい。ひとつの小さな命が助かったことは喜ばしいことなのに、それでもやっぱり私には父が必要だった。生きていてほしかった。
 そっと、肩に優しく触れる手があった。夫だろうかと思って隣を見ると、まだ目を閉じて手を合わせている。後ろを振り返ってみても誰もいない。

「父さん?」

 幽霊とかの類が苦手なのに、そう思ってしまった。

「どうした?」
「いや、今肩に」

 確かにあたたかい手が……と言うと、夫は笑った。

「そうじゃねぇの?お前のことずっと心配なんだよ。いつまで経っても俺には任せらんないってか……結構厳しいな」

 泣けることを言ってくれる。でも、夫がいるおかげで今の私が在るんだから。もっと自信持ってほしいな──とは言えずに横顔をただ見つめていた。

「帰るか」
「うん」

 夫からそっと繋いだ手。なんだか嬉しくて握り返した。ちゃんと伝わっているよ……不器用だけど、いつも感謝してる。

「ありがとね」

 何が、という顔の夫。
 今なお父に見守られ、夫に支えられ……私は果報者だわ。自然と笑顔になる。

「何がだよ、ちゃんと言えって」
「ん、秘密」

 今日は美味しいものでも食べよう。また泣いてしまうかもしれないけど、その時はあなたに触れたい。
 明日も明後日も、その先も、いい日でありますように。
 ずっとずっと、幸せを紡いでいけるように頑張るから。父さん、見ていてね──
 

【愛情】


11/28/2023, 12:17:53 AM